Official髭男dismぴあアリーナMMワンマンライブ Dolby Atmos録音・リアルタイム再生・現場レポート
Official髭男dismが去る6月23日、24日、神奈川・ぴあアリーナMMにて1年4ヶ月ぶりにワンマンライブを行いました。そのライブをデノンブログにもご登場いただいているレコーディングエンジニア古賀健一さんがDolby Atmosで収録し、さらにその場でサラウンド再生するシステムを設置するというお話を聞き、さっそく編集部Iが向かいました。今回はそのレポートをお送りします。
会場となった横浜西区みなとみらいにある「ぴあアリーナMM」。ぴあアリーナMMの収容定員12,141人ですが、コロナ禍の影響で制限して観客数5000人での開催となりました。
6月23日は夜公演、24日は昼公演と夜公演の合計3回の公演が行われ、収録された模様は7月18日までの間、各配信プラットフォームにてライブ全編が配信されました。その公演での「Cry Baby」のライブ映像はOfficial髭男dism公式YouTubeチャンネルで公開されています。
Official髭男dism Road to 「one – man tour 2021-2022」
@ぴあアリーナMM 2021.06.23,24
ここからは今回のDolby Atmosレコーディングを担当したレコーディングエンジニア古賀健一さん、株式会社 TBSアクトのライブレコーディングエンジニア四ノ宮祐さんにお話をうかがいます。
レコーディング用中継車にて。レコーディングエンジニア古賀健一さん(左)
株式会社 TBSアクト ライブレコーディングエンジニア四ノ宮祐さん(右)
Dolby Atmos用にミックスしている時の音と、エンコード/デコードしてAVアンプで再生した音の質感の差を確認したかった
●古賀さん、今回もデノンブログにご登場いただきありがとうございます。四ノ宮さん、よろしくお願いします。今回はライブレコーディングという修羅場でデノンオフィシャルブログの取材をご許可いただきありがとうございました。今回、Dolby Atmosで録音するだけでなく、Dolby Atmosの再生環境をライブ会場に作ってモニターされたのはどうしてですか。
古賀:直接のきっかけは、Dolbyのエンコーダのテストです。Dolby Atmosでミックスして配信したものが、実際のお客様の環境でどう聴こえるのか、それをリアルタイムで実際に確認したかったんです。それでデノンさんのご厚意でAVC-X8500Hを核とするDolby Atmosの再生システムの機材を使い、もう一台の中継車の中にDolby Atmosの再生環境を作りました。
手前がDolby Atmos再生環境を構築した中継車、後方がDolby Atmosのミキシングとレコーディングを行う中継車
●Dolby Atmosにエンコードする前のマスターのミックスの音と、エンコードされて送り出された信号がAVアンプでデコードされて再生された音の差分を確認するということですか。
古賀:そうですね。それが第一の目的でした。特に音の質感の差をチェックしたかったんです。なかでもトップスピーカー・センタースピーカーを確認したかったのが大きいです。また今回はDolby Atmosのトップスピーカーをイネーブルスピーカーでやったので、その場合はどういう音になるのか、また同じようにサウンドバーで再生したらどういう音になるのかもあわせて検聴しました。
●デノンのAVC-X8500Hを核としたDolby Atmosの再生環境はいかがでしたか。
四ノ宮:トラックですので環境に限界はありますし、イネーブルドなので天井の素材による音の反射率で結構音が変わりましたが、良かったですよ。最初天井がフェルトで音の反射が悪かったんですがデノンの担当に相談したらクリアファイルを天井に貼ってくれて、それだけでずいぶん音の返りが良くなりました。
中継車内に構築されたDolby Atmos再生環境
AVレシーバー「AVC-X8500H」、フロントスピーカー左右に「B&W 703 」、センターに「Bowers & Wilkins HTM71 S2」、サブウーハーに「Bowers & Wilkins ASW610 」、リア左右にスピーカー「Bowers & Wilkins 706S2」。さらにサウンドバー「Denon Home Sound Bar 550」でもモニタリングされた。
リア用スピーカー「Bowers & Wilkins 706S2」とイネーブルドスピーカーとして使用された「DALI ALTECO C1」
サウンドバー「Denon Home Sound Bar 550」単体での検聴も行われた
Dolby Atmos再生システムの核はデノンAVアンプ、AVC-X8500H
●ちなみにDolby Atmosでの収録では何トラックぐらい使うのですか。
四ノ宮:入力自体で楽器音とアンビエンスで128チャンネルを超えています。ミックスをみているとここだけいじっていますけど、裏にいっぱいチャンネルがリンクされていますので、128チャンネルを超えたレベルを操っている状態です。それに加えてリバーブなどのエフェクト系のリターンチャンネルがあります。
レコーディング用の中継車でレコーディング・ミキシング中の様子
音楽関係の人たちにこそ、ライブに負けないぐらいのDolby Atmosの迫力と臨場感を味わってほしかった
●今回はエンジニアお二人のモニタリングだけでなく、音楽関係者へのDolby Atmosのプレゼンテーションとしても活用されていましたが、それはどういう趣旨ですか。
古賀:Official髭男dismの久々の有観客ライブなので、音楽関係者がけっこう来るだろうということで、せっかくなので音楽業界の方々にDolby Atmosでの収録や配信をやっているということ、そしてそのDolby Atmosというイマーシブサウンドを実際に体験してもらおうと思って企画しました。
Official髭男dismのライブ中、中継車では音楽関係者向けにDolby Atmosでのライブの試聴が実施された
●私も中継車でDolby Atmos再生を試聴しましたが、音楽関係者の方々も「Dolby Atmosなどのイマーシブオーディオって、コンシューマー機器での再生環境でもここまでリアルに聴けるのか」と驚いている多かったです。
古賀:今回音楽関係者の方にDolby Atmosをプレゼンテーションしたかったのは、まず音楽関係の人がイマーシブオーディオ、Dolby Atmosを体験したことがない人が多い、ということがあります。今日この場所でイマーシブオーディオの魅力や迫力、そして臨場感を体験してもらって「これはいい。これをやってみたい、届けたい」と思ってもらうきっかけになればいいなと、それが狙いです。
●それは音楽作品のソフトという意味も、AVアンプやサウンドバーのようなハードウェアという意味も含めてですか。
古賀:両方ですね。ソフトはまだ少ないですが、たとえばOfficial髭男dismであれば、僕が手掛けたDolby Atmos対応のBlu-rayがあります。Official髭男dismのファンで「こういうソフトがあるなら、AVアンプやサウンドバーを買ってみようかな」という流れになると嬉しいな、と思っています。
アーティスト名:Official髭男dism
タイトル:Universe [CD+Blu-ray Disc]
これからのライブはリアルとリモートのハイブリッドになるかもしれない
●今回、会場から少しだけですが離れた場所で、Dolby Atmosでのライブ体験をして未来を感じました。リモートでもこれほど臨場感に溢れた音響でライブが楽しめるというメリットは、今後おおいに生かせるのではないでしょうか。リモートなら地球上のどこにいてもライブに参加できますし、主催側も会場の収容人数を超えた集客が行えます。
古賀:僕もそう思います。今後はリアルとリモートの2パターンをお客さんに提案できるようになるといいですね。リアルに来るはもちろん最高ですが、会場までの距離の問題や、学校や仕事との兼ね合い、小さい子どもがいる家庭の状況とか、ライブに来られない事情っていろいろあると思うんです。そんな時、家でもかなり臨場感ある音でライブに参加できる状況が今後作れるといいなと思っています。
●それは素晴らしいと思います。デノンとしてもAVアンプやサウンドバーなどのハードウェアでそのような感情を多くの方に提供していきたいと思います。今日はご多忙中ありがとうございました!
株式会社 TBSアクトのDolby Atmos収録チームのスタッフの方々
古賀健一 プロフィール
福岡県出身。
2005年青葉台スタジオに入社。2014年6月フリーランスとなり、上野にダビング可能なスタジオをオープン。2019年 Xylomania Studio LLCを設立。2020年 スタジオを改修し、Dolby Atmos(空間オーディオ)に対応。バンドだけでなく、和楽器、Jazz、クラシック、映画音楽などオールジャンルをこなす。また、レコーディング、ミックスのみならず、新人バンドのサウンドプロデュース、マスタリングもおこなう。
現在、自身のスタジオを拠点にイマーシブサウンドを多く手がけている。
(編集部I)