「浦沢直樹、音を描く。」
デノン初の完全ワイヤレス・インイヤーヘッドホンAH-C630W、AH-C830NCWのキービジュアルを、世界的な評価を受けている漫画家の浦沢直樹さんに描き下ろしていただきました。ミュージシャンとして、そしてオーディオ愛好家としても知られる浦沢直樹さんにデノンブログで独占インタビューを敢行! 音楽との出逢いやAH-C630W、AH-C830NCWのインプレッションをうかがいました。 ※本取材はリモートで行われました。
浦沢 直樹 プロフィール
1960年、東京生まれ。漫画家。1983年デビュー。代表作に『YAWARA!』『MONSTER』『Happy!』『20世紀少年』など。現在最新作『あさドラ!』を「ビッグコミックスピリッツ」にて連載中。これまでに小学館漫画賞を三度受賞したほか、国内外での受賞歴多数。国内累計発行部数は1億2800万部を超え、2018年より世界各地で個展を巡回した。ミュージシャンとしてこれまでオリジナルアルバム2枚を発表。映画音楽、番組主題歌なども手掛け、ライブ活動も盛んに行なっている。
人生を決定づけたボブ・ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」と手塚治虫の「火の鳥」
●このたびはAH-C630W、AH-C830NCWのキービジュアルを描き下ろしていただきありがとうございました。浦沢直樹さんと言えば世界中で評価されている漫画家であると同時にミュージシャンとしても活動されています。今回は音楽についてうかがいたいと思います。まず音楽が好きになったきっかけを教えてください。
浦沢:音楽は子どもの頃から好きで、遡ればペトゥラ・クラークの「恋のダウン・タウン」だったりとか。母によれば物心ついたころには「ウエスト・サイド物語」の「トゥナイト」をカタコトで歌っていたそうです。
自分で音楽をやり始めたのは13歳の時です、きっかけは吉田拓郎さんですね。拓郎さんは、1970年の中津川フォークジャンボリーで脚光を浴びて72年にアルバム「元気です」が大ヒットするんですが、僕が最初に買ったアルバムがこれで、そこから影響を受けてギターを買い、ハーモニカホルダーを手に入れ、14歳の時には初めて拓郎さんのライブを渋谷公会堂で観て衝撃を受けました。
浦沢:14歳の時に見た拓郎さんのライブは、バックに浜田省吾さんがドラムを叩いていた愛奴というバンドを率いていて、それはボブ・ディランとザ・バンドのライブから影響を受けた形だったんです。それからは「ボブ・ディランを理解しなければ吉田拓郎にはなれない」と思い、ボブ・ディランを聴く修行に入りました。
ディランの曲ばかりをカセットに録り溜めしたものを1年以上ずっと聴いていて、ある日「ライク・ア・ローリング・ストーン」という曲を聴いた時、天空から稲妻が落ちてきました。人に向かってただ罵声を浴びせかけているような曲が、なぜあんなに高揚感に溢れているのかと。歌詞の意味は不明なんですけど、あの旋律に乗せてあのサウンドで“How does it feel?” と問われると、なぜ人々は高揚するんだろうって。真剣に考えましたね。そして自分もこんな音楽をやりたいと思ったんです。
アーティスト名:ボブ・ディラン
アルバム・タイトル:追憶のハイウェイ61
(「ライク・ア・ローリング・ストーン」収録アルバム)
●ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」が後の人生を変えるほど衝撃だったんですね。
浦沢:漫画では13歳の時に読んだ「火の鳥」(手塚治虫)が自分の人生を決定づけたんですが、音楽では「ライク・ア・ローリング・ストーン」でした。その2大インパクトを抱えたまま、気がつけば還暦を超えたという感じですね。
ストリート・スライダーズを観て、バンドをやめて漫画へ
●学生時代はバンドと漫画の両方をやっていたんですか。
浦沢:中学の時は陸上部でした。陸上をやってヘトヘトになって、帰ってから食事もしないでぶっ倒れちゃうような日々でしたが、その頃に描いた漫画の原稿が大量に残っているんです。
高校からは軽音楽部で、バント活動は人一倍熱心にやっていましたが、やっぱり漫画も大量に描いていました。一体いつ描いていたんだというくらいです。おそらく漫研にいる人よりもたくさん描いていたんじゃないかなあ。ちなみに僕は漫研には一切関わったことがなくて、高校、大学とずっと軽音楽部でバンドばかりでした。
●バンドでプロになろうと思っていたのですか。
浦沢:いや、かなり真剣にやってはいましたが、おそらく生業にするとろくなことがないだろうと思っていて(笑)、サラリーマンをやりながら趣味で続ければいいだろうと思っていました。漫画もそうです。ただ、あるときバンドはスパッとやめました。
●それはどうしてですか。
浦沢:同じサークルで「ストリート・スライダーズ」が結成されたからです。スライダーズに土屋公平くんが加入して、どんどんバンドとしてできあがっていく様子を見ていて、自分のバンドにこれと同等のモチベーションやポテンシャルがあるだろうかと考えたとき、ああ、自分は漫画だなと思ったんです。それが二十歳ぐらいの時でした。
アーティスト名:THE STREET SLIDERS
アルバム・タイトル:天使たち
浦沢:結局、前の年までスライダーズがトリを務めていた大学の文化祭の野外ライブで僕のバンドがトリをやって、そこでバンドは休止しました。それから、大学生活の残り1年で満足のいく漫画を一本描こうと思い、描き上げた作品を就職活動の際に行った小学館の編集者に見てもらったんです。その時の「Return」という作品が新人漫画賞を受賞し、そこからプロの世界に入りました。
漫画も音楽もアーティストの表現活動の1つ
●そして今は日本を代表する漫画家になられたわけですが、いまなお音楽もやられています。バンド活動はどれぐらいの頻度でやられているんですか。
浦沢:ここ2年はコロナで全然やれなくなっちゃいましたけど、その前は多いときは毎月のようにライブをやっていました。結構大きいホールでもやりましたよ。
●漫画を描くだけでも大変だと思うんですが、さらに音楽もやられている、そのモチベーションはどこにあるのでしょうか。
浦沢:やはりボブ・ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」と手塚治虫の「火の鳥」の衝撃が還暦まで続いてる、ということだと思います。漫画家が音楽とか、ほかのことをやると、「漫画家のくせに何やってるんだ」と言われることが多いんですが、。ヨーロッパやアメリカに行くと、普通に受け入れてくれるんです。日本人ってなんとなく人前でパフォーマンスすることを特別なことだと思いがちなのかもしれません。欧米の人たちは、音楽を演奏することもアーティストとしてのパフォーマンスだと考えているんでしょうか。たとえばスティーヴン・キングだって、盛んにバンドをやっています。彼は音楽にとても詳しいですからね。キングのバンドはメンバー全員が作家ですけど、グレイトフル・デッドみたいなバンドらしいです。
「音を絵にする」のはチャレンジングな仕事だった
●このたびデノンAH-C630W、AH-C830NCWのためにキービジュアルを描き下ろしていただきました。それはどんな経緯だったのでしょうか。
浦沢:オーディオは好きですし、デノンはもちろん知っていました。「音を絵にしてくれ」というオーダーだったので、風景と楽器とを溶け合わせるのはどうだ!? と言ったはいいけど、いざ描いてみるとけっこう大変でしたね。とはいえ、音楽好きとしてはとても楽しい仕事でした。
●では結果的には大変というか、チャレンジングな仕事になってしまったんですね。
浦沢:そうですね。まぁ、だいたい何をやっても僕の場合、チャレンジになっちゃうんですよね(笑)。普通の仕事は面白くないので、「何かしら新しいことをやってみようよ」と思うと、結局チャレンジになっちゃいますね。
AH-C630W、AH-C830NCWを聴きながら街を歩くのは、映画のサントラを聴いているような体験
●実際にAH-C630W、AH-C830NCWを使ってみて印象はいかがでしたか。
浦沢:AH-C830NCWはノイズキャンセリング付きですよね。ノイズキャンセリング機能が載っているヘッドホンはこれまでも使っているんですが、インイヤータイプははじめてかもしれないです。AH-C830NCWで音楽を聴きながら街を歩いてみたけど、やっぱりすごいですね。世界が一変する感じがしました。
AH-C830NCW(ホワイト)
AH-C630W(ブラック)
●「世界が一変する」ってどういうことですか。
浦沢:以前自宅にオーディオルーム兼ホームシアターを作ったことがあるんですが、プロジェクターで映画を投影するために窓を作らなかったんです。そうしたらそこで聴く音楽が急に楽しくなくなっちゃったんですよ。その時痛感したのは、音楽と視覚とはセットだなってことです。もし部屋に窓があれば、今は昼なのか夜なのか、庭が見えたり風景が見えたり空が見えたり、夜になれば暗くなる。そうしたら夜の雰囲気に合う曲を聴きたいってなるじゃないですか。朝は起きたら朝日が差し込んで、ここでどんな曲をかけたいか考えたり。外界からの視覚情報って、音楽にとってすごく重要なんじゃないかなと思うんですよ。
そういう観点でいえば、AH-C630WやAH-C830NCWで音楽を聴きながら街を歩くのって、ほぼ映画のサントラみたいなものですよ。あれはとても得難い体験でした。音楽を聴きながら街を歩いていると、だんだん夕暮れになったりする。そこでいい曲がかかったら、それだけでものすごく豊かな体験だと思うんです。もちろん街だけじゃなくて、ベランダに座って、眼に映る風景を見ながらぼんやり音楽を聴くのも、かなりいいです。風景とともに音楽に入り込むのは本当に楽しいですし、それができるイヤホンだと思います。
●浦沢さんだったら、街歩きをしながらどんな曲が聴きたいですか。
浦沢:狙った曲より偶然かかる曲がいいんですよ。僕、1万曲くらい入っているiPodを20年ぐらい使っていて、それをシャッフル再生してるんですが、「雨が降ってきたなぁ」と思った瞬間、雨の曲がかかることがあるんですよ。「あ、雪だ」って思ったら雪の曲がかかったこともあります。ひょっとしたらとんでもない機能なのかもしれないですけど(笑)。でも、街でそんな偶然があるとドキドキして楽しいですよね。だからなるべく曲を大量にミュージックプレーヤーに入れておいて、シャッフルをかけて偶然を待つのが楽しいと思います。ひょんな拍子で予期せぬ曲と予期せぬ風景が合わさった時に、「うわ、すごいな」ってなりますよね。それで見事に脳内映画ができあがります!
●それでも敢えて何曲か挙げるとしたらどうでしょうか。
浦沢:ロキシー・ミュージックのボーカルだったブライアン・フェリーの「タクシー」っていうソロアルバムがあるんですよ。カバーアルバムで、決して代表作ではないんですけどね。そのタイトル曲の「タクシー」がリズム&ブルースの古い曲のカバーで、タクシーに乗って街はずれの彼女の家まで早く行ってくれとドライバーに頼む歌なんです。それが何とも雰囲気のある音空間で、ぼわーっと流れるんですけど、あれをAH-C630WやAH-C830NCWで聴きながら夜の街を歩いたら、かなりきますよ。
アーティスト名:Bryan Ferry
アルバム・タイトル:Taxi
あと、ボブ・ディランの最近の曲もいいですよ。南北戦争を題材にした映画「ゴッド&ジェネラル/伝説の猛将」のサントラに入っている「クロス・ザ・グリーン・マウンテン」という曲があって。南北戦争の惨状を見渡している、諦観に満ちたような歌なんですけども、あの曲も聴きながら歩くととてもいいです。先日ウォーキングしていて、そろそろ帰ろうとしていたところで、この曲が流れ始めたんです。結局、その曲が終わるまで歩き続けてしまいましたね(笑)。
Bob Dylan – ‘Cross the Green Mountain (Official Video)
●なるほど! さっそく試してみます。今回はありがとうございました。
浦沢直樹先生がキービジュアルを手掛けた「浦沢直樹、音を描く。」キャンペーンは好評展開中。全国の家電量販店などにポスターや展示台が設置されています。ぜひこの機会にデノン初の完全ワイヤレス・インイヤーヘッドホンAH-C630W、AH-C830NCWをご試聴ください。
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(編集部I)