Dolby Japanのライセンス&エコシステム ディレクター 鈴木さんに「Dolby Atmos®(ドルビーアトモス)」について聞いてみた
デノンのDolby Atmosイネーブルドスピーカー内蔵サウンドバーDHT-S517が好評です! ところでDolbyってそもそもなんだっけ? また最近はDolby Atmosを音楽配信でも目にします。これってどういうこと? そんな素朴な疑問をお持ちの方、多いのではないでしょうか。そこでデノンオフィシャルブログではDolby Japanライセンス&エコシステム ディレクターの鈴木さんにお話を聞いてきました。
●デノンから発売されたサウンドバーDHT-S517がおかげさまで大変好評です。その理由の1つにDolby Atmosイネーブルドスピーカーの搭載がありますが、そもそもDolby ってなんだっけという声を時々聞くようになりました。今回はその辺からお話をうかがいたく、Dolby Japanにおじゃましました。本日はよろしくお願いいたします。
鈴木:よろしくお願いします。
菅原:いつもデノンブログ読んでます! よろしくお願いします。
DOLBY JAPAN株式会社 ライセンス&エコシステム ディレクター 鈴木克典さん(右)
DOLBY JAPAN株式会社 ライセンス&エコシステム マネージャー 菅原孝介さん(左)
Dolbyは映画の音声技術の進化を担ってきた
●そもそもDolbyとはどんな会社なのか、というところから教えていていただけますか。
鈴木:ドルビーラボラトリーズ(Dolby Laboratories, Inc.)は1960年代に技術者であるレイ・ドルビーがノイズ・リダクションの技術研究所を設立したのがはじまりです。カセットテープレコーダーなどの民生機用の「Dolby B NR」「Dolby C NR」というものが多くのカセットデッキやラジカセに搭載されましたので、ラジカセが流行した70年代〜80年代のカセット世代の方には馴染みが深いと思います。Dolby NRはテープの高域のノイズを軽減するオーディオ圧縮・拡張技術の一種です。
●ドルビーのノイズ・リダクションはラジカセに入っていたのをよく覚えています。大変懐かしいです。
鈴木:Dolbyはカセットテープのノイズ・リダクションなどコンシューマー用技術が多くの方々の目に触れるところだったと思います。また、ハリウッドの映画制作の現場では、これまでDolbyのいろいろな技術が採用されてきました。1977年公開の映画『スター・ウォーズ』では初めてDolbyステレオが活用されましたし、サラウンドでは1992年にドルビーデジタル5.1chを採用した『バットマン リターンズ』が公開されています。Dolbyの音に関する技術は映画製作の現場、そして上映される映画館だけでなく、一般のご家庭用のホームシアターでも再現できる技術を提供されてきました。それが現在のホームシアターのサラウンドフォーマットのスタンダードとなっています。
●Dolbyはなぜノイズ・リダクションからサラウンドに向かったのでしょうか。
鈴木:我々Dolbyは主に映画業界、特にハリウッドのクリエイターの方々とのお付き合いの中で、さまざまな要望を受け、それに応えるべくさまざまな形で技術を開発し、提供をしてきました。サラウンド音響についても、もっと映画の中に入り込んで欲しいという制作現場の意向があり、それに応えて技術を開発した、ということだと思います。その延長線上で、ここ十数年前から、立体音響という新しいテクノロジーを開発しました。それが「Dolby Atmos(ドルビーアトモス)」で、AVアンプ、DHT-S517などのサウンドバー、そして最近ではオーディオ機器のみならず、テレビ、スマホにまで展開されてきています。
もう一つ、Dolbyは10年ぐらい前から「Dolby Vision(ドルビービジョン)」という映像技術も手掛けています。最近テレビにも広く採用されている「HDR=ハイダイナミックレンジ」つまり輝度のレンジを広げる技術も、実はDolbyがリードしています。これがDolby Visionという技術で、テレビだけではなくスマートフォンにも搭載されており、2020年秋に発売されたiPhone12、iPhone12 Pro以降のシリーズではDolby Visionに対応したHDR動画の撮影が可能となっています。ですから、映画の世界でも、ご家庭での再生環境でもDolby Atmosと、Dolby Visonの2つの技術は、今非常に多くのところで使われています。
Dolby Atmosは制作用ツールから、映画館の音響システム、家庭での再生システムまで、さまざまステージでソリューションを提供
●Dolby Atmosはいつごろ生まれた技術なのでしょうか。
鈴木:公には2012年にドルビーアトモスが発表されました。またコンシューマー用の製品としては、デノンさんを含め日本の音響機器メーカー様には非常に早く取り組んでいただいき、2014年あたりから各社様に採用していただいています。中でもデノンさんはAVアンプで特に世界に先駆けて採用していただいており、感謝しています。
デノンオフィシャルブログでは2015年に3月に体験記をエントリーしています。ぜひごらんください。
●すでにデファクトであったDolbyサラウンドですが、縦方向を含めた立体音響のDolby Atmosへと進んで行ったのはどうしてでしょうか。
鈴木:モノラルやステレオに比べれば、水平方向のみのサラウンドでもかなり現実に近い音響が表現できるようになっていました。しかし、よりリアルで空間的な音場を表現したい、もっと映画のシーンに入っていくような体験をしてもらいたいといった要望が映画の制作サイドからあり、われわれがそれに応えて技術開発をしながら一緒に作り上げていった、と聞いています。
●ただ、Dolby Atmosという規格を提唱しても、それを実際に作品として上映するためには、制作者がDolby Atmosのためのミキシングを行い、さらに上映する映画館にはDolby Atmos再生用のスピーカーを取りつけなくては実現できません。そういうプロセスに関与するということですか。
鈴木:その通りです。それがまさにDolbyの考え方です。Dolbyは、一般の方にはサウンドバーやAVアンプといったデバイスに立体音響を再生するためのライセンスと技術を提供しているだけに見えるかもしれません。しかし映画の音や音楽をDolby Atmosで作品を仕上げるには、そのためのミキシングが重要です。我々はそのために制作サイドに立体的にミキシングするための技術を提供していますし、映画館では天井スピーカーをはじめ、Dolby Atmosの形で再生できるようなシステムを導入いただいています。一方で、コンシューマー製品としてはデノンさんのサウンドバーやAVアンプに採用いただいているように、デコード、レンダリングして出力する技術を提供します。このように制作側と再生側の両輪をサポートすることで、クリエイターのみなさんの「こんな空間で表現したい」という思いが視聴者にちゃんと届くという考え方です。
映画から音楽やゲームへの拡がるDolby Atmos
●Dolby Atmos は2012年に初めて発表されたとのことですが近年の普及はすごいですね。
鈴木:ありがとうございます。特にハリウッドで効果が高いと気に入っていただいて。映画館で徐々に取り入れられるようになり、今や多くのAVアンプやサウンドバーに代表されるオーディオ機器に搭載されるようになりました。Dolby Atmosは、映画の激しい戦闘シーンやアクションシーンで効果が高いと最初は言われていたのですが、実際に多くの映画で使ってみると、激しいシーンだけではなく、雨が降ったり、小鳥が鳴いたりといった静かなシーンにおいて、その空間や気配までを表現できる技術であることを理解していただけるようになり、今ではさまざまなジャンルの映画でご活用いただいています。近年では邦画でも多く採用いただき、特に日本が強いアニメの分野、たとえば昨年公開された劇場版『鬼滅の刃』無限列車編、今年4月公開の劇場版『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』などでDolby Atmosが採用されています。
●Dolby Atmosは映画から他の分野のエンターテイメントにも拡がっていますよね
鈴木:はい。映画コンテンツからはじまったDolby Atmosですが、今では音楽、ゲームといった分野にも使われています。映画も以前はモノラルやステレオで制作されていたものがサラウンド、そしてDolby Atmosへと進んできたわけですが、同じような状況が音楽でもはじまっていて、音楽も以前はモノラル、そしてステレオへと変遷しましたが、近年はDolby Atmosの立体音響で音楽を作るという方向に向かっています。実際に多くのアーティストやレーベルがどんどんDolby Atmosを採用しはじめています。
●モノラルからステレオになって、ステレオで精緻な音楽制作をしてきたわけですが、これがDolby Atmosで立体音響になると、さらに自由度が高まるわけですから、ものすごく大きな可能性がありますね。これは結構大きなブレイクスルーになるのではないでしょうか。
鈴木:今まで2チャンネルやサラウンドで音作りをしてきたわけですが、立体音響になると、上から音が降ってくるような音作りができるようになります。たとえばオーケストラであればサントリーホールで聴いているオーケストラの音というか雰囲気そのものを、空間として表現できるようになってくるのではないでしょうか。またクラブ系の音楽であれば、今までありえなかったような音の動きを意図的に作ることもできそうですよね。実際音楽制作では従来のステレオのミックスに加えて、Dolby Atmosでミックスするケースが増えていますし、ビートルズのような過去の名盤をDolby Atmosの立体音響に再編集し、リリースするという事例も増えています。
Dolby Japan の試聴室にリファレンス用に「AVC-A110」や「DHT-S517」を設置
●技術を提供するDolbyの側から見て、デノンはどう見えますか。
鈴木:デノンさんは、オーディオ業界で世界をリードするトップブランドですし、私どものDolby Atmos立体音響も世界に先駆けて採用いただいていますので、非常に重要なパートナーと思っております。製品の評判もすごく高いですよね。
●試聴する時にデノンの機材を使ったりもされるんですか。
鈴木:もちろんです。弊社ではミュージシャンの方や、メーカーの方など、いろんな方々に弊社の技術をデモしますが、その試聴室にはリファレンス用のアンプとしてデノンのAVアンプ「AVC-A110」を使わせていただいています。そしてデノンのサウンドバーの新製品、DHT-S517も早速購入して試聴用に使っています。
Dolbyの試聴室で使われているデノンAVアンプ AVC-A110
●DHT-S517を使ってみた印象はいかがでしょうか。
鈴木:弊社でも購入してさっそく試してみましたが、開封してからすぐにテレビに簡単に接続でき、セットアップは非常にやりやすかったです。この手軽さがサウンドバーの魅力だと思います。その上でやっぱり、さすがデノンの技術だと感心しましたが、見た目のサイズからは想像できない迫力のあるサウンドでした。音の深みが素晴らしかったです。そして高さ方向を表現するDolby Atmosイネーブルドスピーカーを搭載しているので、縦方向の音の広がりも本当に見事に表現されていました。
●DHT-S517の製品発表会にご登場いただいた菅原さん、初めて聞いたときの感想はいかがでしたか。
菅原:新製品発表会で初めてDHT-S517を聴いたときに思ったのは、サウンドバーなのに本当に天井にスピーカーが付いているみたいな音の鳴り方をするなと思いました。このあたりは、実際に筐体に上向きのDolby Atmosイネーブルドスピーカーが搭載されているだけでなく、トータルのサウンドのまとめ方が素晴らしいということも感じました。
DOLBY JAPAN株式会社 ライセンス&エコシステム マネージャー 菅原孝介さん
菅原:特に発表会で試聴した作品で劇中、殺戮シーンなのにジャズのスタンダード曲の「フライ・トゥ・ザ・ムーン」が流れるんですけど、そのサウンドの質感が素晴らしいと思いましたね。艶っぽいジャズサウンドで。デノンのサウンドマスターの山内さんが、相当厳しく評価し、技術的に高めていると聞いていますので、やっぱりさすがだなと感服しました。
DHT-S517 スリット部分に上向きのDolby Atmosイネーブルドスピーカーが搭載されている
鈴木:Dolby Atmosイネーブルドスピーカーについては、私どもの基準で搭載して効果が出ているかを当社の技術者が確認した上でDolbyとしての認証を行っています。DHT-S517はもちろんその基準をクリアいただいているわけですが、そこからさらにサウンドマスターの山内さんが厳密に、クオリティを細かいところまで高めていただいているのだと思います。
私は映画コンテンツだけでなく、サッカーの試合をDolby Atmosでライブ中継しているものを見たのですが、まるでスタジアムの中に入って一緒に観戦しているようなリアルな臨場感を感じることができました。それも映画とは違った楽しさでした。
菅原:DHT-S517はこれだけ高音質なのに、手軽にテレビにパッと付けることができ、しかも比較的お手頃の価格で購入できますから、これはすごく普及するんじゃないかなと思っています。私もほしいです(笑)。
●ぜひ! 本日はお忙しいところありがとうございました。
(編集部I)
※Dolby、ドルビー、Dolby Vision、Dolby Atmos、およびダブルD記号は、アメリカ合衆国とまたはその他の国におけるドルビーラボラトリーズの商標または登録商標です。その他のすべての商標は、それぞれの所有者に帰属します。