クラシック音楽ファシリテーターの飯田有抄さんがセレクトしてくれた「冬に聴きたいクラシック!」
激動だった2022年も終わりに近づき、街角ではクリスマスソングが流れる時期となりました。デノンオフィシャルブログでは、クラシック音楽ファシリテーターの飯田有抄さんに、この冬、いい音で聴いてみたいクラシックの楽曲を、ちょっと振れ幅大きめにご紹介いただきました。
いよいよ本格的なウィンターシーズンの到来です。 冬の風物詩とも言える音楽や、寒さを吹き飛ばしてくれるような曲、はたまた凍えるような寒さに敢えてどっぷりハマってしまおうという作品まで、あえて振り幅大きく多様なクラシック音楽をご紹介します。
神秘的なオルガン・サウンドに包まれて
冬といえば、クリスマスシーズンですね。発祥の源にキリスト教があるクラシック音楽には、クリスマスにちなんだ名曲がたくさんあります。ですが、ここではちょっと渋めの選曲を。知る人ぞ知る、とても素敵なオルガン音楽をご紹介します。フランスの近現代の作曲家、シャルル・トゥルヌミール(1870〜1939)の作品です。オルガン作品といえばJ.S.バッハらのクラシカルなドイツ音楽の堅牢な響きをイメージされがちかもしれませんが、そういった趣とは一味も二味も違います。とても神秘的で、光と色彩に溢れ、響き全体の中に身を置くような感覚に浸ることができます。巨大なパイプオルガンはやはり教会や音楽ホールで聴くのが最高ではありますが、トゥルヌミールの美しい音響は、オーディオで楽しむのもまたいいんです。とにかく綺麗だし、かっこいい。 高音の煌めきから、重低音までかなり充実しています。
デュフォルセット=ハキムのオルガン演奏で、『オルガンの秘法〜降誕節 op.55』から、第2、7、11番です。
Spotifyでも聞けます。
文句なしに楽しい冬のド定番
神秘のクリスマスに満たされたあとは、ガラリと雰囲気を変えて、底抜けに明るくて楽しい冬の音楽に行きましょう。たぶん、この人の音楽が嫌いという人は世の中にいないのでは?ハッピーで心温まるオーケストラ音楽の数々を生み出した、アメリカの作曲家ルロイ・アンダーソン(1908〜1975)の作品です。
まずは鉄板のこの曲。「そりすべり」です。なんでしょう、この輝かしい明るさは。かつては、ただただ陽気な音楽だなぁ思っていたのですが、年齢を重ねるにつれて、なぜだかこういうもので泣けてきたりするのは私だけでしょうか。平和で幸せな時間は、なんと尊いものか……そんなことを思ってしまう今日この頃です。
こちらもSpotifyで聞けます。
う〜ん、そしてやっぱりこちらも外せない。次から次へとクリスマスの名曲がオーケストラのゴージャスなサウンドで繰り出される『クリスマス・フェスティヴァル』です。
しみじみと心の痛みに触れる冬の音楽
思いっきりハッピーな冬の音楽に浸っていただいたあと、ここで一気に極寒の寂寥感へと突き落とされていただきます。厳しい寒さは心の芯まで沁みてくるもの。孤独を抱きしめるようにしながら、じっくりとシューベルト晩年の歌曲『冬の旅』を聴きましょう。
恋を失い、社会的身分もない若者が、あてもなくさすらい、命を絶とうとする。内容は非常に暗く、悲しみに満ち、そしてどこか怒りをも湛えています。多くの名手が録音を残していますが、特にテノール歌手のプレガルディエンの深みのある声、シュタイアーの痛みを感じさせるフォルテピアノの演奏は格別です。
全部で24曲あり、通して聴くと75分ほどかかります。特にオススメなのは、恋人にフラれた若者が町から旅立つ第1曲「おやすみ Gute Nacht」、束の間の休息を得る第5曲「菩提樹 Dear Lindenbaum」(有名曲です)、若者が死を意識する第15曲「鳥 Die Krähe」、死にきれない若者を教会の讃美歌のように温かいピアノの音が包む第21曲「宿屋Das Wirtshaus」、空虚な目をした辻音楽師と出会った若者は、ついに廃人となってしまったのだろうか……最後の曲である第24曲「辻音楽師 Dear Leiermann」。この5曲はぜひしみじみとお聴きください。
シューベルト:冬の旅
クリストフ・プレガルディエン(テノール)、アンドレアス・シュタイアー(フォルテピアノ)
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メラメラ燃える炎に身を焦がして
いやはや、失恋の音楽ですっかり心が凍えてしまったよ……という方のために、またまた振り幅大きく、ここでメラメラと燃える恋の炎の音楽で寒さを吹き飛ばしてください!
スペインの作曲家マヌエル・デ・ファリャによるバレエ音楽『恋は魔術師』から「火祭りの踊り」です。死んだ夫の亡霊に、新たな恋を邪魔される女性が悪魔祓いをする場面の音楽です。熱い演奏で人気を誇るバッティストーニ指揮、東京フィルハーモニー交響楽団の演奏で燃え上がってください!
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締めの一曲はチャイコフスキーの胸熱メロディー
振り幅大きくご紹介してきた冬に聴きたいクラシック音楽ですが、そろそろ落ち着きましょう(笑)。締めは、みんな大好きチャイコフスキー。「白鳥の湖」や「くるみ割り人形」(←こちらもクリスマス・シーズンのド定番)といった有名バレエ曲は誰もが耳にしたことのある音楽だと思いますが、ここでもちょっと渋めに、彼が26歳の時に書いた最初の交響曲をご紹介します。
この交響曲第1番には「冬の日の幻想」というタイトルがついているんです。第2楽章は「陰気な土地、霧の土地」とあります。哀愁たっぷりの民謡風のメロディーが北の広大な大地のごとく、朗々と息長く歌われます。最初はオーボエで、やがてチェロになり、そしてホルンが慟哭するように奏でます。ああ、胸が熱くなる! これぞ、メロディー・メーカー、チャイコフスキーの音楽です。マイケル・ティルソン・トーマス指揮、ボストン交響楽団の演奏でどうぞ。
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飯田有抄 プロフィール
東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Macquarie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。音楽専門雑誌、書籍、CD、コンサートプログラム、ウェブマガジンなどの執筆・翻訳のほか、音楽イベントでの司会、演奏、プレトーク、セミナー講師の仕事に従事。NHKのTV番組「ららら♪クラシック」やNHK-FM「あなたの知らない作曲家たち」に出演。書籍に「ブルクミュラー25の不思議〜なぜこんなにも愛されるのか」(共著、音楽之友社)、「ようこそ!トイピアノの世界へ〜世界のトイピアノ入門ガイドブック」(カワイ出版)等がある。公益財団法人福田靖子賞基金理事。