ネットワークオーディオ機能搭載のプリメインアンプPMA-900HNEでジョン・スコフィールドを聴いてみた。
「PMA-900HNE」は、デノンのフルサイズHi-Fiアンプとしては初めてネットワークオーディオ機能「HEOS」を搭載したプリメインアンプです。ジャズギタリスト、ジョン・スコフィールドの新譜などを試聴してPMA-900HNEの実力を編集部で試してみました。
今年発売になったPMA-900HNEは、デノンのフルサイズHi-Fiアンプとしては初めてネットワーク機能「HEOS」を搭載した新しいミドルグレードのプリメインアンプです。その実力はいかがなものか、そしてHEOSはどう便利なのかなど、多くの方が関心をお持ちの点を確認すべく、PMA-900HNEを編集部で試聴してみました。
デノン初のネットワーク再生対応フルサイズHi-Fiプリメインアンプ
DCD-900NE+PMA-900HNEで聴くCDのサウンドはまさに「Vivid & Spacious」
今回の試聴はデノンの試聴室で行いました。まずはCD音源の再生から試してみましょう。CDプレーヤーは900NEシリーズとして同じタイミングで発売されたCDプレーヤー「DCD-900NE」を使用します。
今回の試聴システム。中段がPMA-900HNE。最上段がCDプレーヤーのDCD-900NE
PMA-900HNEもDCD-900NEも、デノンのHi-Fiコンポーネントのラインアップではミドルグレードに位置付けられる製品。同時期に開発されたこのシステムでのCDの音質はどうでしょうか。
ハイエンドモデルの設計思想と技術を受け継ぐ高性能CDプレーヤー
今回は試聴用の音源としてジャズギタリストのジョン・スコフィールドのニューアルバム「ジョン・スコフィールド」を用意しました。
アーティスト名:ジョン・スコフィールド
アルバムタイトル:ジョン・スコフィールド
(試聴して)
シンプルなギターソロの作品なので、音の純度がよくわかりますが、非常に良く澄んだ音だと感じました。また音場も広く、ギターの音の実体感がリアルに感じられます。
また、同じ試聴室で前回試聴した音源、ジャズボーカリスト、メロディ・ガルドーの最新アルバム「オントレ・ウー・ドゥ」も聴いてみました。
アーティスト名:メロディ・ガルドー,フィリップ・バーデン・パウエル
アルバムタイトル:オントレ・ウー・ドゥ(Entre eux deux)
こちらもピアノとボーカルの一発録りのシンプルな音源ですが、部屋全体に音場が広がり、ピアノの置かれた位置とボーカルがいる位置がはっきりと音でわかります。キーワードは「空間感」と「音の鮮度」で、これはまさにデノンのサウンドフィロソフィーである「Vivid & Spacious」を体現していると感じました。
さらに、上位モデルのプリメインアンプ「PMA-1700NE」との聴き比べもやってみました。さすがにPMA-1700NEのほうが音場感、音の実体感は勝っていましたが、「音の鮮度」や「音場感」を重視した音の傾向としては同一直線上にあるサウンドで、同様にデノンの「Vivid & Spacious」を体現しているサウンドだと感じます。PMA-1700NEもミドルクラスという位置づけですが、サウンドはむしろPMA-A110を継承したハイクラスといっても過言ではありません。一方PMA-900HNEとDCD-900NEは希望小売価格で合計約20万円と、Hi-Fiオーディオのシステムとしてはリーズナブルな価格ですが、そのカテゴリーをはるかに凌駕したクオリティだと言えるでしょう。
PMA-900HNEのHEOS機能を使ってサブスクリプションのバージョンを試聴してみる
さて、いよいよHEOSを試してみたいと思います。HEOSとはデノンのネットワークオーディオ対応製品が採用している独自のプラットフォームです。すでにAVアンプやDenon Homeなどのワイヤレススピーカーではお馴染みの機能ですが、デノンのフルサイズのプリメインアンプに搭載されるのはPMA-900HNEが初めてです。
HEOSの主な機能としては
- Amazon Music HD、Spotify、AWA、SoundCloudなどのストリーミング再生が楽しめる
- さらにTuneIn(インターネットラジオ)も試聴可能
- NASやパソコンなど自宅のローカルネットワーク上のミュージックサーバーや、USBメモリーに入っている音楽データの再生
- AirPlay 2や、Bluetooth®にも対応
- 他のHEOS対応デバイスに再生中の音楽の配信が可能
- Alexaによる音声操作に対応
- スマホやタブレットのHEOSアプリで操作
などが挙げられます。
気になる本体のWi-Fiネットワークへの接続ですが、意外なほど簡単でした。まずはスマホにHEOSアプリをダウンロードして、次にPMA-900HNEの付属のリモコンのコネクトボタンを押すだけです。
あとはHEOSアプリでデバイスを追加するだけでOKです。ネットワーク対応機器の導入時には、設定に時間がかかったり、何度もやり直すことになったりと、ストレスを感じるケースもありますが、PMA-900HNEではとてもスムーズに進みました。
最近HEOSの大きなアップデートがあり、このあたりのユーザービリティも大きく改善したそうです。
PMA-900HNEにもHEOSと接続したことが表示されました。
では早速PMA-900HNEのストリーミング再生で、Spotifyの楽曲を聴いてみました。
先ほどCDで試聴したジョン・スコフィールドの「ジョン・スコフィールド」や、メロディ・ガルドーの新作「Entre eux deux」を聴いてみました。どちらも圧縮音源ではありましたが、やはりHi-Fiオーディオで聴くと、ああ、やっぱりいい音だな、と感じます。
Spotifyの音源はCDほどクオリティが高くはありません。ただ、なにより「だいたいの音楽がその場ですぐに聴ける」という、手もとに無限の音楽コレクションを持っているような楽しさがあります。ジョン・スコフィールドにしても、最新作だけでなく、前作や前々作、そしてデビュー当時の作品やマイルスバンド時代の曲などもすぐに聴くことができ、アーティストの作品をどんどん深掘りしていくことができます。近年はリリースするメディアはストリーミングとダウンロードのみ、というアーティストも出てきています。
PMA-900HNEはプリメインアンプ1台だけで、サブスクリプション音楽をどんどん聴いていくというカジュアルなリスニングスタイルにも対応できますし、DCD-900NEなどのプレーヤーと組み合わせることで先ほどのCDの試聴のように「一枚入魂」で聴くオーディオの王道ともいえるリスニングスタイルでも実力を発揮します。アンプ1台でこの両方のリスニングスタイルに同時に対応できるのが、とてもいいと思います。
コロナ禍、自宅で録音されたジャズギタリストの雄、 ジョン・スコフィールドの抒情的な側面が味わえる好盤
最後に、今回試聴で使用したジョン・スコフィールドの「ジョン・スコフィールド」もレビューさせてください。ジョン・スコフィールドは1980年代にジャズ界の帝王、マイルス・デイヴィスのグループに参加してその名をジャズシーンに轟かせたギタリストで、今も非常に人気があるアーティストです。
Miles Davis Band在籍時の演奏
John Scofield Trioの演奏
今回のアルバムはジョン・スコフィールドのキャリアで初となるギターソロのアルバムで、アルバムタイトルも自身の名前「ジョン・スコフィールド」を冠しています。
Honest I Do(「ジョン・スコフィールド」より)
バンドの時は非常にエネルギッシュで、独特のアウト感とウネリを感じさせるプレイが印象的ですが、本作で聴けるようなギターソロでは内省的かつ抒情的で、正統的なジャズへの強い思いを感じさせる演奏だと感じました。
Spotify
私(編集部I)はギターを弾くので特にそう思うのかもしれませんが、ジョン・スコフィールドのサウンドの特長は、ギターの弦を弾いた後に指を動かして音程を揺らすようなフレージング(歌いかた)をするところです。いわゆるビブラートとはひと味ちがう「うねり」のようなものですが、それが非常に肉感的でギターの音が彼の「肉声」であると感じさせます。このアルバムはギター雑誌のインタビューによると、コロナ禍で演奏活動がほとんどできなくなってしまったため、自宅でギターソロのアルバムを作ろうと思い立ち、自室でギターを弾いてはパソコンにどんどん録音していったそうです。ルーパーという自分の弾いた演奏を即座に再生してくれる機材を使うことで、自分で伴奏を弾いたら即座にその上でソロを弾く、という手法も採られています。これも機材を使いこなす昨今のギタリストならでは、独自のプレイスタイルと言えるでしょう。
ルーパーを使ったジョン・スコフィールドのソロパフォーマンスの様子をみるとどうやって弾いているかが良くわかります。
ジャズファン、そしてギターファンのみなさんには、ぜひ聴いていただきたい好盤です。
Universalレコード特設サイト「ジョン・スコフィールド」
(編集部I)