
Real-wood Seriesのヘッドフォン「AH-D5200」で、 気になる音楽と映画を聴いてみた

ハウジングに天然木(ゼブラウッド)を採用したデノンのオーバーイヤーヘッドフォンAH-D5200を、デノンブログ編集部員Wが自宅で試聴してみました。音楽アルバムや映像コンテンツを聴いてファーストインプレッションを記しています。デノンReal-wood Seriesの一翼を担うAH-D5200は、忠実でキレのいいサウンドで聴くことの楽しみを広げてくれる1台、そして所有する歓びも同時に満たしてくれそうな1台でした。

ゼブラウッドの縞模様。手のひらに感じる天然木のやさしさ
箱を開けてAH-D5200を手に取り、まず感じるのが丸く大きな木製イヤーカップの温かみのある手触りとイヤーパッドのふかふかな柔らかさ。そして、流れるような形状のアルミダイキャスト製ハンガーが手のひらにしっくりと馴染みます。木製(ゼブラウッド)のイヤーカップはやや青みがかったダークブラウンで、表情のある木目に高級感を感じます。ちなみに天然木のためヘッドフォンの一台一台でみんな木目の柄模様が違うのだとか。自分だけの一品と出逢う楽しみがありますね。手触りにもどことなく温かみを感じます。
このゼブラウッド、筆者はよく知らなかったので少し調べてみました。その名の通り、シマウマ(ゼブラ)の縞模様のような木目を特徴とする木材で、主に西アフリカや南米などに生育するそうです。性質としては非常に硬く、強靱。褐色系の深みのある色で不規則な縞が現れるのが個性となっています。このゼブラウッドの硬さがAH-D5200の音の個性を決める大きなポイントになるのですが、それについては後ほど。
柔らかく肌触りのよいイヤーパッドはメガネにもやさしい
続いては装着感。筆者は自宅では開放型のヘッドフォンを使っていますが、その理由はその機種のイヤーパッドが非常にソフトだから。セルフレームのメガネを掛けているため、長時間掛けても耳が痛くなりにくいタイプが必要でした。密閉型のヘッドフォンを敬遠しがちだった理由も、メガネフレームのことが気になるからに他なりません。しかし、AH-D5200を掛けてみて驚きました。耳を覆うしっかりとした装着感はありながらも、厚みのあるイヤーパッドは非常に柔らかく、しかも肌触りのいい人工皮革製のおかげでメガネの蔓の部分と耳への圧迫感が気にならず、心地よい収まり感があります。実際に装着していろいろと聴いてみましたが、痛みや疲れを感じることが少なく、気づくと装着したまま数時間が経っていました。
(装着感には個人差があります。ぜひ実際の商品でお試しください)
ケーブルはリケーブルも可能な着脱式の4N OFCケーブルで左右のコネクターに差して使います。ケーブルを分けて収納することで、断線トラブルなどのリスクも軽減できそうです。標準で3.5mmプラグアダプターも付属しています。いよいよ試聴してみましょう。
AH-D5200で最近お気に入りのアルバムを聴いてみた
~低音が引き締まってくっきり、フラットで忠実、際立つ弦のアタック感~
まず、近ごろよく聴いているアルバムを、自宅にあるデノンのプリメインアンプPMA-1500AEを通してAH-D5200で試聴してみました。
アーティスト名:アルージ・アフタブ
アルバムタイトル:Vulture Prince (deluxe edition)
パキスタン出身でニューヨークを拠点に活動する気鋭のシンガー兼作曲家アルージ・アフタブ(Arooj Aftab)が2021年に発表したアルバムです。パキスタンの伝統音楽とジャズが融合したサウンドの上をアルージ・アフタブの深く豊かなボーカルが舞います。エレクトロニック・ミュージックを取り入れた表現のなかにもインディー・フォークや中近東の伝統音楽の雰囲気も感じられ、ジャズやクロスカルチュラルな音楽を愛好するリスナー、ミュージシャンの間で話題の作品です。
ハープ、ガットギター、ベース、バイオリン、ビオラ、チェロなどの弦楽器主体の演奏ですが、AH-D5200で聴くと、2曲目の「Diya Hai Feat. Badi Assad」などでアコースティックギターやハープ、バイオリンなどの弦楽器の心地よいアタック音に耳がいきます。サウンドに奥行き感もあり、低音域から高音域まで各楽器のバランスや定位感もくっきり。個人的にはギターやチェロの輪郭感のある中低音の響きがいいと感じました。最初に聴いた時には、おとなしめの音という印象を受けましたが、繰り返し聴くうちに非常にクリアでタイト、バランスに優れた聞きやすい音という感想を持ちました。
ギターとチェロの音が非常に良かったので、もう一枚、ギターとチェロ主体のアルバム(CD)でも試してみました。録音が良いことでも知られる作品です。
アーティスト名:伊藤ゴロー
アルバムタイトル:GLASHAUS
作曲家/ギタリスト、アレンジャー、音楽プロデューサーとして国内外で高い評価を受ける伊藤ゴローのインストゥルメンタル作品(2012年)です。彼の書き下ろしによる収録曲は叙情的。ジャズ、クラシック、ブラジル音楽のジャンルを越える無国籍な個性をもった音世界が展開されます。チェロの演奏とストリングスアレンジを担うのは、ブラジルが生んだ世界的チェリスト/編曲家であるジャキス・モレレンバウム。他にもアンドレ・メマーリ(ピアノ)など当代トップクラスの演奏家が参加しています。
このアルバムは10年来の愛聴盤なのですが、AH-D5200で聴いてみると、予想を超えて良い! 響きすぎないタイトなサウンドが上品な印象を高めます。伊藤ゴローのガットギターが奏でる旋律と、そこにカウンターのように入ってくるモレレンバウムのチェロ、その両者の響きが美しい……(ため息)。そこにピアノ他が絡み、品位ある世界観が広がっていきます。こうした現代の室内楽とも言えるアルバムをじっくりと聴くにはAH-D5200はすごく適していると思いました。
アコースティック系だけでなく、エレクトリック楽器が入った音楽もいくつか試してみました。例えば、キップ・ハンラハンの2018年のこのアルバム。
アーティスト名:キップ・ハンラハン
アルバムタイトル:クレッセント・ムーン(CRESCENT MOON WANING)
キップ・ハンラハンは、中南米系音楽と米国音楽が混交するニューヨークのアンダーグラウンド・シーンを代表するミュージシャン/音楽プロデューサーです。ジャズ、ラテン、オルタナティブ・ロックなど様々な要素が混交した彼のサウンドは、自由で猥雑な世界観の中にも、クールさや翳りを感じさせ、独特の色気のようなものがあります。
AH-D5200でこのアルバムを聴いて、高音域の楽器の再生にも特色があることがわかりました。ふだん使っている開放型のヘッドフォンでこのアルバムを聴くとコンガの打音やドラムスのスネアの響き、またホーンセクションなどの高音の伸びが強調され、それによって華やかさ(あるいはセクシーさ)が際立つ感じがありましたが、AH-D5200で聴くと、タイトではありながらも全体的に硬めでカチッとした音にがらりと印象が変わりました。面白い!
筆者にはAH-D5200のサウンドは全体的に音の減衰が比較的少なめに聞こえるのですが(あくまでも個人の感想です)、そのサウンドキャラクターによって、エレクトリックベースやピアノの低音、その他の楽器の中低音域の音は締まってタイトに聞こえる一方、電子系楽器や打楽器、管楽器の高音域の音はより硬くシャープに聞こえるのかもしれないと思いました。
他にもロック系、エレクトリックなダンス系音楽なども聴いてみました。シンセサイザーや打ち込みの重低音はバッチリ、そしてエレクトリック・ギターやベースもタイトでクリアに聞こえるので、ノリとスピード感が強調される感じがあります。こうしたジャンルにもAH-D5200は合うと思いました。
硬めで輪郭のあるサウンドは、ゼブラウッドならでは?
こうして試聴してみると、このタイトさ、硬めのカリッとしたサウンドキャラクターには、ゼブラウッドの材質が大きく影響していることを実感します。硬度の高いゼブラウッドを用いたハウジングとデノン独自開発の歪みの少ないフリーエッジ・ドライバーの組み合わせがAH-D5200の個性を生んでいるのでしょう。
ちなみに、AH-D5200の他にもデノンのReal-woodシリーズには音響特性に優れた高知産孟宗竹を使用したハイエンド・モデルのAH-9200、アメリカン・ウォールナットを用いたバランスのとれた音が特徴のAH-D7200があります。この中ではAH-D5200のゼブラウッドは一番硬く、鳴きの少ない締まった音が特徴とのこと。ハウジングの素材によってサウンドの個性がある。そして木目柄が1つひとつ違う。これは、一品もののヘッドフォンとして選ぶ楽しみが増しますね。
デノンヘッドフォンReal-wood Seriesのスペシャルサイトもご覧ください。
AH-D5200で映画を視聴してみた
~会話が明瞭、バランスの良いサウンドで映画音響を忠実に再現~
低音域から高音域までフラットに再生可能なAH-D5200のサウンドは、レコーディングエンジニアやマニピュレーターなどの専門職の方々にも高評価を受け、多くのスタジオでミキシング等のリスニング用にも使われています。
この忠実な再生能力は、映像の鑑賞やゲームの再生などにも活躍しそう。そんな予感がしたので今回、2タイプの映画を映像配信サービス(ノートPC経由)で試聴してみました。
ナイブズ・アウト:グラス・オニオン(2022)
配信:Netflix
1本目は、Netflixオリジナルの映画、ダニエル・クレイグ主演「ナイブズ・アウト: グラス・オニオン」。地中海のプライベート・アイランドに招待された人々がミステリーゲームに巻き込まれるという話で、肩の凝らないミステリー映画です。
AH-D5200とPCの組み合わせで映画を視聴してみました。派手さはないが聴きやすい音という印象です。会話のシーンが多い作品ですが、例えば豪華絢爛なホールで参加者が集まって話を交わす場面では、空間のリバーブ(残響)は弱めで、その分細かな音声が分離して明瞭に聞こえます。メンバーの位置や距離感が感じられ、足音、効果音なども臨場感があります。また、時折挿入されるオーケストラの音が実にクリーンで思わず声が出たほどでした。なかでも特筆すべきは会話のクリアな聞こえ方でした。いいですね。
2本目は、ドキュメンタリー「ようこそ映画音響の世界へ」(2019年)。この映画は現在、NetflixやAmazon Prime Videoをはじめとする動画サービスで配信されています。ちなみに、筆者は封切り時に映画館でも鑑賞し、今回はNetflixで視聴しました。
「ようこそ映画音響の世界へ」
(原題:Making Waves: The Art of Cinematic Sound)
[Blu-ray]
過去にデノンブログでも取り上げたことがありますので、詳細なレビューはこちらからお読みいただけます。
この映画では様々な種類の映画音響を聴くことができますが、クリアかつフラットに再生するAH-D5200は映画のリスニングにも非常に適したヘッドフォンだと思いました。戦場で飛び立つヘリコプター、その回転翼が巻き起こす猛烈な風と旋回音。密林が生い茂る川面を進む艇のモーター音と水音、群衆が抗議する声などが明瞭で、映画館で聴いたときとは別のリアルさをもって伝わってきます。
痛みを感じる音、登場人物の感情を伝える音、都市の孤独を感じさせる音、登場人物の感情を表現する音、現実には存在しない音など、これまで当たり前のように聞いていた映画の音が、実は専門家たちによって緻密に考えられ、作られていたとわかり、どの音も聞き逃したくないと思うようになります。この作品を観た後では、映画の見方が確実に変わりますし、AH-D5200を使って聴くことでこのドキュメンタリーの素晴らしさを再認識できたように思います。
【まとめ】 忠実な再現力と明瞭な音で、活用のシーンが広がるヘッドフォン
映画の他にも、深夜のスポーツ中継、モータースポーツ観戦、ゲームなどの映像の音声再生にも威力を発揮しそうですし、また忠実な再現力があるのでDTM(デスクトップでの音楽制作)やフィールドレコーディングなどのモニターヘッドフォンとしても力を発揮しそうだなと思いました。
以上、AH-D5200でいろいろな音楽と映画を試聴した感想をレポートしてみました。いかがでしたか?
最後に音の傾向などの特徴を簡単にまとめてみます。
- 明瞭、忠実な音。低音域から高音域までフラットに再生
- 音のキレがよいので、輪郭感のあるタイトでシャープな低音が特徴。とくに弦楽器の中低音がクリーンに聞こえる。一方、高音域はやや硬め(ここは個人の感想です)
- 映像では会話などが明瞭に聞こえ、音楽やサウンドエフェクトなども忠実に再現
- 持っていて嬉しくなるデザイン、高級感のあるリアルウッドの質感、快適な装着感
AH-D5200、かなり気になる1台です。
以上、ここまでの感想はすべて、筆者の個人的な見解です。ヘッドフォンは、装着感、音質の印象も個人によって異なりますので、ぜひぜひ店頭や試聴会、イベントなどで実際の商品を手にとって、その質感や音質の違い、装着感をご自身でお確かめください。
(編集部W)
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