デノンの新たなミドルグレードSACDプレーヤー「DCD-1700NE」新製品発表会レポート
デノンのミドルグレードSACDプレーヤーのベストセラーモデルDCD-1600NEを継承するニューモデル「DCD-1700NE」が登場しました。開発のきっかけや製品のポイント、そして試聴まで、新製品発表会の様子をリポートします。
SACDプレーヤー「DCD-1700NE」の製品発表会のプレゼンテーションはディーアンドエムホールディングス 国内営業本部 営業企画室 田中が行いました。以下は製品の紹介を担当した田中のプレゼンテーションです。
ディーアンドエムホールディングス 国内営業本部 営業企画室 田中(右)
※新製品発表会はディーアンドエムホールディングス本社にて人数を限定し複数回実施されました。
DCD-1600NEを引き継ぐDCD-1700NE コンセプトは「Better than Best」
田中:本日はデノンのHi-Fiコンポーネントのラインアップにおいて、ミドルグレードのSACDプレーヤーDCD-1700NEをご紹介します。現在デノンのSACDプレーヤー、CDプレーヤーとしてはDCD-SX11、110周年記念モデルのDCD-A110、昨年発売されたDCD-900NE、安定のエントリーモデルDCD-600NEをラインアップしています。そこに今回ご紹介するDCD-1700NEがミドルクラスとして加わります。
DCD-1700NE
田中:これまではデノンのミドルクラスには2016年に発売されたDCD-1600NEというSACDプレーヤーがありました。
田中:DCD-1600NEはデノンのサウンドマスターである山内が、自身の掲げるサウンドフィロソフィー“Vivid&Spacious”を表現するために、思うがままに開発したモデルで、発売された2016年当時より新しいデノンサウンドを象徴するモデルとして高く評価されてきました。2020年から2022年の販売実績は3年連続で、ミドルクラス※のSACDプレーヤーとしては1位、それもブッチギリの1位だったモデルです。
そのDCD-1600NEを継ぐことになるDCD-1700NEのコンセプトは「Better than Best」です。クラスで最高の評価を受けたSACDプレーヤーを超える最新のプレーヤーです。
※Gfkデータ(10万円から15万円HiFiカテゴリーにおいて)
CDを愛する日本の音楽ファンのために生まれたDCD-1700NE
田中:そんなミドルクラスを代表するSACDプレーヤーであるDCD-1700NEですが、ペアとなるプリメインアンプPMA-1700NEがすでに2022年5月に発売されているのに、どうして半年以上も遅れての発売となったのか、不思議ですよね。実はDCD-1600NEが生産完了になった後、その後継モデルは出さない予定だったんです。
田中:というのも、今世界で主流の音楽ソースはCDなどのパッケージメディアから、音楽ストリーミングサービスに移行しています。特に欧米ではSpotify、Amazon Music、Apple Musicなどのストリーミングが主流となり、CDショップがどんどん廃業に追い込まれています。ソースが急激に変化しつつある中、果たしてCDプレーヤーに活路はあるのか、というのが経営陣の議論の的でした。
でも日本にはまだまだCDが大好きな人が多くいます。そして音楽そのものだけではなくジャケットのデザインも含めたCDをアート作品として楽しむ文化が残っています。ですから日本側から「CDプレーヤーは絶対必要なんだ」と強く訴えました。この日本からの強い要望を受けてDCD-1700NEの開発が始まったため、PMA-1700NEの発売より半年以上遅れての発売となりました。
PMA-1700NE(左)とDCD-1700NE(右)
田中:このようにDCD-1700NEは製品企画自体が逆境の中だったわけですが、しかしこのような事態に遭遇すると、デノンのエンジニアたちは結構燃えるんです。やってやろうじゃないかと。特にサウンドマスターの山内は燃えます。ただ、開発リソースは大きく割くことができませんでしたので、ゼロから開発するのではなく、山内自身が手掛けたDCD-1600NEの回路を継承し、パーツなどを吟味することでクオリティを高めていく手法を取りました。
DCD-1600NEの回路を継承しながらパーツの厳選と徹底的な音質検討で高音質を実現
田中:回路を変えずに、あっと言わせるものを作るということになると、パーツを吟味して試聴をするというプロセスに徹底的に時間をかけながら「Vivid & Spacious」を実現する、ということになります。これはまさにデノンのサウンドフィロソフィー「Vivid & Spacious」を体現し、多くのオーディオファンから高い評価を得たフラッグシップシリーズのSX1 LIMITED EDITIONと同じ開発手法です。
実際にパーツを変更したのは、音質に関わるパーツで80点以上。さらに安定供給が難しいパーツもありましたので、音質に関係しない部品を含めるとその倍ぐらいのパーツ点数の変更を行っています。
特に昨今は国際情勢や輸送などの問題があって、パーツは性能だけでなく安定して供給されるのかどうかも選定のポイントになります。色々なパーツを交換しているわけですが、例えばオペアンプひとつ取っても、まず音質的に使えるものを探さないといけない。山内が音質検討して「これでいこう」 と決めても、供給が安定しないと分かるとまた別のものを音質検討しなければいけない。するとやっぱり使えますと返事が来たり、色々と大変でした。
たとえばこのうすいオレンジ色のパーツは、SX1 LIMITED EDITIONの際に開発して使っているものですが、これは最初、ちょっと供給が難しいという返事があったんですけど、粘り強い交渉でなんとか使うことができました。
またコンデンサーだけではなく抵抗、インダクターなども変更、あるいは新しいものを採用しました。これらは主に安定的に供給されるパーツを選ぶという観点での変更でしたが、結果的にSX1 LIMITED EDITIONグレードのパーツを多用することとなり、グレードの高い、いわゆる「高品位なパーツ」を使用した製品に仕上がりました。
ワイヤリングの最短化、ノイズ対策などビス1本にまでこだわった「シンプル&ストレート」
田中:DCD-1700NEの開発は、もちろん「パーツを変えておしまい」ではありません。最近の製品開発についてよく申し上げていることですが、全体のパフォーマンスを上げるために、ワイヤーの引き回しなど、細かい部分にまでかなり手を入れています。たとえばデジタル系ノイズ対策部品を追加したり、フィルム状のケーブルもDCD-1600NEでは割と長いものを使っていたんですが、長さを最適化したり、さらにワイヤリングやトランスの固定ネジを鉄から銅に変えるということもやっています。
DCD-1700NEの内部 ケーブル類が最短化された「ミニマム・シグナル・パス」を実現
田中:また、パーツのグレードが上がると今まで見えてこなかったものが見えてくる面があります。たとえば「これは必要ないかもしれない」というものが見えてきます。そうしたらそれを取り除く。この「引き算の美学」がデノンの基本設計思想である「シンプル&ストレート」につながってきます。
例えばドライブです。弊社のオリジナルのドライブメカがあり、いろいろな製品に使えるようにある程度汎用性が高く設計されているメカです。しかし、DCD-1700NEでは、使わない部分はすべて削ぎ落としDCD-1700NE用のメカとしてリファインしています。さらに基板もDCD-1600NEまでは、上位モデルのDCD-2500NEとオーディオ基板、電源基板が共通化されていました。そこでも使われていないパターンが一部ありましたので新たに書き直し、4層のデジタル基板、2層のアナログ基板というDCD-1700NEに最適化したものにし、信号系を最短化しました。
DCD-1700NEのドライブ部
田中:その結果、DCD-1700NEの内部は非常にシンプルになりました。DCD-1600NEと回路が変わっていないのに、筐体がPMA-1700NEと同じ奥行きで、サイズがすこし大きくなっています。それでより広い空間が取れるということで、結果的に開放感のある音が得られました。
DCD-1700NE 内部
田中:また開放感といえば、トップカバーの取り付け方法も変更になりました、以前から山内がよく採る手法なのですが、あまりガチガチに筐体を固定しすぎない。ガチガチに留めてしまうと、開放感がなくなってしまう、その結果サウンドが「スペーシャス」ではなくなるということで、ネジの本数を減らしました。DCD-1600NEは両サイドにネジを2本ずつ、トップの両サイドに2本ずつでガッチリ留めていましたが、DCD-1700NEは両サイドの2本のみでの固定となり、トップのネジがなくなっています。
DCD-1600NE(左)とDCD-1700NE(右)の天板。天板を固定するビスがサイド2本のみに変更されている
田中:ということでDCD-1600NEとDCD-1700NEはスペックこそ変わりませんが、そこに現れないところが大きく変わっています。外見でわかるのは奥行きと、重さはその分、若干重くなっています。あとは天板のネジがなくなったということです。ここからは試聴室で実際に聞き比べをしていただきます。
全帯域で音の純度が高まりダイナミックレンジも拡張したDCD-1700NE
山内:サウンドマスターの山内です。DCD-1700NEとDCD-1600NEの聞き比べをしていただきますが、本日は条件を揃えるために電源ケーブルやインターコネクトケーブルも同じものを用意しました。使用アンプはPMA-1700NEで比較試聴していただきます。
山内:(DCD-1600NEとDCD-1700NEを比較試聴して)一聴して、サウンドステージが広がったところが、おそらくおわかりいただけたかのではないでしょうか。
●特に高域がかなり伸びていると感じました。
山内:たしかに高域も変わりました。抜けというか、そういった部分も。より高域が伸びていると言うんですかね。ただよく聞くと実は高域だけでなく中低域も含めた全ての帯域で、音質が良くなった、純度が上がったと感じていただけると思います。
あと、音量を上げても聴感的なダイナミックレンジがすごく広いのでうるさく感じない、ということも言えるかと思います。例えばDCD-1700NEで音量を上げ下げして再生して、その後でDCD-1600NEを同じように音量を変えてみると、1700よりは飽和が早いと感じます。
●これはDCD-1600NEが発売された2016年から今まで5年以上のノウハウが蓄積されたということでしょうか。
山内:そうですね。やはり今までの新しい要素が盛り込めたかなと思います。ただ全体的なバランスとしてはDCD-1600NEの良さをそのまま引き継いでいるとも感じます。DCD-1600NEは実は、私がすごく気に入っていたモデルで、そこからSX1 LIMITED EDITIONを作り、さらにそのノウハウをDCD-1700NEに入れ込んだという感じです。
SX1 Limited Editionの開発コンセプトについてはデノンオフィシャルブログのエントリー「SX1 Limited Edition開発ストーリー」もぜひご覧ください。
●この6年で山内さん自身のサウンドに対する哲学の進化もあるんですか。
山内:基本は変わっていませんがサウンドそのものは進化しているのかもしれません。DCD-1600NEの開発時はサウンドマスターを引き継いでまだ2年目ぐらいだったので、理想に100パーセントというわけにはいかない部分もあったと思います。今は経験やノウハウも蓄積され、自分の思うような理想により近づけられるようになったと感じています。
●本日はありがとうございました。
(編集部I)