【無人島CD】新入社員がポジティブな発想から選んだ名盤とは?
無人島に1枚だけCDを持って行けるとしたらどれを選ぶ? 唐突に突きつけられる究極の選択。名付けて「無人島CD」。今回は新入社員のSさんにお願いしました。Sさんのセレクトは、どうせ南の島ならトロピカルに楽しもう、というポジティブな発想からの、山下達郎の名盤でした。
はじめまして。国内営業本部のSです。
私は新卒で入社してわずか2ヶ月ほどの新人です。ですが突然、無人島へ島流しにされてしまいました。これも新人教育の一環なのでしょうか。流された島は、かなり南にあるようです。とても暑く、ヤシの木が生い茂っています。そして見渡す限りのオーシャンブルー。
とても美しい場所ですが、船や飛行機が来る気配もなさそうなので、おそらく、本土への帰還は困難でしょう。どうやら住むしかなさそうです。
そこで、どうせ住むのならこの無人島を愛せるに越したことはありません。島を愛すると思ったらふいに「LOVELAND, ISLAND」という曲を思い出しました。高揚感に満ちたトロピカルなサウンドが印象的な南国っぽい曲です。島にぴったりだと思うので、この曲が収録されているこちらのCDを無人島のお供に持っていきます。
邦楽史を語る上で外せない重要人物である山下達郎の通算6枚目のスタジオアルバムです。
シュガー・ベイブというバンドを解散し、1976年にアルバム「CIRCUS TOWN」でソロデビューした山下達郎は、1980年にシングル「RIDE ON TIME」でブレイクします。同名のアルバムもオリコンで1位を獲得し、多数のツアーをこなしていきます。そのツアー通して強固なバンド・サウンドを構築し、もっとも脂の乗った状態で生み出されたのが本作になります。
また、「夏だ!海だ!タッローだ!」というキャッチフレーのもと、世間に浸透した大ヒット作であります。さらに本作は山下達郎によるリゾート・ポップの集大成であると同時に、シティポップにおける最高峰でもあり、今や世界中にこのアルバムのファンがいます。その証左として、このアルバムのアナログレコードの価格は年々高騰しており、定価の3倍〜5倍ほどの値がつくこともあります。
シティポップについては明確な定義はありませんが、強いて言うのならば、1970年代後半から1980年代にかけて日本で製作された洋楽志向の都会的で洗練されたポップスのことを指すのだと思います。
そんな「FOR YOU」は、私にとって非常に思い入れのあるアルバムです。というのも、このアルバムが私のシティポップの入り口となった作品なのです。きっかけは、YouTube上にアップされていた邦楽の名ジャケットを紹介するという動画で、偶然この「FOR YOU」のジャケットと出合ったことでした。
このアメリカの西海岸を彷彿とさせる鈴木英人氏のお洒落なイラストに惹かれ、どんな音のするアルバムなのか気になり、CDを購入しました。すぐに再生し、一曲目「SPARKLE」のイントロで鳥肌が立ちました。スタジオアルバムのイントロで鳥肌が立ったのは初めてです。それと同時に「これがずっと聴きたかった音だ!」と直感。アルバムを通しでひたすら聴き込みました。ちなみにアルバム一曲目からスキップすることなく、通しで聴いたのも本作が初めてでした。
山下達郎をきっかけにシティポップのサウンドが自分にとって“どストライク”であることを知り、以後、シティポップを代表するさまざまなアーティストを次々と掘っていくことになります。例えば竹内まりや、大滝詠一、吉田美奈子、大貫妙子、角松敏生などなど。さらにそこから派生して、はっぴいえんどやYMOなどロックやテクノのアーティストにも関心を持つようになりました。
ただ、シティポップの作品はレコードに限らず、CDもいいお値段がするので収集には現在進行形で苦労しております(笑)。
さて、話は脱線しましたが、本作の内容を見ていきましょう。
本作は半数の作詞を手掛けた吉田美奈子の都会的な言葉のセンス、「INTERLUDE」と名付けられたアカペラを挿入して統一感を持たせたアルバム構成となっております。この時点でよく練られた作品であることがよく分かります。
収録曲を見ていきましょう。一曲目から心を鷲掴みにされること間違いなしの「SPARKLE」。夏の始まりを彷彿とさせるギターのカッティング、躍動感のあるリズムセクション、華やかさを演出するブラス・アンサンブルが私たちを非日常へ誘ってくれます。
そして、本記事冒頭で触れた「LOVELAND, ISLAND」はトロピカルな雰囲気漂うリゾート感覚のシティポップです。当時はビールのCMソングで、TVから頻繁に流れていたようです。正直、シングルとしてリリースすべきでは? と思うほど完成度が高く、サウンドもボーカルも、すべて高揚感に満ちており、思わず踊りたくなっちゃいます。ちなみにこの曲の歌詞から想像できるのはゴリゴリの有人島ですが、そこはご愛嬌ということで(笑)。この歌詞の世界観を理想の島として自分が一から無人島を改造してみせたいと思います。
他には、初夏の朝のような清々しい空気感に満ちた「MUSIC BOOK」、山下達郎の奥さんである竹内まりやへの提供曲をセルフ・カバーし、シティ・ソウルっぽい仕上がりになった「MORNING GLORY」、ライトなファンクテイストの「LOVE TALKIN’(honey it’s you)」、それとは逆のヘビーなファンクテイストで、ボーカルにディレイがかけられている珍しい曲調の「HEY REPORTER!」、英語で歌う圧巻のバラードの「YOUR EYES」とどれも素晴らしく、語りつくすことのできないアルバムです。総合的にみると、夏の雰囲気、これから何かが始まる予感、高揚感に満ちた気持ちにさせる素晴らしいアルバムです。アウトドアにもってこいの作品とも言えるでしょう。
また、「FOR YOU」は2023年5月3日、41年の時を経てついにレコード・カセットで再発されました。アルバムの帯には「全世界が待っていた!!」と書かれており、多くのファンが再発を熱望していたことがわかります。また、サブスク未解禁の作品なので、より注目が集まっていると思います。こんなに全世界から熱視線を浴びているアルバムなので、もし私が流された無人島の上をヘリコプターや飛行機が通過した時、大きく手を振って助けを求めるより、このアルバムを掲げた方が救助率が格段に上がるかもしれませんね(?)。いや、救助のことなど考えません。住めば都といいますから私はこの島で戦います。
40年以上の時を経ても色褪せることのない名盤なので、ぜひ聴いてみてください。