シブヤモトマチさんのデノン「PerLシリーズ」試聴レポート ~自分の耳がパワーアップしたかのような歓び~
以前デノンの完全ワイヤレス・イヤフォン「AH-C830NCW」「AH-C630W」の試聴でデノンブログに登場いただいた音楽ライターのシブヤモトマチさんに、今回はホワイトモデルが新たに加わったTWS「Denon PerLシリーズ」を試していただきました。全自動パーソナライズ機能「Masimo AAT」を体験して、いろいろな発見があったそうです。
デノンPerLシリーズスペシャルサイト
音楽のヘビーリスナーで、音楽紹介の記事も執筆しているライターのシブヤモトマチです。デノンブログでも何度か製品の試聴レポートを書いています。今回の製品は、パーソナライズ機能「Masimo AAT」を搭載した高音質完全ワイヤレス・イヤフォン「Denon PerLシリーズ」。専用アプリを使って個々のユーザーの音の聞こえ方を測定・解析、その人の聴こえ方に合わせて補正・チューニングし、理想的な再生音を提供してくれるという優れものです。自分に合うイヤフォンを探し続けている身としては発売時から非常に気になっていた製品でした。しかも、このたびブラックに加えてさわやかなホワイトカラーの新モデルもラインアップされました。パーソナライズ機能ってどんなもの? 使うと音楽の聴こえ方はどう変わるの? そしてその可能性は? いろいろと興味津々のイヤフォンを試聴レポートします。
さわやかなホワイトカラーに期待が高まる
左:PerL 右:PerL Pro
Denon PerLシリーズのホワイトモデル。パッケージのデザインも刷新され、明るいイメージです。
両機種とも白のマットな質感のケース。天面に淡いトーンでさりげなくデノンロゴがあしらわれ、おしゃれな印象です。表面がサラッとして手触りがよく、軽快で爽やかなイメージ。ケースを手に取るだけで期待が高まります。
両モデルは一見すると似ていますが、PerL(写真:奥)の方がよりシンプルなデザイン。PerL Pro(写真:右手前)には縁の部分に円環状のデザインが施されていて、きらっと光るニュアンスが良いです。
また、充電の状態を示すライトの色も、PerLはホワイト系、PerL Proはグリーン系。ホワイトのケースに一瞬光る色がいい感じです。
PerL、PerL Proともに、ウイングアタッチメント(2サイズ)、フォームイヤーチップ(1種類)、シリコン製イヤーチップ(4サイズ)と、USB-A/USB-Cの20cmUSBケーブル、C-A変換アダプタ※が付属しています。まずは、標準サイズのイヤーチップでPerL Proを使ってみました。
※C-A変換アダプタが付属しているのはホワイトのみ(2024年6月時点)
独自のパーソナライズ機能「Masimo AAT」を初体験
「Denon Headphones」アプリをインストールしたら、リスニング・プロファイルを作成します。
最初にイヤーチップのフィッティング検査を行います。イヤフォンからの音が確実に伝わるためには、緩みなどは禁物。パーソナライズ結果の精度を上げるためにも、正しくイヤフォンが耳に収まっているかをアプリで判定してくれるこの検査がまず必要です。フィッティングテストに初チャレンジ!
耳に適正にフィットしていない場合はアプリ画面で教えてくれますので、手順に従いイヤーチップのサイズを変えるなどして再調整をします。初めはOKになりませんでしたが、ひとつ大きなサイズのイヤーチップに交換して位置を微調整したところOKが出ました。
フィッティングに関してアプリが調整手順を教えてくれます
これまでのイヤフォンでは、耳への収まりが悪い場合は自分の感覚の良し悪しに従ってイヤーチップのサイズを選んできました。しかし今回、装着感に問題はないと思っていた最初のイヤーチップも実はちゃんと合ってはいなかったわけで、個人の感覚によるフィッティングでは十分ではない場合もあるということがわかりました。
次は実際に耳音響放射を利用した計測・解析です。
初めて知る自分の聴こえ方!
耳へのフィッティングテストが完了すると、次のステップでテストトーンが流れます。ここでは、低音から高音まで、さまざまな周波数の音を再生し、鼓膜の奥の蝸牛という器官の中の有毛細胞から返ってくる音をイヤフォン内のマイクで測定し、解析することにより、その人その人の聴こえ方に合わせてアプリが自動で音をチューニングしてくれます。
詳しくはこちら
「Masimo AATの仕組み | Denon公式」(YouTube)
そして、測定の結果がアプリ画面にグラフィカルに表示されます。こちらが筆者の結果です。
「Denon Headphones」アプリの筆者のリスニング・プロファイル
この見方ですが、L(左)とR(右)二つのグレーの真円が標準的な聴こえ方を表すスタンダードレベルで、ブルーが筆者の聴こえ方を表しています。円の12時にあたるところから時計回りに低音域から高音域を示しており、それぞれの音域の聴こえ方の違い(聴こえやすい/聴こえにくい)が形で表されます。
これを見ると、筆者の場合、総じて高音域、とくに左耳は聴こえやすいですが、逆に低音域から中音域にかけては左右とも聴こえにくいことがわかります。右耳に比べ、左耳は高音と中低域の聴こえ方にずいぶん差があり、低音や中高音の特定の音域に凹んだポイントがあります。
これを見て、なるほどと思い当たることがありました。筆者はいわゆるドンシャリ系の音が苦手で、とくに高音が強調されるときついと感じることが多いのです。そして中低音が豊かなサウンドに満足感を得がちなのですが、その嗜好って、このプロファイルを見るとそのまんまじゃないですか! 聴こえやすい高音はこれ以上要らなくて、聴こえにくい中低音を求めていたということ?(衝撃のあまり、しばし無言に……)
“パーソナライズ”した瞬間、世界が豊かに広がった
この、自分の「欲していた音=不足していた音」だと実感したのが、アプリの「パーソナライズ」ボタンをタップして音楽を聴いたときでした。アプリ画面では「ニュートラル」と「パーソナライズ」を切り替えられるようになっています。パーソナライズモードにすると、その人の聴こえ方に合わせて自動的に音の補正(聴こえすぎるところはおさえて、弱いところを持ち上げるなど)をしてくれます。
アプリの「ニュートラル」「パーソラナイズ」の切り替えボタン
「ニュートラル」の音からパーソナライズモードに入ったときの音の迫力がすごくて、「え! こんなに分厚い音になるんだ!」と素直に驚きました。
このパーソナライズ機能を使ったときの驚きを、いろいろな方が
「眼鏡を初めてかけたときの感じ(わかります!)」や
「ねらったホワイトバランスが取れて、自分の白になる感じ(なるほど!)」
といった風に表現されていますが、筆者の驚きを表すとしたらこうです。
「自分の耳が急にパワーアップして、今まで聴いたことのない音をいっぱい連れてきた感じ」
この感覚、人生初体験です。
画面をタップしただけで、聴いている音に劇的な変化が起こるのですから、驚きです。
今回、サウンドチェックのために、PerL シリーズで2種類の音楽アルバムを聴いてみました。1枚はボーカルアルバム、もう1枚はECM系のジャズのライブアルバムです。
なお、PerL Proは「Qualcomm aptX Lossless™」や「aptX Adaptive™」などのコーデックにも対応しており、スマートフォンなどの再生機器の機種、また音源によってはロスレス再生やハイレゾ再生も可能です。しかし、筆者はイヤフォンを使う時は、iPhoneと音楽ストリーミング(AAC 320kbps)の組み合わせで聴くことが多いため、今回はあえて普段通りの慣れ親しんだ聴取環境でPerLシリーズのパーソナライズ機能を体験してみました。
今まで聴こえていなかった音に出合う快感
「胸の振り子」
作曲家・服部良一(1907~1993)の名曲の数々を雪村いづみが歌ったカバーアルバムの名盤(1974年)です。バックバンドはキャラメル・ママ(アルバム制作時のメンバーは、細野晴臣、鈴木茂、松任谷正隆、林立夫)。その斬新なリズムアレンジと演奏によって、「東京ブギウギ」「一杯のコーヒー」といったかつてのヒット曲を当時最新のサウンドでよみがえらせました。
名曲「胸の振り子」をパーソナライズモードで聴いてみました。それは、今まで聴いたことのない音で、まさにレコーディングスタジオでキャラメル・ママの演奏を聴いているような迫力と臨場感! 中低音に特徴のある雪村いづみのボーカルがさらに魅力的に響き、細野晴臣のファンキーなエレクトリック・ベースはボーカルのリズムをリードするかのように際立っています。スネアやタムの音もピアノ音も存在感が通常よりも3割増し(個人的な感覚です)。
一方、ギターのカッティングや管楽器。ストリングスの演奏は非常に美しく滑らかに響き、ドラムのハイハットやシンバルの音は筆者には抑えめで聴きやすく感じました。これも、パーソナライズモードの効果なのでしょう。とにかく、自分の耳の性能がパワーアップしたかのようで、新体験のサウンドが気持ちいい。快感のあまり、気づくと10回も繰り返し聴いてしまいました。
ホールの空間を感じる臨場感・再現力
アーティスト名:パレ・ミッケルボルグ、ヤコブ・ブロ、マリリン・マズール
アルバム・タイトル:Strands (Live at the Danish Radio Concert Hall)
「Oktober – Live」
続いては、パレ・ミッケルボルグ(tp, flgh)、ヤコブ・ブロ(g)、マリリン・マズール(per)という、デンマーク・ジャズの3世代を代表するミュージシャンが一堂に会したライブ録音盤「Strands」です。2023年2月に Danish Radio Concert Hallで行われた公演ですが、ホールの素晴らしい音響とともに3人の繊細な表現と熱量が調和し、ゆるやかに変化し、やがて余韻の残る静寂を生み出す、そんな奇跡の瞬間を捉えたジャズアルバムです。ECM制作ということで録音が非常に良い作品です。
例えば「Oktober」をパーソナライズモードで聴くと、パーカッション、バスドラム、フロアタムなどの低音の響き、胴鳴りがまるでライブステージの最前列で聴くようなリアルさです。筆者はこのアルバムをアナログレコードでも持っているのですが、このような響きはアンプとスピーカーを通してLPレコードを再生した時にも感じたことのなかったもので、これは新体験でした。低音も非常によく、ギターの低音弦の響きも芯のある感じでグッときます。一方、トランペットの高音の響きはまろやかで、ホールの天井の高さや奥行きまでも感じさせるものがありました。
「空間オーディオ」が臨場感を高める
この、ホールの空間サイズを感じるような響き方はPerL Proに標準搭載された「空間オーディオ」機能の効果もあるかもしれません。空間オーディオ非搭載のPerLでも基本的な音の方向性は変わらないのですが、このライブアルバムの場合は、PerL Proで空間オーディオをオンにした時の臨場感がすごいです。とりわけパーカッションや低音打楽器系の胴鳴りの迫力は特筆すべきもので、ヘッドが震えて音が伝わる瞬間を捉えるようなリアルさがありました。まさにコンサート会場の座席のベストポジションで聴いているような感覚です。
「音の色彩」さえ感じる、これは新しい音楽体験
通常使いのイヤフォンで聴いている曲をPerLシリーズのパーソナライモードで聴くと、それぞれの楽器の音の質感がさらによくわかり、音の解像度が上がります。それば、楽器ごとの「色彩」を感じるようでもあります。この感覚はPerLシリーズでお馴染みのアルバムを聴くときっとわかっていただけると思います。
以上、PerLシリーズのパーソナライズ機能でチューニングされたサウンドを体験してみました。筆者の場合は中低音の聴こえ方が若干弱いことがわかりましたが、理想的なレベルに補正してくれるので、欲しかった豊かな中低音が十分に得られ、予想以上の臨場感と多彩な音を楽しむことができました。
PerLシリーズには低音のイコライジング機能(イマージョンモード)も付いているので、パーソナライズした上で、さらに低音の増減が可能です。また、ノイズキャンセリング機能も優秀で、オンライン会議やウェビナーでも活躍しそう。ペアリングも軽快で、非常に使いやすいと感じました。
「音を聴く」といっても、一人ひとり聴こえ方は実は違う。そのことに今回のPerLシリーズの試聴で改めて気づかされました。一人ひとりが自分の好みに合ったイヤフォンを探し求めたり、イコライジングを手動で細かく調整したりするのがこれまでのやり方とすれば、聴こえ方の個性に合わせてサウンドを自動でチューニングし、一人ひとりに等しく「理想的ないい音」を提供してくれるのがPerLシリーズの新しさだと思います。ぜひ、全国の家電量販店やヘッドフォン専門店などで、あなたにパーソナライズされた「いい音」をご体験ください。きっと、欲しくなりますよ(←今の筆者です)。
左:PerL 右:PerL Pro
参考:
・PerL Proは「aptx Lossless」コーデックに対応しており、再生可能なデバイスをお持ちの方はさらに高音質でお楽しみいただけます。詳しくはこちらの飯田有抄さんのレビューが参考になります。
・PerLとPerL Proの2モデル比較、ノイズキャンセリング機能やペアリングなど使い勝手は、こちらの編集部の記事をご参考にしてください。
シブヤモトマチ プロフィール
コピーライターとして企業のプロモーション、広告制作業務に携わるかたわら、音楽や映画、展覧会など国内外のカルチャー全般に興味があり、執筆や個人的な制作活動も行っています。ジャズ、南米、ロックなど音楽は何でも聴きますが、とくに新譜に興味あり。音楽が好きな人と音楽の話をするとライフが少し回復します。ペンネームの由来は当時の通勤区間から。