エンジニア古賀健一プロデュースのDolby Atmos対応スタジオ「Ghost Note」(富山県砺波市)でデノンのAVアンプが活躍中!
デノンオフィシャルブログでもお馴染み、Official髭男dismのライブBlu-rayを始め、数多くDolby Atmos作品を手掛けるレコーディングエンジニアの古賀健一さん。その古賀さんが富山県砺波(となみ)市のリハーサルスタジオ「Ghost Note」内にDolby Atmosシステムを構築。そのスタジオにはデノンのAVアンプAVC-X6700Hが導入されました。デノンオフィシャルブログでは砺波のGhost Noteを訪問。現地を訪れていた古賀さんにスタジオの概要や開設の趣旨などについてお話をうかがいました。
砺波にDolby Atmos対応スタジオ「Ghost Note」が誕生した理由
古賀健一さん(左)と音響調整の手伝いに東京から来ていたレコーディングエンジニアの長谷川巧さん(右)
●古賀さん、お久しぶりです。今回は富山県砺波市の「Ghost Note」をDolby Atmos対応スタジオに改装された言うことで、東京から砺波まで取材に来てしまいました。
古賀:お久しぶりです。デノンオフィシャルブログの取材、お待ちしていました!
●よろしくお願いします。そもそも、どうして砺波にDolby Atmosのスタジオを作ったのですか。
古賀: 実は、富山にプライベートで来た際、偶然立ち寄ったお店でこのスタジオのオーナーに出会ったのがきっかけです。当時自分で作っていたDolby Atmos対応のレコーディングスタジオ「Xylomania Studio」の話をしていたところ、オーナーも音楽に造詣があり、ご本人が電気工事士でもあったので「興味あります!」みたいな話になり意気投合したんです。それで、もうひとりの同士を含めて3人でお金を出し合ってDolby Atmosが再生できるシステムをまず砺波の「Ghost Note」に、そして、去年2号店として富山市にある「GHOST COTE」にも入れました。
古賀:最近まで富山にはDolby Atmosが体験できる映画館がなかったんです。それで「今、音楽では立体音響の流れが来てるんですよ」って話していたら「富山でも立体音響を聴けるチャンスがあったら、みんなの意識も変わるかな」ということになって、地域活性や話題をつくるためにやっていたところもあります。「大人の悪ふざけ」って僕らは言ってるんですけど(笑)
その後に近所にDolby Atmosを全スクリーンで採用した「イオンシネマとなみ(2023年7月開業)」がオープンしたんですけど、富山初はこのGhost Noteでした。
●「大人の悪ふざけ」っていいですね。
古賀:当初は東京の会社も巻き込んでやろうとしたんですが、いろいろきちんと手順を踏んでやる流れになるんですよね。これだと準備期間を入れると完成が1、2年先ぐらいになっちゃう。でも僕たちは、とにかくスピード感が大事だと思ったんですよ。やってみないとわからないし、「まず聴くことが大事」というのがあった。だってその当時はDolby Atmosの認知度が全然なかったですから。まずはDolby Atmosという言葉がついたスタジオを作ることで話題を作ることを優先して、3人だけでできることを考えました。そのときに、すでにオーナーが持っていた砺波のリハーサルスタジオがあるよねってことに気づいて、下見をしたら、これはいける!!と。それでデノンのAVアンプとJBLのスピーカーを取りつけることで、既存の稼動しているスタジオにDolby Atmosの再生機能を持たせたわけです。それがここ砺波のGhost Noteです。
Dolby Atmosの6.1.4chで再生するために
デノンのAVアンプAVC-X6700Hを導入
●Dolby Atmosに対応した砺波の「Ghost Note」について教えてください。ここはどんなスタジオですか。
古賀:もともとのスタートは既存のリハーサルスタジオです。このリハーサルスタジオの中に、Dolby Atmosの6.1.4chが聴けるスピーカーと4Kプロジェクター、再生機器を入れました。
スタジオの予約を入れてもらえばバンドの練習をしてもいいし、Blu-rayを持ち込んでDolby Atmosのソフトを見てもらってもいいです。著作権問題が出てくるので、動画配信サービスは自分のアカウントでログインしてもらう必要がありますが、お好きなコンテンツを自由に視聴してもらえます。
●音響的なシステム構成をおしえてください。
古賀:AVアンプはデノンのAVC-X6700Hです。スピーカー構成は6.1.4chです。スピーカーは業務音響用のもので、水平方向に6基、センタースピーカーは部屋の関係で今は入れてません。ガラスなんで割れてしまうんです。今日ちょっと試してみてスクリーンの下ギリギリにセンターを置いてもいいかなとは思いました。そしてサブウーファーを1基、さらにシーリングに4基スピーカーを埋め込んでいます。
AVC-X6700H
●Ghost Noteで実際にAVC-X6700Hを鳴らしてみて感想はいかがですか。
古賀:僕のXylomania Studioはレコーディングスタジオなので試聴環境が違いすぎて、そことの比較はできなんですが、ここの鳴り方はめっちゃ映画館っぽくていいですよ。通常はリハーサルスタジオとして稼動しているので、お客さんが頭をぶつけないようにリア、サイドも、LRも高いところにセットされています。その結果、サウンドがけっこう映画館っぽいです。Dolby Atmosの視聴空間としてはかなり楽しいです。
●他の方からはどんな反応がありましたか。
古賀:オーナーは実はここができるまでDolby Atmosを聴いたことがなかったので、初めて聴いたときは本当に驚いてましたね(笑)。「聞いたことがない、すごい!」って。その時、印象的だった言葉があるんですが、「うるさくない」って言ったんですよ。大きい音だけど会話ができるって。これ、結構僕の中で嬉しいワードでした。
たとえば音の良い海外のクラブって、大音量だけど会話できるっていう体験があって、それって音響的にも素晴らしいということなんです。AVC-X6700Hは内蔵の調整機能で調整しただけで、このクオリティが出るのはすごいです。
古賀:考えてみると、僕も、今日手伝いに来てくれているレコーディングエンジニアの長谷川さんもデノンのAVアンプを使ってるんだけど、スタジオだからプリアウトモードで使ってるんです。だからここで初めて通常のスピーカー出力を聴いたかもしれない。この1台で音量、解像度も含めてこれだけのクオリティの音が出せるのは、AVアンプとして素晴らしいです。
以前のデノンブログでサウンドマスターの山内さんとの対談のときにも言ったんですけど、本当にミックスする人の技量が全部試されるというか、全部見透かされてる感じ。
一歩間違えると、Dolby Atmos映画館の隅の席より、GhostNoteの方が音いいですよ。そう思っちゃうぐらい。体験した方で、こっちの方がいいっていう人、本当にいるんですよ。
地方からイマーシブの波を起こしたい
●「Ghost Note」では立体音響イベントを定期的に開催しているそうですが、これまではどんなイベントをしたのですか。
古賀:Ghost Noteのこけら落しが2022年の12月、Official髭男dismのツアーがちょうど富山市のオーバード・ホールであって、そのタイミングで、ゲストに善岡慧一くんというOfficial髭男dismサポートピアニストを呼んでトークショーとAtmos体験会をしました。
彼とは、Shigeru KAWAIのフルコーンサートピアノで、定期的にAtmos作品を録音しているんです。
https://linkco.re/NRHrN1TN?lang=ja
それからは2ヶ月に1回程度のペースで、Dolby Atmosのソフトや楽曲に関わったアーティストを呼んで、トークショーとミニライブをして、そのトークショーの間に一緒に空間オーディオを実際にスピーカーから聴いてみようというイベントをやっています。
2024年はすでに1回やっていて、次は2024年7月14日にBack on live Fes2024~能登半島地震復興支援~があるんですけど、富山駅前の美味しいお酒が飲める「美富味」という場所でDolby Atmosを聴ける空間を作ってFesに合わせて立体音響イベントを開催する予定です。
https://www.fmtoyama.co.jp/sp/info/program_details_4642.html
●古賀さんは、なぜイマーシブを富山から発信しようと思ったのですか。
古賀:実はたまたまです。でも、富山って本当に美しい場所なんです。食べ物も美味しいし、お酒も素晴らしい。それに、富山には高い芸術性を感じるんですよね。建物やお土産のデザインがかわいかったり、かっこよかったりして、隈研吾さんや安藤忠雄さんの建築物もたくさんありますよね。それと富山の人々はフットワークが軽い方が多いです。まだ「(Dolby)Atmos」という言葉が広まっていない頃から、僕が「Atmos」と言い出したら、多くの方が共感してくれました。富山にお住まいのエンジニアで作曲家のNAMBOさんも自宅にDolby Atmosの制作環境を整えて、地元のバンドマンたちもたくさん砺波に連れてきてくれて、ここ富山から新しい音楽の波を起こしています。
●立体音響のイベントをやると、新しいことに興味がある方は集まってくるのですか。
古賀:はい、富山の人って感度が高いんです。イベントには20人ちょっとの参加者と関係者を合わせて、25〜30人くらいが集まりますが、最近ではソールドアウトになります。参加者は富山の常連の方だけでなく、名古屋や飛騨高山、大阪や東京から来てくれることも多いです。みんな日本酒とセットで、この間は僕の東京の行きつけの店の大将と女将が店を休んでまで常連さんと来てくれました。音楽を聴いて、食事を楽しんで、観光をして、という感じです。砺波は金沢からも来やすいので、今後は金沢方面にもリーチしたいと思っています。
●なぜ東京ではなく、地方に力を入れているのですか。
古賀:地方からイマーシブの波を起こしたいんですよね。僕は地元が福岡県の久留米なんですが、ライブハウスもないような土地柄でした。そこで先輩たちがリハーサルスタジオを改装してライブができる環境を作ってくれて、全国からいろんなバンドを呼んでくれました。そこで多くのライブを見て、僕は音楽の道を志したんです。だから地方の音楽文化が途絶えると、次の世代の音楽家が育たなくなるのではないかという危機感を感じています。そういった背景とDolby Atmosの技術がリンクしました。タイミングが良かったんです。
●Dolby Atmosはこれから新しい潮流になるのでしょうか。
古賀:なると思います。というか日本以外ではもうそうなっています。ですから僕は地方から東京にプレッシャーを与えたいという気持ちで、地方でAtmosを普及させる活動をしています。富山はその一例ですが、さらに岡山、津山、名古屋、福山、和歌山、鹿児島などでも地元の方々と一緒にDolby Atmosの環境を整えています。地方のインディーズバンドがイマーシブ音楽を手軽に制作できるようにし、その後、東京に進出してメジャー契約するとなったとき、「地方では当たり前にできていたのに、なぜ東京ではできないの?」という流れを作りたいと思っています。このようなムーブメントがメジャーなレコード会社への密かなプレッシャーになればと思っています(笑)それになにより、若いうちの素晴らしい音響体験をしてほしい。
●東京の音楽制作環境では、Dolby Atmosや立体音響の普及はまだまだですか。
古賀:外資系企業は対応せざるを得ないと思いますが、日本のレコード会社はまだまだに感じます。たぶんスタッフも聞いたことがないから、わからないんだと思います。第一にDolby Atmosの音源を聴いた経験がないアーティストもまだまだ多いですし、制作の予算の問題もあります。僕がDolby Atmosのミックスを提案しても「どうせヘッドホンで聴くんでしょ」と言われることも多いです。また「誰も聴けないよね。どこで聴くの」という反対意見もあります。そのときに「僕はここにも、あそこにも制作環境を作りましたよ」と話すと「そこまでやりたいんだ」と驚かれます。僕はインプットからアウトプットまでしっかり考えて立体音響が次に来ると信じて進めています。
コンポーザーのNamboさん(後列左) back on live2024主催のFMとやまディレクターの角井満明さん(後列右)も取材にご協力いただきました
古賀 健一(こが・けんいち) プロフィール
1983年12月7日生 福岡県出身。東京スクールオブミュージック葛西校時代から、フリーのエンジニアとして活動。青葉台スタジオを経てフリーランスとなり、2019年 Xylomania Stuio LLCを設立。
2020年Dolby Atmos &360 Reality Audioの空間オーディオスタジオに改修。Ado・ASIAN KUNG-FU GENERATION・ichikoro・Official髭男dism・くるり・KentaDedachi・吉井和哉 etc 、映画「ソラニン」「青くて痛くて脆い」「月の満ち欠け」etc、ミュージカル「モーツァルト」「エリザベート」。バンドだけでなく、和楽器、Jazz、クラシックなどオールジャンルをこなす。また、新人バンドのサウンドプロデュース、ディレクション、ライブPA、マスタリングまで手がけ、 ミュージシャンのブッキング、レコーディングのトータルコーディネイト、建築音響の知識を活かしスタジオ造りやホームシアターのコンサルティングも多数行う。 2024年2月にインディーズアーティストも手軽に立体音響作品をリリースできる様に、レーベルを立ち上げた。
長谷川 巧(はせがわ・たくみ) プロフィール
千葉県出身。東放学園音響専門学校卒業後、2003年に株式会社サウンドインスタジオに入社。
2011年フリーランスになる。2023年、千葉県に「Studio Arte/スタジオアルテ」をオープン。現在は9.1.6chまで対応している。大河ドラマ「青天を衝け」、第96回アカデミー賞を受賞した「ゴジラ-1.0」など、ドラマや映画の音楽を中心にステレオからDolby AtmosのMixを手がける。