クラシック音楽ファシリテーター飯田さんがデノンの新しいサウンドバーDHT-S218を聴く
ベストセラーモデルDHT-S217からさらに進化したデノンの新たなサウンドバーDHT-S218。 このサウンドバーの実力を、クラシック音楽ファシリテーター飯田有抄さんがレビュー。先日デノンの試聴室で最上級の空間オーディオを体験した飯田さんは、このエントリーモデルのサウンドバーをどう評価したでしょうか。
クラシック音楽ファシリテーターの飯田有抄です。「サウンドバー」という機材の存在はなんとなく知ってはいたものの、実際に使用したのは初めてです。薄型テレビに付属のスピーカーの音では物足りない場合、映画などを見る時に補強する機材かな、といった程度のイメージしかありませんでした。
そんな私のイメージは、DHT-S218というデノンの新製品を試させてもらったことで、一気に覆されてしまいました。映像の音声が豊かになるばかりでなく、音楽鑑賞にもしっかり活躍してくれる、オーディオ機器としての力も持っているのです!
本体は程よい重さ。セッティングはあっけないほど簡単でした。テレビの前に置き、電源ケーブルを接続したら、あとは本機をHDMIケーブルでテレビと接続するだけ。テレビをスイッチオンしたら即、音が出ました。ラクすぎる!
ひとまず、普通にテレビから流れてきたCMの音声がかなり鮮やかでびっくり。これはちゃんとソースを選んで聴きたいなと、急いでコンテンツ選びにかかりました。リモコンには「MOVIE」のほかに「PURE」や「MUSIC」と書かれたサウンドモード切替のボタンがあり、直感的に扱えます。
「PURE」モードは、バーチャルサラウンドやアップミックスなどの処理をしない原音に忠実な高音質の再生、「MUSIC」モードは音楽鑑賞に適した音場の広がりを得られる設定。ならば!ということで、クラシック音楽の映像コンテンツを再生してみます。
音楽映像ストリーミングサービスの「ステージプラス」にアクセスし、ピアノとオーケストラによる演奏を選びました。シューマンのピアノ協奏曲です(ダニール・トリフォノフのピアノ、リントゥ指揮、グルベンキアン管弦楽団)。
「PURE」モードでの再生はオーディオとしての音質の良さを感じました。低音弦の伸びがあり、クラリネットなど木管楽器の高音の旋律も気持ちよく、ピアノとオーケストラとのバランスも心地よい。ピアノのタッチのクリアな情報は、かなり生々しく伝わります。十分楽しい! と思ったのですが、ここで「MUSIC」モードに切り替えてみます。ブワッ!! とオーケストラのサウンドステージが左右に拡大しました。ものすごいリアリティ。あきらかに目の前のサウンドバーのサイズに合わない音(笑)。ここから鳴っているなんて信じられない……。左右に広がると、やや低音が寂しくなったような気がしたので、「BASS」ボタンで低音を足してみます。うん、「PURE」モードで感じたような低音の豊かさが戻りました。ちょっとドキドキするような迫力になってしまったので、ボリュームを下げてみましたが、音はやせたりしませんね。こんなふうに、心地よくなるように自分で調整しながら楽しめるなんて、幸せ。
(参考URL)
https://www.stage-plus.com/video/vod_concert_APNM8GRFDPHMASJKBSP3ID0?utm_source=share
次は少し編成を小さくして、ピアノとヴァイオリンとチェロの三重奏を聴いてみます。音声コンテンツで情報量の多い録音を試してみましょう。テレビのアプリで「Amazon Music」を選び、「ULTRA HD」の表示がある音源を再生します。テレビをストリーマーとして扱う形ですね。私の環境では48kHz/16bitでの再生となりました。先日私が生演奏を聴いて感動したばかりの「トリオ・オウオン(Trio Owon)」によるチャイコフスキー作曲のピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の思い出に」です。
「PURE」モードでは、トリオらしいまとまりのある響きで、成熟した大人の演奏に浸ることができました。「MUSIC」モードにしてみると、思いがけずライブ感がでました! サウンドステージが広がることで、距離の近い三人の奏者から出される音が、音楽ホール全体に広がり反響しているように響き、つい先日のコンサート体験を思い出したくらいです。いやぁ、これは面白い!
「MUSIC」モードでのライブ的な音響効果は、ピアノ独奏の録音にも感じられました。ジャン=マルク・ルイサダの弾くブラームスの「主題と変奏 ニ短調」を聴きますと、「PURE」モードでは音がグッと中央に集中するので、目の前のピアノで弾いてもらっている感じ、「MUSIC」モードでは音楽ホールで聴いているような感覚です。
なお、このDHT-S218の便利なところは、Bluetoothスピーカーとしても使えるところ。私の手持ちiPhoneとペアリングし、同じトリオ・オウオンのアルバムをApple Musicから飛ばして聴くことができました。テレビから有線接続している場合と比較すると、やはり音質的にはやや軽さを感じますが、BGMとしてサクッと聴きたい、スマホから手軽に選択して聴きたい場合には十分です。コンパクトなBluetoothスピーカーよりはサウンドステージが有利なので、観賞用にも良いと思います。
さて、せっかくのサウンドバー初体験、映画を見ずにはおれません。Prime Videoで配信中の「ゴジラ−1.0」を観ました。ここでの設定は「MOVIE」モードです。冒頭の飛行機の音からいきなり立体感や広がり、つまり臨場感がすごくて、やはり目の前の「バー」から聞こえているのが、やっぱり信じられません。「PURE」や「MUSIC」モードにもしてみましたが、「MOVIE」モードの大きな違いは、低域がとても強調されること。地響きがきました! それでいて、役者のセリフなどは聴きやすいままですし、不自然な押し出しは感じられないのが素晴らしい。もし「味付け」感があるとしたら、まさに映画館的なサウンドとでもいいましょうか。戦闘シーンも、ゴジラの雄叫びも、恐ろしすぎて、観終わったあとは、映画館から出る時の、あの特有のグッタリ感がありました(笑)。エンドタイトルの最後に鳴り響くゴジラの雄叫びが、それはそれはド迫力ですよ!
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0CVTQ6YKV/ref=atv_dp_share_cu_r
こんな体験ができるのに、コンパクトで設置も楽で、そしてなんというリーズナブルな価格! よいのでしょうか。日常的に大活躍することは間違いなしですね。
(おわり)
飯田有抄 プロフィール
東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Macquarie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。音楽専門雑誌、書籍、CD、コンサートプログラム、ウェブマガジンなどの執筆・翻訳のほか、音楽イベントでの司会、演奏、プレトーク、セミナー講師の仕事に従事。NHKのTV番組「ららら♪クラシック」やNHK-FM「あなたの知らない作曲家たち」に出演。書籍に「ブルクミュラー25の不思議〜なぜこんなにも愛されるのか」(共著、音楽之友社)、「ようこそ!トイピアノの世界へ〜世界のトイピアノ入門ガイドブック」(カワイ出版)等がある。公益財団法人福田靖子賞基金理事。