オーディオ文化を培う「北陸オーディオショウ」を主催する富山市のオーディオショップ「クリアーサウンドイマイ」訪問
クリアーサウンドイマイは、北陸地域で約100年前よりオーディオ文化の創造・啓発・啓蒙に貢献されてきた老舗のオーディオショップです。デノンオフィシャルブログでは、社長の今井芳範さんにインタビュー。富山県でどのようにオーディオ文化を育まれてこられたか、創業当時のエピソードから自ら主催する「北陸オーディオショウ」への思いなどを語っていただきました。
創業は1926年、約1世紀にわたり北陸のオーディオを支える「クリアーサウンドイマイ」
●本日は北陸のオーディオシーンをリードする富山のオーディオショップ「クリアーサウンドイマイ(CLEAR SOUND IMAI)」にうかがいました。社長の今井芳範さんに、北陸地方でどのようにオーディオ文化を育まれてこられたか、創業当時の思い出も交えて語っていただきます。まず、クリアーサウンドイマイについて、創業の経緯や歴史を教えてください。
今井社長:始まりは大正の終わり、昭和元年の1926年になります。私の伯父と父が、富山県城端町に創立したのが「今井兄弟商会」でした。当時店舗で使用していたレコード袋を見ると、運動具、電気器具に続き、高級ラジオと部品、蓄音機レコードと記されており、今の事業であるオーディオ専門店の起源とも言えます。
その後1962年に、父がラジオの組み立てパーツを扱う「今井ラジオ店」を創設し、1973年に私がそのオーディオ部として開設したのが「クリアーサウンドイマイ」です。その後、1980年に、(オーディオ部の)独立店舗として「クリアーサウンドイマイ城端(じょうはな)店」をオープンしました。
●あと2年で創業100周年ですか。デノンが創業110周年ですからほとんど同時期から音・音楽に関わってきたんですね。
今井社長:そうなりますね。当時ラジオは組み立てて製造するもので、スピーカーも自社で手作りしていました。和紙でコーンを作って、ボイスコイルを手巻きして、ラッカーで固めるところまでやっていました。手作りできなかったのは抵抗器とコンデンサーでしたが、後に父が仲間と一緒に「日本抵抗器製作所」を立ち上げて抵抗器も自社で作るようになりました。
●オーディオ専門店を立ち上げた今井社長は、当時からオーディオがお好きだったのですか。
今井社長:実は家電やラジオパーツを扱う家業の雰囲気があまり好きではなく、そこから逃げたかったのが本音です(笑)。
クリアーサウンドとは明瞭な「クリアー」、何かを越える「クリアー」、そして音響界のレジェンド厨川先生の「クリヤ」
●今井社長がその後、専門の店舗を立ち上げるくらいオーディオに興味を持ったのはどうしてですか。
今井社長:中学時代にラジオをよく聴いていたんです。またビートルズが出てくる前で、イギリスのクリフ・リチャードをなんとなく聴いているうちに、その曲を繰り返し聴きたくなって、録音に興味を持つようになりました。それで家にあったオープンリールのテープレコーダーで録音をして繰り返し聴くようになり、そのうちにラジオで直接聴く音よりも、テープに録音した音の方が好きになりました。どこがどういいかはわからないけど、風合いって言うんでしょうか。気持ちいい音だなと感じるようになったんです。そのあたりから録音機器やテープ、テープヘッドによる音の違いに興味を持ち始めました。
●そして1980年に今の「クリアーサウンドイマイ」の原点ともなるオーディオ専門の城端店をオープンされたのですね。
今井社長:はい。当時、城端の人口は1万2000人くらいでした。「オーディオ店は周辺人口が10万人くらいないと成り立たない」と言われていたんですけれど、どうしてもやりたかった。それでうちの土地で周りに田んぼしかない所があったので、そこに店舗を建てることにしました。店舗にコストはかけられませんでしたので、仲間数人でつるはしを持ってDIYで基礎工事をし、お客さんで建築業の方がいたので別の工事で余った生コンを分けてもらって駐車場を作り、お店のラックなんかの溶接も自分でやりました。そして、やっと開店という日にはダウンしてしまいました(笑)。
●ご自分の店舗をオープンするにあたって、こんなお店にしたいというイメージはあったのですか。
今井社長:明るい店舗にしたいというイメージはありました。学生時代は東京に住んでいたんですが、昔のオーディオ店ってジャズ喫茶みたいに暗くてアングラっぽい雰囲気があったんですよ。僕はそれが苦手で、その反対のとにかく明るい店を作りたかったんです。
●このお店も明るいですよね。ところで店名の「クリアーサウンドイマイ」のクリアーサウンドとは、どんな意味なんですか?「ピュアな原音」ということなんですか。
今井社長:それも1つあります。「そのままの音でいいんじゃない?」という思いはありました。また何かを超えてやろう、という「クリアーする」という意味もあります。
実は店名については、決定的なきっかけがあるんです。まだ(本店の)オーディオ部だった頃、某大手メーカーのオーディオスクールに研修で、その講師だった音響界のレジェンド厨川守(くりやがわまもる)先生の音に対する考え方に共感したことです。厨川先生の「クリヤ」と、何かをクリアーして今までのオーディオとは違うことをしたいという気持ちが、「クリアーサウンド」に込められています。
要望をうかがい、納得してから買っていただく「ビフォア・サービス」
●お店の外観やイメージ以外に日頃心がけていらっしゃることはありますか。
今井社長:特別なことはしていませんが、製品を説明する際などはなるべくオーディオ用語は使わないようにしています。
オーディオって、難しい専門用語を並べて「これはこういうもんだよ」って言ってしまうというイメージがあります。でもそこで壁を作っちゃいけないんじゃないのかなって思うんです。簡単なことを難しく言う必要はないし、難しいことがあれば、それをわかりやすく伝えるのが我々プロだと思っています。
●1987年に富山(市)に店舗をオープンして、それが地元の方にオーディオの魅力を伝えることにもつながっていくのですね。
今井社長:富山(市)で店をオープンした当初、オーディオマニアっぽい人がオーディオ用語を並べて昔の商品をやたら褒めながら、新しい商品のことをよく言わない人が多かった。昔のオーディオを引きずっている感じがして「あれ? 富山のオーディオってあんまり活性化されていないんじゃないかな、これはまずいぞ」と思いましたね。好みの世界ですから、古い時代を懐かしむのは自由なんですけど、新しいものも聴いてもらわないと正当な評価はできません。昔の音にこだわりを持ち続ける方にも、「技術者が頑張ったおかげで、今音はここまで進化している。聴いてみませんか」と言いたいんです。
クリアーサウンドイマイの試聴室
●今井社長は「ビフォア・サービス」に力を入れていると聞きました。それはどういうことですか。
今井社長:何かを売った後に不具合があった場合の対応が「アフター・サービス」ですが、私が考える「ビフォア・サービス」は、漢方で言うところの「未病(病気になる前に対処する)」に近い考え方です。つまり、機器を買う前にお客様とよくお話をし、お客様のイメージするオーディオを理解することが重要だと考えています。
たとえば日本のオーディオで遅れていると感じるのは部屋に対する認識です。例えばお客様が「重低音が欲しい」と言われても、小さな池にはクジラが入らないように、波長の長いもの(重低音)は小さい部屋には入りません。たとえ重低音に向いたオーディオを買っても「その部屋では(十分な性能を発揮することが)無理です」ってことがあります。
本当はそういうところからスタートしないといけない。今までのオーディオ店ってそういうことを言うお店は少なかったんですよね。こちらが買ってほしいものが売れればいいのではなくて、「最初にお客様の要望を聞いて、買う前に納得していただく」、それが私が考えるビフォア・サービスです。
地域にしっかりと根づいたオーディオ文化を育むために毎年「北陸オーディオショウ」を開催
●クリアーサウンドイマイが主催する「北陸オーディオショウ」は、どういった経緯で始まったものなのでしょうか。
今井社長:オーディオ業界は衰退が叫ばれていますが、そんな中で北陸地方のオーディオ文化を培っていきたいという思いで「北陸オーディオショウ」を始めました。各オーディオメーカーのプロの方が30数社集まり、オーディオの本当に楽しいところを伝えていただく。それを続けることが可能であれば、オーディオショップやお客様が減り続けるというのを、防ぐことができるのではないかと考えています。2016年から開始し、コロナ禍も挟んでまだ7回の開催ですが、これを富山のオーディオ文化と呼ぶには、10回や20回の開催では話になりません。100年、200年続いてこその文化です。今はその黎明期だと思っています。まず、単なる安売りのイベントにしたくはなかったので、物を売ることはありません。純粋に商品の魅力を伝えるイベントです。
●確かにそうですね。全国津々浦々でオーディオ専門店主催のイベントが開催されていますが、物販を伴わないイベントはあまり多くないと思います。そこにはオーディオ文化を衰退させたくないという強い思いがあるのでしょうか。
今井社長:そうです。今のオーディオ専門店は、ちょっとキツい言い方ですが、ほとんどがパパママストアで、今の代で終わっても仕方がないというお店が多いと感じます。それでは文化は絶対に作れない。「昔あんな店があったね」で終わってしまいます。それはやっぱり寂しい。弊社はようやく3代目ですが、4代5代と続いていけば、ひょっとしたらしっかりしたオーディオ文化を培えるかもしれないと期待しています。物販無しのイベントは確かにお金がかかるので、メーカーさんの協力を得ても毎回赤字ですが「北陸オーディオショウ」でオーディオ文化が根付けば回収できると、楽観的に考えています(笑)。
●本日はご多忙中、ありがとうございました。
クリアーサウンドイマイ 公式ウェブサイト
http://www.clearsoundimai.com/index.html
(編集部I)