東京国際オーディオショー2024「Special Talk デノンAVC-A1H meets HiVi / 麻倉怜士氏×辻 潔氏(季刊「HiVi」編集長)」レポート
2024年7月26日〜28日に東京国際フォーラムで開催されたHi-Fiオーディオの祭典「2024東京インターナショナルオーディオショウ」のデノンブースで、初の試みとなる特別講演「Special Talk デノンAVC-A1H meets HiVi / 麻倉怜士氏×辻 潔氏(季刊「HiVi」編集長)」が開催されました。今回はその様子をレポートします。
特別講演に先立ち、会場のオーディオ機器のセットアップの説明を田中(国内営業本部 営業企画室)が行いました。本講演ではAVC-A1HをAVセンターとし、再生系はBowers & Wilkinsの802 D4を中心とした7.3.6CHのサラウンドシステムが用意されました。
それでは「Special Talk デノンAVC-A1H meets HiVi / 麻倉怜士氏×辻 潔氏(季刊「HiVi」編集長)」の様子をお楽しみください。
オーディオビジュアルを核とした雑誌「HiVi」がAVC-A1Hを語る特別な機会(HiVi辻編集長)
辻 潔氏(季刊「HiVi」編集長)
辻:本日は多くの方にお集まりいただきありがとうございます。今日はデノンのAVアンプのフラッグシップモデルであるAVC-A1Hについて、HiVi編集長の私とオーディオ評論家の麻倉怜士先生で語らせていただきます。
まず最初に申し上げたいことがあります。オーディオ雑誌であるHiViが特定の製品について語ることは本来はNGなんです。ただ今回は、AVC-A1HがHiViグランプリの最高賞を受賞したこともあり、そのことについて語りたいということが一つ。それと我々HiVi編集部には様々な製品を評価するための試聴室がありますが、そこのリファレンスとして歴代のデノンのAVセンターを使い続けていることもありこの講演をお引き受けしました。
今日は私が編集部を代表してお話しさせていただきますが、この雑誌はオーディオビジュアルの評論家の方々に協力いただいて作っています。その代表として、HiViグランプリの選考委員長も務めていただいている麻倉怜士先生にもお手伝いいただいています。
AVC-A1Hの2ch再生でCDを聴くと、これがAVアンプ? HDMI接続?とこれまでの思い込みは払拭される(麻倉)
オーディオ評論家 麻倉怜士氏
麻倉:麻倉です。前置きが長いのは嫌われますから(笑)まずは音を聴いていただきましょう。
考えてみると、私たちの音楽生活、メディア生活って、2chでステレオを聴いたり、テレビを見たり、映画を見たりと多様ですよね。それなのにこれまでは、2ch用のピュアオーディオがあり、それとは別にAVアンプがありと、映像と2chはそれぞれ専用のアンプを使うのが一般的でした。なぜならAVアンプの2chがあまり良くなかったから。実際昔はそうするしかなかった、でもA1Hが登場して、2chの音楽も、マルチチャンネルも、映像付きのマルチチャンネルも、2chも、全て1台でこなせるようになりました。それくらいオーディオ性能が格段に向上しています。
しかもAVC-A1Hに関して私が言いたいのは、単に音がすごいだけじゃなくて、AVC-A1Hはコンテンツが持っている心や魂、コンセプトやメッセージを明確に聴かせてくれる力を持っているということです。これをお伝えするのが本日のテーマです。
では、最初に2chの音を聴いてみましょう。ZR1でCDを再生します。UAコードの第1弾CDの「CHEEK TO CHEEK」、情家みえさんの曲です。HDMIで接続した2chで再生します。
麻倉:いかがですか。素晴らしいですよね。今聞いていただいた音がAVC-A1Hの2ch です。15chの中のたった2chだけを使っています。それでこの音です。これまでAVアンプで2ch再生?とかHDMIで接続?と思うことも多かったと思います。でも実際にこうやってAVC-A1Hの音を聴いてみると、もうそんな時代は終わっています。AVアンプは2ch再生にはよくないとか、HDMI接続は良くないということは、単なる思い込みになっていくんじゃないかと思います。
Apple Musicの空間オーディオをAVC-A1Hを使ってスピーカーするのも楽しい(麻倉)
辻:では次にDolby Atmosを使った音楽再生を聴いていただきたいと思います。最近、これがとても面白いんです。そのためにはApple TV 4Kという小さな端末を使います。Apple TV はNetflixやAmazon Prime Video、Disney+、Apple TVなどの動画コンテンツが再生できる端末ですが、Apple Musicの再生も行えます。Apple Musicには空間オーディオと書かれている音楽コンテンツがあります。これらはDolby Atmosで、アップル側では主にイヤフォンやヘッドフォンで聴くことを想定しているようですが、Apple TVを使えばAVセンターでリアルな立体空間で聴くことができます。その音がなかなか素晴らしいのでぜひ聴いていただきたいと思います。
今日は宇多田ヒカルさんの今年のベストアルバムから2021年に出た「One Last Kiss」という曲のDolby Atmos Mixを再生したいと思います。このアルバムには30曲以上が収録されていますが、全ての曲がDolby Atmosでミックスされています。この曲だけでなくどれも素晴らしいミックスです。ちなみにミックスを担当したのは、Goh HotodaさんというDolby Atmosのミックスを深く研究されているエンジニアの方です。ではお楽しみください。
2023年HiViグランプリを満場一致で獲得したAVC-A1H
麻倉:さて、ここでちょっとHiViグランプリについて少し話しましょう。HiViグランプリは毎年10月末から11月初めに選考会を行っています。私が委員長を務めていますが、評論家と編集部合わせて7票で決めています。この7票という数が絶妙で、選者の個性がすごく出るんです(笑)。
選考方法ですが、まずゴールドを決めそれを除外してシルバーを決める流れです。ですから最初のゴールド選びが一番重要です。通常は1人1機種、これがたいていバラバラな感じで候補が挙がるんです。そして1位と2位で決選投票をしますが、それぞれの応援演説があって紛糾する(笑)。これが普通です。しかし、去年の審査会はなんと全員が一発でAVC-A1Hをゴールドに選びました。みんな驚きましたよ。普通は意見が分かれるものなんです。これは間違いなく、去年のオーディオビジュアルシーンを代表する製品だということで、満場一致でHiViグランプリを授与しました。
辻:付け加えると、私たちHiViはオーディオビジュアルの専門誌なので、通常はプロジェクターや大型ディスプレイなど映像製品が最高賞を取ることが多いんです。オーディオ製品としては実に16年ぶりの最高賞受賞でした。AVC-A1Hはそれくらい際立った評価を受けた製品なんです。
麻倉:そう思います。でもA1Hは単に音がいいというか、オーディオ的な音がいいというだけでなく、そこには何か心や思いがとても込められているように感じられるんです。コンテンツの中に入っている音をうまく取り出して、私たちの耳にすごく明瞭に聴かせてくれる。最近の言葉で言えば「エモい」というのがありますよね。エモーショナルの略です。エモというと大衆的な感じがしますが、ハイエンドの「エモ」というものを聴くことができる。この後はそのハイエンドの「エモい」とはどういうものかを、一緒に聴いてみましょう。
オーディオビジュアルを核とした雑誌「HiVi」がAVC-A1Hを語る特別な機会(HiVi辻編集長)
麻倉:エモいということで、ライブ映像を聴いてみましょう。まずはノラ・ジョーンズの「ライヴ・アット・ロニー・スコッツ」です。ノラ・ジョーンズは存在自体がすごくエモーショナルで、あの粘っこい、ねちっこい声で迫られたら、もうたまらないですよね。今日ご紹介するコンテンツはメンバーがたったの3人編成、ノラとベースとドラムという非常にシンプルな構成です。だからこそ、空間感や音場感がすごく明瞭に出てきます。何よりもノラのメッセージ性や感情がものすごく込められたコンテンツで、それをA1Hがどう引き出すかが聴きどころです。
辻:このディスクの音源はDTS-HDマスターオーディオの5.1chなんですが、今日はA1HのDTS-HDモードで再生します。すると、5.1にサラウンドバックを加えた7.1ch、さらに今日はサブウーファーを3つ使っているので、正確には7.3chでの再生になります。
(音楽再生)
ライヴ・アット・ロニー・スコッツ
ノラ・ジョーンズ
Live At Ronnie Scott’s [ Live At Ronnie Scott’s Jazz Club / 2017 ]
麻倉:ノラさんの声の粘り強さと臨場感が非常によく出ていました。
さて次は、大編成のオーケストラが大きなホールでライブ録音したものを聴いてみましょう。「John Williams in Tokyo」という、去年の9月5日にサントリーホールで撮られたライブ映像です。これはDolby Atmosです。ジョン・ウィリアムズとオーケストラの作品集は、これまでウィーンフィル、ベルリンフィルとありましたが、これは第3弾のサイトウキネンオーケストラによる演奏です。音声は深田晃さんが録音されました。彼のコメントがあるんですが、「演奏、音質、音場、音像、そして映像、これだけ高品位に詰まったクラシックコンサートライブはそうはない。最高・高音質なパッケージメディアの登場が嬉しい」と書いてあります。深田さんは34本のマイクを使って10chを作り、Dolby Atmosを構築しています。
辻:ちょっと補足すると、深田晃さんはNHK出身のエンジニアで、サラウンド音響の大家と呼ばれている方です。クラシック録音に非常に積極的にサラウンドを取り入れてきて、現在はフリーで活躍されている腕利きのエンジニアです。
麻倉:では、聴いてみましょう
(音楽再生)
John Williams & Saito Kinen Orchestra
全ての音源に対し、その世界観を見事に再現するAVC-A1Hはデノンのポリシーが詰まった最高のアンプ(麻倉)
麻倉:さて、ここからは映画の音を聴いてみましょう。一般に言って映画音響では「DMS」、つまり台詞(Dialogue)、音楽(Music)、効果音(Sound Effects)が重要だとされています。
まずは「ラ・ラ・ランド」を聴いてみましょう。これはロサンゼルスを舞台にした音楽恋愛物語で、曲も音もストーリーも非常によくできた音楽映画です。今回聴くのは「A Lovely Night」というシーンです。私は昔の「バンドワゴン」という映画が大好きで、その映画にはフレッド・アステアとシド・チャリシーがニューヨークのセントラルパークで踊るシーンがありますが、ラ・ラ・ランドのこのシーンはそのオマージュになっています。この場面では、マジックアワーのサンセットの中で二人が踊るんですが、音響的に注目してほしい点が3つあります。まずセリフ。小声で語られる台詞のリアリティ。次に歌のビビッドさと伴奏のビッグバンドの音、そして最後に効果音です。効果音はクルマのリモートキーの音や最後に出てくるiPhoneの着信音などとても小さな音ですが、これらのリアリティがストーリー上で重要な役割を果たしています。そのあたりに注目してください。
辻:音声はDolby Atmosです。では、聴いてみましょう。
ラ・ラ・ランド
(映画シーン再生)
辻:「ラ・ラ・ランド」から「A Lovely Night」でした。これは2017年のアカデミー賞音響編集賞を受賞した作品で、大変素晴らしいミックスがされていますね
麻倉:そうですね。次に、もっと迫力がある作品を聴いてみましょう。「デューン 砂の惑星 PART2」の銃撃戦シーンです。
この作品は非常に現代的な音作りがされています。銃撃戦のシーンですから激しい音もたくさん出てきますし、超低域の音も豊富に使われています。大音量でいろんな音が鳴っている中で、細かい音も緻密に作られていますので、そのあたりも注目してください。そしてAVC-A1Hが今日使っているような大型のスピーカーをどれくらい駆動できるかも注目して聴いていただきたいと思います。
辻:「デューン」は完全なフィクションの世界ですが、それをいかにリアリティを持って観客に受け入れてもらうか。そのために非常にリアリティのある音が緻密に作られています。砂の音がチリチリしたり、冒頭で聞こえる呼吸音など、様々な効果音が使われています。これもDolby Atmos音源ですが、空間全体を非常に豊かに使っている点にも注目してください。途中で登場するオーニソプターという乗り物が空間全体をぐるりと回るカットがあるんですが、その移動感やリアリティも聴きどころです。では、聴いてみましょう。
麻倉:素晴らしいですね。現代の最高のDMSが体験できました。最後に「トップガン マーヴェリック」を聴いてみましょう。この数年で映画のサウンドデザインが飛躍的に進化しました。音質も良くなり、デジタル技術を使った編集も向上しています。「デューン」も素晴らしいですが、「トップガン」もDMSが非常に効果的に使われていて、もう一つの代表作だと言えるでしょう。
まず「トップガン」のDMSで特筆すべきなのはハンス・ジマーの音楽です。見ていると鼓舞される、挑戦的な音楽です。マッハ10に挑戦するシーンでは、「やめなさい」という雰囲気の中で「いや、でも俺はやるんだ」という、組織の流れに抗う感じが音楽で表現されています。次に、サウンドエフェクトです。最初のシーンはマッハ10に挑戦する飛行機のシーンなので、様々な効果音があります。爆音はもちろん、様々な音が入っています。そしてセリフです。この映画はセリフが異様に大きいんです。みんな叫んでいるような感じですが、それらのセリフに込められた感情や力がセリフのボリュームと質感に表れています。現代の最高のDMSが詰まった作品として、これを最後に持ってきました。
麻倉:いかがでしたか? AVC-A1Hは、全ての音源に対して高い表現力を持ち、コンテンツの世界観を見事に再現していますね。デノンのポリシーが詰まった最高のアンプだと言えるでしょう。
辻:本当にそうですね。今日は様々な音源を通して、AVC-A1Hの性能を体験していただきました。みなさま、ご清聴ありがとうございました。
(編集部I)