往年の名作の魅力をサウンドバーで引き出そう!「DHT-S218」でヒッチコックの「鳥」を観る
今どきのサウンドバーというと、Dolby Atmos対応などトレンド感のある最新映画のサウンド再現がフィーチャーされがちですが、誰もが知る往年の名作映画を観る時にもいいんです。今回は、デノンの最新サウンドバーDHT-S218でヒッチコックの「鳥」を楽しんでみました。
こんにちは、ライターの杉浦です。今回はデノンの最新サウンドバーDHT-S218で、往年の名作映画を観る企画をお送りします。
サウンドバーを紹介する時って、Dolby Atmosなどの最新の音声機能をメインに語るので、私のようなライターはリッチなサラウンド感がわかりやすいアクション映画なんかでレビューすることが多いんです。でも、もちろん昔ながらの名作を観る時だって、サウンドバーはその魅力を引き出してくれるんですよね。…というのが、今回のテーマの骨子です。
本題に行く前に簡単にご紹介しておくと、DHT-S218はデノンサウンドバーのエントリーライン、S200番台の最新モデルです。デノンのハイエンドなHi-Fi製品を手掛けるサウンドマスター・山内慎一氏がチューニングしたモデルで、「ピュアオーディオ系のサウンドバー」というコンセプトを掲げています。
オーディオ再生でも使えるピュアな音質の良さが評価され、2024年5月に発売されてすぐ大ヒットモデルとなった、まさに“旬なサウンドバー”。詳細は製品ページをご覧ください。
このDHT-S218で鑑賞したいのは、アルフレッド・ヒッチコック監督の「鳥」(1963年)です。正直、映画史に残る名画すぎて私ごときが語るのもおこがましいのですが、今回は“DHT-S218で「鳥」を楽しむ”という観点でご紹介したいと思います。
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B00I902VH8/ref=atv_dp_share_cu_r
〜「鳥」あらすじ〜
ボデガ湾の港町を訪れた気ままな社長令嬢のメラニー(ティッピ・ヘドレン)。ペットショップで知り合った若い弁護士ミッチ(ロッド・テイラー)の屋敷に、内緒で小鳥を届けた彼女は、ふいに空から舞い降りた一羽のカモメに額をつつかれる。それが全ての始まりだった。ミッチの家に数百羽のスズメが押し寄せ、小学校の子供たちがカラスの大群に襲われる。次々に起こる異変、刻一刻と増え続ける鳥たち。不気味な威嚇の鳴き声が町中に響くなか終末の夜が明けていく……。 「レベッカ」の女流作家ダフネ・デュモーリアの原作を基に、ヒッチコックが撮り上げたパニック・サスペンス。
※NBC ユニバーサル・エンターテイメントジャパン「鳥」Blu-ray公式サイトより
……映画の内容を簡単に言うと「鳥がすごい勢いで襲ってくる」で終わるのですが、このシンプルな切り口で見事に心理的な恐怖を煽ってくるのがさすがの名作です。
本作が公開された1963年以降、街中でスズメやカラスなんかがちょっとでも集まっているのを見ると「ヒッチコックの鳥だ」と恐怖するのが、世界中の人々の共通感覚になったと言っても過言ではありません。後世に大きな影響を与えた、動物パニック・サスペンスの原点とも言える作品です。
そしてその恐怖感の演出に重要なのが、音声。実は本作、いわゆる劇中音楽的ものがほぼなく、主に「鳥の鳴き声と羽音」のサウンド演出で極上のホラーサスペンスに仕上がっています。
実はこの「鳥の鳴き声と羽音」を作り出したのは、「Trautonium(トラトニウム)」という当時最先端の電子楽器(シンセサイザーの祖先のようなもの)だったそう。ヒッチコック監督がこの電子楽器の存在を知って「本作に使える!」となって採用したとか。これにより、“尋常じゃない鳥の鳴き声”を表現することに成功したんですね。
時代を経ても、このサウンドイメージは共有できるものがあり(というか、本作のイメージが後世にまで伝わっているからかもしれませんが)、今聴いてもしっかり「尋常じゃない鳴き声だな」と感じることができます。
では、DHT-S218のサウンドと共に、作品の見どころを具体的にレポートしていきましょう。今回はDHT-S218を自宅のテレビと接続し、Prime Videoで配信されている「鳥(字幕版)」を楽しみました。往年の名画も、こういう映像配信サービスで手軽に視聴できるのが嬉しいですよね(2024年11月現在)。
なお、60年代はまだ映画がモノラル音声で上映されていた時代。「鳥」もPrime Videoの配信音声コーデックを確認するとAAC/ステレオとなっており、そもそもソースの音源がモノラルです(映画音響の歴史についてはぜひこちらの過去記事も参考ください。
元がモノラル音声の作品を現代のオーディオ機器でどう再生するか……というのを厳密に突き詰めるとかなりマニアックで深い沼に落ちてしまう気がするので、ここはあえてシンプルに、“当時ヒッチコック監督が演出に込めた「鳥の鳴き声と羽音」の臨場感を楽しもう”というカジュアルな聴き方で進めたいと思います。
映画の再生をスタートすると、オープニングから早速、無数に飛び交う鳥の「ギャアギャア、ピチピチ」という鳴き声がすごい勢いで耳をつんざいてきて、一気に作品世界に引っ張り込まれます。のちの展開を知っているので「ああ、このあとコレに襲われるんだな」と覚悟する音ですね。
今どきのサラウンドによる包まれ感とは全く異なる方向性の聴き方ですが、それこそDHT-S218が搭載する音声モードの中でも、ソースが持つ音の特徴をストレートに伝えてくれる「Pure」モードが生きてきます。当時最先端の電子楽器を駆使したヒッチコック監督の音に対するこだわりを、ストレートに受け取れるというか。
まだパニックが起こる前のシーンで、さりげなくバックで鳴いている鳥の声なども、しっかり画面の右上の方から聴こえてきて方向がわかり、不穏さが増します。
多くのホラー映画は、大きく“静”と“動”の2種類の恐怖演出が使い分けられています。本作で言うと、街中に鳥の大群がジーッと留まっているシーンでは、静かな映像から漂ってくる“静の恐怖”。一方、その鳥が動き出して四方八方から人間を襲うシーンになると、無数の鳥の鳴き声と羽音が絡まった騒がしいサウンドによる“動の恐怖”が演出されています。このコントラストで、視聴者の恐怖感情もジェットコースターのように乱高下するんですよね。
中盤で、カラスの大群が小学校にいる子供達を襲うシーンは、まさに“動の恐怖”がいきなり押し寄せるパート。DHT-S218で聴くと、ギャアギャアと鋭いカラスの鳴き声に加えて、バタバタと騒がしい羽音にも厚みがあることで、子供の腕に食らいつくカラスの体重まで伝わってくるようです。
60年代の古い映画ながら、“静の恐怖”だけでなく、サウンドの表現力が求められる“動の恐怖”もしっかり味わえる。そんな本作の作り込み部分を、DHT-S218のようなサウンドの素性が良いサウンドバーを使うことで、存分に享受できるわけです。
またクライマックスで、主人公たちがいる家の周りに鳥の大群が押し寄せてくるシーンもかなりホラー。室内にいてその姿は見えない段階から、騒がしい鳴き声と羽音が近づいてくるのがわかって恐ろしい。
こんな風に鳥そのものが映っていないシーンでも、その大群に家ごと取り囲まれていることが音声で表現されているわけですが、ここで視聴者が受ける「キタ……」という恐怖感は、音の良いサウンドバーで臨場感を味わっているからこそのものでしょう。
その他にも、この時代のサウンド的な質感として、女性が歩くときにヒールが床を叩くコツコツとした音や、ハンドバッグの留金の金属の音などがあります。川をボートで渡るシーンのゴポゴポとした水の音もですが、そういうアコースティックなサウンドが、やや温かみを持ちつつクリアで立体感を持って聴こえるのも良いところ。
なお、現代の感覚で本作を視聴すると、正直ビジュアルに関してはどうしても合成シーンの合成っぽさが気になってしまい、没入感が削がれてしまう部分はあると思います。もちろん当時としては最先端の合成技術を使っているのですが、これは仕方ないところ。
ところが、サウンド環境をアップデートすることでかなり臨場感が向上して、その結果、視聴感まで変わるのがすごい。音って重要ですね。
特にDHT-S218のように、エントリーモデルでも高品位なサウンドを提供してくれる機材を使用することで、その明瞭でクリアな音声により、視聴者が作品性を掴めるところまで行けるというか。サラウンドが隆盛となる70年代以前に作られた名作「鳥」という映画の音声演出効果を、改めて楽しむことができました。
杉浦みな子 プロフィール
1983年生まれ・たまに絵も描くライター。慶應義塾大学環境情報学部卒業。家電やオーディオ・ビジュアル専門サイトの編集/記者/ライター職を経て、2023年に独立。コンシューマーエレクトロニクスから月刊ムーまでを網羅し、各種媒体でAV機器・家電のレビューやオカルト映画のコラムを執筆中。読書と音楽&映画鑑賞が好きで、自称:事件ルポ評論家のオタク系ミーハー。