いろんな要素が楽しめて、どこへいっても聴きたいアルバム。
「たった1枚のCDを持って無人島に行く」という究極の状況で、 デノンの「音の責任者」であるサウンドマネージャー米田が選ぶこの1枚とは?
無人島CD第3回は、デノンの「音の責任者」であるサウンドマネージャー米田が登場!今回はインタビュー形式でお送りします!
●米田さん、無人島にたった1枚だけCDを持って行けるとしたら何を選びますか?
米田:急に聞かれても……。CDという括りだとパッと出てこないんですよ。
ただ、自分が常に身近に置いていて、何かあったら聴きたいという音楽ならあります。
●それ、教えてください!
米田:ジョージ・シアリングの「ライト、エアリー・アンド・スウィンギング」というアルバムです。
ジョージ・シアリングは2011年に惜しくも亡くなってしまった盲目のジャズピアニストです。
イギリス人なんですけどね、このアルバムはMPSというドイツのレーベルから出ています。
●かなり渋いセレクションですね。ジャズの大スターには、マイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンのような人たちもいますが。
米田:ジョージ・シアリングという人は「バードランドの子守歌」の作曲者としても有名なんですが、そのサウンドは知的で、しかもポップ。
モダンジャズの正統といえるビバップの流れもあれば、白人らしいウェストコーストジャズ的な要素もあります。
しかもイギリス人らしくクラシックからの影響も感じられ、いろんな要素が絡まっていているんです。
ま、好きな理由を考えていると、逆になぜ好きなのかがわからなくなってきてしまうんですけどね。
私が初めて聞いたころは、まだまだレコードがまだ高価な時代でしたが、それでも「これは聴いてみたい」と思い奮発して買ったアルバムでした。
●でも、なぜそのアルバムを無人島に?
米田:このアルバムは、私にとってどこに行っても「聴きたいな」と思うアルバムなんです。
いいものは何回でもきけるし、聴くたびに違った感覚で楽しめる。中身があるものは何度聞いても楽しめるんですよ。
でもひとつだけ。正直に言うと、このアルバムはCDよりアナログ盤(レコード)のほうが飽きないです。最初は当然アナログ盤で聴いていました。
ずっと後になってCD化されたものを聴いてみたら、ちょっとがっかりしてしまいました。
●アナログ盤とCD、どこが違うんでしょうか。
米田:録音当時のレコーディングエンジニアが何を考えて録音していたかというと、CDのなかった時代ですから、
レコードで再生することしか考えていなかったはずなんです。
だから当時のエンジニアの意図を一番明瞭に表しているのは、やっぱりアナログ盤だと思うんですよ。
今はリマスタリングなどで後加工がいろいろできるんですが、音楽の中には後加工できない組成っていうのは必ずあるんです。
そしてそういった要素が重なって、音楽ができていると思うんですよ。
●なるほど。ではこの連載は無人島「CD」ですが、今回は特別に無人島「レコード」にしましょう!最後に、一言お願いします。
米田:今はMP3など音源データをミュージックプレーヤーやスマホに大量に入れて、持ち歩きながらヘッドホンでカジュアルに聴くという
スタイルが主流になりつつあります。
でもあまりにカンタンで、音楽との付き合いかたがさっぱりしすぎているように感じています。そしてこのまま流されていくと、
そのうち音楽を大事にしなくなってしまうのではないか、と危惧しているんです。
デノンがつくっているのは音楽を再生する音響機器ですが、音楽が大事にされなければ、我々の製品も大事にされなくなります。
ですから「音楽を大事にする」という意識を我々が持ち、それを多くの方に伝えていくことが大事だと思っています。
またそういう意識でなければいい製品は決して作れません。カジュアルなスタイルで聴くだけでなく、時にはCDでもアナログ盤でもいいので、
もう一度音楽をもっと深いところで楽しんでほしいと思っています。