銘機探訪 DCD-S1 PART1
歴代のデノン製品から、高い支持を受けたモデルを紹介する銘機探訪。今回から2回に渡り、1994年発表のCDプレーヤーDCD-S1を取り上げます。当時はオーディオ不況の真っただ中。大量販売の低価格路線に移りつつある中、「デノンは本物のオーディオ機器を作りたい」という想いを結集したのがS1シリーズ。その中でも非常に高い人気を誇り、ロングセラーとなったモデルが、DCD-S1でした。
歴代のデノン製品から、高い支持を受けたモデルを紹介する銘機探訪。
今回から2回に渡って、1994年に発表されたCDプレーヤーDCD-S1を取り上げます。
↑DCD-S1カタログ
●高い評価を得たDP-S1、DA-S1の一体型モデルとして、満を持して発売されたDCD-S1
DCD-S1が発売された前年の1993年には、CDトランスポートDP-S1とD/AコンバーターDA-S1が発売されました。
これは、2つで1台として機能するセパレート型のCDプレーヤーで、非常に高い評価を得ることができました。
今回ご紹介するDCD-S1は、「DP-S1とDA-S1を一体化させたもの」といっていいでしょう。
前モデルで新たに開発したALPHAプロセッサー、砂型鋳物製極厚シャーシ、外部振動を遮断する3重構造フローティングなど、
DP-S1とDA-S1の遺伝子をしっかり受け継ぐことで、DP-S1とDA-S1に迫る音質を実現しています。
そして、価格もセットで166万円(税抜)と高価格だったものが、DCD-S1では一体型になって50万円(税抜)と非常にリーズナブルな設定となり、
デノンとしても驚くほどの人気製品になりました。
しかも、なんと10年間に渡って継続して販売された、非常に息の長い製品でした。
DCD-S1の発売当時、営業の第一線に立ってオーディオ専門店を担当していた本田統久(現:国内営業本部 本部長)は、
DCD-S1をはじめとするS1シリーズを「デノンの歴史でもっとも重要なターニングポイント」と捉えています。
●バブルの陰で沈滞していた1980年代のオーディオ業界で、高まる本物志向
CDプレーヤーDCD-S1を含む一連のモデルは、
「設計者がその時点で考えられる最高の技術、理想的な音質を具体化する」
というコンセプトを持つS1プロジェクトの一環として開発されました。
S1プロジェクトが始まったのは、日本コロムビア(デノンの前身)創立80周年に当たる1990年。
まさにバブル崩壊と同じ時期でした。しかもオーディオブームはすでに1970年代に全盛期を迎えており、
実はバブル絶頂期は「オーディオ不況」の時代。
むしろ市場は低価格ミニコンポ、カラオケのほうに移っていました。
その結果、多くのオーディオメーカーが、低価格なラインナップによる大量販売へシフトしていく傾向にありました。
そんな市場の状況でしたがデノンは、
「もっと付加価値の高い、本物のオーディオ機器を作りたい、そしてオーディオファンに届けたい」
という想いを強く持っていました。
ちょうどその頃、設立80周年という節目を迎え、「新しいことを始めたい」という機運も高まっていました。
それらがS1プロジェクトを立ちあげた原動力となりました。
●オーディオ専門店と一緒に作った製品
「このまま低価格路線が進んだら、本当のオーディオファンが求めるような機器が作られなくなるのではないか」
そうした危機感は、オーディオ専門店も感じていたようです。
オーディオ専門店のスタッフの方は、さまざまなメーカーのオーディオ機器に触れて豊富なオーディオ知識を持っており、
もちろんデノンの音づくりも深く理解しています。
また、店に集うオーディオファンの声、ニーズもよく把握されています。
「オーディオ専門店に集まる市場の声、オーディオファンのニーズを、設計部門に届ける。それが、営業の使命だ」
デノンの営業スタッフは、モックアップ(模型)や試作機などを持参してオーディオ専門店を回り、
販売の現場で集めた声を設計部門にフィードバックしていきました。
S1プロジェクトで質の高い製品がいくつも作られた背景には、技術者たちの熱意だけではなく、
そういった市場の声の力、そしてそれをフィードバックしていった営業部門の努力、全社あげてのチームワークがあったのです。
●シリアルナンバー1の製品を、特別な試聴室に展示
当時、あるオーディオ専門店には特別な試聴室がありました。その専門店が本当に素晴らしいと認めた製品だけが展示されます。
営業が依頼をしても、展示してもらえるものではありませんでした。
本田統久は、次のように当時を振り返ります。
本田統久 国内営業本部 本部長
「私は、そのオーディオ専門店様の特別な試聴室にS1シリーズをどうしても展示したかった。
もちろん、そこに展示するに見合うだけの価値のある製品だと思っていましたから、何もしなくても展示してもらえたかもしれません。
でも、間違いなくそこに展示してするために、私は一計を案じました。特別な展示室だから、製品も特別にしようと。
そこで、製造部門にシリアルナンバー1の製品を確保するよう依頼しました。これは実はかなり異例のお願いです。
通常、シリアルナンバー1の工場生産品はテストなどに使われますから。
最初は製造部門から無理だと断られました。S1シリーズは、国内だけではなく海外でも販売されます。
製造部門からみれば、いち販売店だけを優遇することはできない、というのも当然です。
それでも何度も交渉した結果、特別にシリアルナンバー1の製品を確保することに成功しました。
営業としての思いが伝わったんですね。それを試聴室に届けたときのうれしさ、達成感は今でも忘れられません。
S1シリーズの開発は、デノンの歴史の中でも重要なターニングポイントであり、
中でも10年にも渡るロングセラーになったDCD-S1は金字塔になるようなモデルと考えています。
製造部門と連携を取り、製品作りにも深く関わりましたので、私自身にとっても心に刻まれた大切な製品となりました」
次回は、DCD-S1開発時期に行っていたオーディオプロモーター制度や自宅試聴に関する話を紹介します。
製品の詳細: DENON Museum DCD-S1
(Denon Official Blog 編集部O)