銘機探訪 DL-103 PART2
歴代のデノン製品から、高い支持を受けたモデルを紹介する銘機探訪。50年間、性能・仕様を変えずに生産されているMC型カートリッジ DL-103の第二回は「工芸品」と言えるほどの匠の技で作られていることなどをご紹介します。
歴代のデノン製品から、高い支持を受けたモデルを紹介する銘機探訪。
50年間、性能・仕様を変えずに生産されているMC型カートリッジ DL-103の第二回は
「工芸品」と言えるほどの匠の技で作られていることなどをご紹介します。
MC型カートリッジ
希望小売価格 35,000円(税抜)
●精密技術者が、1個1個丹念に手作りで仕上げる”工芸品"
MC型カートリッジ DL-103は工業製品とはいえ、実は一つ一つが精密技術者による手作りで製作されています。
もちろん、金属線を手でキリキリ巻いているわけではなく、製作用の機械を操作しながらの作業です。
しかし髪の毛より細い金属線を、コアに均一にムラなく巻いていく作業は、熟練を必要とするもので、
機械任せのオートメーションでは決して作ることはできません。
この技術は発売した1964年当時からずっとデノンの工場で受け継がれており、
2014年の現在も熟練した精密技術者がこの作業を行っています。
実は、この作業は男性には難しいとされており、代々、女性の技術者が受け継いでいます。
女性の指先が繊細なのか、それとも男性は女性よりも根気が続かないのか、理由はハッキリわかりません。
しかし実際男性が巻くと、どうしてもムラが出てしまい、精度の高い「巻き」が行えないのです。
限られた熟練の女性精密技術者だけが行えるこの工程は、まさに職人芸であり、
DL-103はデノンが誇る工芸品といっても過言ではありません。
PART1で、放送用の業務機器であるDL-103の仕様は変えられない、ということをお伝えしましたが、
長年にわたって同じ仕様、同じ音を維持することは、実は大変な努力を要することです。
採算性も大事ですが、それよりも材料を手配できなくなること、技術者がいなくなることのほうが切実です。
作りやすくて性能が安定する仕様を目指したとはいえ、
実際、半世紀にわたり通用する製品仕様を実現したところが、当時の開発者たちのすごいところでした。
そしてまた、50年間同じ仕様で生産し続けることはそれ以上に困難なことでした。
材料の安定供給、熟練技術者の維持など、DL-103の50年は関わってきたすべての人々の不断の努力によって支えられてきたのです。
●性能を安定させるために施した、二重カンチレバー
製造面の工夫でいえば、例えば技術的には、DL-103のカンチレバーの形状をテーパードカンチレバーにしたほうが、性能が上がると言われています。
カンチレバーとは本体と針先をつなぐ細い棒のことで、テーバードカンチレバーというのは、いわゆる円すいの先を切った感じの形状です。
振動モードを分散させて、固有の振動を持たせないという効果があります。
しかし、加工や強度、均一なものを作るという点で難しさが出るのも事実です。
業務用として品質の安定した製品を、しかも大量に生産するために他の方法が考えられました。
そこでDL-103で採用されたのは、二重カンチレバーという、径の違うパイプを二つ重ねた形状です。
物質は必ず固有の共振点を持っていますが、二重カンチレバーにすることにより、
固有の共振点を分散し、製品として安定した性能を維持することができるようになりました。
カートリッジというものは、本当に小さなものですが、いろいろな技術や工夫、そして音楽への想いが詰まっているのです。
DL-103は、見た目は小さくて軽い製品ですが、デノンの歴史にとっては非常に重く、デノンを代表する巨人とも言える製品です。
※ 二重構造のカンチレバー
カンチレバーは、二重構造によって分割振動がなく、軽量かつ堅牢で、振動系の機械インピーダンスを小さくし、
可聴周波数帯域全域にわたり優れた特性を得ています。
●DL-103の音は、いい意味で“図太い”音
アナログオーディオで、一番手軽に音を変える方法は、カートリッジを変えることです。
カートリッジは、いわばオーディオの入り口。
レコードに彫られた溝の振動をトレースし、電気に変えるトランスデューサー(変換器)です。
他のユニットは、電気から電気に変える、増幅するといった働きですが、
これはいわゆる機械振動を電気信号に変換する役割を担います。
ですからほんの些細な違いでも、音色は変わってきます。
DL-103の登場以降、いろいろなカートリッジが発売されました。
DL-103とは異なる系統ながら、モデルチェンジを繰り返し、デノンで今も現役なのがDL-301系です。
高域を伸ばし、繊細の再現を追求したハイコンプライアンス型のカートリッジで、
DL-103の音よりは、DL-301系の音が好きという方もいらっしゃいます。
そういった音の好みがあるからこそ、オーディオは趣味の世界として成り立っているのではないでしょうか。
そういう意味では、スタンダードとされるDL-103にも個性があると言えます。
DL-103で再生した音を言葉で表現するなら、非常にしっかりとした、
ちょっと大げさですが、“図太い音”。繊細で正確というよりも、エネルギー感を持った太い音です。
今デノンが掲げている音のポリシーは、制作者が創り上げたエネルギー、エモーションを余すことなくリスナーに伝えることです。
DL-103は、そのポリシーを体現しているとも言えるでしょう。
デノンの前身は放送用業務機器会社であり、レコード会社です。
そういった感覚が根付いていたのも当たり前と言えます。
その最たるものが、カートリッジなのかもしれません。
プリメインアンプ PMA-SX1
580,000円(税抜価格) 10月中旬発売予定
※PMA-SX1Xの詳細についてはプレスリリースをご覧ください。
● DL-103の性能を引き出すプリメインアンプPMA-SX1が登場
先日デノンのプリメインアンプの新しいフラッグシップモデルPMA-SX1が発表されましたが、
この最新のアンプには、50年間現役を続けているDL-103の特性に最適化され、
最も良い状態で使うことができるフォノイコライザーが搭載されています。
PMA-SX1のフォノ入力端子
PMA-SX1にはフォノイコライザーが搭載されていますが、MC / MMそれぞれに専用入力端子を備えているだけでなく、
MC入力端子では中〜高インピーダンス用のHighと2〜10Ω程度の低インピーダンス用のLowに切り換えられるようになっています。
実はこのHighの設定が、DL-103に最適化されているのです。
現役生活すでに50年とはいえ、DL-103は今もなおHi-Fiの最前線で多くのファンを魅了しつづけている、
まさに日本のスタンダードMCカートリッジと言えるでしょう。
(Denon Official Blog 編集部I)