読む音楽 恋はいつも未知なもの 村上龍
慌ただしい師走となりましたが、寝る前のひととき、好きな飲み物を用意してジャズを聴きながら読むのにピッタリの、ジャズスタンダードをテーマにした短編集、村上龍「恋はいつも未知なもの」をご紹介します。
今年もあと残すところ1ヶ月を切り、アッという間に何かと慌ただしい師走となってしまいました。
年を経る度に一年が短くなるように感じられる今日この頃ですが、
寝る前の寛ぐひとときぐらい、暖かくして、好きな飲み物を用意して、
オーディオシステムのいい音で、スタンダードのジャズボーカルなど楽しみたいところ。
今回の「読む音楽」でご紹介する、村上龍「恋はいつも未知なもの」は、
そんなとき手にとってちょっと読むのにピッタリの、ジャズスタンダードをテーマにした短編集です。
「恋はいつも未知なもの」
村上龍著
出版社: 朝日新聞社
私(編集部I)はジャズが好きなのですが、落語に「古典落語」があるように、
ジャズには「スタンダード」というものがあるところが、面白いところだと思います。
たとえば「枯葉」という曲は、マイルス・デイヴィスも演奏すれば、
キース・ジャレットもナベサダも演奏するわけで、これらを聴き比べることができるわけです。
そして、多くのスタンダードには歌詞がついており、多くのシンガーに歌われます。
「枯葉」でいえば、シナトラも歌えば、サラ・ボーンも歌う、ナット・キングコールもそしてケイコ・リーも歌います。
これだけ多くの人に歌われるということは、スタンダードはメロディだけでなく、歌詞も素晴らしいのです。
このスタンダードの歌詞の世界をバックグラウンドにしながら、
大人のおとぎ話ともいえるような、粋でちょっと苦い恋の話が
いくつかの短編小節で展開されるのが、村上龍「恋はいつも未知なもの」です。
まずはタイトルからして“You don’t Know What Love Is“というスタンダードの日本語訳です。
私はすぐにチェット・ベイカーの暗くて気怠い歌声を連想しました。
そして各短編のタイトルもすべて、スタンダードのタイトルとなっています。
もしスタンダードのCDをお持ちだったら、
タイトルとなった曲を聴きながらこの本を読むと、よりその世界に浸れるかもしれません。
ストーリーは、どの都市にも、どのリゾートにも忽然と出現し、
気怠く甘い女性ボーカルと、美味しいお酒がある、幻のバーを探すというもの。
そのバーはなぜか苦い恋で心に傷を負った時に出現し、
女性ボーカルが歌うスタンダード曲に救われる、という話となっており、
最後にタイトルとなったスタンダードの歌詞が、村上龍のオリジナルの訳で、ストーリーに織り込まれます。
もともとスタンダードの歌詞は非常に完成度が高いものですが、
これを村上龍が訳すと、さらにひと味深みが加わる気がします。
希代のストーリーテラーである村上龍が腕によりをかけた、
大人のデザートのような仕上がりのビター&スイートな短編たちを、
ぜひスタンダードジャズを聴きながらお楽しみいただきたいと思います。
(Denon Official Blog 編集部I)