
デジタルアンプソリューション「DDFA」とは何か

DNP-2500NEのヘッドホンアンプに採用されたデジタルアンプソリューション「DDFA」。圧倒的な特性と優れた音質を実現したDDFAの仕組みなどについて、クアルコムの大島勉氏にお話をうかがいました。
2016年1月に発表されたネットワークオーディオプレーヤー/USB-DAC
DNP-2500NEのヘッドホンアンプに採用されたデジタルアンプソリューション「DDFA」。
圧倒的な特性と優れた音質を実現したDDFAの仕組みや
DNP-2500NE用の開発の経緯について、
クアルコムの大島勉氏とデノンの宮原にお話をうかがいました。
クアルコム IoT製品 マーケティングマネージャー 大島勉氏(右)
デノン マーケティンググループ 宮原利温(左)
ネットワークオーディオプレーヤー / USB-DAC
DNP-2500NE
希望小売価格: 200,000 円(税抜)
詳細はこちらをご覧ください
■まず最初にデノンの側にうかがいます。
デノンがフルデジタルアンプのソリューションである
DDFAを採用したのはどうしてでしょうか。
宮原:きっかけはデザインシリーズのプリメインアンプであるPMA-50でした。
あのサイズで高音質なアンプを作るとしたらデジタル以外ない、ということで
いくつかのデジタルアンプを検討しました。
その際いくつかの方式を試したのですが、
DDFAが非常に良かったので、DDFAを採用しました。
■それは僅差だったのですか、それともダントツですか。
宮原:ダントツだったですね。
USB-DAC / プリメインアンプ PMA-50
製品の詳しい紹介につきましてはこちらをご覧ください。
■具体点にはDDFAのどんな点を評価したのでしょうか。
宮原:デジタルアンプらしさがない、カラーレーションがない、かつ、特性もいい。
アンプとしての資質が非常にいいと感じました。
開発者は「ダイヤモンドの原石」といっていましたね。
素性が良く、後段の磨きでいろんなことができるという意味です。
あとは後段においてディスクリートで我々が音作りで追い込んでいけばいい。
■DNP-2500NEのヘッドホンアンプに採用したのはなぜですか。
宮原:DDFAはその後DRA-100でも採用し、ここでも高い評価を得たわけですが、
PMA-2500NEでは思い切ってヘッドホンアンプだけのためにDDFAを採用しました。
ヘッドホンアンプのニーズが高いのはわかっていましたが、
我々がヘッドホンアンプを作るとしたら、すでにあるバランス回路のものよりも
フルデジタルプロセッシングのほうがインパクトがあるだろうと。
■ヘッドホンだけのためにDDFAを採用するのは、ものすごく贅沢ですよね。
宮原:贅沢です。奢っちゃいました(笑)。
ですから開発コンセプトとしては、かなり「攻め」でした。
↑ヘッドホンアンプにDDFAを採用したDNP-2500NE
■DDFAのソリューションを提供するクアルコムの側としては
「ヘッドホンアンプで使う」というオファーはどうだったのでしょうか。
大島:最初は絶句しました(笑)。
それまでスピーカーはやっていましたが、
ヘッドホン用のものを量産したことはないです、と素直に申し上げました。
ただ理論的には可能です、とも言いました。
■DRA-100に搭載されたDDFAの評価が良かったからと言っても、
それをそのまま使うわけにはいかないのですね。
大島:そのままでは全く使えません。まず用途が違います。
スピーカーのインピーダンスなら4Ωから8Ωが定番といったところですが、
ヘッドホンだと32Ωであったり600Ωであったりと、いろんなバリエーションがあるわけです。
それに応じてフィードバックを正しく動かさなかったら、しっかりした特性は出せません。
またヘッドホンはノイズに対する感度が高いのでノイズへの対処も大変です。
ですからDDFAとはいえ、ヘッドホン用のものと
PMA-50やDRA-100に搭載されたものとはまったく別ものだと言えます。
■DNP-2500NE用のDDFAについては、開発はどのように進んだのでしょうか。
大島:クアルコムの設計者やエンジニアがデノンの白河工場に出向き、
ホワイトボードやプロトタイプ基板などを使って
技術的なディスカッションやシミュレーションをしながら、
要求される特性など、様々な要素を煮詰めていきました。
デノンでDDFAを使っていただくのは、
PMA-50、DRA-100に続き、これで3回めとなります。
ですからデノンの開発者の方と忌憚のない意見を交換しつつ、
スムースに開発者同士のやりとりができたと思います。
■DDFAのようにチップを作るのにも様々ノウハウがあるのでしょうか。
大島:実はデジタルでも職人芸があります。
DDFAとは「Direct Digital Feedback Amplifier」の略ですが、
フィードバックを使うことで電源の揺らぎや、素子、
フィルターの特性のバラツキなどを補正する点にあります。
そのフィルターのかけ方にはさじ加減があって、
強くかけ過ぎると特性は良くなりますが、音楽的にはあまり良くなくなったりします。
それをどのバランスでやるか、どのポイントでやるか、
チップ周辺の基板レイアウト設計などで
ベストなチューニングをしていくあたりがチップ作りの職人芸だといえるでしょう。
↑DDFAのサンプル基板
■DDFAの優れている点はどんな点でしょうか。
大島:おもに4つの点があります。
まずはフルデジタルのソリューションであること。
特に入力がデジタルであること。
デジタルアンプとはいえ、入力の時にはアナログで入るものが実は少なくありません。
事実上はアナログー入力されるデジタルアンプのほうが多いと言えます。
しかしDDFAは完全にデジタル入力であり、フルデジタルプロセッシングが行えます。
そして第2はフィードバックです。
先ほどもすこし申し上げましたが、
高品位な音、高い特性を出すためにはフィードバックという技術が欠かせません。
そのフィードバックをかける回数や場所などには、私どもにさまざまなノウハウがあります。
第3はチップの内部の処理です。
我が社独自のアルゴリズムによる内部処理によって、フィルターのループの中で補完フィルターやノイズシェイピングなど
さまざまなことをします。
これらは私どもの独自の知的財産というべきものです。
こうした内部処理によって高速のフィードバックをかけて様々な補正を行っていきます。
そして第4はチップのすべての土台となる高精度なマスタークロックです。
すべてを動かす基準となるのがマスタークロックですが、
DDFAでは低ジッターに処理された108MHzの高速マスタークロックを使っています。
これは非常に高速で、たぶん他社にはない精度だと思います。
それによってDDFAではフィードバックなどのコントロールが精緻に行えます。
↑DNP-2500NEのヘッドホンアンプ回路基板。
中央の大きな正方形のLSIとその左側の小型のLSIがDDFA素子群。
■実際にDDFAが組み込まれたデノン製品の音を聴いて、
どう思われましたか。
大島:振り返ってみると初めてDDFAを採用していただいたモデル、
PMA-50の音をプロトタイプからずっと聴いていましたが、やはり我々の評価ボードとは全然違う音になっていました。
これはまさにデノンの音に仕上がっていて、さすがだなと。
DDFAをデノンでの評価で、「ダイヤモンドの原石」
という言い方をしていただきましたが、まさにDDFAを使いながら、
その後のアナログ段でのデノン独自の音作りがあり、
これが、まさにデノンならではで素晴らしいと感じました。
↑クアルコム社のDDFA評価ボード
■クアルコムとしてデノンとのコラボレーションはいかがだったでしょうか。
大島:これは個人的な意見となりますがデノンさんにチップを買っていただいた、
ということだけではなく、市場のニーズをいち早く捉えたデノンの製品企画を、
プロジェクトに関わる全員がそのコンセプトを理解し、
技術者同士が腹を割って話せるオープンな環境の中で製品を作り上げ、
その結果としてユーザーさんにも支持いただいてヒットしているという事に
大きな意義があると思います。
それに「DDFAをデノンに搭載する」ということは我々にとっても夢のあるプロジェクトでした。
もともとDDFAの開発スタッフはヨーロッパの人が多いのですが、デノンはヨーロッパでも名高く非常に人気のあるブランドです。
DDFAの開発者の中には、90年代後半のデジタルアンプ黎明期を含む
20年以上のキャリアを持つベテランもいますが、
彼らの中には「あのデノンといつか一緒に仕事をしたい」という
情熱を持って仕事を続けて来た、というメンバーもいました。
彼のようにデノンのような美しい音が出るデジタルアンプを作りたいと思ってきて、
今回その夢が叶ったわけですよね。
■今後はどんなことをやりたいと思いますか。
大島:DDFAを採用していただき、PMA-50のような大ヒットモデルを世の中に出したことで、
若い人がHi-Fiに興味を持つきっかけを作ることができたと思います。
普段ミニコンを聴いていた人にとっても、Hi-Fiオーディオの音は、
それとは全然違う音だとわかってもらえたのではないでしょうか。
現在、オーディオの楽しみ方もハイレゾ、音楽配信サービス、ネットワークオーディオ、
スマートフォンとの連携やヘッドホンといったように多様化しています。
そんな中でクアルコムの技術であるDDFAや、無線ネットワーク技術、Snapdragonプロセッサ、
AllPlay, aptX HDコーデック技術などによって、時代のニーズやライフスタイルにあった価値、
そしてユーザーエクスペリエンスを高めることに貢献できたらいいなと思っています。
そして、それらの製品を通じて、多くの方に高音質化と利便性の両方に対し、
今まで以上に興味を持ってもらえたら嬉しいですね。
(Denon Official Blog 編集部 I)