デノン白河工場の品質管理 Part.1
デノンのハイエンドモデルが生産されている福島県白河市にあるD&M白河工場。通常は工場見学を行っておりませんが、今回はデノン公式ブログ読者のために「品質管理」という視点から特別許可をいただき見学してきました。
デノンのハイエンドモデルが生産されている福島県白河市にあるD&M白河工場では、設計、CAD設計、基板実装、そして組み立て製造までを一貫して行っています。
今回はデノン公式ブログ読者のために「品質管理」という視点から特別許可をいただき、再び見学してきましたので2回にわけてご紹介します。
(D&M白河工場では通常は工場見学を行っておりませんので予めご了承ください。)
以前このブログでは「デノン白河工場見学記」を掲載しています。そちらも合わせてご覧ください。
今回のナビゲーターはD&Mホールディングス Global Operations製造グループ 田辺秀一です。
【今回のナビゲーター】 D&MホールディングスGlobal Operations製造グループ 田辺秀一
■前回の工場見学ではお世話になりました。
今回は「品質管理」という視点で再度工場を見学させてください。
田辺:今回は特に「品質」に焦点を合わせて白河工場をご案内します。
まずは基板実装の工程からご紹介しましょう。
↑基板実装工程 実装の前半の工程はマシンを使って自動化されています。
↑「生板(なまいた)」と呼ばれる、何も取り付けられていない回路基板に、まずチップパーツが自動で表面実装されます。
↑こちらが完成された基板。青い円形の部分を拡大します。
↑これが実装されるチップのサイズ。非常に小さいです。
↑チップはこのようにテープ状に梱包されリールのように巻かれています。
これを機械が一つ一つ決められた場所に取り付けていきます。
↑目にもとまらない速さで取り付けられていきます。
↑こちらはチップより大きいディスクリート部品を基板に実装する機械です。
■最初の工程は自動化されていてすごいですね。
田辺:これらは非常に小さいチップやディスクリート部品を基板に実装するマシンです。
このプロセスでは機械がほとんどの作業をしています。
ここでわれわれが品質を高めるために何をしているかというと「機械を使う人間のスキルを高める」ことをしています。
こういった産業用マシンのプログラムは通常は専門のプログラマーが行っていますが、私たち白河工場では、実際にマシンを使う人間がプログラムを組みます。
これらの機械では吸着ヘッドで小さなチップを吸い上げて、挿入する場所まで運びます。
その時小さいパーツは速いスピードで運んでも問題ありませんが、ディスクリート部品などの大きめの部品は速く運ぶと、部品自体の重さで足の向きなどがズレてしまうことがあります。
そのように部品を選ぶ順番や、部品を運ぶスピードなどにはたくさんのノウハウがあります。
それをマシンにひとつひとつプログラムするわけですが、白河工場では実際にマシンに精通し、部品ごとの運搬スピードや順番のノウハウを熟知した人間がプログラムを組みますから、結果的にプログラムの品質が高くなります。
■普通は機械のプログラムは専門職の方がするわけですよね。
田辺:はい。普通であればプログラムと機械を操作する人は別だと思います。
しかも白河工場の場合はプログラムだけではありません。
機械の調整やメンテナンスそのものも、工場の人間が行います。
通常であればメーカーの人間が派遣されて来てメンテナンスをするわけですが、我々はメーカーで研修を受け、メーカーから派遣された方が来たときには、その場でいっしょに学ぶことで、そうしたスキルを身につけます。
メーカー派遣によるメンテ作業は数ヶ月に一度ぐらいでしょうが、我々は自分たちで機械を分解し、クリーニングできますので、必要に応じて、週に何度でも調整や、クリーニングが行えます。
それによってマシンを常に最良の状態で稼動させることができるわけです。
↑吸着ヘッド部分。この調整やメンテナンスも白河工場内で行うことができます。
■こちらのモニターは何でしょうか。
田辺:基板に部品を自動で取り付けるクリームハンダの温度管理をしています。
ここでは常に信頼性の高い良い状態でハンダが行えるように、厳密な温度管理を行っています。
温度の管理はハンダの信頼性・確実性を高めるためだけでなく、部品に与える熱のショックを最小限に抑えて損傷を避けることも目的の一つです。
こちらも機械を熟知した人間がプログラムしています。
田辺:あとは、目視ではわからないタイプのハンダもありますので、そちらを確認するためにX線による検査装置を使って接触の不良がないかの確認を行います。
↑すべての基板は最終的にX線を使って検査を行います。
■かなり細かいところまで気をつかっているのが良くわかりましたが、実際に不良はどんな割合で出るのでしょうか。
田辺:白河工場における不良率の目標は2.5ppmですが、実績としては1ppmを達成しています。
ppmとは100万分の1を意味する言葉です。
ですから1ppmとは,100万に1つのエラーです。
ただしこれらは部品の装着点数によりますので、部品点数が1000点あれば、不良は1000台に1ということになります。
■さて次の工程に来ました。ここからはどんな作業をするのでしょうか。
田辺:基板実装の後半となりますが、ここからはマシンで打ち上がった基板に、人間が実際に手で大きな部品をインサート(挿入)して基板を完成させる工程です。
ここからは人が手を動かして行う作業ですので、人のミスを防ぐのが最大のポイントとなります。
白河工場では数年前から基板実装を一人で完結できるようにしました。
それまでは複数の人間で基板を作っていました。
その頃は一人でインサートする部品数は20点から40点程度でした。
しかし今は約130点をひとりでインサートします。
これはとても覚えられませんので、そこで我々が独自に開発した「インサート支援装置」を活用しています。
↑インサート支援装置を活用したインサート作業用のブース。
■「インサート支援装置」とはどんなものですか。
田辺:インサート支援装置そのものは企業秘密なのでお見せできませんが、上の写真で、あるパーツの入ったハコに光が当たっているのがおわかりいただけるでしょうか。
インサート支援装置はこのように部品を光で指示し、そして次に挿入する場所を指示してくれます。
こうして工程のポイント、ポイントを順番に照射することで、作業員が一つ一つの手順を覚えなくても作業できますし、欠品や装着の忘れなどのうっかりミスがなくなります。
さらにコンデンサーなどの電機部品の極性も示すことができますので、挿入の方向を間違えるといったミスも減らすことができます。
このように一人完結での基板作りに踏み切ったのは数年前です。
その理由の一つは生産ロットが減ったことです。
製品による切り換えの時間があれば短くてすむんですね。
そしてもう一つは作業する人間のモチベーションを高めること。
従来のように5人で作業をすれば責任も1/5になりますが、自分ひとりで基板を作り上げると、自分だけの責任になります。
それはやる気にもつながってくるんです。
そのモチベーションを大切にしたいと考えています。
■ところでここに流れている銀色の液体はなんでしょうか。
田辺:これは溶解したハンダです。
この上に基板が搬送されてきてハンダ付けを行います。
このハンダの槽を、ディップ槽と呼んでいます。
液体ハンダは250度〜255度に保たれています。
この温度の設定、そしてこの独特の波の形状が非常に大切で、温度と波の形によって良いハンダ付けができるかどうかが決まります。
ちなみに良いハンダとは富士山の形をしています。
接地面が広いのでよく接着されており、信頼性の高いハンダになります。
この流体ハンダのディップ槽についても白河工場では自分たちで全部外してメンテナンスができます。
ですからいつでも微調整が行えるんです。
↑溶解したハンダのディップ槽
■基板の最終工程はどうなるのでしょうか。
田辺:やはり最後は人の目で確認し、人の手で修正を行います。
パーツやハンダを目視し、ハンダが弱そうな部分は人が補強します。
ですからここにも熟練されたスキルが必要とされます。
↑最終的には人が確認を行い、必要に応じて補強などを行います。
田辺:ほかにも細かい工夫はたくさんありますよ。
たとえばハンダ作業の際、ほかの部分にハンダが飛散しないようにほかの部分をカバーするマスキングの治具を使ったりしています。
↑ハンダ飛散防止用の治具
田辺:さらにコンデンサーなどの極性を合わせる事は非常に重要ですので再度チェックをしますが、その際、チェックが確実に行えるようにこの写真のような「テンプレート」を作り、極性は指先での確認を行うなど、ミスを減らすためのチェックを徹底的に行っています。
ということで基板ができあがりました。
Part1はここまで。
「品質管理」という視点で白河工場を見学すると、まさに水も漏らさぬ体制が組まれていることが良くわかります。
この後はいよいよ製品組み立ての工程になりますが、そちらはPart2でご紹介します。
(Denon Official Blog 編集部 I)