読む音楽 ジェフ・ポーカロの(ほぼ)全仕事
腕利きスタジオミュージシャンとして知られる伝説のドラマー、ジェフ・ポーカロが参加したレコーディングセッションを集めた執念の一冊「ジェフ・ポーカロの(ほぼ)全仕事」をご紹介します。
腕利きスタジオミュージシャンとして知られる伝説のドラマー、ジェフ・ポーカロが参加したレコーディングセッションを集めた執念の一冊「ジェフ・ポーカロの(ほぼ)全仕事」をご紹介します。
『ジェフ・ポーカロの(ほぼ)全仕事〜レビュー&奏法解説でグルーヴの秘密を探る』
単行本 – 2015/2/27
小原由夫 (著) 、山村牧人 (著) DU BOOKS
ジェフ・ポーカロは、TOTOの創設メンバーであり、セッションミュージシャンとしてスティーリー・ダンから、そしてマイケル・ジャクソンの『BEAT IT』まで、ありとあらゆる音楽を支えつつも、 1992年にわずか38歳の若さで逝去した伝説のドラマーです。
彼が参加した数え切れないほどのセッションを追い、その 505枚ものCDを解説した執念の一冊が『ジェフ・ポーカロの(ほぼ)全仕事〜レビュー&奏法解説でグルーヴの秘密を探る』です。
今回の読む音楽は、この本の制作に関わった「ポーカロ会」のメンバーである匿名希望のMさんに、出版の経緯や制作の際の苦労などをインタビューしてみました。
■Mさん、よろしくお願いします。
M:よろしくお願いします。
■どうして匿名希望なのですか。
M:深い意味はありませんが、オーディオ業界の呉越同舟的なポーカロ会の成り立ちから、匿名にしたほうがいいと思ったからです。
■ではポーカロ会からご説明ください。
M:とあるオーディオ販売店の担当がジェフ・ポーカロが大好きな人がいまして、そこに各オーディオメーカーの営業担当の人間がいくじゃないですか。
するとその人がハブとなって「僕もポーカロ好きです」「私も好き」という人がいることがわかり、そこで、じゃ呑みながらみんなでポーカロのCDを聴こうよ、ってことになってオーディオ輸入商社の事務所でどっぷり呑みながらポーカロを聴き、語ったのが最初でした。
最初は4人でした。
■なるほど。でもそれってただの呑み会ですよね。
M:ま、それが5、6年ぐらい前の話で、メンバーが増えつつも仕事が忙しいだなどで、不定期に続いていたのですが、
3年ほど前にオーディオ評論家の小原由夫さんが参加されるようになり、小原さんのご自宅で3ヶ月に1回開催、しかもメンバーは各自ポーカロが入っているレコードやCDを 2枚持って来る、というのが宿題となりました。
■急に部活っぽくなってきました。
M:それが何度か続いているうちに、メンバーと小原さんとの話の中でポーカロの仕事を本にしたらどうかという話題になり、早速、小原さんが企画書を作り打診していったところ、ある出版社が乗ってくださって、出版の運びになったわけです。
著書は小原さんに加えて、ドラムの奏法などの解説部分はドラムの先生をされている山村牧人さんにお願いしました。
↑2015年 秋のヘッドフォン祭のデノンブースで開催されたポーカロ会の「オフ会」右端で語っているのがオーディオ評論家の小原由夫さん
■なるほどですね。でも「ほぼ全仕事」というまで集めてレビューするのは大変だったのではないですか?
M:単なるCDのレビューにしたくはなかったです。だから山村さんに入っていただいてドラムの奏法などの部分にも迫りました。
また小原さんはオーディオ評論家ですから、アーティストや曲の紹介だけでなく、音作りやマスタリングのことや、あるいは同じ音源でもアメリカ盤のほうが音が良い、などといったオーディオマニアにもアピールするような切り口で書いてくださっています。
クレジットもベーシストやマスタリングエンジニアまで掲載しています。ですから、音楽好きだけでなく、オーディオファンにも、ドラマーの方々にも楽しんでいただける内容になっていると自負しています。
と、このようにいろいろ欲張った内容になったわけですが、実際のところ、これを作り上げるまでには困難を極めました。
■CDを505枚も集めたわけですよね。しかも奏法などまで分析して。これは大変だったと思います。
M:目標にしていた発売日は全然間に合わず、さらに一年を要しました。その間ポーカロ会メンバーが持っている音源を持ち寄って、さらに足りないものは探し、それをすべて聴く、そして書く、ということが続きました。
■集めるといっても、どうやって集めるのですか。
M:中古レコードとか、eBay とか……。クレジットがあるものはまだいいんです。クレジットがないやつとなると、まず入手して、聴いてみて、何曲目のドラムかポーカロか推定する、という作業があります。
このあたりに非常に時間がかかって大変でした。
聴けば分かるんですか?
M:私は良くわかりませんが、会には詳しい人間はいるので。
ただ時間はかかります。あとは嫌疑アルバムというのもありますし。
■嫌疑(笑)。
↑2015年 秋のヘッドフォン祭のデノンブースで開催されたポーカロ会の「オフ会」
■それにしても大変な作業ですね。まさに労作です。
M:我々はポーカロ会と自負しているはいえ、実際にやってみるとメンバーも知らないことがゾロゾロ出てくるわけです。
80年代は海外レコーディングが非常に盛んでしたから、日本人アーティストのアルバムにも数多く参加しているわけです。
それこそオフコース、矢沢から、河合奈保子まで。こんなアーティストともやっていたのかと、驚きながら作業しました。
それと「ちょっといい話」としては、ポーカロのお父様、ジョー・ポーカロが来日公演をした際、メンバーがこの本を手渡しました。
それと2015年度のミュージック・ペンクラブ音楽賞(オーディオ部門著作出版賞)を受賞したりもしています。
■それはいい話ですね。ところでポーカロ会は 2015年の「秋のヘッドフォン祭」などのイベントで、時折一般のお客さまを集めてポーカロを聴くイベントをされていますね。
M:はい。我々はオフ会と称しているのですが、この本を出版したということもあり、主に会員がかかわっているオーディオ系のイベントなどで、オープンでのイベントを開催しています。
↑2015年 秋のヘッドフォン祭のデノンブースで開催されたポーカロ会の「オフ会」。自慢の一枚を持って語るM氏
■Mさんは、ポーカロのどんなところに魅力を感じているのですか。
M:ドラマーとして手数が多かったり、派手な演奏をする人は結構いるのですが、ポーカロは歌伴が得意で、決して派手ではないけれど、とても安定したグルーヴ感を感じさせます。
たとえばTOTOの『ロザーナ』で聴けるようなハーフタイムシャッフルもそうですけど、ラリー・カールトンの代表作である『ルーム335』の最後の方でも、バスドラムとか凄いことやっているんですよね。そのあたりが魅力です。
M:そうなんですよ。ものすごく若い時からドラマーとして仕事をしていたとはいえ、わずか 38歳ですから、すごい仕事量です。
■ポーカロ会は今でも?
M:やっています。
■では今でもまだ、新しい音源を見つけては持っていく
M:そうですね。
■まだあるんですか。
M:あるんですよ。
■これからもがんばってください。
M:ありがとうございました。
(Denon Official Blog 編集部 I)