Professional’s Choice フジヤエービック AH-D7200
専門店のプロにお話をうかがうプロフェッショナルチョイス。今回はデノンヘッドホンのフラッグシップモデルAH-D7200についてフジヤエービックの根本さんにお話をうかがいました。
オーディオ専門店でいつも音楽や映画に触れているプロフェッショナルに、本当にいい音楽やいい映画を教えてもらおう、という「プロフェッショナルチョイス」。
ですが、今回は特別に、現在話題を呼んでいるデノンヘッドホンのフラッグシップモデルAH-D7200について、ヘッドホン/イヤホンの専門店として名高いフジヤエービックの根本さんに年末年始の忙しい時間を割いていただき、お話をうかがいました。
(↑製品写真はウェブより)
オーバーイヤーヘッドホン
AH-D7200
NEW
製品の詳細はこちらをごらんください。
ヘッドホンといえば、中野サンプラザで年2回開催されているイベント「ヘッドホン祭」が有名ですが、あのイベントを主催しているのが、ヘッドホン専門店として名高い中野のフジヤエービックです。
今回のプロフェッショナルチョイスはいつものコンテンツをご紹介するのとは趣向を変え、AH-D7200についてお話をうかがいにやってまいりました。
フジヤエービックはJR中野駅を出てすぐの、北へ真っ直ぐに伸びる商店街の一角。中野ブロードウェイの3階にあります。
株式会社フジヤエービックのホームページはこちら
●いきなりですが、AH-D7200は「デノンヘッドホンの銘機AH-D7000の後継モデル」とよく言われます。
AH-D7000はやっぱり伝説的なヘッドホンなのでしょうか。
根本:デノンのヘッドホンの代名詞、といえば間違いなくAH-D7000と言えると思います。
ちなみに私も自分で購入してAH-D7000を持っています。
●根本さんもお持ちなのですね。ありがとうございます。
そのAH-D7000が「銘機」と呼ばれるのはどうしてでしょうか。
根本:AH-D7000が発売されたのは2008年の9月でした。
その当時はまだ10万円を超えるような高価なヘッドホンは市場にほとんどなく、海外メーカーではいくつか、国内メーカーもわずかにあるぐらいでした。
ヘッドホンはまだそんな状況でしたが、オーディオの老舗ブランドであるデノンから10万円を超えるヘッドホンがどーんと出るということになり、みんなすごく驚いたんです。
私も最初は「高いなぁ」という印象でした。でも、実際に聴いてみるとその値段に見合うようないい音でした。
当時も非常によく売れましたが、今でもAH-D7000のほうがファンが多く、中古で入ってきても、すぐ売れてしまいます。
非常に人気があるヘッドホンです。
↑取材時、フジヤエービックの店頭で中古販売されていたAH-D7000
●AH-D7000の音はどんな印象ですか。
根本:一言で言えば「落ちついて聞いていられる音」です。
低域もしっかり出ますし、高域も伸びているのですが、聴いていて耳に痛くない、不快な刺激にならない。まろやかに包み込むような音でした。
●スタジオモニタータイプのヘッドホンは、音をできるだけ正確に忠実にカリカリと再生しますよね。
根本:その対極で音楽を非常に心地良く鳴らしてくれます。
よくAH-D7000をお持ちのお客さまから「聞いている心地がいい」「聴きながら寝てしまう」という話を聞きますが、そのくらい心地いい、快適なサウンドなんです。
●そして8年を経た今登場したAH-D7200ですが、実機を触ってみての印象はいかがですか。
根本:見た目も、音も私の期待を裏切りませんでした!
●具体的な感想をお願いします。
根本:まずデザインですが、テイストがAH-D7000に非常に近いと感じました。
もちろんAH-D7000と並べてみると、ハウジングの色や仕上げが違います。
それでもD7000の遺伝子というか、AH-D7200を一目見たとき「ああ、D7000が帰って来たんだな」という気持ちになりました。
中身はちょっと違うんだけど帰って来たっていう感じです。
●違うけど帰って来たという「帰って来たウルトラマン」みたいな。
根本:……(失笑)。デザインがそんな感じだったから、音を聞く前からすでに期待が高まりました。
AH-D7200はD7000の音の快適さを継承しながら、高い解像感を実現しています。
●AH-D7200をそれで聞いてみたらどうでしたか。
根本:大きな意味で「ゆったりとくつろげる音」というD7000からの伝統は継承していると思いました。
ただ、D7000そのままというわけではありません。
AH-D7200は昨今のハイレゾなどの高音質音源にもしっかり対応して、解像感は非常に高いといえるでしょう。
D7000は8年前には確かに最高峰でしたが、この8年でヘッドホンの市場は大きく進化し、ユーザーの期待するレベルが上がりました。
その全体のレベルの向上をしっかりキャッチアップして、新しい最高峰としてまた返り咲いたような気がします。
ヘッドホンの最近のトレンドは解像感の高さ、音場の広さなんです。
でも解像感の高さは聴き疲れにも通じてしまいます。
解像度の高いヘッドホンは「細かい音がよく聴き取れるけど、これを1〜2時間は聞いてられない」ということになりがちです。
でもAH-D7200は、今のトレンドの水準以上の解像感、音場感は出していながら、聴き疲れしない、聴いていて心地良い。
これはやはり凄いと思いました。
●音だけでなく、アメリカン・ウォールナットのハウジングもやはり魅力だと思いますがいかがでしょうか。
根本:D7000の時にはわりと艶のある塗装でしたが、今回はナチュラルな塗装になっていて、木目が一台ずつ違う点もユーザーには「自分だけのAH-D7200」という気持ちが持てていいのではないでしょうか。
根本:またかけ心地も快適さが追求してあって、装着感も非常にいいです。
耳をすっぽり覆うようにイヤーパッドの形状もこのように非対称になっていて、このあたりもコストがかかるところだと思うのですが、手間暇を惜しまずによく作られていると思います。
それとAH-D7200はケーブルが着脱型になったことでリケーブルできるようになっていて、そのあたりも現在のニーズにしっかり応えていると思います。
↑前後で非対称な形状のイヤーパッド
●根本さんの個人的な意見として、AH-D7200の魅力はどんなところにあるでしょうか。
根本:やはりリラックスして音楽が聴ける点がいちばんいいところだと思います。
夜一人で寛いでいる時間などに、好きなボーカルものなどを聴いて疲れを癒すのに、とてもいいのではないでしょうか。
ヘッドホンはこの10年で急激にレベルが上がり、市場も急速に拡大しています。
●お話をうかがっていると、AH-D7000が発売されてからの8年でヘッドホンの状況が急激に変わったんですね。
ヘッドホンのマーケットはものすごく広がっているのではないでしょうか。
根本:2008年当時のヘッドホンの存在感はまだ小さくて、オーディオ雑誌なんかでも「アクセサリー」の欄にちょこっと載るような扱いでした。
まだまだスピーカーで音を聞けない時の補助的なものとされていたんです。
フジヤエービックは、その少し前ぐらいから高級ヘッドホンを製品としてフィーチャーしていましたが、まだ珍しい存在でした。
●そこからマーケット規模は爆発的に拡大したわけですね。
根本:そう思います。
具体的な数字はわかりませんが、私どもフジヤエービックが主催しているイベントの規模で比較してみると、今は年に2回「ヘッドホン祭」をやっていますが、その前身だったイベントで「高級ヘッドホン試聴会」というのがありまして、それがD7000が発売される2年ほど前、2006年頃から始まったのですが、その時の会場は会議室、最初のお客さまが30人ほど。
そして参加メーカーは5社でした。
そこから10年経って、去年の2016年、ヘッドホン祭は2日間で参加者は1万人、メーカーさんは少なくとも200社になっています。
●イベント参加人数だけで単純に考えると30人が1万人ですから300倍以上ですね。
根本:ですからこの10年でヘッドホンのレベルも格段に上がっていますし、お客さんの評価基準のレベルも大幅に上がっています。
こうした背景についてはデノンさんもよくわかっているので、AH-D7200は単なる復刻ではなく、しっかり今のトレンドを押さえてきたのだと思います。
ヘッドホン祭は、ユーザーをつなぐ場であり、開発のボトムアップの場でもあります。
●それにしても2006年ごろから高級ヘッドホンの試聴会をやっていたフジヤエービックはすごいですね。
根本:確かにヘッドホンに関して、フジヤエービックは先駆けだったと思います。
●中野といえば駅前にカメラマニアなら誰もが知っている「フジヤカメラ」があります。
やはり関係はあるのでしょうか。
根本:そうなんですよ。フジヤエービックはもともとフジヤカメラから分社した会社です。
フジヤエービックのことを少しご紹介しますと、まず中野を地元としたカメラショップとしてフジヤカメラがあります。
80年代になって、これからは動画も重要だということで、ビデオ部門が分離しました。
それがこのフジヤエービックです。
そしてビデオカメラや放送機器、そして音響機材も扱う中でヘッドホンもフジヤエービックが手がけるようになったわけです。
2006年頃のヘッドホン試聴会も、ヨーロッパ中心に高級ヘッドホンがある。
じゃそれを取り扱ってみよう、ということではじまりました。
●先見の明がありましたね。
根本:私、今はこんなふうにお店を語っていますが、実はヘッドホンを取り扱い始めた当時は、お客としてフジヤエービックに通っていたんです。さきほど2006年に開催された試聴会でお客さんが30人だったと言いましたが、そのうちの一人は私でした(笑)。いろいろありまして、 いつのまにかお店に入って開催側に回っていました。
●フジヤエービックといえば、やっぱり半年ごとのヘッドホン祭ですよね。
根本:ヘッドホン祭は毎年4月と10月に開催しています。
またそれの間2月と7月にはポタ研(ポータブルオーディオ研究会)と言って、やや規模は小さいのですが、イベントを開催しています。
おかげさまで、オーディオの展示会でもヘッドホンに限定していえば、世界各地で開催されている展示会に比肩する存在になったと思います。
↑中野サンプラザで開催されているヘッドホン祭の様子
Denon Blog 秋のヘッドホン祭2016 レポート
Denon Blog 春のヘッドホン祭2016 レポート
●今や中野はヘッドホンの聖地といっていいのではないでしょうか。
根本:ありがとうございます。これもファンの方々に育てていただいたイベントだと思って感謝しています。
というのも、まちがいなく日本のヘッドホンファンが、世界でいちばん耳が肥えているトップのユーザーなんです。
しかも高価なヘッドホンを買うのも日本のファンです。
ですから世界のヘッドホンメーカーがヘッドホン祭に出展してくださるんです。
ヘッドホンって面白いことにボトムアップの世界で、こういうイベントでユーザーがいろんな意見を言うと、それをメーカーが真摯に受けとめて製品作りに取り込んでいく、という文化があるんです。
↑2016秋のヘッドホン祭(デノンブース)
●確かに試聴する際にカウンターごしにメーカーの人と向き合うので意見も言いやすいですよね。
根本:そうなんですよ。それとヘッドホンってスピーカーと違って、その場でお互いのシステムの音を聴きあうことができるじゃないですか。
それが面白いところなんですよね。
ヘッドホン祭みたいなイベントがあるとユーザー同士も集まりやすいですから、ヘッドホン祭を見て、そのあと集まってファミレスに行ったり、ちょっと呑みに行ったりして、そこでお互いのヘッドホンを試聴しあったりというオフ会もよく開かれているようです。
さらにそこにメーカーさんが入ったり、メーカーさん同士でも集まったりと、そういうこともあるようです。
↑2016春のヘッドホン祭の様子
●中野サンプラザでヘッドホン祭を見て、そのままフジヤエービックのお客さんになる方も多いのではないでしょうか。
根本:はい。ただフジヤエービックは決して大型店ではありませんから、ヘッドホンでもあらゆる製品を、あらゆる価格帯で揃えるのは難しいと思っています。
ですからセレクトショップ的な品揃えになっています。
↑ヘッドホンを中心に扱っているフジヤエービックPart3
↑インイヤーホンも充実したラインナップ
↑店内にはプリメインアンプやプレイヤーなどのオーディオ機器もずらり
↑こちらがフジヤエービックPart1 ビデオ、動画機材を揃えている
↑こちらは音響系の機材を揃えたフジヤエービックPart2
●ところで根本さんはいつ頃からヘッドホンに興味を持たれたのですか。
根本:中学生の頃くらいからだと思います。
この間中学の卒業式の写真をみたら、僕の写真、髪の毛が凹んでるんですよね(笑)。
たぶん前の夜にヘッドホンしていた跡が残っていたんだと思います。そのくらいヘッドホンが好きでした。
最初は近所の電気屋さんで買ったヘッドホンを使っていたのですが、いろんなメーカーのヘッドホンがあって、ジャンルによって向き不向きがあることもわかってきて、海外製の高いヘッドホンもあることもわかりました。
それでヘッドホンが好きになったのですが、当時ヘッドホンは普通、パックされて吊されて売っていました。でもフジヤエービックは試聴ができたんです。
それで何月何日に海外の30万のヘッドホンの試聴機が来るらしい、といっては通ったりしていました。
●数多くのヘッドホンを扱ってきた根本さんにとって、理想のヘッドホンとはどんなものですか。
根本:単純な話、ヘッドホンって一人で音楽を聴くパーソナルなものじゃないですか。ですから「その時、自分が聴きたい音楽を楽しく聴けるヘッドホン」が理想ですね。
それは音質であったり、装着感であったり、またデザインであったり。
ただ「その時」というのが重要で、気分って、その日、その時でちがうじゃないですか。
もちろん聴きたい音楽も日々違いますし。だから理想のヘッドホンってひとつではない、と私は思っています。
●それにヘッドホンなら一人で何台も持てますよね。
スピーカーだとなかなかそうはいきませんが。
根本:そうなんですよ。部屋が狭くてもヘッドホンなら何台も置いておけますし、音量の心配もありませんから、ぜひ何台でもお買い上げください(笑)。
●最後にAH-D7200の話にもどりますが、正直にいってAH-D7200のライバルはどんなモデルでしょうか。
根本:他社のライバルもありますが、やっぱりまずは銘機AH-D7000でしょうね。
D7000はデノンを代表するヘッドホン、と先ほど言いましたが、実際のところ国内メーカーの高級ヘッドホンの代名詞といえるぐらい大きな存在です。
ですからAH-D7200が、AH-D7000を超えれば凄いことですし、実際に試聴してみると、確かに超えていると思います。
そのあたりはぜひ、フジヤエービックでも試聴できますので、ご来店いただければと思います。
●今日はお忙しいところ、ありがとうございました。
(Denon Official Blog 編集部 I)