DCD -1600NE開発者インタビュー
クラスを超えたサウンドで話題を呼んでいる昨年発売のスーパーオーディオCDプレーヤーDCD -1600NE。その設計コンセプトや開発の経緯、そしてカタログでは語り尽くせない魅力などについて、開発者にインタビューしました。
価格からは想像できないハイクオリティなサウンドで、オーディオファンの話題を集めているスーパーオーディオCDプレーヤーDCD-1600NE。
その設計コンセプトや開発の経緯、そしてカタログでは語り尽くせない魅力などについて、開発者にインタビューしました。
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スーパーオーディオCDプレーヤー
DCD-1600NE
120,000 円(税抜価格) NEW
グローバル プロダクト ディベロップメント プロダクト エンジニアリング
出口昌利
●はじめにDCD-1600NEの開発コンセプトを教えてください。
出口:DCD-1600NEはグレードとしてはDCD-1500REの後継ですが、先代の1500REをベースにしたわけではなく、一足先に登場した上位モデルであるDCD-2500NEが開発のベースになっています。
ですから「DCD-2500NEをいかに1600NEの筐体に落とし込むか」、それが基本的な考え方でした。
●それはDCD-SX以降から、CDプレーヤーの設計思想が変わったと言うことでしょうか。
出口:設計思想は変わっていません。私自身が設計する上で重要視していることは、DENONの設計思想を追求することです。
ですからDCD-1600NEは現在のDENON Hi-Fi 製品の最終的な姿に仕上がったと思っています。
●DCD-SX以降の新しいデノンのHi-Fiのサウンドの特長である「ビビッド」「スペーシャス」といったキーワードは、DCD-1600NEにもやはり引き継がれているのでしょうか。
出口:そうですね。これまでのデノンの持ち味だった「低音がどっしりしたサウンド」に加えて、新しい「ビビッド」「スペーシャス」という要素も親和が進むことで、より魅力あるモデルに仕上がっています。
私自身、DCD-SXから設計に携わっていますが、これまでに培ってきたノウハウなどをすべてDCD-1600NEに注ぎ込んでいます。
DCD-2500NEと共通化を図ることで、開発コストを下げていきました
●上位モデルのDCD-2500NEが設計のベースというお話でしたが、価格は安いわけですから、コスト面での苦労は大きかったのではないでしょうか。
出口:今回はDCD-2500NEの開発が終わりかけていた頃にDCD-1600NEの開発が始まるというタイミングでした。
基本的なスタンスとして先代のDCD-1500REから、音質的には飛躍的なアップを狙いたい、ということもあり、2500NEと部品や基板の共通化を図りました。
これはDCD-2500NEの部品や基板を最初から使うつもりで共通開発することにより、開発にかかる時間やコスト、さらには製造コストを抑える、という手法です。
●たとえばどんな部分がDCD-2500NEとDCD-1600NEで共通なのでしょうか。
出口:デジタル基板はまったく同じものを使っています。
●デジタル基板とは?
出口:デジタル信号処理の中核であり、マイコン、オーディオ信号処理を培っているデジタルのすべてです。
それとAdvanced AL32 Processing Plus。
これはハイレゾ音源にも対応するデノン独自のデータ補間アルゴリズムによるアナログ波形再現技術ですが、SX11で開発したものがそのままDCD-2500NEにも、そしてDCD-1600NEにも搭載されています。
音的には、これによって非常にキレがある音になりました。
●クラスを超えてDCD-2500NEと同じものが使われているのはユーザーには嬉しいことです。
ただ価格が違うわけですから、どこかでコストを削らなくてはならないですよね。
出口:もちろんそうなんです。ですから1500REを踏襲した部分もあります。たとえばCDを載せるディスクメカニカルは流用しました。
トレーは同じですが、ただしディスクの制御系のメカニズムは最新世代のものを新規に開発しています。
ですからディスクに記録されたDSDファイルの再生など、機能的にできることはDCD-2500NEとまったく同等です。
●ディスクトレー以外でもDCD-1500REから流用されたものはありますか。
出口:1500REの開発時に新設計した電源用のトランスをDCD-1600NEにも搭載しています。
ただしここは流用というより、実質的には先代より贅沢な仕様になっています。
というのも、1500REはUSB DACや外部入力なども搭載していたので、それらを賄うために電源容量が大きいトランスが必要でした。
しかし今回のDCD-1600NEはディスク再生だけに特化していますので、必要な電流値は減っています。
そこにこれだけの大型の電源トランスが載っているわけですから、事実上はグレードアップと言えます。
プリメインアンプPMA-1600NEと同じフットを使っています
出口:あと共通化といえばフットですが、こちらは同じシリーズであるプリメインアンプのPMA-1600NEの足と同じものを使っています。
●それは1500REのフットと比較してどう違うのでしょうか。
出口:重量があるプリメインアンプ用のフットですから非常にしっかりしていて、1500REのフットと比較すれば、重量でいえばたぶん10倍ぐらい重いはずです。
DCD-2500NEのフットは高密度で高剛性なBMC(Bulk Molding Compound)を採用していましたが、これをDCD-1600NEで使うのはコスト面で厳しかったんです。
それでPMA-1600NEのフットを採用しました。
PMA-1600NE用のフットは樹脂製ではありますが非常に密度が高くて重量もあり、フットによるエネルギーロスはほぼないといっていいと思います。音質も向上しました。
↑PMA-1600NEと共通化されたDCD-1600NEのフット
●フットで音はそんなに変わるのですか。
出口:変わりますね。と言うよりフットで音が変わるのがよくわかるぐらいDCD-1600NEの音の再現性が高い、といったほうが正確かもしれません。
新開発のオリジナルコンデンサーは色にまでこだわりました
●今回は新開発のコンデンサーを搭載しているとききました。
出口:先ほども紹介しましたが、音質面に関してはできるだけDCD-2500NEに迫りたいと思いました。
ただ予算的に2500NEとすべて同じ部品で設計するわけにはいきません。でも音に関わる部品のグレードは落としたくない。ではどうするか。
それではコストを抑えつつ同じ性能を実現できる部品を開発するしかない、ということになったわけです。
それでフィルターや電源で使う電解コンデンサーをメーカーさんと共同で新規に開発しました。
●簡単そうにおっしゃいますが、パーツの新規開発は大変ですよね。
出口:はい(笑)。コストを抑えながら、性能も、音も、というのは決して簡単ではなくて、これはサウンドマネージャーの山内にも協力してもらって開発しました。
開発には4ヶ月ぐらいかかっています。コンデンサーメーカーさんと共同で、たぶん通算10回近くやりなおしながら、完全にデノンカスタムで作りました。
●ちなみにコンデンサーは色にもこだわったとききました。部品の色も音に関わるのですか。
出口:はい。不思議なことに。
山内から「インクが音を汚している」という指摘が出て、メーカーさんに印刷する文字を最低限にまで減らしてもらい、さらに本体のスリーブの色も黄色、赤、青など5〜6色作ってもらって試したところ、緑がいちばんバランスが良かった。
それで必要最低限での印字だけが入った緑色のコンデンサーになりました。
出口:もう一つ新規に開発したのが、電源用の大容量のブロックコンデンサーです。
このパーツは音の源流であり、音質に直接影響してくるところですので手が抜けない重要な部分です。
ここも音質評価を繰り返してDCD-1600NE専用に開発しました。
↑2つ並んだ黒い大きな円柱状の部品がDCD-1600NEで開発されたブロックコンデンサー
聴き慣れた音楽をDCD-1600NEで聴いてもらうと、かなり印象が変わると思います
●今度はDCD-1600NEの音について聞かせてください。
DCD-2500NEと同じようにディスク再生に特化した点は音質面で大きいと思いますが、いかがでしょうか。
出口:先代のDCD-1500REは、CD、SACDのディスク再生に加えて、DSD対応USB-DACや192kHz/24bitに対応したデジタル入力を持っていました。
ただ急速にストリーミング、ハイレゾ、ダウンロードが増えてきたというリスニング環境の変化を鑑みると、デジタル入力はプリメインアンプに集約し、CDプレーヤーはディスクの再生に特化したほうがいいというのが私たちの考え方です。
そしてこの割り切りによって何が変わったかというと、音質評価をディスクのみにフォーカスすることができるようになりました。
今まではディスクだけでなく、USB DACやオプティカルからのデジタル入力など、複数のメディアで音質のチューニングをしていたわけです。
これらは相互に影響しますからバランスを取らなくてはなりませんでした。
でもディスクの再生に特化したことで、CDやSACDにフォーカスして磨いていけばいいので、非常に高い精度まで音質を追求することができました。
●CD再生に特化したことで、今まで聴き取れなかった音が鮮明になったりしているのでしょうか。
出口:かなり鮮明になっています。音の粒もそうですが、山内がよく言う「スペーシャス」、つまり空間表現ですね。
たとえばステレオの左右だけではなく、奥行き感、「ステージが見える」「ボーカルの口のカタチが見える」というような部分まで再現できるレベルにまでに達しています。
●ディスクに入っているハイレゾデータにも対応していますよね。
出口:はい。DCD-1600NEはSACDの再生やディスクメディアに収録されているハイレゾ音源の再生も可能です。
ハイレゾで重視しているのは、高音域の制限のなさ、音が上に抜けていく感じですね。それと音ひとつひとつの鮮やかさや音の艶。
これは山内が言うところの「ビビッド」ですが、そういったものも十分に表現できるようになっています。
どっしりと低域を安定させつつ、高域も一切つまらせない伸びやかな音。
そこに「ビビッド」や「スペーシャス」といった要素が付加されている。それがここ数年デノンが目指して来た音の方向性です。
それがDCD-1600NEでかなり明確に再現できてきたと思います。
●「ビビッド」や「スペーシャス」を実現するのは大変だと思うのですが、どのようなことをすると実現できるのでしょうか。
出口:ここが特別に効くというものはありません。あらゆる部分で精度を上げるということに尽きるのですが、たとえばクロック経路へのこだわりは大きいと思います。
最近の製品で私たちが使っているクロックは、まずクロックの品質自体が10年前とはまるで違います。精度も向上していますし、ジッターという位相雑音が極端に小さくなっているんです。
デジタル回路はすべてそのクロックで動いているので、そこは非常に重要です。この精度を生かすためのパターングランド設計が煮詰まってきたというのは言えると思います。
●ということは、10年前のCDプレーヤーとは音がずいぶん違うんですね。
出口:はい。たとえば今まで聴き慣れた音楽をDCD-1600NEで聴いてもらうと、おそらくかなり印象が変わると思うんですね。
今まで着目していなかった音まで明瞭に再現できますし、S/Nが非常に高いので今まで埋もれていたような微細な音も聴き取れるようになります。
「ああ、気づかなかったけど、ここにはこんな音が入っていたんだ」といった再発見ができる、つまりオーディオ本来の楽しみ方が味わえると思います。
今からDCD-1600NEを買う方は幸せだと思います
●お話をうかがっているとDCD-1600NEはかなりお買い得ですね。
CDプレーヤーの購入を考えている方はDCD-2500NEと迷ってしまうかもしれません。
出口:DCD-1600NEはDCD-2500NEから見ると価格的には2/3ですが、音のクオリティが2/3になっているのか、というとそんなことはありません。
ただ、この2機種は同じような音ではないんです。たとえばDCD-2500NEは筐体がしっかりしていますので、音にも重厚感があります。
低域に余裕がありますから、沈み込むような深い低音はDCD-2500NEのほうに軍配があがるかもしれません。
逆に「ビビッド」「スペーシャス」というデノンのHi-Fiのサウンドの新しい方向性は、設計が新しいDCD-1600NEのほうがよく表現できているかもしれません。
そのあたりはお客さまの好みになってくると思います。
●デノンのHi-Fiとしてはエントリークラスに位置づけられますが、サウンドの完成度はかなり高いですよね。
出口:端的に言って「入門機レベル」ははるかに超えています。私がオーディオを始めた頃を考えると、音的には信じられないレベルのクオリティです。
今からDCD-1600NEを買う方は幸せだと思います。入門の方だけでなく、CD/SACDプレーヤーの買替えを検討されている方にも、ぜひ一度DCD-1600NEの音を実聴していただきたいと思います。
●今日はありがとうございました。
(Denon Official Blog 編集部 I)