ドレスデン ルカ教会レコーディングとAH-D7200のWインタビュー
ドレスデン ルカ教会でドレスデン国立歌劇場室内管弦楽団の演奏によるモーツァルトの交響曲の録音が行われました。今回はデノンのヘッドホン開発者が録音現場に赴き、プロデューサーとエンジニアに録音とAH-D7200についてのインタビューを行いました。
2017年5月、クラシック音楽のレコーディングで有名なドレスデンのルカ教会でヘルムート・ブラニー指揮、ドレスデン国立歌劇場室内管弦楽団による演奏でモーツァルトの交響曲の録音が行われました。
今回はデノンのヘッドホン開発者がドレスデン ルカ教会のレコーディング現場に赴き、キングレコード株式会社のプロデューサー、松下久昭氏と、レコーディングエンジニアを務めた株式会社オクタヴィア・レコードの村松健氏にインタビューを行いました。
↑キングレコード株式会社プロデューサー 松下久昭氏(左奥)
↑株式会社オクタヴィア・レコード 村松健氏
収録曲
モーツァルト:
交響曲 第25番 ト短調 K.183
交響曲 第41番 ハ長調 K.551「ジュピター」
歌劇「イドメネオ」から行進曲
歌劇「魔笛」から僧侶の行進
歌劇「フィガロの結婚」から行進曲
ヘルムート・ブラニー 指揮
録音:2017年5月11-13日 ドレスデン、ルカ教会
11月1日発売予定 SACDハイブリット
●最初にキングレコード株式会社のプロデューサーである松下さんに、今回の録音についておうかがいしたいと思います。まずドレスデン ルカ教会をレコーディング場所に選ばれたのはどうしてですか。
松下:ルカ教会は、旧東ドイツの国営レコード会社「ドイツ・シャルプラッテン社」がドレスデンにおいて常時録音を行う会場として選んだ教会で、これまでここから多数の名盤が誕生しています。
ドイツ統一後にこの国営レコード会社は消滅しましたので、近年は録音会場としてはあまり使用されなくなっているようですが東ドイツ時代は、録音用モニタールーム、アーティスト、スタッフ用の食堂、控室も完備されていたそうです。
現在も、モニタールームは存在しており、電源の確保なども容易で、教会内の壁は吸音壁になっているため、録音に適した環境といえます。
またこの教会は、柱がない作りになっているため、大編成の楽曲でも録音が行えますし、数多くのオペラ作品もここで録音されていたようで、教会の掲示板には、若き日の小澤征爾、ジェシー・ノーマン、などの音楽家たちの録音風景の写真が飾られていました。
私どもキングレコードは、現在この「ドイツ・シャルプラッテン社」の原盤を発売する立場にありますので、その素晴らしい録音技術とルカ教会の響きに共感していたわけです。
そのような縁もあり、ドイツを代表する同レーベルの代表的なピアニスト、ペーター・レーゼルの新しい録音を、彼の故郷ドレスデンで、オーケストラを伴った録音を行うことになり、録音会場として第一候補に挙げたのが、この伝説の録音会場、ルカ教会でした。
この教会は、かのヘルベルト・フォン・カラヤンもお気に入りで、録音する条件としてこの会場を指定したこともあったそうです。
↑松下氏(左奥)
●ルカ教会でのレコーディングは何回目かになるとうかがいました。
松下:キングレコードとしては、5回目になります。2013年から毎年ここで録音を続けています。最初の3年はペーター・レーゼルとドレスデン国立歌劇場室内管弦楽団によるモーツァルトのピアノ協奏曲13曲。
4年目は、レーゼル選曲によるピアノ小品集とバッハ作品。そして今年は、ヘルムート・ブラニー指揮同オーケストラによるモーツァルトの交響曲の録音を行っています。
ルカ教会で録音された現在発売中のアルバム
ピアノ協奏曲 第20番 & 第21番
ペーター・レーゼル(ピアノ)
ヘルムート・ブラニー 指揮 ドレスデン国立歌劇場室内管弦楽団 (ドレスデン・カンマーゾリスデン)
(収録曲目)
モーツァルト:ピアノ協奏曲 第20番 ハ短調 K.466
モーツァルト:ピアノ協奏曲 第21番 ニ長調 K.467
録音:2014年1月7日〜10日 ドレスデン ルカ教会
KIGC-15 SACDハイブリット 定価:3200円+税
発売中
●レコーディングはどのように行なわれているのでしょうか。
松下: 2013年以来同じ録音メンバーで、高品位録音で定評ある日本のオクタヴィア・レコードの村松健エンジニアとチェコの録音チームと合同で進めています。
前世紀には、数々の名録音を残している会場ですが、日本のスタッフによる新しい時代の録音技術で、この教会の響きと、伝統あるこの地の素晴らしいアーティストたちの演奏を皆様へお届けしたいと考えています。
●今回の音源の聴き所について教えてください。
松下:現在の世界のオーケストラは、年々、世界標準といいますか、技術はますます上昇していますが個性が減っている傾向にあると思います。
このドレスデン国立歌劇場室内管弦楽団は、古き良き、ザクセン州の宮廷オーケストラの伝統の残り香がある、独特なオーケストラだと思います。
このオーケストラのメンバーはオペラを演奏する機会が多いこともあって、各々の演奏に対する柔軟度、自由度が高く、どこをとっても歌心に満ち溢れた演奏となっており、近年、なかなか味わえない、古き良き演奏が楽しめます。
そんな演奏をルカ教会の最高の響きと、DSD録音における澄み切った空気感と、オーケストラの持つ響きの奥行きを感じていただくことによって、音楽を聴く喜びを実感していただけばと思っています。
●ありがとうございました。では実際のレコーディングについて、オクタヴィア・レコードの村松健さんにおうかがいします。オクタヴィア・レコードはもともとクラシック音楽の録音が多いのでしょうか。
↑村松氏
村松:弊社はそもそも、ポニーキャニオンのクラシック部門をやっていた人間が中心となって、クラシック専門レーベルを擁する音楽集団として立ち上げた会社ですので、当然クラシック音楽が多いですね。
あとは、技術的なところでとくに大規模なオーケストラの録音方式や録音場所、機材の選定、国内外のオーケストラや演奏者とのつながりなど会社のノウハウを生かして、映画音楽やゲーム音楽、それから派生した他ジャンルのものまで多く音楽制作を手掛けています。
●オクタヴィア・レコードというと「高音質なレーベル」という印象を持っていますが、録音で気にされているポイントはありますか。
村松:録音の大前提としてはできるだけナチュラルに、その場所で、そこで演奏された音楽をいかによく封じ込めるか、をテーマとして携わっています。
手法としても、いわゆるクラシックにおける伝統的な録音方式を基本としながら、現代の技術を採り入れた録音のあり方を常に模索しています。
クラシック以外のジャンルであっても、基本路線はそこを第一に考えおり、他ジャンルで加工が必要なものであれば、ニーズにあわせて音作りは行っていきますが、録音自体は同じ考え方でやっています。
●録音用の機材を拝見するとDSDの録音機材が入っているのですが、DSDはクラシックの録音においてメリットは大きいのでしょうか。
村松:ケースによると思いますが、特にルカ教会のような場所においては、響きが日本では味わえないような素晴らしいアコースティックな響きですので、それの魅力を余すところなく録音するには、PCMよりはDSDのほうが合っているのではないかと思って使っています。
●作り手として今回のレコーディングで音質としてこだわったところ、あるいはリスナーに注目して欲しいところはありますか。
村松:何と言っても、ルカ教会の響きの美しさ、特に消え際の美しさを味わって欲しいと思います。聴きどころとしては、もしハイレゾでDSDとPCMの両方が聴ける環境をお持ちの方には、ぜひDSDとPCMで聴き比べて欲しいと思います。
たとえば「響き」で言えば圧倒的にDSDに分があると思いますが、一方で「ディテール」や「パッション」といったものはPCMのほうが感じられると思います。
私たちとしてはできるだけありのままに録っているので、それを空気感と一緒に楽しんでもらえれば、と思っています。
●確かにかなり残響の密度が高くて、テールまで長く伸びている感じで、ハイレゾだとそれがちゃんと再生できていると感じました。PCM、DSDなどハイレゾのフォーマットが増えてきていすが、作り手からは、ハイレゾをどう見ていますか。
村松:そこはすごく難しいのですが…大前提としてそれぞれのフォーマットの特徴があるというのは理解した上でですが、私たちとしてはあくまでマスターを作るところまでしか考えていません。
と言うのも、聴くフォーマットや環境によって音楽的なバランスやクオリティに差があってはいけないと思っているので、最終的に、MP3になる、AACになる、ハイレゾになる、DSDになるといっても、その中で、どこで聴いてもいい音というのが、多分一番いい音だと思うので、そういう音作りにこだわっています。
ですから、リスナーが好きな環境で聴いてくれればいいなと思っています。実際、「本当はどれで聴くのがいいんですか」ってよく聞かれるんですけど、正直、僕らからすればどんな環境で聴いたっていい音ですよっていうのを目標としていますし、なんらかのフォーマットに特化した音作りと言うよりは、マスターとして最上なものを作るように心がけています。
●最後に、ヘッドホンについて、松下さんと村松さんにおうかがいしたいと思います。録音の現場でデノンのフラッグシップヘッドホンAH-D7200をお使いいただいて、いかがだったでしょうか。
松下:録音現場におけるモニター用としては、音が良すぎます(笑)。レコーディング現場では、出ている音についての問題点を丸裸にしてくれる方がいいからです。
村松:うん、良く聴こえちゃう。AH-MM400は仕事でも使えるし普段使いもできるかな、という印象でしたが、AH-D7200ははっきり言って音が良すぎ。
逆に言えば音楽を楽しむには最上だと思います。
とはいえ、ちょっと使ってみて、多分ヘッドホンアンプ探しからになると思うんですけど、アンプとペアでしばらく使ってみたら、意外と仕事でもいけるかなっていう印象もあります。
●デノンとしてもAH-D7200の音質設計として快適性を重視しました。
たとえばリビングルームでゆっくり1時間、2時間音楽を聴く、ということを想定しているので、「耳に痛くない」音にしてありますし、スピーカーの代わりになるように、音像が少し広めに出るようにしています。
松下:そういえば今回の録音中、デノンのヘッドホンを使用していて面白いことがありました。
レコーディングでは、最初の録音後に演奏家たちに自分たちの演奏と音がどのように録れているか、モニタールームのスピーカーで聴いてもらう機会があります。
でもモニター用スピーカーは音が堅めに出るように作ってあるので、演奏家たちは「俺たちの音はもっといいはずだ!」と不満を漏らすことがしばしばあるんですね。
そこで今回、録音した音をAH-D7200で聴いてもらって「完成したCDはこんな感じになりますよ」と伝えると、「素晴らしい!」と一言。
満足した顔で、モニタールームを立ち去っていきました。もちろん私たちも、自分たちで制作した音源を、最高の状態で聴ける喜びを、このヘッドホンで味わっています。
●今日はどうもありがとうございました。
(Denon Official Blog 編集部F)