SX1 LIMITED EDITION 土方久明氏(オーディオ評論家)・サウンドマネージャー山内対談
デノンHi-Fiシステムの新たなフラッグシップモデルSX1 LIMITED EDITIONが発表されました。このモデルはデノンのサウンドマネージャー山内慎一が、これからのデノンが目指す音を具現化するための開発用リファレンス機を製品化したもの。今回はオーディオ評論家の土方久明氏をデノン試聴室にお招きし、試聴しながら山内と対談していただきました。その様子をお送りします。
ネットワークオーディオやPCオーディオなどネットオーディオ関連に精通する新世代の評論家。Net Audio、アニソンオーディオ、オーディオアクセサリー、DigiFi誌など広く執筆を行う。
SX1 LIMITED EDITIONは完全に僕の予想を超えていました
●わざわざ試聴室までご足労いただき、ありがとうございます。本日はデノンの新たなフラッグシップモデルSX1 LIMITED EDITIONを試聴していただきつつ、サウンドマネージャーの山内と対談していただくという企画です。よろしくお願いします。
土方:よろしくお願いします。
山内:まずSX1 LIMITED EDITIONについて簡単にご紹介いたします。私がサウンドマネージャーに就任したのが2015年でしたが、その時に私がサウンドマネージャーとして今後デノンが目指す音のコンセプトを「Vivid(ビビッド)」と「Spacious(スペーシャス)」という言葉で示しました。そして、それが実際にどういう音であるかを追求するために既存のフラッグシップ機であるSX1をベースとして技術試作機を作り始めました。当初は製品化の予定はありませんでしたが、それがこのたびSX1 LIMITED EDITIONとして製品化されました。
試聴に先立ち、まずデノンマーケティング担当の田中よりSX1 LIMITED について、開発の背景や製品の仕様、音質パーツの詳細などについて詳細な説明が行われました。また土方さんからもいくつかのご質問があり、それにお答えする質疑応答もリラックスした雰囲気で行われました。この時点ですでにLIMITEDのサウンドへの期待を感じられていたようです。そして、いよいよ試聴です!
●ではまずは最初にSX1 LIMITED EDITIONをご試聴ください。
土方:今日はいつも試聴に使う盤を持ってきました。まずこれからお願いします。
アーティスト名:Lyn Stanley
アルバム・タイトル:Moonlight Sessions 1
土方:(試聴して)……これはすごいですね! 今日ここに来るまで、どんなものを試聴するのか、いろいろ調べたり予想もしていましたが、完全にそれを超えていました。このCDは、今まで何度も聴いてきた思い入れのあるCDなんですが、一番良く鳴っています。いま最初の曲を聴きましたが、2曲目、3曲目ってずっと聴いていたくなるような、本当に生き生きとした素晴らしい音だと思います。
山内:ありがとうございます。
●「生き生きとした音」というのは、いわゆるデノンのサウンドフィロソフィーの「ヴィヴィッド」に通じるものでしょうか。
土方:はい。まさにヴィヴィッドです。本当に朗々とアーティストが楽しそうに歌っているのが伝わってくる。再生能力が高いのに決して分析的ではなく、音楽を生き生きと再生することができています。理詰めで作った解像度一辺倒のオーディオでは、こういう音は絶対出ませんね。そういうのは最初の10秒くらいは「すごい解像感だ」と思って喜ぶけど、音楽として楽しく聴けないっていうパターンがありますが、その正反対だと思います。
山内:サウンドマネージャーになった時に、デノンのこれからの音を言葉で言い表すという必要があって、その時最初に考えたのは「生き生きとしたイメージを送り出す」ということでした。これをワールドワイドに通じるように英語化したのが「ヴィヴィッド&スペーシャス」です。ですから土方先生にそのように言っていただけたのはすごく嬉しいです。
土方:再生能力や情報量は当然あった上で、こんなふうにアーティストが生き生きとしているのは素晴らしいです。山内さんが掲げている「ヴィヴィッド&スペーシャス」が伝わってくるし、音楽が生きていますね。以前は音がメロディアスに聴こえればそれが音楽性なのかなと思っていたけど、どんどん性能を上げていった時に、最後に得られる音楽性っていうのがあるんですよ。それが聴こえてきます。
SX1の改良版ではなく、全く別物。とにかくカッコいい音がします。
土方:別の曲を聴いてみていいですか。
アーティスト名:Pat Metheny Group
アルバム・タイトル:オフランプ
●再生したのは1曲目のBarcaroleでしたすね。いかがでしたでしょうか。
土方:とにかく音がカッコいい。ちゃんとグルーヴが伝わってきますし、音場の奥行きも拡がっています。この楽曲なんかは特に、各楽器の空気感とか、空間に対する位置が厳密に作られているんですけど、そこも明確に表現しつつ、とにかく音楽性が素晴らしい。山内さん、これはSX1 LIMITED EDITIONというモデル名ですが、ひょっとして全くの別物なのでしょうか。
山内:はい。開発期間は4年かかっていますし、新規パーツもプリメインアンプ、CDプレーヤーともに400点以上にのぼりましたので、事実上、別物です。ここ30年ぐらいのデノン製品とはまったく違うアプローチで開発し、これまでの限界を大きく超えることができたと思っています。
土方:聴いていて、私もそう思います。オーディオ的な情報量とか解像度は当然すべてクリアしているわけですが、それ以上に感性を揺さぶる音ですよね。国産の老舗の「デノン」というイメージを革新する音だと思います。
●今までの「デノン」の音とは違う、ということでしょうか。
土方:やっぱりデノンと言うと、日本のオーディオを代表する老舗メーカーで、オーディオファンであれば、良くも悪くも音が想像できると思うんです。でも、SX1 LIMITED EDITIONはそういう気持ちで聴いちゃダメですね。
山内:少し前のデノンの音をイメージしていると全く違ったものに聴こえると思います。NEシリーズを聴いている人にはその延長にある音と捉えられるかもしれません。
土方: SX1 LIMITED EDITIONは、見た目がSX1と同じですが、やっていることは本当に過激そのものなんじゃないですか。だから聴き手もSX1のちょっとした改良版、という心構えで聴かないほうがいいと思います。本当に1回この音を聴いてもらいたいですね。
あえて高価なHi-Fiオーディオをやる意義を感じる音です
土方:もう一曲、聴いてみていいですか。
アーティスト名:テイラー・スウィフト
アルバム・タイトル:REPUTATION
土方:(試聴して)キレが最高にいいですね。特にテイラー・スウィフトの「…Ready For it?」この曲を聴いちゃうと、Hi-Fiオーディオをやる意義を感じます。
●それはどういう意味でしょうか。
土方:最近って、安価でもそこそこいい音が出るオーディオ機器って増えてると思うんです。そういうのを聴くと僕でも「これでいいよね」って思っちゃうぐらい。そんな中でSX1 LIMITED EDITIONは高価ですが、支払った価値がちゃんと見いだせるHi-Fiオーディオだと思います。
SX1 LIMITED EDITIONは空気感がサーッと変わって、余韻が空間に広がるところまで音楽として聴かせてくれます。再生能力と音楽性が本当にうまくリンクしているんだと思いますね。単純に解像度が高いだけでは、こういうふうには聞こえないんです。今まで評論家としてあまりこういう言い方はしてきませんでしたが、SX1 LIMITED EDITIONはローン組んででも買うべきだ思います。
明らかに国産の枠を超えた音。国産ブランドを諦めてしまった人たちに聴いてもらいたい
山内:今まで社内外のいろんな方にSX1 LIMITED EDITIONを試聴していただいているのですが、中には「国産の枠を超えている」という方も数名いました。
土方:私も全く同感です。国産のモデルって性能面、安定性、そして信頼性が高いのはオーディオファンなら誰でもわかっています。一方海外のハイエンドモデルは、アフターサービスや信頼性などで、ちょっと心配な面がある。ただ信頼性よりも感性に響く音が出せるオーディオを選ぶとなると、高価な海外モデルに目がいきがちで、オーディオファンの中には「国産は卒業した」という方もいらっしゃいます。でもSX1 LIMITED EDITIONは正直言って海外のハイエンドに負けないと思います。
山内:そう言っていただくと、非常に嬉しいです。
土方:国産のオーディオの見方って、こういう機能が入って、こういう回路が入ってていうのがあると思うんです。でもオーディオは音から入るべきであって、日本のオーディオファイルがここで試されると思います。特に国産のブランドを諦めてしまった人たちにも聴いてもらいたいですね。
●最後に、今日試聴していただいた感想をお聞かせください。
土方:こんないい音を聴かせていただけるなんて、今日は評論家冥利に尽きる試聴でした。本来であればもうちょっと冷静に言わなきゃいけないのかもしれないですが、今日は冷静に言わなくてもいいなって(笑)。SX1 LIMITED EDITIONの音は賛否両論という音ではないです。オーディオが好きな方には、僕が味わった感動を、ぜひ味わって欲しいと思います。
●圧倒的、ということですか。
土方:はい。SX1 LIMITED EDITIONの音の素晴らしさは、好き嫌いが出る「個性」というレベルではないです。そこは突き抜けてますから。僕がオーディオ機器に求めているのは、理論とか値段ではなくて、もっと感性の部分なんです。自分がいいなと思っていた音楽が、魅力的に鳴ってほしいんですが、SX1 LIMITED EDITIONは見事にそういう音を出してくれました。
今日は忘れられない経験のひとつとなりました。ありがとうございました。
●本日はありがとうございました。
(編集部I)