傑作ロードムービーのサウンドトラックでチルアウト
無人島に1枚だけCDを持って行けるとしたらどれを選ぶ? デノン社員に唐突に突きつけられる究極の選択、名付けて「無人島CD」。デノンブログ編集部の新人Sが選んだのは、スライドギターの名手と言われるライ・クーダーが音楽を担当したあの映画のサウンドトラックです。
こんにちは。デノンブログ編集部、新人のSです。
無人島で聴きたいCD…。諸先輩方も書かれているようになかなか難しいお題です。
ひとまず自分がどういう状況で無人島にいるかで、聴きたい曲も変わってくると思うので考えてみました。
最初に考えたのはものすごくサバイバルな無人島ライフです。たとえば海で遭難して奇跡的に助かり、漂着した無人島での生活。となればこれはもう生きて帰れるかどうかも分からない状況で、壮絶サバイバル生活を強いられるのは想像にかたくないわけです。
木をこすり合わせて火を起こしたり、お手製の釣り竿を作って魚を釣ったり、フジツボや海藻を集めたり、雨水を貯めておく装置を作るにいたるまで…全部自分でやらなくちゃいけない。そんな時に聴きたい曲といえば、なんとなく映画「ロッキー」のテーマ曲みたいな、くじけそうになる気持を高めてくれるものかなぁと思うんです。でもそういったサバイバル生活は、映画や小説で楽しむにはいいけれど自分で体験したいとは全く思いません…。
というわけで今回の無人島ライフはゆるゆるとしたバカンス的なもの、「人生の小休止」をテーマにしたいと思います。
場所はですね、バハマ近郊カリブ海のどこかに浮かぶ島です。生活するのに困らない設備が整い、何かあれば本土にいる誰かに電話やメールを1本すればいい。だけどその島には自分以外の人間は誰もいない。美しい花々が咲き、鮮やかな色をまとった鳥たちが歌う楽園です。
昼間はあえて音楽はかけず、明るい陽射しの下で寄せては返す波の音や、風が木々を揺らす音、動物や昆虫の鳴き声といった心地よい自然のノイズに囲まれて、ビーチベッドに寝そべりながらおシャレなカクテルを楽しみます。
音楽が必要になるのは陽が沈むころ。少しだけ涼しくなった風とともに、たったひとりでいる寂しさがそろそろと忍び寄ってくるころです。そんな時にかけたいのが今回選んだCD、映画「パリ、テキサス」(Paris,Texas,)のサウンドトラックです。
Paris, Texas: Original Motion Picture Soundtrack
映画のサウンドトラックですので、まずは簡単に映画をご紹介しておきましょう。この映画はドイツ人の映画監督ヴィム・ヴェンダースが1984年に作った長編映画で、その年のカンヌ国際映画祭で最優秀作品賞のパルム・ドールを受賞しました。ロードムービーの傑作としても知られており、2012年の英Total Film誌が選んだ「史上最高のロードムービー50本」でも第3位にランクインしています。(ちなみに1位は「イージー・ライダー」です)
この映画のサウンドトラックを担当しているのが、アメリカ人のギタリストでミュージシャンのライ・クーダーです。
映画の冒頭は、主人公の男―トラヴィス(ハリー・ディーン・スタントン)がテキサス州の砂漠をさまよい歩いているシーンから始まります。そこに流れるのが、アルバム1曲目の「Paris,Texas」なんですね。疲れ果てて何も映さないトラヴィスの目とボロボロの身なり、乾いた砂漠とライ・クーダーのスライドギターがこれ以上ないほどマッチしていて、冒頭シーンだけでもビール3杯いけます。
ストーリー的には4年間行方不明になっていたトラヴィスが家族と再会し、また別れるまでを描いたシンプルといえばシンプルな話なのですが、広大なアメリカの風景、テキサスからLAまで車で移動しているだけのカット、全てが絵になるというすごさに目が離せず、流れゆく景色に乾いたギターの、弦が弾けてこすれる音が心地良すぎて完全にチルアウトしてしまいます。
スライドギターとわかった風に書いていますが、ギターは全く弾けないし知識もないので、WikipediaやYou Tubeで調べたところによると、ギターを弾く時に金属製もしくはガラス製の筒状のものを指にはめて、弦の上をスライドさせて弾く技法のようですね。ライ・クーダーはその奏法の名手と言われているそうです。
実はライ・クーダーを知ったのはこの映画がはじめてで、ライ・クーダー個人の他の作品はあまり知りません。1999年に同じヴィム・ヴェンダースが撮った「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」という、キューバ音楽のドキュメンタリーフィルムのサウンドも手掛けています。それもすごく良かったので、どうも映像に合わせた映画音楽家としてのライ・クーダーが好きみたいです。どこか語り部的な魅力があるのかなと思います。
「パリ、テキサス」のサントラに話を戻すと、特筆すべきは9曲目の「I Knew These People」です。トラヴィスが元妻のジェーン(ナターシャ・キンスキー)と再会した時の会話がそのまま入っています。すごくせつないシーンで、愛が完全に、永遠に損なわれてしまった日のことを告白した時の曲です。
4年の放浪から帰還し、家族と再会したトラヴィス。4年前はわけもわからず飛び出して、逃げて、さまよった彼が、今度ははっきりとした痛みや喪失を抱えながら再び旅立つことになります。
なぜこのアルバムを選んだかというと、無人島ライフ=人生の小休止とすれば、ひとりでぼんやりと今までのことを振り返りつつ、失ったものを思い出してしんみりして、最終的にはリセットする、そういう音楽が聴きたくなりそうだなと思ったからです。合わせる飲み物はバーボンが良いかもしれません。
結局、映画の話なのか音楽の話なのかよくわからなくなりましたが…。描きながらむちゃくちゃバカンスに行きたくなったSでした。
(編集部S)