レコーディングエンジニア古賀健一氏、村上智広氏、デノンサウンドマスター山内対談「AVC-A110とDenon Home Sound Bar 550でサラウンド作品を聴く」
先日デノンブログにご登場いただいたレコーディングエンジニア古賀健一さんと、Dolby Atmosなどの3D音響作品を数多く手掛けるエンジニア村上智広さんをデノンの試聴室にお招きし、サウンドバーの新製品Denon Home Sound Bar 550、AVアンプのAVC-A110、プリメインアンプのPMA-A110を試聴いただきました。デノンオフィシャルブログではその様子とデノンのサウンドマスター山内を含めた対談をお送りします。
古賀健一 プロフィール
2005年青葉台スタジオに入社。2013年4月、青葉台スタジオとエンジニア契約。2014年6月フリーランスとなり、上野にダビング可能なスタジオをオープン。2019年 Xylomania Studio LLCを設立。バンドだけでなく、和楽器、Jazz、アイドルなどオールジャンルをこなす。レコーディング、ミックスのみならず、新人バンドのサウンドプロデュース、ディレクション、ライブPA、5.1chサラウンドミックス、マスタリングまで手がける。幅広い人脈を生かしミュージシャンのブッキング、レコーディングのトータルコーディネイトも多数行う。
古賀さんがデノンオフィシャルブログに登場いただいたエントリー
村上智広 プロフィール
2003年4月にウエストレイクスタジオ入社。2004年4月にピーズスタジオの立ち上げメンバーとしてポニーキャニオンエンタープライズ入社。DVD/Blu-rayパッケージ、VP、CM、番組などのMAを始め、海外ドラマ・映画の吹替のミキサーを担当。Dolby Atmos、DTS:Xなどの3DサラウンドやDTS Headphone:Xなど、様々なサラウンドミックスも多数行う。
今回試聴で使用したコンテンツのご紹介
今回古賀さん、村上さんにデノンの試聴室でDenon Home Sound Bar 550、AVC-A110を試聴していただくにあたり、Dolby Atmosに対応した以下のコンテンツをご用意いただきました。
アーティスト名:Official髭男dism
タイトル:Universe [CD+Blu-ray Disc]
- 映画『ドラえもん のび太の宇宙小戦争(リトル・スター・ウォーズ)2021』主題歌曲
- 特典映像には9月に配信された初のオンラインライブの映像を収録!
- 特殊スリーブ仕様
- Blu-ray:音声 24bit 48kHz PCM 2ch / 24bit 48kHz Dolby TrueHD (Dolby Atmos)
[CD収録内容]
M1. Universe
M2. Universe-Instrumental-
[LIVE DVD&Blu-ray収録内容]
・Official髭男dism ONLINE LIVE 2020 -Arena Travelers-
- HELLO
- 宿命
- ノーダウト
- パラボラ
- ビンテージ
- Rowan
- 夏模様の猫
- イエスタデイ
- Laughter
- たかがアイラブユー
- 115 万キロのフィルム
- 異端なスター
- 旅は道連れ
- 夕暮れ沿い
- FIRE GROUND
- Stand By You
- Pretender
- I LOVE…
- ラストソング
タイトル:僕らのミニコンサート
「U-NEXT」で2021年4月3日(土)にDolby Atmosで独占配信された銀座・王子ホールで開催された日本を代表するオペラ歌手たちによる「僕らのミニコンサート」。出演者は冨平安希子(S)、宮里直樹(T)、上江隼人(Br)、妻屋秀和(Bs)。東京フィルのコンサートマスター近藤薫を中心とした弦楽五重奏と、松村優吾のピアノ伴奏によるオペラのアリアと重唱の数々が配信された。
「U-NEXT」でVOD配信中。
『新感染半島 ファイナル・ステージ』
新感染半島 ファイナル・ステージ
発売・販売元:ギャガ
©2020 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILMS.All Rights Reserved.
▼DVD公式サイト
2016年、カンヌ国際映画祭でのワールドプレミアで驚愕と絶賛の嵐を巻き起こした『新感染 ファイナル・エクスプレス』。人間を凶暴化させる謎のウイルスが韓国各地で発生、感染者が紛れ込んだ高速鉄道の車内で起きた大パニックを描き、日本をはじめ世界160か国以上で大ヒット!あれから4年、アフターパンデミックの世界が観たいという映画ファンの熱い声に応え、前作で一躍注目の才能となったヨン・サンホ監督の手により、壮大な舞台、怒涛のカーチェイス、逆転に逆転を重ねるストーリー、前作を遥かに凌ぐ、すべてがスケールアップした続編を完成させた。主演には、ハリウッド映画『Tsunami LA(原題)』や是枝裕和監督の初の韓国映画演出となる『ブローカー(仮)』への出演も決まった人気俳優カン・ドンウォン。優れた演技力で称賛される彼が、本作では壮絶なアクションと豊かな感情表現を見事に融合させ、荒れ狂う地獄と化した半島の世界に観る者を引き込む。今、全世界を覆う閉塞感を大きく打ち破る!ノンストップ・サバイバル・アクション!
Denon Home Sound Bar 550は映画にも音楽にもピッタリ
まずに古賀さん、村上さんに試聴いただいたのが、新発売されたデノンサウンドバーのフラッグシップモデル、Denon Home Sound Bar 550です。試聴ソフトを入念に確認したあとで感想をうかがいました。
スペシャルインタビューコンテンツ Sound of the Timesはこちら
Denon Home Sound Bar 550の試聴シーン。より正確なポジションで聴くためにこんなリスニング体勢に
●Denon Home Sound Bar 550を試聴した感想をお聞かせください。
古賀:まずこのサイズでこの音がでるのはやっぱり想像を超えていて、さすがデノンさんだと思います。
Official髭男dismのコンテンツを観て思ったんですが、彼らのファンでしっかりと構築されたホームシアターを持っている人って、少ないと思うんですよ。ですからDenon Home Sound Bar 550のようなサウンドバーをテレビの前に置くのが、一番手の届きやすい環境になるのかと思います。その意味で、これはかなりいいと思いますね。
古賀健一さん
●サラウンドならではの音場が表現されていたのでしょうか。
古賀:今回の試聴機がまだ開発途中のものだったので、Dolby Atmosについては評価できませんが、5.1chサラウンドの再生についてはDenon Home Sound Bar 550の実力は素晴らしいと思いました。まずは手軽なサウンドバーからサラウンドを体験してみる、というのはとてもいいと思います。
Denon Home Sound Bar 550
●Denon Home Sound Bar 550はワイヤレスでDenon Home 150をリアスピーカーとして使うことができ、リアルな4.0chサラウンドも再生できます。そちらも試聴していただきましたがいかがだったでしょうか。
古賀:めちゃくちゃいいです。
Denon Home Sound Bar 550のリア用のスピーカーとしてワイヤレス接続したDenon Home 150を使用。リアルサラウンドが楽しめる。※ファームウェアアップデートによる対応を予定
村上:僕もいいと思いました。僕の印象だと、サラウンドを楽しむならリアのスピーカーは不可欠かなと思います。普段Denon Home 150はベッドルームとかで使っていて、リビングで映画を見る時に持ってきて使うのがいいんじゃないでしょうか。Denon Home 150はコンパクトですが、リアで鳴らしてもサイズを感じさせないぐらい豊かに音を出してくれていました。これならスペースも取らないですし、ワイヤレスでどこにも置けるのでいいと思います。
村上智広さん
AVC-A110でOfficial髭男dismのライブ作品などを試聴
次にデノンAVアンプのフラッグシップモデルAVC-A110を古賀さん、村上さんに試聴していただきました。ここからはデノンのサウンドマスター山内が同席しました。
●最初にOfficial髭男dismのライブのBlu-rayについて聞かせてください。山内さん、いかがでしたか。
山内:鳴らし始めた瞬間にやっぱり「あ、これはいいソフトだな」と感じました。「こういうのが聴けたらいいな」というサウンドが、最初からそのまま出てくる感じで、アンプのセッティングも余計なことしなくていいみたいな、素材の良さみたいなものがありました。そこからさらに設定を突き詰めていくと臨場感がドーンと伝わってきました。こういう良いライブのソフトを味わえる経験ってなかなかないので、仕事以前に、純粋に楽しめるソフトでした。
デノンサウンドマスター山内
アーティスト名:Official髭男dism
タイトル:Universe [CD+Blu-ray Disc]
古賀:このソフトをかけるときセンターチャンネルだけちょっと下げてくださっていましたよね。
山内:そうですね。ボーカルの方の感じが、最初は逆にちょっとセンターを上げたいなと思ったんですけど、他のソースとのセッティングの兼ね合いで別なものを聴いて戻ったりしたら、むしろ下げたほうがいいなというふうに感じまして。
古賀:センターの歌を0.5dB下げてくださったのは、半分狙い通りというか、なるほどって思いました。そこはちょっと考えていたんですよね。歌が届かなかった時に作品としては終わってしまうので、悩んで最後に0.3dB上げたんですけど、ここまで整った最高レベルの再生環境であれば下げるというジャッジが正しいんだなと思いました。
●今回のOfficial髭男dismのBlu-rayはDolby Atmosですが、これほどの臨場感や迫力を体験すると、音楽のライブをサラウンド作品で残すということには意義があると感じました。
古賀:ライブって特に会場が大きくなればなるほどですが、ステージからの直接音と天井や壁からの反射音をたくさん聴いているんですね。クラシックだったらステージの後ろの反射板から反射して、上から音が落ちてきているわけですし、後や横の壁面からの反射もあるじゃないですか。それがリアルだと思うんです。これを再現できるのがサラウンドやイマーシブであって、ライブの雰囲気はサラウンドやイマーシブのほうが圧倒的に再現する力があるんですよ。
村上:それと2chではできない、サラウンドやイマーシブならではの音の演出もあって、たとえば「旅は道連れ」 ではステージ上でカメラがグルグルまわって、それにあわせて楽器の音が視聴者のまわりをグルグルまわるシーンもあります。こういう演出もサラウンドならではだなと思います。
●クラシックのコンテンツである「僕らのミニコンサート」を聴いた時、山内さんがリアリティの感覚が2chとは違うというと言ってましたけど、それはどういう意味ですか。
山内:クラシックをCDで聴く場合、録音風景など細かいところまでは想像しないで聴いていることも多いですが、Dolby Atmosでここまでリアルな王子ホールでの演奏を聴くと、どうしても王子ホールでの演奏会場や音響の記憶と比べたくなっちゃうんですよね、リアルすぎて、聴く感覚が、いる感覚になってしまうというか。それと、ここまでくると部屋や機材、スピーカーを含めた再生環境のさらなる発展など予感させるものがあるように感じます。
AVC-A110の解像度は予想を超えて「ここまで見えるか!」と思うぐらい
●AVC-A110で試聴した音は、実際にミックスしている録音スタジオの音とくらべてどうだったでしょうか。
古賀:素晴らしかったですね。特にフロントの再現の度合いは素晴らしかったです。
●スタジオで完成したマスターの音と実際にプレスされた製品では音に大きな違いはあるのですか。
古賀:結構違いますね。実際僕のスタジオにお客さんが来てOfficial髭男dismのライブを聴かせる時、マスターファイルを聴かせる時と、Blu-rayディスクを聴かせる時とあって、Blu-rayの時ってどうしても少し自分でがっかりするんですよ。でも今日はそのガッカリがなかったです。逆にちゃんと仕上がってるなって自信になりました。
●マスターとBlu-rayディスクではデータはかなり違うのですか。
古賀:マスターファイルは70GB、Dolby Atmosはやっぱりロスレスと言えど7GBぐらいで1/10ぐらいに可逆圧縮がかかります。
●そうするとオーサリングで音が変わる?
古賀:変わります。
村上:オーサリングというかエンコードですね。Official髭男dismのライブも、もともとは別の所でエンコードする予定でしたが、弊社でエンコードしました。
古賀:今回無茶を言って、数曲だけ先に一回、ピーズスタジオでエンコードしてもらっているんです。それで LFE感とかベースマネジメントが入った状態の音質変化を確認し、また調整したんです。多分そこまでやっている人はいないと思いますね。Dolby Atmosで作る以上、メーカーにも喜んでもらえるものを作りたかったですから。
●マスターを数え切れないほど聴いた上で、今日AVC-A110で聴いたディスクは相当良かったですか。
古賀:今まで聴いた中で一番良かったんじゃないかな。僕たちはマスターをお客さんに届けられるわけではないので、Blu-rayでこれだけいい音が出ていたのは嬉しかったです。それはもちろん山内さんがこの試聴室をすごく丁寧に作っていらっしゃるからだと思うんですけど。
●具体的にはAVC-A110のどのあたりが良かったですか。
村上:解像度ですかね。でもS/Nの部分も大きいですよね。
古賀:僕らのよりいいんじゃないですかね。
村上:下手するといいですよ。
●コンシューマーオーディオでもここまで聴こえるのか、という感じですか。
古賀:我々の制作現場って、制作室であってリスニングルームではないのでパソコン自体は別部屋にありますけど、ディスプレイもフェーダーもありますし、ほかにもいろいろな機材が動いていたりするので、ある意味でここまでいい音が出せる環境ではないかもしれません。最良のコンディションの試聴室で、こういう解像度の高いアンプで音を鳴らすと、「うわ、ここまで見えるか」というのは正直僕の予想以上で、ミックスしていて気が引き締まる。これは気が抜けないです。
村上:そうですね。AVC-A110だとこんなに聴こえちゃうんだというのを意識しながらやろうと。僕もちょっと気が引き締まりました。
●そんなに褒めていただけるほどレベルが高いですか!
古賀:だってこれ世界最高峰ですもんね。今の時点で、これ以上の一体型AVアンプは存在しない。ポテンシャルが分かったというか。本当にすごい。
村上:しかもDolby Atmos、DTS:X、Auro-3Dと全部入りだし、すごいです!
プリメインアンプPMA-A110にはアナログオーディオならではの作り手の音楽性を感じる
●最後にややむちゃぶり気味でしたが、急遽予定にはなかったプリメインアンプPMA-A110の試聴を行いました。これはどうしてやりたかったんですか。
古賀:昔のAVアンプの2 ch再生ってガッカリすることが多かったのですが、AVC-A110で2chのCD音源を聴かせてもらって、さすがだなと思いました。でもせっかくCDを聴くならデノンの試聴室という貴重な機会をもらったので、純粋な2chのシステムでも聴かせてもらいたいと思って、無理にお願いをしました。
山内:試聴室に用意があったのがAVC-A110と同じく110周年のアニバーサリーモデルのPMA-A110でしたので、これでCDのソースを試聴していただきました。
●PMA-A110の感想もきかせてください。
PMA-A110
古賀:マルチチャンネルの時の話より、中低域、広がり感、センターがバシッと来た感じも含めてさらに良くなった気がします。実際、CDを聴いているとは思わなかったんですよ。 ハイレゾだって思うくらいのクオリティがCDで出せるんだっていうのは驚きですね。もう僕はCDをほとんど聴かなくなってしまったので。アナログの世界って、開発した側の音楽性が足されてる気がします。アナログレコードってカッティングの時に下の帯域も上の帯域も減衰するじゃないですか、溝が刻めないので。そこを取り戻すためにアナログレコードのための逆カーブ、EQにいろいろなメーカーの思い詰まっているじゃないですか。こう録った。でもこれはマスターには残せない。でもこれを何とか戻したい。それのデジタル版みたいな、CD版みたいなものを感じましたね。
山内:今古賀さんがおっしゃったように、私も単にメーカーのルーチンのなかで音を作っているというだけではなく、こういう立場である自分がやりたい音というか、出したい音、表現され得る世界があって、それを実現するのがモチベーションになっているところもあります。そしてそれがブランドの価値につながっていくように思います。ですからオーディオ機器って工業製品ではありますが、メーカーごとモデルごと、それぞれ味わいの違いがあって、それを分かってもらえるのは私たちにとってはとても嬉しいことです。
古賀:いい音がするだけでなく、きっとダメなものはよく再生されないじゃないですか。ダメなやつがよりダメに聴こえると思うので、同じ技術者として、こういう素晴らしいオーディオ機器で再生されて恥ずかしくないものを作らなきゃいけないと思いました。ノイズ一つ取るにしても。
村上:こういう素晴らしいモデルがあることはすごく嬉しいし、改めて考えさせられた気がしますね。
●最後に今日はサラウンドやDolby Atmosを最もカジュアルな環境と最もハイエンドな環境という極端な2つの方向で聴いていただきました。この2つを聴いた感想を最後にお願いします。
古賀:Denon Home Sound Bar 550については、これでこんな音が出るんだっていう、想像以上の音がしていました。サウンドバーはホームシアターなので映画を観る比率が高いかもしれませんが、デノンはやっぱり音楽系の仕上がりになっていると感じました。
AVC-A110に関しては素晴らしいの一言でしたが、Official髭男dismのファンでなかなかこの環境は揃えられないでしょうから、サウンドバーを入り口にしつつ、その上の世界、AVC-A110などを使ったホームシアターの世界があることを伝えていきたいですし、サウンドバーだけでなく、その上の5.1.2や5.1.4の環境で聴いてほしいという思いは逆に強くなりました。
村上:Dolby Atmosが話題ですが、結局5.1chが基本じゃないですか。でも5.1chを家で聴ける人ってまだかなり少ないはずなんですね。本当に聴いたことがない、体験したことがないという人にサラウンドを体験してもらう入り口としてサウンドバーというのはとてもよくできていると思います。
ですからDenon Home Sound Bar 550などのカジュアルなサウンドバーを入り口にして、途中でDenon Home 150でリアチャンネルも使ってもらいつつ、最終的にイマーシブオーディオのホームシアターに興味を持ってくれるといいなと思いますし、そのきっかけになれば、僕たちが手掛けた3D音響の作品なども、より多く聴いてもらえるのかなと思います。
●今日はありがとうございました。
(編集部I)