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 (平成5年)

「ほとばしるフォルテシモ。その響きの中に、演奏者一人ひとりの微細な魂の明滅までが見える。世界を震撼させ、陶酔させる音。」

モノラルパワーアンプ
POA-S1
標準価格:2,000,000円(税別)

■1993年9月

繊細さが煌く。力強さが溢れる。
表現力の両極が、いま高次元で統合された。
UHCシングルプッシュプル回路。

■大電流型増幅素子UHC-MOSの採用による理想的な回路。

パワーアンプの理想は、最小単位の増幅素子で、出力電流をコントロールすることです。
しかし、前述のように回路のシンプル化と大出力化を両立させるためにはケタはずれの特性をもつ増幅素子の採用が必要となります。
そこで本機では、オーディオ回路に初めて大電流型素子、UHC-MOSを採用することでこの問題を解決しました。
UHC-MOSは、gmがパイポーラトランジスタと同等以上に改善され、一般的に使われているMOS-FETの35個分、パイボーラトランジスタの3個分の電流リニアリティを素子1個で可能にします。
また、いままでのMOS-FETの音質的なメリットも合わせ持っている理想的な素子です。
これにより本機では、世界に先駆け、低インピーダンス負荷対応の大電流に耐えるプレステージクラスのシングルプッシュプル回路完成に成功したのです。

 UHC-MOS

■素子の能力を最大限に引き出すカスコードブートストラップ接続。

大電流が扱え、その変換特性にも優れた理想の素子UHC-MOS。
しかし、低耐電圧と大接合容量という2つの特性上、いままでパワーアンプに採用されることが困難とされてきました。
このUHC-MOS採用を実現し、さらに素子のもつ最大能力を引き出し、群を抜くリニアリティを発揮させた技術。
それが、カスコードブートストラップ接続です。
UHC-MOSにかかる電圧をを常時一定にすることで接合容量の大きさを解決。
さらに、格段に高い温度安定度も実現され、苛酷な使用条件によらずUHC-MOSのもつ音響特性を活かし、繊細かつ濃密に音像の実体感を浮き彫りにすることを可能としました。

■シンプル&ストレートな増幅段構成へ。

電力増幅段の入力特性が不安定な場合、それにともなって発生する歪み成分を抑えるため、電圧増幅段にも過剰なドライブ能力が求められます。
本機では、カスコードブートストラップ回路によって、電力増幅段に理想的な負荷を実現。
安定した性能を得ることが可能となったため、電圧増幅段に負担をかけることなく、電圧増幅段2段、電力増幅段1段のシンプル&ストレートな構成とすることができました。
これにより、UHC-MOSの優れた基本特性を最大限に活かし、色づけのない、無垢な音楽感動を描き出します。

 UHCシングルプッシュプル回路を採用した増幅段

■そして、高純度伝送を究める出力回路構成。

【ソース抵抗、出力コイルの追放】

スピーカーとパワートランジスタを守る出力段の保護回路は、パワーアンプに欠かせないものですが、同時に音質を著しく汚す原因でもあります。
本機では、UHCシングルプッシュプル回路により、安定した動作を実現。
ソース抵抗と出力回路のコイルを大胆に排除し、比類なきソリッドネスと高いフォーカシングを得た瑞々しい響きを実現しています。

【BTL回路】

大出力アンプを構成する場合に問題となるのは、電圧増幅段の高い印加電圧です。
これにより、採用するデバイスが限定されるほか、シャーシ内のノイズ特性も大きくなりがちです。
本機では、BTL回路によって、低い電源電圧で大出力を得られるため、音響用の優れたデバイスの採用が可能となりました。
また、動作基準となるアース回路とスピーカー出力電流を完全分離。
音の定位を寸分たがわず整合し、虚空に消える弦楽の響きをありありと描き出します。

■オーディオの原点へ。感動の原点へ。

8Ω負荷時で250W、4Ω負荷時で500W、2Ω負荷時で1,000Wの定格出力を達成。
さらに1Ω負荷時でもシングルプッシュプル回路で初めて1,400Wをギャランテイ。
この数値はすべて、あらゆるスピーカーを繊細にそして力強く鳴らすことの証しです。
スピーカーを選ばず、またいかなるダイナミックレンジをも問わない底力が描く緻密な響音。
思わず声をあげたくなるローレベルでの音楽的実体感。体温の気配。意志を持つ静寂。
いままでのデータ解析では表しきれない物理量を越えた何か・・・。
人間の感覚だけがキャッチできる音楽の真実が本機によって再生し得た、そう私たちは確信しています。


独創のパワーサプライ、比類なき振動抑止構造。
一切の妥協を排した回路とメカニズムが、まだ見知らぬ音楽の眩暈へと導く。

■ゆとりある電力供給が生む音楽の細緻。2個並列接続の大型トロイダルトランス。

旋律とリズムに込められた深い感情の響出は、品位の高いパワークオリティをもって初めて可能となります。
本機では、大型トロイダルトランスを2個並列接続することで、トランス自身のインピーダンスをさらに半減し、電流供給能力を高めています。
また、振動抑止のアプローチも極限まで徹底化。
従来のトロイダルトランスはピッチでワイヤーを固定し、さらにカバーをかぶせて振動低減を図ってきましたが、これによりピッチ全体がカバー内部で大きな共振を起こす皮肉な結果を招いています。
そこで本機では、上部のケースをはずすオープンタイプのトロイダルトランスを開発、この内部共振を徹底排除しています。
さらに電圧増幅段用の専用電源を独立して装備。
同一トランスによって生じる電力増幅段と電圧増幅段との電源干渉を排除することで、どこまでも無垢な信号伝送を実現し、音楽に込められたニュアンスの一粒一粒を鮮明に描きます。

■低損失化と高速性に磨きをかけたUHCパワーサプライ回路。

清冽、豊鐃、静謐、荘厳・・・。音楽の千変万化の移ろいを描き切るためには、大電流をより正確に制御する出力段と、大電流を低損失で負荷に供給する電源が求められます。
UHCパワーサプライ回路では、いままで検討されることの少なかった整流回路の整流素子に着目しました。
整流素子には現在大半の製品にシリコンダイオードが使われていますが、ここに大電流素子UHC-MOSを使うことにより、大幅にロス電圧を減らすことが可能となりました。
UHC-MOSの電流損失は、ショットキー・バリア・ダイオードの約40%、一般シリコン・ダイオードの約20%(10A時)に相当し、240Aもの電流供給が可能です。
駆け昇るフォルティシモから、溶けるようなピアニッシモまでつぶさに、そして闊達に再生します。

■音楽信号の無垢を守り切るために。lNVERTED SIGMA BALANCE回路

その優れた伝送性能でハイエンドオーディオで主流となっているバランス伝送。
本機では、バランス入力に対しては、いっさいバランス変換を行なわず、パワーアンプに直接入力できるバランスダイレクト設計となっています。
また、ノーマル入力に対してはDENON独自のINVERTED SIGMA BALANCE回路をさらに全段ディスクリート構成とし、低インピーダンス、高いSN比を実現し、音の純度をさらに厳格に磨き上げました。

■振動抑止アプローチの新たなる次元。ダイレクトメカニカルグランド構造。

パワーアンプの音質阻害の宿命的要因として、振動する各部品の相互干渉があげられます。
とくに大質量のパワートランスやパワーラジエーターによる振動は深刻な影響をもたらします。
一般的にいままで行われているアプローチは、シャーシの重量を大きくし、それによって干渉を低減するものでした。
しかし、多くのハイエンドオーディオではシャーシと振動物の重量比が1:1に近い割合であり、その大きな効果は期待できません。
本機では、出力段に使用している大型トロイダルトランス、パワーラジエーターの完全なる振動抑止を実現するため、シャーシの大重量化とともに、ダイレクトメカニカルグランド構造を採用しました。
その原理は、振動の基準点にあります。
下から支えられていない部分に振動を与えると、すべての部分に振動が波及します。
しかし、支えられている部分にバイブレーションを与えた場合にはフットの部分が振動の基準点になりますから、そこの点では原理的に振動はなくなります。
この原理を用い、大型トロイダルトランス2個とヒートシンクをフットに直接固定。
他の周辺回路と共通の振動経路を持たないので、セット内のほかの部分に与える影響を徹底排除することが可能になりました。
さらに周辺回路に関しては、取り付けベース部分に十分な重量を持たせることによって、相互間の干渉をなくしています。
また、シャーシ、ラジエーターともに、非磁性体の砂型鋳物を採用。
振動の減衰が速いほか、トランスやコンデンサなどによる電磁歪みの発生もなく、さらに音楽の生命感を清澄に再生します。

 ダイレクトメカニカルグランド構造

 下部より見たダイレクトメカニカルグランド構造

 堅牢な非磁性体砂型鋳物シャーシ


■POA-S1の主な仕様

定格出力

  • 250W(負荷8Ω、20Hz〜20kHz、T.H.D:0.05%)
  • 500W(負荷4Ω、1kHz、T.H.D:0.5%)
  • 1,000W(負荷2Ω、1kHz、T.H.D:0.5%)
  • 1,400W(負荷1Ω、1kHz、T.H.D:0.5%)

全高調波ひずみ率

  • 0.008%(20Hz〜20kHz、負荷8Ω、定格出力-3dB)

混変調ひずみ率

  • 0.003%以下(7kHz/60Hz=1/4、負荷8Ω、定格出力相当振幅出力時)

出力帯域幅

  • 5kHz〜50kHz(T.H.D:0.05%、負荷8Ω、定格出力-3dB)

周波数特性

  • 1Hz〜300kHz(負荷8Ω、定格出力-3dB)

入力感度

  • NORMAL・・・・・1V
  • BALANCED・・・1V ・入力インピーダンス
  • NORMAL・・・・・47kΩ
  • BALANCED・・・47kΩ

出力インピーダンス

  • 0.05Ω(1kHz)

SN比(Aカーブウェイティング)

  • NORMAL・・・・・110dB
  • BALANCED・・・120dB

スピーカー出力端子

  • 1Ω以上

電源

  • AC100V、50/60Hz

消費電力

  • 1,100W

寸法

  • 483(W)×237.5(H)×683.5(D)mm(つまみ類、脚の高さ含む)

重量

  • 79kg

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