不器用な人間臭さを堪能できる一枚
無人島に1枚だけCDを持って行けるとしたらどれを選ぶ? 入社1年目のソフトウェアエンジニアのIが選んだのは、 ロック史上に残る、あの名盤でした。
第8回の無人島CDを担当する、ソフトウェアエンジニアのIです。
私の音楽鑑賞といえば、大量にストックされた楽曲データの中から極力その日の気分に合ったアルバムを聴くというスタイルです。
高校時代、ラジオや雑誌等で必死に情報を集めて、CDを探しに出かけていたことを考えると、贅沢で恵まれた状況ですね。
今はその反面選択の自由度が大幅に増えたぶん「自分がどういう音楽を求めているのか」という心の声が聞こえづらくなったようにも感じています。
そういう意味で、この企画は「自分が欲している音楽を真剣に絞り込む」良い機会でした。
とはいえ、これまでこの企画にチャレンジなさった方々とご同様、
一筋縄ではいかずこの記事を書き上げるのは思った以上に大変な作業となりました(笑)。
さて、やはり、無人島というシチュエーションは「自分一人しかいない環境である」ことがネックとなります。
そんなとき、音楽に求める要素は人それぞれ・・・それがこの企画のおもしろいところ。
では、私の場合はどうでしょうか?
私は、無人島で完全に一人になったとき(この無人島は期間限定なのか、などは置いておきましょう)、
音楽に対して高度なテクニックやタイトなリズムではなく「素直な人間臭さ」を求めることでしょう。
そんな要求にピッタリの作品として、ビーチ・ボーイズの「ペットサウンズ」を挙げさせていただきます。
このアルバムは、リーダーであるブライアン・ウィルソンが頭に描いた緻密で繊細な音楽を、
腕のいいスタジオミュージシャンを贅沢に起用して具現化したといわれており、
発表されて半世紀ほど経つ現在でも名盤として挙げられる作品です。
私と本作との出会いは、大学1年生のころだったと思います。
当時ビーチ・ボーイズに対して、軽快なRock ’n’ Rollを演奏するバンドくらいの認識しかなかった私にとって、
このコンセプト・アルバムは衝撃的でした。
転調が多いのに不思議とまとまりがある楽曲、複雑なコーラスワーク、一貫した愛情がテーマの歌詞。
これらの要素にとりつかれた私は、すぐに”ペットサウンズ中毒者”になってしまいました。
前述の通り、ペットサウンズの魅力は、何といってもその人間臭さだと思っています。
聴く度に、まるで映画を観ているように、本を読んでいるように、不思議な感情移入をさせてくれます。
音楽でこのような感情を抱かせてくれる作品は、そんなに多くありません。
おそらく、私がブライアン・ウィルソンという、不器用で芯がある人柄(少なくとも、この作品からはそう読み取れる)に共感しているのでしょう。
聴き入ったあとは、いつも優しい余韻に浸ることができます。
最後に、このアルバムでの私にとってのベストソングを紹介し、締めくくることとします。
8曲目(レコードだとB面1曲目)に収録されている「God Only Knows」。
この曲は、離れて暮らす大切な人への想いを、ポール・マッカートニーも絶賛している美しいメロディーで歌い上げています。
「君がいなくて僕がどうなるかは、神さまだけが知っている」と繰り返し歌われるこの曲から、
無人島で大切な人と離れてしまった自分を容易に想像できるような気がします。
アーティスト名:ビーチ・ボーイズ
アルバム・タイトル:「ペットサウンズ」(モノ&ステレオ)
ユニバーサルミュージック