AVR-X4100W 開発者インタビュー Part.1
話題のDolby Atmos対応AVアンプAVR-X4100Wが発表となりました。HDMI2.0、DSDファイル再生、Wi-Fi & Bluetoothと機能満載ですが、スペックや数値からは見えにくい音質の面でも大幅にグレードアップ。今回は音へのこだわりについて、開発チームの渡辺敬太にインタビューしました。
話題のDolby Atmosに対応したデノンAVアンプのニューモデルAVR-X4100Wが発表となりました。
製品の概要はAVR-X4100Wプレスリリースをご覧いただくとして、
ブログではAVR-X4100Wについて、スペックからは見えてこないこだわりや開発時のエピソードなどを、開発チームの渡辺敬太が語ります。
ディーアンドエムブランドグループジャパン
CSBUデザインセンター渡辺 敬太
■まずAVR-X4100Wの概容を教えてください。
渡辺:AVR-X4100Wは現行製品であるAVR-X4000の後継となるモデルです。
大きな特長はDolby Atmos、HDMI2.0、DSDファイル再生、Wi-FiとBluetoothに対応など、様々な新機能が搭載されたことです。
現行のAVR-X4000はデノンAVRシリーズの中堅モデルであり、お客さまからも非常に高く評価されているベストセラーモデルです。
AVR-X4000がヒットした理由を考えると、高機能でコストパフォーマンスが高いのはもちろんですが、
やはりデノンらしい、Hi-Fiで培った音質設計が高い評価を得ているのだと思います。
ですからAVR-X4100Wも新機能の搭載に加え、ピュアオーディオベースの音質設計をより一層推し進める方向で開発されました。
7.2ch AV サラウンドレシーバー AVR-X4100W
希望小売価格:150,000 円(税抜価格)
発売時期:2014年9月中旬
■AVR-X4100Wの音の特長はどんなところでしょうか。
渡辺:これはデノンのAVR共通のことなのですが、AVアンプもHi-Fiアンプも全く同じフィロソフィーで音作りを行っています。
そのフィロソフィーとは、まず 音像、音場がブレないこと。
そして演奏家や制作者が音楽や映画に込めた感情などを再現できるようにエネルギーロスのないこと、
そして聴き疲れしない心地よい音質であること。
この3つはHi-Fiのアンプ同様にデノンのAVRシリーズ全体にも一貫していると言えるでしょう。
そしてAVR-X4100Wで目指したことは、AVR-X4000がもつ「力強さと繊細さ」をさらにブラッシュアップさせることです。
■具体的には設計上どんな点を改善したのでしょうか。
渡辺:パワーアンプの初段に特性の揃ったノイズが少ないタイプのデュアルトランジスタを採用したことや、
大電流が流れる電源ラインの最適化とグランドの基準点変更によってチャンネル毎の相互干渉の低減を行いました。
こうした音質改良のためのアプローチはHi-Fiアンプの設計と変わりません。
ただHi-Fiアンプのように2チャンネルだけではありません。AVR-X4100Wは7.2チャンネルなので7つのアンプを積んでいます。
これらのアンプを全チャンネルディスクリートにし、パーツも回路も揃えて、同一レスポンス、同一クオリティとなるように設計しました。
フロントもしくはセンターだけ回路を変えているという考えもありますが、
デノンとしては全てのチャンネルを同じ条件で鳴らせるのがAVアンプであると考えていますので、その部分にも注力しています。
■音質向上のためには、カタログスペックには現れないような地道な改善点も多々あるのではないでしょうか。
渡辺:そうなんです。AVアンプの場合、デノンに限らず各社どうしても新機能の訴求が前面に出てきますが、
音質の向上に関しては地道で手間がかかる改善を積み重ねていくしかありません。
たとえばデノンのアンプ設計の考え方に「ダイレクト・メカニカル・グラウンド・コンストラクション」というものがあります。
音質劣化の大きな原因となる振動をできるだけ防止するために、たとえばトランスをフットの真上に配置する、
あるいはシャーシに剛性を持たせる、といったことで外部からの振動エネルギーを遮断するという「防振性」についての考え方です。
AVR-X4100Wでは、フットの構造を改善しました。
オーディオにとって、実はフットは筐体を支える非常に大事なパーツです。
この写真で上のものがAVR-X4000のフットで、下のものがAVR-X4100Wのフットです。
どちらもビスから外して上から見ている状態です。
これ、一見しただけでリブの厚さや数が増えているのがおわかりいただけると思います。
リブが増えて厚くなり、重さも倍以上になっています。それによって本体をガッシリと支えています。
さらにリブで共振が起こらないように、リブの形を非対称にしているんです。
中心から見ると、内側の2つの同心円が異なる形状の楕円になっているのがわかるでしょうか。
これによって溝の形が変わるので共振共鳴がなくなります。
このフットも形状の非対称具合や、設置する面のゴムの素材も含め、なんど作ったかわからないぐらいたくさん試作しました。
また製造上できてしまうプラスチックの出っ張りも音に影響することが分かって、それを改善したり、いろんな試行錯誤を行っています。
これによって 音像の定位がしっかりし、音がフラフラすることなく安定するようになりました。
ビスを外し、さらにフットを外さないと見えない部分で、通常お客さまが目にすることはまずない部分ですが、
こうした見えないところでも、音質向上のために工夫を凝らしています。
見えないといえば、アンプ内部で機械的な振動源となるトランスですが、今までは剛性の高いシャーシに直にネジ留めされていました。
ここもダイレクト・メカニカル・グラウンド・コンストラクションの考え方で、今回専用の金属プレートをトランスの下に追加しました。
シャーシを補強することで、剛性がさらに高まり、制振性も向上しました。
これらは安定した音場の表現に大きく寄与していると言えるでしょう。
■本当に見えない部分での改善がかなりあるのがわかりました。
そんな細かい点まで工夫が凝らされたAVR-4100Wですが、その結果、音質はどのように向上したのでしょうか。
渡辺:音は今までより一回りも、二回りも良くなったと思っています。
具体的に言えば、演奏している音場の安定化。それから音場の広がり。
そして低域のエネルギーが今までよりも感じられると思います。
■そういった音楽的な音作りというのは、音を測定器で計測するだけではできないことですよね。
渡辺:まったくその通りです。デノンでは音質の検証について、まずは設計上要求している性能や数値をクリアした上で、
そこからは「耳」による検証を徹底的に行っています。
音楽を聴く機械なので、デノンではこの音作りのプロセスを非常に重要視しています。
実際に音楽がどう聞こえるのか、演奏者や作り手の意図が再現できているのか。
そのあたりに注目して音質をどんどん詰めていきます。
■今回の音作りでリファレンスとして使ったのはどんなアルバムでしたか。
渡辺:デノンでは音質検討用に使う音源をたくさん持っており、さまざまな音源を使っていろんな角度から音質を検証しています。
映画と音楽それぞれで検証を行うのですが、なかでも今回、AVR-X4100Wでよく私が聴いたのは
アマンダ・ブレッカーの「ブロッサム」というアルバムでした。
アーティスト名:アマンダ・ブレッカー
アルバム・タイトル:ブロッサム
ユニバーサルミュージック
■このアルバムで特にチェックしたのはどんな部分でしょうか。
渡辺:ジャズに近いジャンルのボーカルものの音源なんですが、メインの女性ボーカルの艶、響き、
サウンドステージ、そしてドラムのキックのエネルギー感と低域の沈み込みです。
そのあたりがしっかり表現できているかを確認するために、このアルバムを何度も聴きました。
■ありがとうございました。
次回はAVR-X4100Wの機能面、特にDolby Atmosを中心にお話しいただきたいと思います。
AVR-X4100W開発者インタビューは、Part2に続きます。
AVR-X4100Wプレスリリースはこちらです。
(Denon Official Blog 編集部I)