アカデミー賞作品『セッション』の鬼音楽教師は、まさに怪演!
アカデミー賞®で作品賞を含む5部門に堂々ノミネートを受け、助演男優賞、録音賞、編集賞の3冠に輝いた音楽映画『セッション』をご紹介します。「ラスト9分19秒の衝撃は圧巻にしてもはや痛快!」は本当です。
ジャンルを問わずに編集部が選んだ逸品をリコメンドするコーナー「Editors Choice」。
今回はアカデミー賞®で作品賞を含む5部門に堂々ノミネートを受け、助演男優賞、録音賞、編集賞の3冠に輝いた音楽映画『セッション』をご紹介します。
『セッション』
4月17日(金)TOHOシネマズ 新宿 他 全国順次ロードショー
(C)2013 WHIPLASH, LLC All Rights Reserved.
配給:ギャガ
ブラックミュージック好きならチェスレコードを題材とした『キャデラック・レコード』やレイ・チャールズの伝記映画『Ray/レイ』、また最近ではクリント・イーストウッドが監督したフランキー・バリの伝記映画『ジャージーボーイズ』など、ここ数年は名作と言える音楽映画が多く、音楽好き映画ファンとしては至福の至りであります。
そして今回編集部が自信を持ってオススメしたいのが、つい先頃発表されたアカデミー賞でなんと作品賞含む5部門ノミネートされ、助演男優賞、録音賞、編集賞を受賞したのが『セッション』です。
4月ロードショウの映画ですので、ネタバレしない程度となりますが、まずはあらすじをご紹介すると、こんな感じです。
「名門音楽大学に入学したドラマーのニーマンは、伝説の鬼教師フレッチャーのバンドにスカウトされる。
彼に認められれば、偉大な音楽家になるという夢と野心は叶ったも同然と喜ぶニーマン。
だが、ニーマンを待っていたのは、天才を生み出すことにとりつかれ、0.1秒のテンポのズレも許さない、異常なまでの完璧さを求めるフレッチャーの狂気のレッスンだった。
さらにフレッチャーは精神を鍛えるために様々な心理的ワナを仕掛けて、ニーマンを追いつめる。
恋人、家族、人生さえも投げ打ち、フレッチャーの目指す極みへと這い上がろうとするニーマン。
果たしてフレッチャーはニーマンを栄光へと導くのか、それとも叩きつぶすのか─?」
試写で見たのですが、この作品で最も印象的なのは、とんでもなく怖ろしい鬼教師フレッチャーを演ずるJ・K・シモンズの演技でした。
さすがアカデミー賞助演男優賞を受賞しただけあって「怪演」という言葉がまさにピッタリ。
『セッション』のウェブサイトの予告編でも見ることができますが、なんと自分のテンポとあわないからといってドラマーにイスを投げる! さらにはテンポに合わせてビンタを喰らわし、このビンタがテンポにあっているかどうかと怒鳴る。
実在したら即刻アウトな先生ですが、学校を卒業してすでに何十年も経つ私でも、背筋が凍りました。
ちょっと古いですがスタンリー・キューブリック監督の名作『フルメタル・ジャケット』の鬼教師や『羊たちの沈黙』などのハンニバル・レクターの狂気を連想させる名演技です。
特に後半は底知れぬ恐ろしさがありますのでご注意を!
また主役のアンドリュー・ニーマンも、名門音楽大学に入学した、ちょっとか細い感じのジャズオタク(なぜかアメリカのドラマーはみんなバディ・リッチが好きなんだな)をリアルに演じていますし、ほかの役者さんたちも、本当にニューヨークに普通にいる人たちのようなリアリティある演技をしていて素晴らしかった。
だからこそ、フレッチャーの異常さが際立つのでしょう。
さらに面白いのがストーリーの展開がまったく読めないところで、映画を結構見慣れているつもりの私でも、眩暈がしたぐらい。
なんども試写室で口をあんぐり開けてしまいました。
このあたりは、監督・脚本を手掛けたデイミアン・チャゼル、この映画が初の長編映画となり、撮影当時28歳で全く無名だったという驚異の新人監督の手腕といえるでしょう。
内容はもちろんかけませんが、この映画の売り文句である「ラスト9分19秒の衝撃は圧巻にしてもはや痛快!」は、掛け値無しに同意します。
私見では、ラスト9分19秒の、最後の最後の数秒こそが、このミステリー映画にもアクション映画にも青春映画にも見える『セッション』が、全くの音楽映画であることを示すものであると思っています。
ちなみに「録音賞」の受賞もうなずけるところ。
主人公が演奏するドラムの音は非常に素晴らしいものでした。
しかも映画のストーリー上、響きが少ない自室での練習、響きの多い学校の廊下の練習室、音楽学校の教室のリハーサル室、そしてコンサートホールなど、様々な場所でのドラムの音が、それぞれリアルに音場まで再現されています。
まだ公開前で気が早い話ではありますが、Blu-rayが発売された暁には、自宅のホームシアターで同じ場所を何度も再生したり、他のシーンと比較したりしながら、心ゆくまで音場感の違いを体験してみたいと思っています。
(Denon Official Blog 編集部I)