ブライアン・ウィルソンの知られざる真実を描いた映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』
夏と言えばビーチボーイズ!そのビーチボーイズの多くのヒット曲のソングライティングを担っていたブライアン・ウィルソンの伝記映画「ラブ・アンド・マーシー」をご紹介します。
夏にピッタリの音楽といえば、ビーチボーイズを挙げる人も多いのではないでしょうか。
「サーフィンU.S.A.」や「カリフォルニア・ガールズ」など、これからの季節にピッタリです。
そのビーチボーイズの多くのヒット曲のソングライティングを担い、名作『ペット・サウンズ』を作り上げた天才、ブライアン・ウィルソンの伝記映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』をご紹介します。
『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』
8/1(土)角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
出演:ジョン・キューザック、ポール・ダノ、エリザベス・バンクス、ポール・ジアマッティ
監督・製作:ビル・ポーラッド
公式サイト:loveandmercy-movie.jp
ビーチボーイズというと、夏、サーフィン、元気なイメージの曲が多いように思いますが、実はビーチボーイズでサーフィンするメンバーはごくわずか(たぶんひとりだけ)だったそうです。
ビーチボーイズで特徴的なのはウェストコーストらしい爽やかで乾いたサウンド、そして美しいコーラス。
実はコーラスが美しいのは当然でブライアン・ウィルソン、デニス・ウィルソン、カール・ウィルソンというウィルソン3兄弟と従兄弟のマイク・ラヴが中心となって結成されたバンドだからなんです。
そしてソングライティングの多くを手がけたのがブライアン兄弟の長兄、ブライアン・ウィルソンでした。
初期のヒット曲こそシンプルなものでしたが、ブライアン・ウィルソンはより高度な音楽性を志向していき、彼がひとりで作り上げ1966年5月にリリースされた『ペット・サウンズ』は非常に複雑で美しく、現在はロックの名盤中の名盤、最高傑作という評価も高いアルバムとなりました(ただしイギリスでは好評でしたがアメリカでは発売当時は難解すぎると不評でした)。
このアルバムはポール・マッカートニーも絶賛しています。
ちなみに調べてみたところ、ブライアン・ウィルソンは1942年6月20日生まれでポール・マッカートニーは1942年6月18日生まれ。
たった2日しか違わないのには驚きました。
2人の天才がほとんど同じ時に生まれているのも不思議な感じがします。
またビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』は1967年6月に発売されましたから『ペット・サウンズ』のちょうど一年後に発売されたことになります。
ビートルズもきっと、ビーチボーイズをライバル視していたのではないでしょうか。
ビートルズのホワイトアルバムの冒頭の『バック・イン・ザ・USSR』はそのままビーチボーイズのパロディともいうべき曲ですからね。
映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』は、そんな天才、ブライアン・ウィルソン60年代の活躍ぶりと、その後の精神的な変調、そしてそこからの復活(80年代)を描いた映画です。
若くして成功を収めながらも、音楽的な高みをめざしつづけた天才であり、またヒットを期待されているプレッシャー、メンバーとの確執やファンへの対応の苦悩はすさまじいものであったんだろう、ということが映画を通じてわかります。
今回この原稿を書くにあたって久々に『ペット・サウンズ』や「グッド・バイブレーション」を聴き直してみましたが、いや、驚きました。
メロディーやコーラスが美しいので今まではポップスとしてすんなりと聴いていましたが、そのサウンドの凝っていること、凝っていること。
『ペット・サウンズ』で最も有名な曲「ゴッド・オンリー・ノウズ」もこんなに構成が複雑だったのか、と改めて驚きましたし、実際にレコーディングに参加した女性ベーシストのキャロル・ケイ役の女優さんが映画でも「このベースラインでいいの?」とブライアン・ウィルソンに尋ねるシーンがありますが、たしかに当時のポップスでは考えられないようなかなり斬新なベースラインが使われています。
また『グッド・バイブレーション』のサビのコーラスのバックで三連符を刻んでいるのも、よく聴いてみるとチェロなんですが、これがあり得ないぐらい激しい暴力的な音で弾かれています。
映画ではこのあたりのいきさつも描かれており、『ペット・サウンズ』や幻の名盤と言われた『スマイル』(1967年に発表する予定だったが、ブライアンの精神状態の悪化で未完成となったアルバム)のレコーディングの様子が、まるでその場にいるようにリアルに追体験できます。
ここもポップスファンなら見逃せないところでしょう。
映画では、プレッシャーに苛まれて薬物中毒に陥り、精神的に病んでしまった70年代は敢えて描かず、そこから復調しソロアルバムを制作していく80年代の様子が描かれていますが、60年のブライアン・ウィルソンはポール・ダノが、80年代のブライアン・ウィルソンはジョン・キューザックが演じ分けている点も面白いところでしょう。
ちなみにこの映画のタイトルである「ラブ&マーシー」は
I Just Wasn’t Made for These Times(邦題 駄目な僕 )に収録されている曲のタイトルで、以前から私は好きな曲でした。
この曲は実にシンプルで優しく、ビーチボーイズらしい美しいコーラスが配された名曲なんですが、あんなに大変なことを乗り越えて到達したからこそできた曲なんだなと思うと、非常に奥深いものを感じます。
すべての音楽ファン、ポップスファンにお勧めしたい映画です。
ぜひ映画館で、そしてBlu-ray化された暁には、ぜひご自宅のホームシアターで繰り返し見ていただきたいと思います。
(Denon Official Blog 編集部 I)