DCD-SX11開発者インタビュー PART1
フラッグッシップモデルDCD-SX1に続く新世代のスーパーオーディオCDプレーヤー、DCD-SX11が発売となりました。その設計思想やコンセプトについて、2人の開発者にインタビューしました。
フラッグッシップモデルDCD-SX1に続く新世代のスーパーオーディオCDプレーヤー、DCD-SX11が発売となりました。
その設計思想やコンセプトについて、2人の開発者にインタビューしました。
プリメインアンプ
DCD-SX11
360,000 円(税抜) NEW
製品の詳しい紹介につきましてはこちらをご覧ください。
DCD-SX11設計担当
グローバル プロダクト ディベロップメント プロダクト エンジニアリング
出口昌利
DCD-SX11設計担当
グローバル プロダクト ディベロップメント ソフトウェア エンジニアリング
小柳智久
■まずDCD-SX11についてご紹介ください。
出口:この価格帯のモデルとしては2005年に発売されたDCD-SA11の後継のモデルとなります。
位置づけとしてはフラッグシップモデルであるDCD-SX1の流れを汲んだ、フラッグシップの次に位置するスーパーオーディオCDプレーヤーです。
11.2MHz DSDや384kHz/32bit PCMの再生に対応したUSB-DACを搭載していますし、5.6MHz DSDや192kHz/24bit PCMの音楽ファイルが書き込んであるデータディスクの再生も行えます。
■開発コンセプトを教えてください。
出口:まずは先代のモデルDCD-SA11をはるかに凌駕する音質を目指す、ということです。
ただ、DCD-SA11は純粋なディスクプレーヤーだったのですが、DCD-SX11は、USB-DAC機能を内蔵し、USB端子も持ち、さらに外部からのデジタル入力も搭載しています。
アナログオーディオからするとデジタルはノイズ源になりますから、音質的には不利な状況に置かれます。
とはいえ、ハイレゾ時代の要請もありますから、DCD-SX11では最新機能はすべて盛り込みつつ、音質的には過去のモデルを凌駕する、ということをコンセプトとしました。
▲DCD-SX11リアパネル、USB端子やデジタル入力端子が装備されている。
■開発はどのように進んでいったのでしょうか。
出口:通例であれば製品を開発する際にはベースとする過去モデルがあるわけですが、
DCD-SX11は先代モデルが10年以上の製品だったこともあり、今回はゼロからのスタートとなりました。
フラッグシップモデルであるDCD-SX1のソリューションも様々な理由から、ほとんど使用しませんでした。
小柳: ハードウェアだけでなくソフトウェアもゼロスタートでしたからとても大変でした。
ソフトウェアにはフロントエンドとバックエンドがあります。
フロントエンドはディスクを回すもの、バックエンドはディスクから取り出した情報をどう処理していくか、というものですが、これを両方とも白紙の状態からやるというのは、私としても初めての経験となりました。
出口:そういった経緯もあったので、試作も通常なら「設計試作」からですが、DCD-SX11の開発では「先行試作」というものから始めました。
先行試作とはソフトウェアを載せて走らせるための一枚の基板で、とりあえず動作はする、というものです。
ソフト開発に時間がかかることはわかっていましたので、そのために設計試作の前に、先行試作からはじめました。
■ゼロベースというと、開発には相当時間がかかったのではないでしょうか。
出口:昨年の9月頃に先行試作の回路図を設計し始めましたので、開発期間としてはまるまる1年かかっています。
■これだけのもが「1年」なら短期間で開発できた、ともいえるのではないでしょうか?
出口:(笑)確かに短い期間ですが、やった、としか言いようがありません。
ただし開発期間は関わる人数にも左右されますので。
そういう意味では今回は希に見る人数の多さで、かなり工数がかかっています。
■白紙からということは、逆に言えば過去のしがらみに縛られない良さもあるのでしょうか。
出口:完全に新しいソフトウェアですから、今後のモデルにも流用できるように考えました。
そういう意味で今後の指針となるソフトウェアになったと思います。
この一台で終わってしまってはもったいないクオリティですしね。
小柳:ソフトは基本的にはユーザーインターフェースなので、操作性は今までとの連続性を考えなければなりません。
そこは注意しましたが、とはいえ例えばスイッチを連打された時にもスムーズに動くとか、細かい点で今までよりも改善可能な点は改善しました。
■USB-DACもDCD-SX1とは違うものを搭載したと聞いています。
出口:入力に関しては最新のフォーマットに対応したかったので、新しいUSB-DACとしました。
DSD11.2MHz、PCM384kHz、32bitをサポートしています。
またAdvanced AL32 ProcessingもPCM384kHzに対応し、同時に、演算も一部見直しを行っています。
■肝心の音については、DCD-SX11には新しい方向性はあるのでしょうか。
出口:ともするとDCD-SX1の弟モデルや下位機種に見られがちですが、設計サイドの意気込みとしては「フラッグシップを超えたい」というものはありました。
ただデノンのHi-Fi製品は、デバイスが変わろうが、ほかの何かが変わろうが、デノンの音がしなくてはなりません。
ですから方向性という意味では変わりません。
■ではDCD-SX1と比較するとDCD-SX11は音質面でどんな特徴があるのでしょうか。
出口:DCD-SX1はDACを2基搭載しており、差動出力させるという非常に贅沢な方式となっており、どっしりした押し出し感、アタック感、パワー感があります。
一方今回のDCD-SX11は1DACですので、同じ方向性でやっても、物量の違いもありDCD-SX1を超えることはできません。
そこでわれわれが考えたDCD-SX11の音作りのコンセプトは、デノンらしい低域は保ちつつ、高域の伸びや奥行き感を全面的に出す、というものでした。
つまり空間の表現です。
それを言葉にすると「実体感」「鮮やかさ」「しなやかさ」あるいは「みずみずしさ」といったニュアンスでしょうか。
■「空間感」、「奥行き感」とはどんなイメージでしょうか。
出口:「定位」とはステレオ音場における左右のどこに位置するか、ですが、奥行き感というのは左右に加えて、さらに前後があるということです。
楽器や声の実体感といいますか。
たとえばその楽器がある場所は、スピーカーより前にあるのか、後ろにあるのか。
またその後ろに何かあるのか。
さらに天井を感じさせない、窮屈さのない音の伸びやかさも奥行き感に関係があるといえるでしょう。
■DCD-SX11では奥行き感を出すためにはどんな工夫をしたのでしょうか。
出口:これはもう、試行錯誤としかいいようがありません。
奥行き感は部品一つで変わってきますし、内部にある通信系のワイヤーなどはツイストして(捻って)あるんですが、その巻き数を一回減らす、あるいは増やす、それでも変化します。
そうして試聴して評価してと、ものすごく細かいことを地道に積み重ねて、最終的に「この音」でいこうという地点にたどりつきました。
▲DCD-SX11の内部
■そういった「音決め」は開発のどのタイミングで行うのでしょうか。
出口:設計試作段階でも少しずつ行っていますが、量産性の評価をする生産試作という段階で集中的に行います。
音決めは部品を換えては聴く、それをとにかく繰り返して音質評価を行います。
これも地道な作業です。
数値ではなく人間の耳で良し悪しを判断する官能試験ですので、ノウハウや音に関する見識が問われるところです。
我々もそこでサウンドマネージャーと徹底的に音を吟味して追い込んでいきます。
そして開発陣で音決めをしたら、社外の方々にもご試聴いただき、意見をいただきつつさらに調整を行って最終の音決めを行います。
■その間、ソフトウェアの開発は?
小柳:ずっと、淡々と地道に作業を続けています(笑)。
とにかくソフトウェア仕事は一年中作業が続いています。
■ではそのあたりのことはパート2でまたお聞かせください。
(Denon Official Blog 編集部 I)