サウンドマネージャー山内セレクションVol.2
デノンのサウンドマネージャー山内がHi-Fiオーディオシステムで味わってほしい音楽をセレクトする山内セレクションのVol.2。超有名盤からマニアックな盤までを独自の切り口でご紹介します。
酒蔵で言えば杜氏のように、デノンにはすべての製品の最終的な音に責任を持って音決めをするサウンドマネージャーがいます。
昨年そのサウンドマネージャーに就任した山内が、デノン公式ブログの読者のためにHi-Fiオーディオシステムで味わってほしいCDやファイルミュージックをセレクトしました。
今回は山内セレクションのVol.2。超有名盤からマニアックな盤までを独自の切り口でご紹介します。
【今回のナビゲーター】 GPD エンジニアリング デノンサウンドマネージャー 山内慎一
■山内セレクションの第1回は非常に好評でした。まだまだ山内さんのセレクションはたくさんありそうなので、連載化を見据えてVol.2をお願いします。
サウンドマネージャー山内セレクションVol.1はこちらです。
山内:よろしくお願いします。
■ちなみに今回の試聴環境を教えてください。
山内: 前回と同様、DCD-2500NE、DCD-SX11、そしてPMA-2500NEです。
そしてスピーカーはB&W 802SDです。
音楽ファイルの再生も前回同様にMacBook AirでアプリはAudirvanaを使います。
↑デノン本社試聴室 試聴当日のセッティング
■ではよろしくお願いします。
通常、オーディオのサウンドチェックやデモンストレーションなどで使われる音源はクラシック、ジャズが多いと思いますが、Vol.1では全く違う視点からセレクションしていただいて、とても面白かったです。今回はどんな音楽をセレクトしてくださったのでしょうか。
山内:今回はクラシックのボーカルものからはじめましょう。
波多野睦美さんという方の「美しい日本の歌」というアルバムを聴いてみましょう。
9曲目の「夏の思い出」です。
アーティスト名:波多野睦美
アルバム・タイトル:美しい日本の歌
エイベックスクラシックス
■(試聴が終わって)初めて聴きましたが、とても美しい声ですね。
山内: この曲も最近良くデモや試聴で使う曲なんです。
波多野さんは高橋悠治さんとの活動も多く、前衛的な作品にも取り組まれているようですが、このアルバムを聴いて非常に親近感を持ちました。
歌の良さ、声の素晴らしさがストレートに感じられる作品です。
デノンの音質評価でもよく思うのですが音楽の核心にある「歌心」みたいなものを表現できるオーディオでありたいと思っています。
■たしかに「声の実体感」のようなものがよく感じられました。
山内:愛知県立相模交流センターでの録音ですが、少ないマイクで録音しているのだと思います。
ですから、非常に自然な音が録れています。
波多野さんはソプラノではなくメゾソプラノなんですね。
ソプラノより少しだけ声が低いのですが、そこが魅力です。
それと、歌がとにかく上手いなあと。
非常に良くコントロールされていると感じます。
よく聴くと一番と二番の歌の抑揚の変え方なども変えていて、そのあたりも聴き所だと思います。
波多野さんはクラシックの方ですが、前衛的な楽曲に取り組んだり、このように古い日本の歌を集めた「美しい日本の歌」などをリリースする活動を見ると、今クラシックが置かれている状況を打破しようとしているようにも思えます。
■では次をご紹介ください。
山内:コーネリアスの「Sensuous」をご紹介しようと思います。
■またガラっと変わりましたね! 小山田圭吾さんですね。お願いします。
アーティスト名:CORNELIUS
アルバム・タイトル:Sensuous
ワーナーミュージックジャパン
WPJL-10002
山内:(試聴が終わって)いま再生したのは9曲目のMUSICという曲でした。
■サウンドが非常に鮮明に聴こえました。
山内:いま聴いていただいたのはハイレゾですがCDもかなりいい音ですので、聴き比べるといいと思います。
コーネリアスは音響に対してかなり意識的で、音が良くデザインされていると思います。
コーネリアスのものは、いつも「いいな」と感心させられますね。
アイディアが次から次へと出てきて尽きない感じがいいと思います。
このアルバムは試聴会でもよく使います。このアルバムに入っている「BEEP IT」という曲もよく使っているんです。
■そして次は何が聴けるのでしょうか。
山内:オランダのコーラスグループでジェンツという人たちのSACDを聴きます。
アーティスト名:THE GENTS
アルバム・タイトル:In Love
Import
■(試聴が終わって)ビートルズの曲ですよね、でも宗教歌のような非常に美しいハーモニーでした。
山内:ザ・ジェンツは少年合唱団の元メンバーたちが結成した宗教曲などを歌っているオランダの男声アカペラ・グループです。
今聴いてもらったのはビートルズの「If I fell」でしたが、ハーモニーは教会旋法で使われているようなものを大胆に取り入れ、原曲にはない和声を使っていてそこが面白いと思います。
オーディオシステムでの試聴ソースとしては、このような声だけの演奏でもしっかり再生できるか、も大切なところです。
この音源は、実は昔からリファレンスとして使っているもので、私がDCD-SXの開発に関わったときからよく使っています。
■そして次は?
山内:キース・ケニフのアルバム「ブランチーズ」から「Every morning」という曲をお聴きください。
アーティスト名:キース・ケニフ
アルバム・タイトル:ブランチーズ
インパートメント
■(試聴が終わって)現代音楽のような印象の非常に美しい音楽ですね。
「Every Morning」は短い曲ですが、フォークトロニカというか、アコースティックな音を使ったエレクトロニカ的な曲です。
キース・ケニフは、エレクトロニカ系のアンビエントの時はHelios、ポスト・クラシカル路線ではGoldmundなどいろんな名前を使い分けているようです。
この「ブランチーズ」はテレビCMや映像のために制作した曲を集めた楽曲集だということです。
■とても面白い音源でした。あとはどんな曲をご紹介いただけますか。
山内:超メジャーなアーティストの音源を2 つ紹介して終わりにしましょう。
まずはビートルズです。個人的には一番好きなアルバム「リボルバー」から聴いてください。
アーティスト名:ザ・ビートルズ
アルバム・タイトル: リボルバー
ユニバーサルミュージック
■(試聴が終わって)超有名盤ですが、かかったのは渋い曲ですね(笑)。
山内:リボルバーといえば「タックス・マン」や「エリナー・リグビー」が有名ですが、私はジョン・レノンの声が好きなので「ドクター・ロバート」という曲を選んでみました。
ややマイナーな曲かもしれませんが、曲想も含めてビートルズのエッセンスが見事につまったナンバーだと思います。
ギターのリフやフレーズをとっても、ビートルズの中では、私にはとても現代的に感じます。
この頃は今からは考えられないほどローテクな録音技術ですが、そんな中でビートルズは非常に音がいいと思います。
それとビートルズはやっぱりコーラスが上手いなぁと思いますね。
このあたりのビートルズの楽曲やサウンドを聴いていると、80年代のブリットロック、つまりオアシスやストーン・ローゼズなどの原型がここにあるような気がしますね。
やはりビートルズが後の音楽に与えた影響は非常に大きいと思います。
■そしていよいよ最後の音源をお願いします。
山内:マイルスの「ビッチェズ・ブリュー」をご紹介します。
アーティスト名:マイルス・デイビス
アルバム・タイトル:ビッチェズ・ブリュー +1
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
■(試聴が終わって)これまた超有名盤ですね。今の曲は?
山内:disc2の4曲目の「サンクチュアリ」です。
メンバーとしてはチック・コリア、デイブ・ホランド、ジョン・マクラフリン、ジャック・デジョネットといった素晴らしいメンバーでの録音です。
これも通常のCDで16bitですが、音が非常にいいと思います。
この頃のマイルス・デイビスの曲は長い曲が多いのですが、長いなりにいいオーディオシステムで聴くと面白味があります。
よく聴くとマイルスって年代が変わっても、ロングトーンで吹いているところとかなど、フレーズはあまり変わってないということが良くわかります。
■第2回もタップリ聴かせていただき、ありがとうございました。
初めて知ったアーティストの楽曲も勉強になりましたが、マイルス・デイビスやビートルズなど、誰もが聴いたことがある名盤も、ハイエンドのオーディオシステムで音質にフォーカスして聴くと、いままで聞こえてなかったような音の表情に気づかされます。
ぜひパート3もよろしくお願いします。
(Denon Official Blog 編集部 I)