動画あり!ニッポノホンを聴いてみた
10月1日はデノンの創立記念日でした。昨年からディスプレイされている蓄音機。これは明治43年に製造されたもので、実はちゃんと音を鳴らすことができます。社内の人間でも音を聴いた人が少ないこの蓄音機を創立記念のこの絶好のタイミング(遅い)に、、編集部が関係各所のご協力のもと、特別に鳴らしてみました。動画もあります。
神奈川県川崎市にあるディーアンドエム本社にいらしたことがある方なら、いまエントランスに、時代を感じさせる蓄音機がディスプレイされていることにお気づきかも知れません。
実はこの蓄音機、単なる飾りではなく、ちゃんと使えるのです。しかし残念ながら、その音は社内でもまだ一部の者しか聴いたことがありません。
この蓄音機はどのようなものなのか、そしてどのような音がするのか。
今回、特別に編集部がSP盤を管理している日本コロムビア株式会社や社内の関係各所のご協力のもと、由来を訊ねるとともに、実際に音楽を鳴らしてもらいました。
この蓄音機は、明治43年(1910年)発売の「ニッポノホン35号」。販売したのは同年に設立された株式会社日本蓄音機商会。
同社は日本で最初のレコード会社でもあり、レコードと再生機器の両方の製造販売を手がけ、その後、昭和21年(1946年)に日本コロムビアに改称、そして平成13年(2001年)にそのオーディオ部門を分社化しました。
それがいまのデノンブランドを保有するディーアンドエムホールディングスです。
明治23年、日本蓄音機商会からは4種の国産蓄音機が同時に発売されました。25号、32号半、いまエントランスに飾られている35号、そして50号の4機種で、ナンバーはそのまま値段を表していました。
つまり25号は25円、32号半は32円50銭、35号は35円、50号が50円です。いずれも本体部分は木製で、手巻きのゼンマイを動力とし、大きなラッパを備えた蓄音機でした。
107年前に作られたこの蓄音機、ニッポノホン35号の仕様を調べると「濃褐色オーク仕上げ、班模様木目キャビネット、二連発条モーター、八枚弁朝顔型ニッケル鍍金ラッパ付き」とあります。
二連発条はぜんまい2枚のこと、そして花弁が8枚のあさがお型のラッパ、というわけです。
でもこの製品は花弁が9枚あります。
これは長い歴史のどこかの段階で修理に入り、別の部品に取り換えられたのではないか、と推測されています。
この35号は長年、四国のあるオーディオ専門店さんに保管されていました。
昨年の春、その専門店さんが移転されるときにこの蓄音機が出てきて、それを聞きつけた弊社の役員の一人が、ぜひお譲りいただきたいとお願いにあがったそうです。
社の歴史を間近で見ることが、社員の意識のなかでブランドアイデンティティを強化することに役に立つと考えたからです。
蓄音機を受け取ったときは、音が鳴らせる状態ではありませんでした。それからメカに詳しい社員の一人が古い資料をあたりながら慎重にレストア。
くすんだラッパもピカピカに磨き上げ、同じ年の夏には音楽を聴けるまでに復元したのです。
後日談ですが、レストアしたことで骨董品としての価値はなくなってしまったようです。
内部を見ると、重厚な金属のメカが美しく収められています。
装置側面にあるハンドルで2組のぜんまいを巻き上げるとぜんまいの入ったドラムが回転を始めます。
そのドラムの回転を歯車によって増速し、約5分の間ターンテーブルを回し続けることができます。
最終段で回転するシャフトには重りの付いた板バネと板バネの変形に応じてシャフトの軸方向に動く板が装着されていてそれがブレーキパッドに接触することで、ターンテーブルの回転数を一定に保つ仕組み。
この精密な仕掛けには、まったく電気は使われていません。緻密な計算と卓越した職人技がなければできない精緻な歯車の組み合わせ。ただただ驚嘆するばかりです。
「昔は化け物のように優秀な技術者がいたんですよ」と、編集部に説明してくれた岡芹亮GPDエンジニアリング・ゼネラルマネージャーもため息をついていました。
そしてこの駆動系以上に驚いてしまうのが音の増幅。回るSPレコードの溝の上に、釘のように武骨な鉄針が乗ります。
針の振動が雲母の振動板に伝わり、これを揺らして音が出ます。その音がラッパ状の管を通ることで増幅されるのです。
それだけです。ここにも電気を利用する仕組みは一切なし。トランペットのマウスピースでくちびるが振動し、ラッパから音が出るのと同じ原理です。
「音を伝える原理は糸電話みたいなもので、すごく原始的です。私はかつて仕事でカートリッジを設計していたので、この振動系でこれほどの音が出るとは思えなかった。でも聴けばわかる。驚きますよ」(岡芹)。
さっそくSP盤を載せて聴かせてもらいました。今回は特別に日本コロムビア株式会社の協力のもと、SP盤をいくつか選曲。
まずは、リストの「パガニーニ大練習曲」より第6曲「主題と変奏」です。
優れているとはいえ蓄音機なので、よくテレビや映画に出てくる蓄音機の頼りなげで回転の不安定な音が出てくるものだろうなと思っていたら、ホントに驚きました。
ものすごく大きな音が出るのです。電気を使っていないのにどこからこの大きな音が出てくるのか、まったく不思議でしかたありません。回転速度もほぼ安定しています。
「ホントに音に力があります。この音を何かで録音してもこの音は出てこないんです。この蓄音機を前にして直接聴くと力強さがわかります」(岡芹)
自宅で音楽を楽しむには充分な音量です。
これとSP盤があれば十分に音楽を楽しめるな、と思えるものでした。
編集部スタッフは、バイオリン独奏曲や、童謡の「叱られて」、山田耕筰自身の伴奏による藤原義江「この道」など、次から次へとSP盤をかけて堪能したのでした。
日本コロムビア株式会社よりお借りしたSP盤
デノンの社史の一幕を飾る貴重な蓄音機の鳴っている様子は、動画でも御覧いただけます。こちらからどうぞ。
(岡芹のコメントどおり、残念ながら動画で撮影しても実際に聞いた迫力は再現できませんでした)
(編集部Y)