コンセプトモデル「MODEL X」で聴く、サウンドマネージャー山内セレクション
大好評企画、デノンサウンドマネージャー山内がHi-Fiオーディオシステムで味わってほしい音楽をセレクトする「山内セレクション」。今回は昨年の東京インターナショナルオーディオショウで披露されたコンセプトモデル「MODEL X」を使って試聴させてもらいました。また、コンセプトモデル「MODEL X」の開発の進捗についても聞きました。
GPD エンジニアリング デノンサウンドマネージャー 山内慎一
●今回も山内セレクション、よろしくお願いします。今日は昨年の東京インターナショナルオーディオショウでプレゼンテーションしたMODEL Xを使って試聴させてもらえるときき、楽しみにしていました。
山内:はい。MODEL Xは東京国際オーディオショウに参考出展した後も、粛々と製品化を見据えて開発を進めておりまして、現在はあの時よりもさらに音質が磨き上げられています。今日はMODEL Xのプレビューも含めて、最近よく聴いている音源をご紹介しようと思います。
↑デノン試聴室にて。中央が開発中のMODEL Xのプリメインアンプ、手前右端が開発中のMODEL XのスーパーオーディオCDプレーヤー
●MODEL Xですが、音質面ではどんなことを目指して開発をしてきたのでしょうか。
山内:音の狙いそのものは今までとまったく変わっていませんが、今までのモデルは、シリーズとしてのバランスや価格など、いろんな制約があった中での音作りでした。でもMODEL Xでは、そういった制約を一切取り払ってみました。その結果、どういう方向性が出てきたかというと、今までよりさらに音楽に没頭できる音が実現できたのではないかと思っています。
●では最初の音源をご紹介ください。
山内:最近CDを聴いていてよく思うのは、近年のレコーディングってどうかなぁ、ということです。たまたま先日マイケル・ジャクソンの「スリラー」と2000年代に最近録音されたCDを比べてみたんですが、どちらも十分良いのですが「スリラー」は20年以上古いのに実に音がいいな、という印象を持ったんですね。最近のレコーディングは、音そのものはクリアなんだけど、オーディオ的には裏腹なのか薄いというか、奥行きが十分表現されないケースがあるような気がします。このあたりはレコーディング技術の変化、たとえばコンピュータベースのDAW(デジタル・オーディオ・ワークショテーション)などの録音環境の違いも背景にあるのではと思っているんですけどね。
それで、この音源ですが、ブラジルの3人のミュージシャンによるアンサンブルなんですがジャケットの内側を見ると、少し大きめの家のリビングのような場所で録音しているようなんです。でも、とても親密で、音としてもいい音で録音されています。聴いてみてください。
アーティスト名:André Mehmari, Carlos Aguirre & Juan Quintero
アルバム・タイトル:Serpentina
●素晴らしいですね。これは何曲目ですか。
山内: 1曲目の「El Diminuto Juan」という曲です。アコースティックなサウンドによるアンサンブルですが、所々にアンビエントのような音使いもあり、またECM時代のパット・メセニーの影響を感じさせる音もあります。このアルバムは世の中では決してメジャーではないと思いますが、とても素晴らしい音楽なので、ぜひ読者のみなさんにも聴いていただきたいと思い、ご紹介しました。
●MODEL Xの音も素晴らしいですね。音に実体感があり、しかも力強さも感じました。
山内:社内でもプレビューをしていますが、人によっては空間が大きいという人もいますし、すごく繊細な音だと言う人もいます。
↑開発中のMODEL X プリメインアンプ
●私は、再生音にストレスがなく、音がすっと空間に拡がっていく感じがしました。今までは「ストレスがある音」ということを感じたことはありませんでしたが、今、このMODEL Xの音を聴いた時、今までの音は、どこかにストレスがあったんだな、と気づいた感じです。では次の音源をご紹介ください。
山内:では、もう一枚ブラジルのアルバムですが、こちらは新しいブラジルのミュージシャンの音源を集めたコンピレーションで、いろんな個性的な曲があります。今日は3曲目を聞いてみましょう。
アーティスト名:V.A.
アルバム・タイトル:Musica Brasileira no Seculo 21 ~21世紀ブラジル音楽
●これも素晴らしい音楽ですね。
山内:このアルバムは現代のブラジル音楽の最新コンピレーションですから、いろんなアーティストの曲が入っていますが、どの曲も良くできていて、アルバム全体に豊かな色彩感があると思いました。この「21世紀ブラジル音楽」は同名の書籍とセットで出ていて、音楽と文章の両面から最新のブラジル音楽のことが良くわかるようになっています。
21世紀ブラジル音楽ガイド (ele-king books)
中原 仁 (監修)
●最近のブラジル音楽はあまり日本には伝わってきませんが、すごくかっこいい音楽がいっぱいあるんですね。
山内:そうなんですよ。もうちょっと何曲か聴いてみましょうか。
(数曲試聴)
山内:こうやって聴いてみると、曲ごとに色彩感がすごく出ていますよね。逆に欧米や日本って、トレンドというか方向性があって、何か1つの方向に収斂していくような傾向が強いように思います。ブラジルの音楽に関してはそこが希薄で、もっと自由な印象がありますね。
●そうですね。いろんなタイプの曲があって自由な感じがしました。
山内:このアルバムはボサノバのような馴染みのある曲もありますが、もっと現代的なものや、様々な音楽の要素を新しい感覚で取り入れて、さらに昇華させているような曲も多いです。
●またMODEL Xの話ですが、たしかに音場の大きさを感じます。どうやるとこんな風にできるのでしょうか。
山内:そこは時間をかけて丹念にチューンしクオリティを上げるということにつきると思います。このモデルの音作りに関しては、足かけ2~3年音作りをしています。
●なにか革新的な技術が投入されているのでしょうか。
山内:まだ詳細はお伝えできませんが、何か特別なことをしている、というよりも、素材やパーツレベルといった細かい部分まで丁寧に時間をかけて音のために磨き上げている、ということでしょうか。
↑開発中のMODEL X スーパーオーディオCDプレーヤー
●素材やパーツまで吟味するとなると、時間がかかりますよね。では次のアルバムをお願いします。
山内:それでは大貫妙子さんのCDを聴いてみましょう。このアルバムは以前から音質評価をするときにリファレンスとしてよく使っているディスクです。
アーティスト名:大貫妙子
アルバム・タイトル:ATTRACTION(アトラクシオン)
山内:(試聴して)粒子感っていうんでしょうかね。音が拡散していくというか、そこが聴きどころですね。
●リファレンス用にお使いとのことですが、具体的にはどんな点をチェックするのでしょうか。
山内:このアルバムはオーケストラも入っていますし、静かなアンサンブルの曲もあって、いろんな音が入っているなかで、各音源のクリアさや全体のバランスを見るために使います。オーディオファンの方にとってもご自身のシステムをチェックされるのに便利な1枚だと思います。今は「四季」という曲を聴いてもらいました。
●ライナーノーツを見ると、この曲のベースはロン・カーターなんですね。すごいメンバーです。
山内:あと、このアルバムは1曲目がけっこう面白いです。「Cosmic Moon」という曲です。
「Cosmic Moon」を(試聴)
●この曲は、アコースティックな曲だった「四季」とはちがってかなりアンビエントっぽいですね。
山内:効果音や背景のアンビエンスサウンドの中に大貫妙子さんのボイスが浮遊している感じで、立体感が非常にあります。
●MODEL Xで聴いているせいか、まるでサラウンドの音源のように、広い空間を感じます。この曲を聴くと、山内さんがいつもおっしゃっている「ヴィヴィッド」、「スペーシャス」が具現化した集大成のように感じました。では次の音源をお願いします。
山内: RHYEというユニットのアルバムを聴きましょう。これは2013年にデビューしたカナダ人とデンマーク人の2人組で、すごく洗練されたポップミュージックです。このユニットはFUJI ROCK FESTIVALなどにも来ているようです。
●これは1曲目の「OPEN」ですか。
山内:はい。いい曲ですね。彼らとしては初期のアルバムだと思いますが、曲作りが上手いです。ちょっとR&B的なニュアンスもあって、初夏という季節感もあっているかなと思って紹介しました。ちなみにこれ、男性ボーカルなんです。
●そうなんですか! ちょっとSADEを思い出させる感じだったので、女性ボーカルだという先入観で聴いてしまいました。
山内:この「OPEN」という曲のライブテイクもこのアルバムの終わりのほうに入っているので聴いてみましょうか。
●(試聴)ライブなのに、ものすごい完成度ですね。
山内:ライブテイクにしてはすごく音が良いです。ぜひみなさんにも聴いていただきたいと思います。
●では最後にもう一枚だけご紹介ください。
山内:ボブ・ジェームスを聴きましょう。これも昔からよく使っているリファレンス音源の1つです。最近はあまり使っていませんでしたが、MODEL Xで使ってみたら、古さを感じさせないというか。聴いてみましょうか。
アーティスト名:ボブ・ジェームス
アルバム・タイトル:OBSESSION
●(試聴して)面白いサウンドですね。1986年のリリースのようですが、当時からするとものすごく新しい音だと思います。
山内:そうですね。斬新ですし、今の音楽にも影響を与えていると思います。
●この盤もリファレンス音源ということですが、オーディオ的にはどのあたりを注目すればいいでしょうか。
山内:音源の発音の再現性でしょうか。このアルバムの音源は、アタックから音が消えるところまでがちゃんと入っていますから、どこまでそれをクリアに捉えられるか、がポイントです。そこがうまく再生できると、この音楽が持つ刺激的な部分がより伝わると思います。あとは各音源の分離感でしょうか。
また、この素材は再現するシステムによっては、ちょっとメタリックになったりします。この盤を本来の音できちんと鳴らしきる、ということも、ご自宅のHi-Fiシステムのサウンドチューニングとして面白いトライアルになると思います。
●最後に、もう1つだけ教えてください。MODEL Xは、今後どうなるのでしょうか。
山内:開発はまだ進めていますが、音作りとしてはそろそろ詰めの段階になってきました。東京国際オーディオショーの時から比べるとかなり進化していますので、近々、みなさんに聴いていただく機会を設けることができると思います。ぜひお楽しみになさっていてください。
(編集部I)