デノンのプリメインアンプ「PMA-1700NE」をメロディ・ガルドーの新作CD「オントレ・ウー・ドゥ」を試聴してみた
デノンのプリメインアンプの新製品PMA-1700NE。ミドルクラスの新たなスタンダードとも言えるPMA-1700NEを、女性ジャズボーカルの実力派メロディ・ガルドーのニューアルバム「オントレ・ウー・ドゥ」でデノンブログ編集部が試聴してみました。
ミドルクラスのベストセラーPMA-1600NEを超えた新たなるスタンダード「PMA-1700NE」
デノンの新しいプリメインアンプPMA-1700NEは、ベストセラーモデルであり高い評価を得ていたPMA-1600NEの後継モデルです。PMA-1600NEは国内外で数々のアワードを受賞したモデルであり、先代の出来がいいと後継はなかなか辛いところがありますが、PMA-1700NEはHiViの2022年夏のベストバイ一位にも選ばれるなど、すでに先代のPMA-1600NEを超える評価を得ています。
プリメインアンプ部門(1)〈20万円未満〉第1位 デノン PMA-1700NE
【HiVi夏のベストバイ2022 特設サイト】より
ロングセラー1600NEの後継機。スイートな表現が魅力(潮)
駆動力や空間表現力が傑出。本価格帯のリファレンス的存在(土方)
力強く精緻な音。20万円前後帯での断然おすすめ機(山本)
そこで今回はデノンブログ編集部でもじっくり試聴してみました。
まず試聴の前にPMA-1700NEについておさらいしておこうと思います。
主な特長は下記。
- 新世代のAdvanced UHC-MOSシングルプッシュプル増幅回路
- 超低ノイズ可変ゲイン型プリアンプ&高精度な電子ボリュームコントロール
- LCマウントトランス&カスタムブロックコンデンサー
- MM / MC対応フォノイコライザー
- 11.2 MHz DSD、384 kHz / 32 bit PCM 対応USB-DAC機能
- アップサンプリング&ビット拡張技術「Advanced AL32 Processing Plus」
- PCからのノイズを遮断するアイソレーター
- PMA-A110譲りの高音質パーツ&専用カスタムパーツを多数採用
これらの特長をざっと見てお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、PMA-1700NEの開発は2020年10月に発売されたデノン創立110周年記念モデルのプリメインアンプであるPMA-A110をいかにPMA-1700NEの筐体に入れ込むか、というチャレンジだったとも言えます。
そういうわけで外観としてはPMA-1600NEとほとんど同じに見えますが、中身はかなり変わっています。特にPMA-A110と同じ電子制御ボリュームの採用、そして電子制御ボリュームの採用による信号経路のミニマム化は音質向上に大きく寄与しています。
ちなみにデノン初のネットワーク再生対応のフルサイズHi-Fiプリメインアンプ、PMA-900HNEでも電子制御ボリュームを採用しています。ただしPMA-900HNEはグルグルとどこまでも回せるタイプなのですが、PMA-1700NEはアナログボリュームと同様に終わりと始まりがあるタイプで、音質面でのアドバンテージだけでなく、操作感についてもより優れたものになっています。
ラック中段がPMA-900HNE、下段がPMA-1700NE。電子制御ボリュームのパーツが異なり、PMA-1700NEではPMA-A110と同じパーツを採用
PMA-1700NEの内部パーツ。大型のUHC-MOSシングルプッシュプル増幅回路、PMA-A110で使用されたパーツも数多く継承
PMA-1700NEのアナログモードで、
メロディ・ガルドーの新作CD「オントレ・ウー・ドゥ」を試聴
PMA-1700NEはUSB-DAC機能を搭載していますので、PCと接続してハイレゾ音源でPCオーディオを楽しむことができます。フォーマットとしては11.2 MHzまでのDSD、および384 kHz / 32 bitまでのPCM信号の入力に対応します。またデジタル信号は、デノン独自のデータ補間アルゴリズムによるアナログ波形再現技術「Advanced AL32 Processing Plus」によって処理されるため、よりアナログに近いサウンドを楽しむことができます。
このようにPMA-1700NEは最先端のUSB-DACを搭載しているため、PCと接続するとノイズの流入が懸念されますが、高周波ノイズを遮断する高速デジタルアイソレーター回路を、信号経路のみならずグラウンドにも搭載することで、繊細なアナログオーディオ信号への干渉を排除しています。
またアナログ入力ソースを再生する際にはアナログモードに切り換えることで、デジタルオーディオ回路の電源を完全にオフにすることができます。
アナログモード1:デジタルオーディオ回路の電源を完全にオフ
アナログモード2:ディスプレイ表示も消灯し、PMA-1700NEは純粋なアナログアンプとして動作
というわけで、今回はCDの試聴なのでPMA-1700NEをアナログモード2に設定し、CDプレーヤーはDCD-900NEを使って音源を再生してみました。
そして今回の試聴ディスクはこちら。
アーティスト名:メロディ・ガルドー,フィリップ・バーデン・パウエル
アルバムタイトル:オントレ・ウー・ドゥ(Entre eux deux)
実力派女性ジャズボーカリスト、メロディ・ガルドーの最新アルバム。ピアニストのフィリップ・バーデン・パウエルとのデュオアルバムです。ピアノと歌だけのシンプルな録音だけに、音の鮮度がよく分かるディスクです。こちらをDCD-900NEで再生しました。
今回の試聴システム。PMA-1700NEは下段。最上段のDCD-900NEでディスクを再生
広い音場感、楽器と歌の実在感、そして
音の鮮度はPMA-A110に肉薄する実力
今回特に試聴のためにフォーカスして聴いた曲が、1曲目に収録された「01. ディス・フーリッシュ・ハート・クッド・ラヴ・ユー」です。
このイントロのピアノのコードの音の鮮やかな立ち上がりと、色彩感溢れる鳴り方、そしてピアノのペダルを踏む重い音の実在感。そしてボーカルが入ってきたときに立ちあがる存在感と定位。そしてガルドーの声の艶。これら全てが、まさに「Hi-Fi」という品位を感じさせます。
シンプルで抑制が効いたピアノと、しっとりしたボーカルだけに余白、空間感が特に意識される楽曲ですが、メロディ・ガルドーとフィリップ・パウエルの濃密な関係性が感じられる空間で、決して単に音が鳴っていない時間、ということではありません。このあたりの表現力はさすがで、実在感、空間の描き方、明瞭度という意味ではPMA-1700NEはPMA-A110にかなり肉薄していると感じました。
試聴では同一曲でPMA-900HNEとの比較も行った
鮮度の高いボーカルがピュアに味わえる
メロディ・ガルドーの新作「Entre eux deux」
最後にメロディ・ガルドー,フィリップ・バーデン・パウエルの「Entre eux deux」もレビューしておきます。
メロディ・ガルドーは2008年にデビューした女性ボーカルで、スティングとのデュエット曲が注目を浴びるなど、いま最も脂がのっており、ノラ・ジョーンズ、マデリン・ペルーと並んで21世紀の3大女性ボーカルと呼ぶ人もいるようです。
ただ本作は全編がピアニストのフィリップ・バーデン・パウエルとのデュオで、オーケストラなど多彩な楽器を使って来たこれまでのアルバムとは異なり、非常にプライベートで内省的なアルバムとなっています。
ジャケットの裏側に載っている写真を見ると、ピアノの横にスツールとボーカル用のマイクが立ててあります。普通レコーディングの時は同時に録音するとしても、ボーカルとピアノは別のスタジオで撮ることが多いのですが、どうやら音のかぶりを防ぐパーテーションすら立てることなく、まったくの同一空間で録っているようです。
メロディ・ガルドーの歌い方であればピアノの音のほうが遥かに音量が大きいので、おそらくボーカルマイクにピアノの音が入ってしまうと想像できますが、とにかくレコーディングするふたりの関係性を重視したのでしょう。記録された音源には、ふたりの関係性と空間そのものがまるごと入っているように思えます。
しかもボーカルとピアノのバランスも非常に美しいので、レコーディングの技術も素晴らしいのだと思います。
ボサノバがお好きな方ならバーデン・パウエルという名ギタリストをご存じだと思いますが、フィリップ・パウエルは、そのご子息。ピアニストとしてパリで活躍中だそうです。お父さんのバーデン・パウエルの曲が1曲、そしてメロディ・ガルドーがお休みしたピアノソロの曲、またメロディ・ガルドーとフィリップ・パウエルがデュエットしている曲もあり、これらもとても素晴らしいです。ジャズが好きな方、女性ボーカルが好きな方、そしてボサノバが好きな方にもぜひ聴いていただきたいアルバムです。
最後にレコーディングのドキュメント風の動画と思われる本アルバムの動画もありましたのでご紹介しておきます。
Melody Gardot & Philippe Powell – ‘Entre eux deux’. A Day in the Life | Directed by Louis Marie
編集部 I