パーソナライズ機能を搭載した完全ワイヤレスイヤフォン「PerLシリーズ」エンジニア 福島インタビュー
個人の耳の聴こえ方に適応させるパーソナライズ機能を搭載したデノンの新たな完全ワイヤレスイヤフォンDenon PerLシリーズ。そのコンセプトや特長についてエンジニアリングチームの福島に「ポタフェス2023秋葉原」の会場でインタビューしました。
福島さんのデノンブログでのいままでのインタビューはこちら
●今日はイヤフォン、ヘッドフォンの祭典「ポタフェス2023夏 秋葉原」のデノンブースで、ヘッドフォンの開発者インタビューでいつもお話をうかがっている福島欣尚さんに、「PerLシリーズ」についてインタビューさせてもらいます。よろしくお願いします。
福島:よろしくお願いします。
ディーアンドエムホールディングス エンジニア 福島欣尚
デノンの音響技術とMasimoの医療技術のシナジーで得た「PerLシリーズ」のパーソナライズ機能
●「PerLシリーズ」はどんなコンセプトで開発されたのでしょうか。
福島:2022年にデノンの親会社であるディーアンドエムホールディングスがMasimoという医療機器の会社の傘下に入りました。それによってデノンの音響技術とMasimoの医療技術を組み合わせることが可能となり、より優れた製品をお客さんに提供できるのではないかというアイデアが生まれました。
「PerLシリーズ」のPerL(左)とPerL Pro(右)
●音響技術と医療技術のシナジーということでしょうか。
福島:そうです。もちろんデノンのサウンドフィロソフィーや設計のフィロソフィーに加えて、医療の世界のノウハウを導入することで、デノンのサウンドをより高精度に届けたいということです。
●なるほど。それが今回のパーソナライズの技術の出発点になっているんですね。
福島:はい。それがPerL ProとPerLに搭載されているMasimo AAT (Adaptive Acoustic Technology)として結実しました。
「PerLシリーズ」のパッケージ
デノンのパーソナライズ機能「Masimo AAT」とはなにか
●「PerLシリーズ」に搭載されたパーソナライズ機能「Masimo AAT」について教えてください。
福島:Masimo AATはユーザーの方々それぞれの聞こえ方に合わせて自動的に音質を調整する技術です。新生児の難聴検査に用いられる医療技術を応用した我々独自のテクノロジーです。
●Masimo AATには生児の聴力検査の技術が応用されているんですね。
福島:そうなんです。新生児の聴力検査では、赤ちゃんが自分でボタンを押せませんから、聞こえているかどうかを自動的に判断する必要があります。人間の耳は耳音響放射と言って、音を聴いた際に内耳で発生し、鼓膜を通じて外耳道に伝わる微弱な音があります。それを測定することで、音がどの程度聞こえているか判定することができます。それを応用してMasimo AATが開発されました。
「PerLシリーズ」発表会での資料より
●それは帯域ごとに、その人の音の聞こえ方が分かるのですか。
福島:さまざまな帯域の音を再生してそれに対する耳音響放射を測定することで、個々人の聞こえ方を分析します。
●人の聞こえ方って、それぞれそんなに違うものなのでしょうか。
福島:視力がそれぞれ人によって違うように、音の聞こえ方も低域が聞こえやすい人、聞こえにくい人、高域が聞こえやすい人、聞こえにくい人など、かなり違います。外耳道の形状も各々違いますね。Masimo AATはアプリでそれを自動的に測定してその人ごとの聞こえ方の測定結果を見ることができます。そして測定した結果によって補正した音と、デフォルトの補正前の音をワンタッチで切り換えて聴き比べられるんです。
●私はパーソナライズとニュートラルで、結構大きな音の違いを感じました。パーソナライズをオンにした時、まるでメガネの焦点が急に合ったかのような感覚がありました。
福島:それはよくある感覚ですね。パーソナライズのほうが、音をより鮮明に感じられると思います。
測定結果は左右の耳で表示される。左右差がある場合もある
Masimo AATの優位性はなにか
●パーソナライズ機能そのものは他社の製品でも見られますが、デノンの「PerLシリーズ」に搭載されているMasimo AATとそれらは、どうちがうのでしょうか。
福島:パーソナライズ機能は他社の製品でも見られますが「PerLシリーズ」レベルのパーソナライズ機能を実装している製品は少ないと思います。
パーソナライズ機能をうたっているものの中には、耳の穴から鼓膜までの外耳道の長さを測定して調整するだけだったり、イヤーチップの耳のフィット具合で音を調整するだけだったりするものあります。ちなみに、「PerLシリーズ」でもイヤーチップのフィット具合のチェックは、測定の最初に行います。
●その先が他社の追随できないレベルなんですね。
福島:はい、そこからがMasimo AATならではの点になります。Masimo AATの場合は、鼓膜までの外耳の測定と最適化だけではなく、鼓膜の向こう側の内耳の働きも測定します。外耳から入った音は、鼓膜やそれに連なる耳小骨を振動させて内耳の蝸牛に伝えるわけですが、そこでの反応を見ています。しかも測定と解析はアプリが全てを自動的に行いますから、お手間はとらせません。その意味で「PerLシリーズ」のパーソナライズ機能のレベルは非常に高いといえるでしょう。
●Masimo AATとは、個々の聞こえに基づいてサウンドを調整する、という機能なのでしょうか。
福島:その通りです。デフォルト・モードでも十分に高音質で楽しんでいただけるように仕上げていますが、パーソナライズをしていただくことで、より多くの方に満足していただける音を届けることを目標にしています。さらに、両モデルともパーソナライズ後にご自身のお好みで低音の強さを調節できる「イマージョンモード」を搭載しております。さらにPerL Proには5バンドのイコライザーを搭載していますから、より緻密な調整をしていただけます。
「PerLシリーズ」はaptX Lossless、Snapdragon Soundなど、充実したスペック
●PerLシリーズはパーソナライズ機能が注目されがちですが、その他の機能もスゴイですよね。
福島:そうなんですよ。たとえばPerLシリーズの上位モデルである「PerL Pro」はロスレスオーディオ・コーデックである「Qualcomm aptX Lossless™」に対応していて、CDクオリティ(44.1 kHz / 16 bit)でのワイヤレス伝送を実現しています。また「aptX Adaptive™」にも対応していて、こちらはロッシー伝送ですが最大96kHz/24bitのハイレゾ再生に対応します。
●Bluetoothでのロスレスは革新的ですね。
福島:ただし、ロスレス再生やハイレゾ再生を行うためには、音源を送出するスマホなどのデバイス側もaptX Adaptive、aptX Losslessに対応している必要があります。最新のコーデックなので現時点での対応スマホはまだ少ないですが、今後多くのAndroid系のデバイスが対応することが期待されています。それとPerL Proは空間オーディオ機能である「Dirac Virtuo」にも対応しています。
●空間オーディオ機能の「Dirac Virtuo」とはどんなものですか。
福島:スウェーデンのオーディオテクノロジー企業 Dirac 社の技術で、通常の2チャンネルのステレオ音源を没入感のある空間サウンドに変換できます。特定の空間オーディオコンテンツである必要はなくて、通常のステレオ音源を空間オーディオに変換し、まるでスピーカーで聴いているように自然で空間的なサウンドが楽しめます。
●PerLシリーズは両モデルともノイズキャンセリングも搭載していますね。
福島:PerL ProとPerLはどちらもアクティブノイズキャンセリング機能を搭載しており、さらに外部音を取り込む「ソーシャルモード」を装備しています。PerL Proには8つ、PerLには4つのマイクが内蔵されていて、いずれも精度の高いノイズキャンセリングとコールクオリティを実現しています。さらにPerL Proのノイズキャンセリングはアダプティブタイプで、周囲の騒音の大きさや、耳の密閉度に応じて効果の強さを自動的に調整できるインテリジェントなものです。
医療分野の技術の応用が今後どのように日本の市場で評価されるのかを注視
●福島さんは長い間ヘッドフォンの開発に携わっていますが、PerLシリーズについてはどんな印象ですか。
福島:PerLシリーズに関してはディーアンドエムホールディングスがMasimoといっしょになって何かやるぞ、という開発のかなり上流の段階から関わってきたので、PerLシリーズが製品化されて、実際にユーザーの方々にどのように受け入れられるかが非常に興味深かったです。
日本のTWS市場には非常に多くの製品がありますから、そのマーケットでどのように差別化を図るか、特徴を出すかが重要だと思っていました。今回はMasimo AATという新しい技術を取り入れた製品なので、それがどの程度面白いと思っていただけるのか、そのあたりの反応を見るのが楽しみです。
●医療技術の応用というのはいままでのデノンにはない切り口ですよね。
福島:Masimoとの統合があったからこそできたことではありますが、スマートウォッチに心拍計測機能などヘルスケア的な機能が搭載されていることを見ると、今後様々な分野の製品で医療関連の技術を応用した機能は増えてくるのではないでしょうか。こうしたアプローチがどのくらい反響があるのかを見ながら、今後の製品企画に反映させていきたいと思っています。
●今日は「ポタフェス2023秋葉原」の会場でインタビューしていますが、お客様が目の前でPerLシリーズを体験されるのを見て、肌感覚としてはいかがですか。
福島:今日はイベント2日目ですが、初日は250人以上の方がデノンブースに来場いただきました。今日もブースに順番待ちの列ができていて、かなり話題になっているようで嬉しいです。お客さんとのやりとりを見ているとパーソナライズは好評のようでよかったです。ヘッドフォンイベントにいらっしゃるお客様はアーリーアダプターというか、早いタイミングで最新のテクノロジーに興味を持つ方々なので、この後パーソナライズ機能がより多くのユーザーにどう評価されて行くかが気になるところです。
●今後の展開が楽しみです。本日はありがとうございました。
「PerLシリーズ」開発者の福島とマーケティングチームの舘は、ポタフェス1階の特設ステージで行われた「e☆イヤホンTV」の公開生放送に参加しました。そのアーカイブもぜひご覧ください
【出張版e☆イヤホンTV2日目】秋葉原ポタフェス会場から生放送!ゲストにピエール中野さん・セゴリータ三世さんが登場!
(編集部I)