読む音楽 音楽は自由にする 坂本龍一著
坂本龍一さんの病気による活動休止の報道がありました。ソロ活動、YMO、アカデミー賞の受賞作品も手掛けた映画音楽、そしてコモンズ、スコラなどでの音楽啓蒙活動、環境を守る活動などその活動は多岐に亘り、その才能は日本の音楽界に欠かせません。早期の完治を祈念しつつ坂本龍一さんの自伝「音楽は自由にする」をご紹介します。
「音楽は自由にする」では、東京藝術大学作曲科出身という、いわば西洋音楽のエリート中のエリートである坂本龍一さんが
ロックやポップスの世界に足を踏み入れた理由、そしてどういう経緯でYMO という日本の音楽史に残るバンドのメンバーとして活躍し、
その後、何を考えどんな活動をしてきたのかが自身の筆によって明らかにされています。
「音楽は自由にする」
坂本龍一著
出版社: 新潮社
とても読み応えのある本ですが、特にこの本に出てくる音楽家たちがそのまま80年代から現在にいたる
日本の音楽界の紳士録になっている点が興味深いところです。
細野晴臣、高橋幸宏のYMOのメンバーはもちろんですが、武満徹、矢野顕子、大瀧詠一や、
意外なところでは友部正人(フォークシンガー;YMO結成前に坂本龍一さんは友部正人のバックバンドをやっていたことがある)、
山下達郎などとの交流が語られます。
この本ではいろんなエピソードが語られていますが、なかでも一番面白かったのは、
学生時代、かの武満徹のコンサートに出かけ、入り口で武満批判のビラを撒いていたら本人が出てきてくれて
30分ほど論議に付き合ってくれたというくだりです。
これは武満徹の懐の広さを感じさせるエピソードです。
それからYMO関連でも、実はYMOが坂本龍一さんにとって、生まれて始めてのバンドだったという話や、
YMO時代の葛藤と3人の緊張感、そして現在の自然さ。
また映画音楽の話では、大島渚やベルトルッチとのやりとり、そして日本人初のアカデミー作曲賞受賞、
さらに911の衝撃などが、飾り気のない言葉で語られています。
それにしても坂本龍一さんの日本の音楽界、そして音楽ファンへの貢献はとても大きいものではないでしょうか。
YMOの魅力のひとつは、坂本龍一の現代音楽志向でしょうし、私(編集部I)も坂本龍一の音楽から、
スティーブ・ライヒやフィリップ・グラスなどの現代音楽、ミニマルミュージックの魅力を知り、
クリスチャン・フェネスなどの最先端のエレクトロニカも好きになりました。
またアーティストとして環境問題や政治的な問題に積極的に発言する姿にも共感できるところがあります。
報道によれば大きな病気のようですが、日本の、いや世界の音楽ファンのために、
ぜひ早期に完治し、ふたたびステージで元気な姿を見せていただけることを祈念します。
それまで私は、坂本龍一さんの近作『Out of noise』の1曲目に収録された
「hibari」(まるで静かな祈りのような曲です)を、毎日一度は、聴くことにしたいと思います。
アーティスト名:坂本龍一
アルバム・タイトル:out of noise
エイベックス
(Denon Official Blog 編集部I)