デノン創業110周年記念コンテンツ5 ヨーロッパにおけるデノン
デノンは創業110周年。デノンオフィシャルブログでは110周年を記念しデノンの歴史や音に対する哲学、ものづくりへの思い、キーパーソンへのインタビューなどをシリーズでお送りします。今回はヨーロッパにおけるデノンについてドイツ駐在中の福島欣尚(よしなり)に話を聞きました。
ヨーロッパでのデノンは「技術に強い会社」
●前回はデノン創業110周年コンテンツでのヘッドホンのお話、ありがとうございました。今回はヨーロッパにおいてデノンはどのようなブランドとして認知されているのか、そしてどのように評価されているのかについて、お話をうかがいたいと思います。福島さんはドイツ駐在のため、今回もSkypeによるリモート取材でお願いします。
福島:よろしくお願いします。
●福島さんはドイツに駐在してどのくらいですか。
福島:川崎の本社からドイツに移って5年ほど経ったところです。
●ドイツのなんという街にいらっしゃるのですか。
福島:オフィスはドイツの西にあるネッテタールという街にあります。
オフィスから国境が見えるくらいオランダに近いところです。実はオランダのアイントホーヘンという街に弊社のヨーロッパのヘッドクオーターがあって、週に2回はオランダのオフィスに行っています。
以前デノンのオフィスは、ネッテタールとデュッセルドルフにあり、今はここネッテタールが残った形になります。私はデュッセルドルフの近くに住んでいるのですが、日系企業が多く、7,000人もの日本人が住んでいるそうです。ヨーロッパで活躍する日本人サッカープレイヤーも日本食を食べにデュッセルドルフに来ているようですよ。
D&Mホールディングス グローバル ヘッドホン プロダクトマネージャー 福島欣尚
●デノン製品は世界中で使われているわけですが、ヨーロッパにおけるデノンブランドは、どんなイメージですか。
福島:非常に技術に強いブランドとして認知されていると思います。
その理由は二つあって、ひとつは、デノンが以前放送局で使うCDプレーヤーやMOといった業務用機器を作っていたことが挙げられます。放送局で使うような業務用機器は決して故障できないので、非常に信頼性が高いんです。
そのノウハウはコンシューマー製品にも反映されているわけで、それによって「デノン製品は信頼性が高い」という認知をされています。
もうひとつはデノンがかつて、まだEU(ヨーロッパ連合)ではなくEC(ヨーロッパ連盟)の時代に、ドイツのこのすぐ近くに工場を持っていたことが挙げられます。
●ドイツの工場でデノンのオーディオ機器を生産していたという歴史もあるんですね。
福島:そうなんです。今はもう工場はありませんが、当時のメンバーの何人かは今もこのドイツのオフィスで製品管理やサービス部品調達の担当として働いています。
ですからヨーロッパのデノンは単なる販売会社ではなく、ものづくりの精神を持ってお客様に接しているブランドだと言えます。
●デノンは日本では「Hi-Fiオーディオの老舗」というイメージが強いですが、ヨーロッパでは印象が異なるのでしょうか。
福島:Hi-Fiオーディオはヨーロッパでも非常に盛んで、有名なブランドからガレージメーカーまで含めて、Hi-Fiオーディオブランドがたくさんあります。
その中でデノンは中堅というイメージでしょうか。むしろヨーロッパの市場でデノンが強いのは、開発規模と最新の技術力が必要なAVアンプ、ホームシアターシステム、そして最近ではサウンドバーやネットワークスピーカーなどだと思います。発売されて間もないネットワークスピーカーのDenon Homeシリーズがヨーロッパでも評判になっています。
ヨーロッパでは「音場表現」が重視されている
●ヨーロッパではどんな風に音楽が聴かれているのでしょうか。日本とは違いますか。
福島:音の好みは比較的日本に近いと思います。
よく対比されるアメリカでは、音の迫力やエネルギー感が重視されるので日本とはかなり違うんですよね。とはいえ、ヨーロッパといってもたとえばドイツとイギリスでは好まれる音の傾向は違いますし、他の国々もそれぞれに差があるので一概に言うことはできないんですよ。たとえばイギリスは結構パンチがあって比較的ドライな感じの音が好きなのかな。
オーディオ雑誌でも「パワフル」とか、「フルボディ」という言葉、それと「タイミング」という言葉がよく使われます。
●「タイミング」という言葉は、サウンドマネージャーの山内さんからも「ヨーロッパでよく使われる」と聞きました。タイミングとはグルーヴ感みたいなことなのでしょうか。
福島:そんな感じですね。ただ一般的にグルーヴ感と言うとリズム的にツッコミ気味なものを前ノリ、モタり気味のものを後ノリと言いますが、イギリスで言う「タイミング」は、本当にオンタイムなんです。
キックやスネアがパシッとジャストなタイミングで出ることに非常に重きを置いていますね。
これはひょっとしたらリスニング環境によるものかもしれません。リスニング環境はドイツとイギリスでは明らかに違っています。イギリスの部屋は比較的小さいので、小さい部屋で気持ち良く聴くためかもしれません。ちなみにドイツはもっと大きい部屋で音楽を聴いています。
●ではドイツにおけるオーディオの「いい音」とはどんなものですか。
福島:ドイツはもう少しボディに力が置かれていて、ドイツの雑誌のレビューなどでは「この製品は低域の押し出し感があっていい」などと評価されることが多いようです。
●先ほどから出てくる「ボディ」という言葉は中低域の量感、という理解でいいのですか。
福島:そこはちょっと難しいですね。確かに一般的にはボディと言うと中低域を指しますが、ドイツに限って言えば中域は入っていなくて、低域の押し出し感やスピードがあることをボディということが多いようです。
●イギリスとドイツでは結構音の好みが違うんですね。ちなみにヨーロッパで共通して重視されていることはあるのでしょうか。
福島:ヨーロッパのオーディオファンは「サウンドステージ」を重視しています。
たとえば2チャンネルのステレオ再生であっても、スピーカーの外側にまでしっかりと音場が拡がっているか、あるいはオーケストラの音源を再生したとき、左右だけでなくステージの奥行き感までをしっかり表現できているか、といった点に注目します。
●それはデノンの新しいサウンドフィロソフィーである「Vivid & Spacious」に近いように思えます。
福島:そうなんですよ。ですからVivid & Spaciousを言い始めてから、ヨーロッパでのデノンのサウンドの評価は上がってきています。
マーケティングや音質検討ではヨーロッパのスタッフと緊密に連携
●話は戻りますが、ヨーロッパではデノンはHi-FiコンポーネントよりAVアンプの方が名が通っているのでしょうか。
福島:そうですね。ヨーロッパではデノンはAVアンプのメーカーとしてのイメージが強いと思います。ヨーロッパのホームシアター市場でデノンの認知度が高い理由のひとつには、あるストーリーがあります。
1998年頃、まだ出たばかりの5.1chのコンテンツで、当時デノンのレーベルから発売された、Eiji Oue指揮・フランクフルト放送交響楽団の演奏による「マーラーの交響曲第5番」がありました。当時このコンテンツをきちんと再生できる唯一のオーディオがデノンのAVアンプで、それが当時大変な評判を集めたんです。デノンが、ソフトとハードの両方でマルチチャンネル再生、立体音響の素晴らしさを初めて提示したということは、ヨーロッパにおけるエポックとなり、「デノンといえばAVアンプ」というイメージが広まったんです。
(8/24訂正:年度、コンテンツ名に誤りがあったため訂正しています)
●デノン製品は音作りの面でもヨーロッパと連携しているのでしょうか。
福島:非常に密接に連携しています。
上の写真はオランダオフィスのリスニングルームでの音質検討の様子です。真ん中にいるのがAVアンプの開発者であり音質担当者である高橋で、左右の2人がドイツのプロダクトマネージャーです。試作品ができあがると日本からヨーロッパに持ち込み、試聴を重ねながらチューニングを行います。このように、デノンのオーディオ機器は常にヨーロッパのスタッフとも意見交換を行いながら開発されています。
●サウンドチューニングの時にヨーロッパ側から提示される方向性にはどんなものがありますか。
福島:ヨーロッパから出される要求は、やはり音場に関わる部分が多いですね。
S/N比や再生帯域などは測定値の問題なので、どんどん追い込んでいけばいいのですが、そこから先は感性の領域になってきます。その段階で、よくヨーロッパから要求されるのは音の奥行きや音の高さ、いわゆる音場感の表現です。その次によく言われるのはヨーロッパにおけるデノンサウンドである、ダイナミックな音、スピーカーから音が飛んでくるようなサウンド、それも求められます。
●そのあたりは日本のオーディオファンが求めるデノンサウンドと必ずしも一致するわけではないですよね。
福島:はじめからぴったり一致するわけではないですが、方向性が大きく違うことはありません。
日本でベースとなるサウンドを作り、先のリスニングセッションでヨーロッパの意見も取り入れ、双方が納得したうえで、さらに質の高いデノンサウンドとして磨き上げる。そういうプロセスを経て皆さんにお聴きいただく製品が作られています。
●ヨーロッパでのデノンのイメージや、ヨーロッパとの緊密な連携について、今回のお話で初めて知ることができました。ありがとうございました。
(編集部I)