
クラシック音楽ファシリテーター飯田有抄さんがバカンスでマイ無人島に持ち込む究極の一枚!

無人島に1枚だけCDを持って行けるとしたらどれを選ぶ? と唐突に突きつけられる究極の選択、名付けて「無人島CD」。今回はクラシック音楽ファシリテーターの飯田有抄さんにお願いしてみましたが、なるほどーというか、さすがの1枚でした。
こんにちは。クラシック音楽ファシリテーターの飯田有抄です。
無人島CD……これはなかなかのお題ですね。まず、どういうプロセスで無人島に行くのかにもよりますね。
豪華客船でクルーズ中に事故にあってしまい、たまたま流された先で一人、手に持っていたCDなのか(そんなシチュエーションあり得るのかはさておき)、それとも意図的に、日常のすべてをかなぐり捨てて、自由なバカンスを過ごすべく、自分でこっそり見つけて買い取ってあった無人島で1週間くらい向き合うCDなのか。
前者はあまりに過酷すぎて、寂しがりやの私は想像しているだけでウツになるので、考えるのをよします。というわけで、ヴァカンスでマイ無人島を過ごすときの一枚にします。それなら、これです。
ピアニスト、アリス=紗良・オットさんの「エコーズ・オヴ・ライフ」
アーティスト名:アリス=紗良・オット
アルバム・タイトル:エコーズ・オヴ・ライフ
これはショパンの24の前奏曲を軸としながら、冒頭と終わり、そして合間合間に、現代曲を挟んで一枚にまとめているという、先鋭的ピアニスト・アリスさんならではの美しいコンセプトアルバムになっております。
その現代曲というのも、もちろんアリスさんが選曲していて、これまでの人生のある場面やプロセスを象徴するような作品を選ばれているそうなんです。ニーノ・ロータの哀愁漂う「ワルツ」や、武満徹の静謐な「リタニ」、締めくくりにはアリスさんの自作品「ララバイ・トゥ・エターニティ」などが配されています。とてもカラフルで、でもときに寂しいくらいにモノクロな、スタイリッシュな作品と演奏。それらがショパンに加わることで、よく知っているはずのショパンの曲も、なんだか違った角度から眺めるような、すごく新しい聴体験を味わえます。
ショパンの24の前奏曲そのものも、1曲あたりが1〜3分程度と短く、それぞれには凝縮された世界があって、シンプルだったり複雑だったり、いろんな心模様を映し出すようです。こちらの多様な心境、気分、思考に寄り添ってくれるかのようです。
アリスさんのピアノの音色は一貫してキラリとした輝きがあり、それでいて眩しすぎず、聴く人との対話を楽しんでいるような、詩的ニュアンスに溢れています。
たぶん、ヴァカンスの間、いろんなことをぼ〜っと考えたり、考えなかったり、何かを思い出してこころにグサーッとくるようなことがあったり、楽しくなったり、心が忙しくなる間、ずっと「エコーズ・オヴ・ライフ」の響きが、私の心を包んでくれるんじゃないかな。きっと寂しくない。
そんな思いで、この1枚に決めました。
飯田有抄 プロフィール
東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Macquaqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。音楽専門雑誌、書籍、CD、コンサートプログラム、ウェブマガジンなどの執筆・翻訳のほか、音楽イベントでの司会、演奏、プレトーク、セミナー講師の仕事に従事。NHKのTV番組「ららら♪クラシック」やNHK-FM「あなたの知らない作曲家たち」に出演。書籍に「ブルクミュラー25の不思議~なぜこんなにも愛されるのか」(共著、音楽之友社)、「ようこそ!トイピアノの世界へ~世界のトイピアノ入門ガイドブック」(カワイ出版)等がある。公益財団法人福靖子賞基金理事。