映画レビュー「コンサート・フォー・ジョージ」
ジョージ・ハリスンが他界した翌年、2002年11月に行われたトリビュートコンサート「コンサート・フォー・ジョージ」の映像作品のリマスター版が日本初公開!(2023年7月28日よりロードショー)。ポール・マッカートニーやリンゴ・スターをはじめ、ジョージ・ハリスンと親交のあった豪華アーティストが出演し、名演が繰り広げられた本作をひと足先にレビューします。ジョージ・ハリスンへの愛に溢れた、歴史的一夜をぜひ劇場でご覧ください。
© 2018 Oops Publishing, Limited Under exclusive license to Craft Recordings
『コンサート・フォー・ジョージ』
2023年7月28日(金)TOHOシネマズ シャンテほか 全国順次公開
公式サイト: https://www.culture-ville.jp/concertforgeorge
予告編: https://youtu.be/IA_dQAfx6b8
豪華アーティストが集まった奇跡の一夜
2001年11月29日、58歳の若さで世を去ったジョージ・ハリスン。ジョージを偲び、翌年の同日に、妻のオリヴィアと盟友エリック・クラプトンによって、トリビュートコンサート「コンサート・フォー・ジョージ」が、ロンドン・ロイヤル・アルバートホールにて開催されました。
ジョージ・ハリスンの交友の豊かさを表す豪華アーティストが集まり、ジョージが残した曲、愛した曲を熱演。参加メンバーの一部をご紹介すると、ポール・マッカートニーとリンゴ・スター。彼らは、ビートルズ最後のコンサートとなった「ルーフトップ・コンサート」以来、初めて同じ舞台に立ったそうです。そして、5番目のビートルズと言われたキーボード奏者のビリー・プレストン、1988年に覆面バンド トラヴェリング・ウィルベリーズのメンバーとして、ジョージと一緒に活動していたトム・ペティ(トム・ペティ&ハートブレイカーズで参加)、音楽プロデューサーとしても名高いジェフ・リン。
さらにジョージが敬愛し、師事したインド古典音楽家でシタール奏者のラヴィ・シャンカールと、その娘のアヌーシュカ・シャンカール。「コメディ界のビートルズ」とも言われたモンティ・パイソンのメンバーに、この夜だけの限定メンバーとして、俳優のトム・ハンクスも参加。そして、父親にそっくりなジョージの息子のダニー・ハリスン。実に豪華で多彩、賑やかな舞台です。
エリック・クラプトンの「今夜は美しい音楽と温かい心をテーマに、ジョージ・ハリスンの人生と音楽を讃えます」という言葉で始まったコンサートは、その言葉どおり、終始ジョージ・ハリスンへの愛と、音楽への愛に溢れた、温かい夜に。いくつか印象的だったシーンをピックアップしてみます。
エリック・クラプトンが好きなジョージの曲
ジョージの傑作の1つという「Isn’t It A Pity」。「彼の曲は全て好きだけど、中でも好きなのは純粋さを歌った曲」とエリック・クラプトンは語っています。ジョージ・ハリスンの曲、と言ってもほとんどビートルズ時代の曲しか知らなかった筆者(編集部S)にとっては、初めて聴く曲も多く、こんなに真っすぐな感じのバラードもすごくいいなと思いました(映画を観た時はなぜかラブソングかと思ったのですが、後で調べたら違いました……)。談笑まじりのリハーサルのシーンから実際のライブへと映像が繋がっていく流れが、よりハートウォーミングな雰囲気を醸し出していました。
初めにクラプトンが歌い、途中からビリー・プレストンが歌う、という演出もよかったですが、もちろん演奏も素晴らしいものでした。エリック・クラプトンやビリー・プレストンといった外部のミュージシャンたちと積極的に交流し、行き詰まっていた後期のビートルズに彼らを参加させたのもジョージ・ハリスンだったというエピソードを象徴的するようなシーンの1つでもあった気がします。
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ずっと聴いていたい神秘的なシタールの音色
もう1つは、インド音楽が奏でられるシーンです。ビートルズ時代にインド音楽を代表する楽器の1つであるシタールをバンドに取り入れたのもジョージ・ハリスンと言われていますし、インド古典音楽家でシタールの名手であるラヴィ・シャンカールの弟子であったことも有名です。
ラヴィ・シャンカールが舞台で「ジョージの存在を強く感じる、彼を愛する人々が集まったこの場に彼が来ないはずがない」と話すと、本当にそう思えてきたのも不思議でした。
そんなラヴィ・シャンカールがこのコンサート、ジョージのために作った曲「Arpan(アルパン)」を、娘でやはりシタール奏者でもある、アヌーシュカ・シャンカールが指揮します。インド古典音楽というのは、大所帯の楽団で演奏されるものなんだな、ということを初めて知ったのと、楽団が奏でるエキゾチックな音色はどこか神秘的でもあり、ずっと聴いていたいような気持ちになりました。
この映画を観るまでちゃんと聴いたことはなかったのですが、ジョージ・ハリスンが魅了されたインド音楽を垣間見ることで、ジョージの世界観の断片や、奥行きを少し知ることができたような気がします。まさに、このトリビュートコンサートに相応しい演奏でした。
余談ですが、インド音楽もいいな、とこの原稿を書きながらSpotifyでアヌーシュカ・シャンカールのプレイリストを聴いていると、ノラ・ジョーンズと一緒にやっている曲が多く、実はアヌーシュカ・シャンカールとノラ・ジョーンズが異母姉妹ということを知って驚いたりもしました。
「夢で逢いましょう」
他にも、リンゴ・スターはジョージと一緒に作曲した「想い出のフォトグラフ」を、ポール・マッカートニーはジョージのお気に入りだったウクレレのエピソードを交えて「サムシング」を演奏。コンサートの最後は、1950年代から活躍していたイギリスのロックシンガーでギタリストのジョー・ブラウン(ビートルズが前座を務めたこともあるという)がウクレレで「夢で逢いましょう」を演奏し、歴史的な一夜を締めくくりました。
ジョージ・ハリスンは本当にいろんな人に愛されていたし、ジョージも同じように愛していて、そして何よりも音楽を愛していた、そんなことが伝わってくる温かいコンサートでした。ジョージ・ハリスンの曲はビートルズ時代の代表的なものしか知りませんでしたが、十分に楽しめました。
今回、ジョージ・ハリスン生誕80年を記念して上映される「コンサート・フォー・ジョージ」は、2022年にコンサート開催から20周年を記念して、海外で上映されたリマスター版とのこと。妻のオリヴィアと息子ダニーから新たにメッセージが寄せられており、日本初公開です。ぜひ劇場でご覧ください!
(編集部S)