FM放送を支えたデノンの銘機たち
デノン白河工場の中には、歴代のデノンの銘機たちがずらりと並べられた「プロダクト展示室」があります。今回はそのコーナーでもひときわ存在感を放っているヴィンテージな3台をご紹介しましょう。いずれも日本のFM放送の黎明期を支えた銘機たちです。
デノン白河工場の中には、歴代のデノンの銘機たちがずらりと並べられた「プロダクト展示室」があります。
歴代のアンプ、CDプレーヤー、レコーダーなどがギッシリと並ぶ中で、ひときわ強烈な存在感を放っているのが、今回ご紹介する3つのヴィンテージなモデル。
いずれも日本のFM放送の黎明期を支えた銘機たちです。
まずはこちら。
堂々たる体躯のレコードプレーヤー「DN-308F」です。
(全てのオープンリール、ターンテーブルの保守修理サポートは終了いたしました)
パネルの説明によれば、DN-308Fは放送局用のレコード再生機として作られたもの。
品名はなんと「ステレオ円盤再生機」。
レコード=円盤はすごいと思います。
ちなみに放送用途での業務用機器ですから、蓋などというモノはありません。
ターンテーブルの上にある譜面台のようなものは、恐らく放送台本や次に再生するレコードを置くための台でしょう。
無駄なモノが一切ない、プロ機の凄みを感じさせます。
調べたところによるとDN-308F(1978年製造)は1970年に登場した、「業務用で初めての磁気パルス検出による速度制御を採用した
ACサーボダイレクトターンテーブルDN-302Fの後継モデル」とのこと。
つまり、後のデノンのレコードプレーヤーが採用するACサーボダイレクトドライブはすでにここから始まっているわけですね。
↑デノンのレコードプレーヤカタログに掲載された「DN-302F」
「主にDL-103(1970年製造)カートリッジを標準とするラジオ放送局のレコード再生用途として使われました」ともありますから、
先日ご紹介した白河工場で今日なお作られているDL-103とともに、
FMの黎明期の音楽再生を支えていたわけで、当時のFMのリスナーたちはほぼ例外なくDL-103とDN-302F(あるいはその後継機)の組み合わせの音を聴いていた、といってもいいのではないでしょうか。
次にご紹介したいモデルは、こちら。
かなり大型のオープンリールのテープデッキですが、据置型テープレコーダー「DN-3602RG」というモデルです。
こちらも放送局用。
説明によれば「デノン業務用録音機の歴史は、1951年にNHKへ納入した携帯型R-26-Fに始まりました。
据置型は1953年にNHKへ納品されたR-28-Pが最初です。
DN-3602RG(1988年製造)は、デノンの業務用据置型テープレコーダーにおける最後のモデルです」とのこと。
正面の大型のVUメーター、フタを開けないと押せない機構になっている録音ボタン、さらにラインアウトのスイッチやチェック用の信号を出すスイッチが誤作動を避けるためにガッシリと金属のバーで囲われているあたり、まさに放送用のプロ機らしい精悍さです。
「前シリーズのDN-371(1972年製造)/DN-372(1972年製造)を含めNHKをはじめとしたラジオ放送局、特にFM放送局ではなくてはならないテープレコーダーとして活躍しました」とあります。
おそらく数え切れないほどの番組が、このテープレコーダーで録音されたのでしょう。
そして最後にご紹介したいのが、ロッカーぐらいの大きさがあるこちらのモデル。
みなさん、これは何だと思われますか?
なんと多装テープ自動再生装置「DN-152P」というものだそうです。
ではいったい何をするためのマシンでしょうか。
「DN-152P(1971年製造)は、放送業務の自動化の一環として、収録済みテープの自動送出を可能にした多層テープ自動再生装置でした。
あらかじめプログラム順にテープを装着しておくだけで、接続されたコンピュータの指令によって自動的に順次連続再生が可能でした。
それにより複雑な送出業務をわずか1名で運行することができました」
と説明にありました。
つまり録音されたテープを順番に自動的に再生する装置なんですね。
おそらくテープに録音された番組を、この機械で順番に再生していたのではないでしょうか。
AT1とAT2という2つの再生機が合体したような機械に見えるのでおそらく自動的にテープのリールを装填しながら、交互に切り換えて再生していたのではないかと思います。
開発にはかなり苦労があったようで、「放送局で24時間フル可動する製品であり、信頼性が命だった。
メカニカルでテープを入れ替える自動機であったため、ランニングテストでエラーを追い込み、対策の上で出荷したが、納品までのランニングテストは、尋常ではなかった」と説明にありました。
放送は失敗したらアウト。
放送事故になってしまいますから、そういったことがないように徹底的なテストをしたのでしょう。
「尋常ではなかった」という文章からも、その凄みが伝わってきます。
「また緊急の番組変更や事故などにも迅速に対処できるよう、十分な配慮もなされていました。
デノンはこのシステムで『科学技術長官賞』を受賞しました」とあります。
実際調べてみると産業技術史資料情報センターのデータベースに掲載されていました。
文字通り日本のラジオ放送を支えてきた1台だといえるでしょう。
デノンの技術は、「放送」というほんのわずかな失敗も許されないフィールドで徹底的に磨き抜かれたことがよくわかります。
(Denon Official Blog 編集部I)