デノンサウンドマネージャー、山内慎一インタビューvol.1
酒蔵で言えば杜氏のように、デノンには全製品の最終的な音決めをするサウンドマネージャーがいます。昨年そのサウンドマネージャーが変わりました。今回は新たなサウンドマネージャー山内慎一のインタビューをお送りします。
酒蔵で言えば杜氏のように、デノンにはあらゆる製品の最終的な音決めをするサウンドマネージャーがいます。
昨年、それまでのサウンドマネージャー米田が退任し、新たに山内慎一がデノンサウンドマネージャーに就任しました。
今回は、山内がこれからのデノンのサウンドについて語ります。
GPD エンジニアリング デノンサウンドマネージャー 山内慎一
■このブログでは以前、設計者としての山内さんにお話をうかがったことがありましたが、今回はサウンドマネージャーとしてのお話を初めてうかがいます。サウンドマネージャーにはいつ就任されたのですか。
山内:昨年の1月頃ですから、そろそろちょうど1年になります。
■サウンドマネージャーは、デノンの全製品の音に最終的な責任を持つということで、かなりの重責だと思います。大変ではないですか。
山内:サウンドマネージャーはたしかに重責ですが、ジタバタしてもはじまらないということで逆に開き直りました。
私は今まで設計者としてずっと音質を追求する仕事に携わってきて、音質こそが最も重要だと思っていましたので、サウンドマネージャーとしてもその部分を
継続していけばいいかな、と思っています。
■ちなみに、サウンドマネージャーには代々設計者の方が就任するのでしょうか。
山内:それが意外と違うんです。どちらかというと宣伝や広報の人間のほうが多かったように思います。
とはいえ前任者の米田さんに関しては最初、設計をしていましたので、設計出身といっていいと思います。
■サウンドマネージャーが変わると、やはりデノンのサウンドも変わってくるのでしょうか。
山内:サウンドマネージャーが変わっても、デノンサウンドの本質は変わりません。
ただサウンドマネージャーという「人」が変わる以上、方向性に若干の変化はあると思います。
デノンは多くのオーディオファンの方々に支えられていますし、オーディオメーカーとして長い伝統がある会社ですから、新しいサウンドマネージャーを引き受けた以上、デノンが今後どんな音を目指すのかについては、私自身の言葉で説明する責務があると感じています。
■では、山内さんからデノンの今後の音についてご説明ください。
山内:先ほどデノンサウンドの本質は変わらない、と言いましたが、伝統あるものは同じように見えても、実際は少しずつ変化しています。
もし全く変わらなくなったらすぐに古くなって、朽ちてしまうのです。老舗ブランドの本質とは「守りながら進化する」ことかもしれません。
■「守りながら進化する」とは具体的に言うと?
山内:デノンの音の特長としてよく言われるのは「繊細で、かつ力強い音」、そして「正確さと安定感」です。
多くの方に支持されている
こうした「デノンサウンド」の伝統についてはこれからもしっかりと守り続けていくべきだと思っています。
そして、私たちはここに新しい要素を加えていきたいと考えています。
■それは何ですか。
山内:私は2つの言葉を使って表現しています。ひとつは「Vivid(ビビッド)」。そしてもうひとつは「Spacious(スペーシャス)」です。
「Vivid」も「Spacious」も今までのデノンサウンドになかったか? というとそうではありません。いままでにもデノンの音の中にあった要素です。ただこれからはそこを重視していく、という意味で使っています。
(2016年1月13日 2500NEシリーズ プレス発表にて)
■「Vivid」とは、どんな音を指すのですか。
山内:「生き生きした」とか、「鮮明」あるいは「フレッシュ」「起伏」とか「コントラスト」そういう言葉に置き換えられると思っています。
結論的には、音楽のパッションやエッセンスを伝える音が私にとってVividな音です。ですから、「Vivid」が示す範囲はかなり広汎です。
■「Vivid」と言う語感からは色の鮮やかさ、という意味も感じます。
山内:もちろん色彩という面もあります。さらに明瞭さ、クリアさもありますね。
対比概念としてはモノクロームになるでしょうか。
たとえば「モノクロームな音だね」というように音を表現できると思いますが、その反対の音のイメージになります。
色彩感ある音というと、例えば音色や表情の変化をもらさず捉えるイメージですね。また「Vivid」にはスピード感も含まれています。
時間軸に沿っての音の移り変わり、移ろいを、しっかりと捉えていく。それも大事なことだと思っています。
■ではもう一つの「Spacious」とは?
山内:空間感ですね。たとえば広大なサウンドスペースを表現できること。
あるいはスケール感の豊かさ、音のディテールが緻密に再現できる分解能も併せ持つべきだと考えます。
■「Spacious」は、ステレオ 音像の左右の定位とは違うのでしょうか。
山内:音像定位とも関係しますが、音場とかサウンドステージ、ステレオイメージですね。
LとRの間には位相を含めて色々な状態があります。
それをしっかりと微細に表現できるということ。さらに奥行き感といった前後のニュアンスも入ってきます。結果として音に立体感が出てきます。
■それを実現するのは、なかなか難しそうですね。
山内:このあたりは、結局一つ一つの音の精度を非常に高い状態にまで上げていくことで実現されると思っています。
■サウンドマネージャーとは、具体的には日々どんな仕事をしているのですか。
山内:製品コンセプトや仕様決めなどの初期段階、あるいは製品開発の途中でも様々な仕事がありますが、やはり最終的な音決めが一番大きいと思います。
ディテールももちろんですが、一歩下がって全体を見ることも重要です。
設計者としては徹底的に細かい部分にこだわる必要がありますので、時として「木を見て森を見ず」というようなことが起こりがちです。
そこでサウンドマネージャーとしてはいろいろリセットしてみて「音がこれでいいか」を見極める。
そういうことが多いです。ただ私の場合はずっと設計者でもあったので、この段階になると自分で直接手を入れてしまうこともあります。
■デノンの全製品となると、Hi-FiだけでなくヘッドホンやBluetoothスピーカー、さらにミニコンポやAVアンプなど、担当するオーディオ機器のジャンルがとても
広いですよね。そのあたりの苦労はありますか。
山内:私の場合はHi-Fiの設計者として培ってきたものがあって、今はその経験が生きているとつくづく思います。
たしかにいろんなオーディオ機器を見ますが、私自身がひとりのオーディオファンでもありますので、
特に違和感なくサウンドマネージャーの仕事ができています。
■ちなみに、山内さんは今まで設計者としてはどんな製品に携わってきたのですか。
山内:設計者として入社して、主にHi-Fiのプレーヤー系をやってきました。一番多かったのはプレーヤーの電気設計です。
当時はまだ若輩でしたが、幸いにもS1の時代から音質評価に関わる機会に恵まれました。
■S1といえばデノンを代表する銘機ですね。
山内:S1シリーズのプレーヤーであるCDプレーヤーの駆動部分とDAC部分をセパレートしたCDトランスポート DP-S1 とD/Aコンバーターの DA-S1や、一体型でトップローディングのDCD-S1などは、音質担当のような形で開発に参加していました。
私自身とても思い出深いです。
デノン公式ブログ 銘機探訪「DP‐S1 &DA-S1」
デノン公式ブログ 銘機探訪 「DCD-S1」
■ではインタビュー後半は、新しい2500NEなどのお話を聞かせてください。
「DCD-S1」
(Denon Official Blog 編集部 I)