映画「AMY エイミー」
2003年にデビューしトップスターの座に躍り出たものの、2011年にはわずか27歳の若さで急逝したシンガー、エイミー・ワインハウスのドキュメンタリー映画「AMY エイミー」をご紹介します。
2003年に彗星の如くデビュー。
2008年の第50回グラミー賞で最優秀新人賞、最優秀楽曲賞など5部門を受賞するなど、一躍トップスターの座に躍り出たものの2011年7月、わずか27歳の若さで急逝した天才シンガー、エイミー・ワインハウスのドキュメンタリー映画「AMY エイミー」をご紹介します。
「AMY エイミー」
公式サイト http://amy-movie.jp
監督:アシフ・カパディア/製作:ジェームズ・ゲイ=リース
出演:エイミー・ワインハウス/配給:KADOKAWA
7月16日(土)角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、角川シネマ新宿ほか全国ロードショー
ここのところ音楽ファンの間ではジェイムス・ブラウンのドキュメンタリー映画『ミスター・ダイナマイト ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』が話題になっていますが、それに引き続き7月16日からは、イギリスが生んだ稀代の歌姫、エイミー・ワインハウスのドキュメンタリー映画が公開されます。
エイミーはまさに天才で、16歳で音楽活動を開始、2002年には19歳で音楽出版社と契約を結んで20歳でデビュー。
23歳でセカンドアルバムをリリースして全英チャート1位(全米7位)、24歳でブリットアワード最優秀女性ソロアーティスト賞を受賞、25歳でグラミー賞最優秀新人賞ほか5部の受賞。
まさに破竹の勢いで世界の音楽シーンを席巻しました。そして2011年、心臓発作により死去。
享年27歳、という若さでした。
エイミー・ワインハウスとえいば、ビリー・ホリディを思わせるハスキーでスインギー、迫力のある声が印象的ですが、その一方で歯に衣を着せない発言やスキャンダラスな振る舞いでも有名でした。
でもこのドキュメンタリー映画を見て、私はその印象がガラリとかわりました。
デビュー前の天真爛漫なエイミーを見ると、神様に特別な才能を与えられただけの、普通すぎるぐらい普通である女の子であることがよくわかります。
別に有名になりたいとすら願っていないような、歌う才能だけが巨大な、ほんとうにありふれた女の子です。
それにしても歌う才能の巨大さは、ものすごいものがあります。
デビュー直後のお客さんが少ないステージでのライブ映像もありますが、その素人が普通のビデオで撮影しただけの映像を見ていると、かえってエイミーの尋常ではない歌の凄みが実感できます。
才能のことを英語で「gifted」といいますが、まさに神に与えられたものなんだなと思わされます。
もちろんエイミーの巨大な才能を放っておくような音楽業界ではないので、次々に音楽産業の大物たちがエイミーの前に現れ、そしてあれよあれよという間に、自分の気持ちが追いつかないほど速く彼女は巨大なスターになっていくわけですが、プライベートの映像などを見ると、有名になっていくことへの戸惑いを強く持っていたことがよくわかります。
そしてその戸惑いと孤独から、彼女が何に救いを求めたのか。
それは恋人への過度な依存であり、そして恋人が中毒だった薬物への依存でした。
この薬物依存がエイミーの寿命を縮めてしまうことになります。
©Rex-Features
ここでいったんエイミー自身からは離れますが、音楽家のドキュメンタリー映画が増えているとはいえ、ジェイムス・ブラウンのように1950年代から活躍しているアーティストとなると、幼少の頃の画像は白黒写真がせいぜいです。
でも1983年生まれで2000年代初頭に活躍したエイミー・ワインハウスのような最近のアーティストともなると、ドキュメンタリーの映像素材には事欠かないのだな、というのもこの映画で強く思ったことでした。
このドキュメンタリーにはまだエイミーが幼い頃の動画、それにデビュー前に小さなバーで歌っているような動画、さらにはデビュー直後のキャンペーンでのツアーの車中の様子など、有名になる前のたくさんの動画素材が使われています。
またデビューしてヒットを生み、いわゆるセレブになってからは、ライブ演奏やテレビなどの放送、ミュージックビデオはもちろんですが、オフタイムでのエイミーの友人や恋人たちがスマートフォンで撮影したであろうプライベートな動画がふんだんにあります。
スマホなどで誰もが動画が撮れる現在がいかに映像の時代であるかが、よく分かります。
今後のドキュメンタリー映画で動画素材に困る、なんてことは、もうないのかもしれません。
映画の後半ではエイミーがブリットアワードやグラミー賞を受賞しながらも、ミュージックビジネスに馴染めない様子、パパラッチに追いかけられる不快な日々、それでも音楽を作り、そして歌うことで救われている様子などが描かれます。
私がこの映画で最も印象的だったのは、ジャズ・ボーカルの大御所中の大御所であるトニー・ベネットがエイミーについてコメントするシーンです。
「彼女は紛れもない本物のジャズ歌手だ。エラ・フィッツジェラルドやビリー・ホリディに匹敵する素晴らしい才能だった。
彼女が生きていたら言いたい。“行き急ぐな。生き方は人生から学べる“。」
エイミーはひょっとしたら生まれる時代を間違えてしまったのかもしれません。
ジャズ全盛期の1950年代に生まれたのなら、もっと自由に楽しく伸び伸びと歌の才能を発揮して活躍できたのではないでしょうか。
エイミーのキャリアとしては最晩年にあたる、死の4ヶ月前にそのトニー・ベネットとエイミーがデュエットした曲が録音されています。
トニー・ベネットの『Duets II』に収録された「Body and Soul」です。
スタンダードとして多くの歌手に歌われている「Body and Soul」ですが、エイミーが歌う「身も心もあなたに捧げているのに、どうしてあなたは私を捨ててしまうの」という歌詞は、他の歌手が歌うよりもはるかに痛切に心に響きます。
ぜひ劇場でご覧いただきたい名作です。
(Denon Official Blog 編集部 I)