サウンドマネージャー山内セレクションVol.6
大好評企画、デノンサウンドマネージャー山内がHi-Fiオーディオシステムで味わってほしい音楽をセレクトする「山内セレクション」のVol.6。鋭い審美眼でジャンルを超越したよりすぐりの音源をご紹介します。
GPD エンジニアリング デノンサウンドマネージャー 山内慎一
●好評の山内セレクション、ついに第6回目となりました。今回もよろしくお願いします。
山内:よろしくお願いします。
●まず最初に今回の試聴環境を教えてください。
山内:前回と同様のシステムでPMA-1600NEとDCD-1600NEでお聴きいただきます。スピーカーも前回同様、B&Wの「802 D3」です。
●ありがとうございます。ではさっそく1曲目をお願いします。
山内:ではまず日本人のDJ、クリエーターの作品をご紹介します。Hiroshi Watanabeという方の「MULTIVERSE」というアルバムです。さっそく聴いてみましょう。
アーティスト名:Hiroshi Watanabe
アルバム・タイトル:MULTIVERSE
●(試聴が終わって)1600NEのシステムで聴いていることもあり、非常に明瞭度が高いと感じました。
山内:そうですね。2016年に発売されたCDのなかではとても気に入った作品です。アルバム全体を通して聴くと、ビートの存在感とシンセやサウンドエフェクトの相乗効果が出ていて、響きが面白いと思いました。
●音楽的には同じことの繰り返しが多いと感じましたが、そこがDJらしくていいですね。
山内:そうですね。このストイックさがDJらしいと思います。ビョークがインタビューか何かで「これからは音響が重要になる」と語っていました。
この作品もサウンドスケープとかテクスチャーというか「音の手触り」を楽しむ音楽、という面もあると思います。
MULTIVERSEというタイトルからも連想されますが、無限に広がっているかのようなサウンドスケープやスペースにじっくり浸って聴くというのもいいですね。
●ありがとうございます。次の曲をお願いします。
山内:次はジョニ・ミッチェルにしてみました。「風のインディゴ」という90年代のアルバムです。
●アメリカンミュージックは、山内セレクションでは珍しいですね。
山内:個人的にはあまりジョニ・ミッチェルは聴かないんですが、タイトルが不思議な感じがしてすごくいいなと思って聴いてみたのがきっかけです。では聴いてみましょう。
アーティスト名:ジョニ・ミッチェル
アルバム・タイトル:風のインディゴ
●(試聴が終わって)素晴らしいですね、ソプラノサックスなど、演奏が素晴らしいですね。これは一曲目ですか。
山内:一曲目の『Sunny Sunday』です。
ソプラノサックスはジャズの大御所、ウェイン・ショーターですね。ラリー・クラインがベースで、ドラムはジム・ケルトナーです。
●アメリカの国宝級のアーティストたちですね。素晴らしい演奏です。
山内:これは20年以上前のアルバムですが、アメリカンミュージックを代表しているような、風格がある演奏です。
このアルバムにはいい曲がいくつか入っていますが、どれもアコースティック楽器のバランスが絶妙ですね。
●このアルバムは、どのあたりがセレクトのポイントになったのでしょうか。
山内:総合的にいいんです。曲の良さ、リラックスできる感じ。ジャケット、そしてタイトルもいいと思います。アメリカの懐の広さ、というのがあるかもしれません。
「空気が乾いている感」とでもいいましょうか、アメリカの荒涼な大地が連想されるような気がします。
●これは確かにいいオーディオでじっくり聴きたいアルバムですね。では次の曲をお願いします。
山内:次はアメリカン・フットボールというバンドのCDです。タイトルも「アメリカン・フットボール」です。
EMOっていうジャンルに括られているようですが、音楽的にはポストロックの要素もあるように思います。聴いてみましょう。
アーティスト名:アメリカン・フットボール
アルバム・タイトル:アメリカン・フットボール
山内:(試聴が終わって)ポストロックだけど「泣ける」感じがしますね。
●確かにそうですね。これは音響系というのでしょうか。アルペジオの入り方、変拍子の入り方、ディストーションの入り方などのバランスがとてもいいですね。
録音としてもクリアに録れているので鮮度感があり、粒立ちも良く音楽をより瑞々しく聴かせますね。
●それでは次をお願いします。
山内:ちょっとアンビエントな感じで、トランペッターのジョン・ハッセルを聴いてみましょう。
アーティスト名:Jon Hassell
アルバム・タイトル:Last Night The Moon Came Dropping Its Clothes In The Street
●(試聴が終わって)非常に空間的な感じがしますね。サウンドフィールドが明瞭で広がりがあります。
山内:このアルバムはアメリカのミュージシャンでもあるスタッフが教えてくれたんですが、聴いてみたら素晴らしかったですね。
タイトルもちょっと詩的で「昨夜月がやってきた、道にその衣装を落としながら」みたいなことでしょうか。
空間表現に優れた1600NEのシステムで聴くと、音のレイヤーが多いのがわかりますね。
ある種、映画音楽っぽいというか、映像的な感じがする音楽ですね。
●ありがとうございます。それでは次をお願いします。
山内:ポリスを聴きましょうか。
●ポリスですか! 大好きです。
アーティスト名:ザ・ポリス
アルバム・タイトル:ゴースト・イン・ザ・マシーン
●(試聴が終わって)うーん、やっぱりいい音で聴くとさらにカッコいいですね。
山内:ポリスは私も若い頃からよく聴いていたんですが、このアルバムについてはなぜかその後あまり聞いていませんでした。
でもリマスターが出たので聴いてみたらすごく良かったんです。
何よりも幻想的な面や奥行きを感じさせるサウンドそのものに惹かれたんだと、当時を改めて思い出しましたが、今聴いても同様の印象を持ちます。
やや抑えたトーンが静かな起伏を形作り、独特の世界観が得られている様にも感じます。
●このアルバムは確か、シンセサイザーなどを本格的に導入したアルバムだったと思います。
山内:アルバムの全体的なトーンには、個人的な印象ですがヨーロッパを感じるんですよね。アルバム全体に通底する統一感を感じます。恐らく実験性みたいなものが頂点になりつつあった時期なのでしょう。
●私は当時、ラジカセやミニコンポで聴いていましたが、1600NEのシステムで聴くと、すごくいい音で録音されているんですね。
山内:録音的にはこのアルバムとシンクロニシティは兄弟みたいな気がします。どちらも素晴らしい音質です。これはリマスターで良くなったと言うより、もともとの録音が良かったんじゃないかなと。リマスターでなくても、充分いい音だと思います。
●ありがとうございます。次はどんなアルバムですか。
山内:今までやっていなかったんですが、最後に聴き比べをしてみましょうか。
バイオリンとピアノで演奏するラフマニノフの『ヴォカリーズ』を2人のバイオリニストで聴き比べましょう。まずは諏訪内晶子さんです。
山内:この録音は10年以上前からサウンドチェック用に使っているアルバムですが、非常に端正なヴォカリーズといえるでしょうね。
素晴らしい演奏です。ではもう一枚、リサ・バティアシュヴィリというバイオリニストの演奏を聴いてみましょう。
アーティスト名:Lisa Batiashvili
アルバム・タイトル:Echoes of Time
●大胆、というか、かなり印象が違いますね。
山内:これを聴くと、諏訪内さんの演奏が模範的な感じとすると、こちらはややメランコリックにも聴こえますね。
リサ・バティアシュヴィリ自身の演奏だけでなく、ピアノ伴奏がエレーヌ・グリモーというピアニストですが、彼女は純粋なソロピアニストなので、これも単なる伴奏ではないという感じです。
ラフマニノフは彼女の重要なレパートリーの一つであると思いますので、深い想いがあるのでしょう。
こうしてみると演奏家による楽曲へのイメージの違いという部分も現れてきますが、そういった部分はもちろんあって然るべきと思いますね。
●録音の感じも違いますね。
山内:リサ・バティアシュヴィリのほうが、やや音色が個性的でリバーブも強めな感じがします。それと楽器の違いもあるかもしれません。
諏訪内さんはバイオリンの最高峰の楽器であるストラディバリウスの通称「ドルフィン」を使っています。
リサ・バティアシュヴィリも同じくストラディバリウスを使っていますが、通称「エングルマン」という楽器です。
同じストラディバリでも、持っている音が違うのかもしれませんね。そのあたりの違いも味わえます。
同じ曲を聴き比べて、演奏や録音などの違いを味わうのも、オーディオの楽しさの一つだと思います。
●なるほど聴き比べも楽しいですね。ありがとうございました。次回もまたよろしくお願いします。
今回試聴に使用したモデルはこちらです。
SACD/CDプレーヤー DCD1600NE
プリメインアンプ PMA-1600NE
(Denon Official Blog 編集部 I)