PMA-A110、DCD-A110で聴く山内セレクション
デノン公式ブログの大好評企画、デノンサウンドマスター山内がHi-Fiオーディオシステムで味わってほしい音楽をご紹介する山内セレクション。今回はプリメインアンプ「PMA-A110」とSACDプレーヤー「DCD-A110」で聴くリコメンド音源と両モデルの開発意図ついてご紹介します。
●山内セレクション、またまたお久しぶりになってしまいましたが、今回もよろしくお願いします。
山内:よろしくお願いします。昨年秋にSACDプレーヤー「DCD-A110」やプリメインアンプ「PMA-A110」を発売したのですが、このコロナ禍で、私自身が店頭やオーディオショーなどで行うデモンストレーションが全くできませんでした。その代わりと言ってはなんですが、今回、昨年秋に発売されたプリメインアンプ「PMA-A110」とSACDプレーヤー「DCD-A110」を使ってお勧めの音源を鳴らしたいと思っています。読者の方々は、ぜひデモンストレーションに参加しているような気持ちで読んでいただけると嬉しいです。
GPD エンジニアリング デノンサウンドマスター 山内慎一
1:Four Tet「Sixteen Oceans」
●それでは最初の音源をお願いします。
山内:Bandcamp(バンドキャンプ)ってご存じですか? 今はAmazon MusicやSpotifyなどのストリーミングが主流かもしれませんが、Bandcampはミュージシャンやレーベルがアップロードした作品をユーザーが閲覧でき、気に入ったら購入できる形式になっています。しかもミュージシャンやレーベルが値段を自分で決められるようになっていて、中には「Name Your Price」という購入者が気に入ればすごく高い金額が出せるというものもあります。サブスクリプションなどよりも、ミュージシャンとユーザーがダイレクトに関係性を持てる気がしますね。どちらかと言うとインディーズ系のアーティストも多いようで、私も気に入って最近よくダウンロードして楽しんでいます。フォーマットもハイレゾが多く44.1kHz/24bit中心のようですがアルバムによっては96kHz/24bitなどもあります。また、アルバムによってはCD付きでの販売もあります。
山内:今日最初の曲はBandcampからダウンロードした音源をご紹介します。DCD-A110はデータディスクも再生できますので、今日は44.1kHz/24bitのデータディスクで聴いてみましょう。キーラン・ヘブデンのソロプロジェクトであるFour Tetです。ロンドン出身のミュージシャン兼、DJで、リミックスなどもやっているベテランです。トム・ヨークともよくコラボしていて。曲調はエレクトロニカ、テクノ、ハウス、アンビエントを感じさせます。今日はこの「Sixteen Oceans」というアルバムからBabyとRomanticsという曲を紹介しますが、Babyはミュージックビデオも面白いのでそれを見ながら聞きましょうか。
●お願いします。
アーティスト名:Four Tet
アルバム・タイトル:Sixteen Oceans
Four Tet – Baby (Official Music Video/ YouTube)
●(試聴して)ドローンで風景の中をずっと飛んでいく映像も面白いし、音も面白いですね。
山内:風景が見えると言うんですかね。ボーカルもチョップして貼り付けていくみたいな感じです。
●デザイン的な音響というか、波形を刻んでPro Tools上で時間軸上に配置していくような感じを想起しました。それと音がやっぱりいいですね。これはCDよりも高い44.1kHz/24bitの解像度だから音が良い、ということはありますか。
山内:24bitなのでそれなりに分解能は高いですが、実はCDで再生してもそんなに劣らないですね。特にデノンのCDプレーヤーは ALPHA Processing で大規模な補間処理やアップサンプリングを行いますので、情報量が多くCDで聴いてもそれほど引けを取らないと思います。評論家の先生もよく「CDをハイレゾ化して聴けるのが、この ALPHA Processing だ」と言ってくださいます。
山内:ではもう一曲「Romantics」を聴いてみましょう。キーラン・ヘブデンはハープを好んで使う人で、この曲でもハーブを使っています。
ROMANTICS (YouTube)
●(試聴して)いい曲ですね。音のタッチが独特で、聴いていると没入感というか、吸い込まれていくような感覚を持ちます。
山内:そうですね。独特の世界観があって、奥深さを感じる人ですね。このアルバムをフルで聴くと、ミニマル、ディープハウスな感じが強いです。このコロナ禍という、人と距離をとらないといけないというなかでこのアルバムを聴いていたわけですが、静かで瞑想的な部分や無機的な感触と一方で少しあたたかみがあるというところに惹かれていきました。あまりに寂寥感を出してこないというか、その辺の作り方や距離感が面白いなと。
●コロナ禍によく聴いた曲ですか。
山内:コロナ禍で一番聴いたアルバムだと思います。前から知っているアーティストだったんですけど、過去の作品はそれほど琴線に触れなかったんです。でもこのアルバムを聴いていくうちにどんどんはまっていって、手放せなくなりました。あまりエクスペリメンタルすぎるとやっぱりちょっと疲れることもあって、そのあたりのバランス感覚が非常に洗練されていると感じます。
DCD-A110とPMA-A110はいずれもSX1 LIMITED EDITIONの流れを汲んでいる
●今回はDCD-A110とPMA-A110で試聴していますが、このシリーズはSX1 LIMITED EDITIONの直後にリリースされたモデルになりますよね。今この音を聴いてみてどんな印象ですか。
山内:DCD/PMA-A110のベースモデルはいずれも2500シリーズですが、そこにSX1 LIMITED EDITIONで培ったノウハウを投入することで、2500寄りというよりはSX1 LIMITED EDITIONに近い音にできたと思います。SX1 LIMITED EDITIONの開発の時は相当苦労したんですけど、これはその時の開発資産やパーツもあったのと、一部技術的な新しさも加わり、音質チューンもスムーズに行えました。一昔前でしたらこの値段では考えられない音だと思います。
●かなりSX1 LIMITED EDITIONに肉薄した音ということですか。
山内:細かく聴いていくと異なる部分は当然ありますが、方向性は同じと思います。ある販売店の方が「これはすごい攻め攻めの音だ」と言っていたのが面白くてうれしかったですね。
●それは具体的にはどういうことですか。
山内:ちょっと従来の価格帯では考えられない上質で緻密、かつ積極的な表現力というか、ハイエンドな味と言うんですかね。つまりSX1 LIMITED EDITIONと同じベクトルを持っているというところだと思います。
●それは解像度とか、鋭敏さみたいなことですか。
山内:そうですね。その結果感じられる音楽性も、SX1 LIMITED EDITIONと近いものがあります。
2:東京交響楽団 LIVE from MUZA! 《名曲全集第 155回》
●それでは次の曲、よろしくお願いします。
山内:この試聴室がある本社のすぐ近くにミューザ川崎シンフォニーホールがあるのですが、そこをホームにしている東京交響楽団のSACDです。2020 年3月8日(日)に行われた演奏会なんですが、当初通常のコンサートの予定だったのがコロナ禍で無観客となり、その演奏をライブ配信したらニコニコ動画で10万人ぐらいが試聴したことで話題を集めたコンサートの音源です。演奏曲目はドビュッシー、ラヴェル、サン・サーンスというフランス近代の作品で、今日は2曲。ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」 とラヴェルのピアノ・コンチェルトを聴きます。
アーティスト名:東京交響楽団
アルバム・タイトル: LIVE from MUZA!
●(試聴して)すごくきれいな録音だなと思いました。ピアノが素晴らしいですね!
山内:黒沼香恋さんというピアニストですね。若い人なのかな。素晴らしいと思います。オーケストラの録音もすごく立体感があって、無観客なのでやっぱり観客が入ったホールの響きとちょっと違いがあると感じます。響きが深い感じですね。
●これも期せずしてコロナが関係した音源ですね。
山内:そうですね。この1年は色々なところにコロナの影響が出ています。
3:The Art Of Listening Vol.1
●では次の音源をよろしくお願いします。
山内:次は5年以上前に「WIRED」という雑誌が編集して作ったコンピレーションCDで、試聴会でもよく使っている「The Art Of Listening」という音源です。これはちょうど私がサウンドマスターになったあたりにリリースされました。サウンドマスターとして、オーディオの方向性と音楽との関わりなどについて色々と考えていた時期で、オーソドックスなものを中心に行こうかとも考えていたんですが、このCDを聴いて、やっぱり自分なりに共感できる音楽素材も大いに活用していこうと思いました。そういう意味ですごく刺激を受けたアルバムです。
●どんなコンピレーションなんですね。
山内:はい。現代音楽やミニマルミュージック、エレクトロニカなど多様ですね。ARCAやOPN などもあります。こういう音楽が好きな人や音響の面白さを味わいたい人にもぜひ聴いてみてもらいたいです。今日は6曲目のジェイムズ・マクヴィニーというオルガン奏者のトラックで「Beaming music」を聴いてください。このアルバムの中では少しクラシック寄りで聴きやすい曲だと思います。
アーティスト名:V.A. (アーティスト)
アルバム・タイトル:The Art Of Listening Vol.1
●(試聴して)パイプオルガンとマリンバなんですか。とても面白いですね。
山内:そうですね。作曲がニコ・ミューリー、現代系の作曲家で紹介文にはジュリアード音楽院を首席卒業したとなっています。ローレル・ヘイローという女性のアーティストの曲も聴いてみましょう。これはCDの1曲目で「Dr. Echt」という曲です。
WIRED × BEAT RECORDS presents The Art of Listening Vol.1 Mix(YouTube)
●(試聴して)エレクトリックピアノの音ですが、ピッチがものすごく揺れるような加工が後処理でされていて、とても不思議な音ですね。
山内:かなり変わった曲です。実験的ですが音楽的なツボはさすがに押さえているという感じがします。曲全体の印象としては、ある意味で一筆書きみたいな感じですね。当時サウンドマスターになりデノンの試聴室に来て仕事をするようになったとき、こういう音楽があるならやりがいもあるなと思いました。
4:渡辺貞夫「RENDEZVOUS」
●それでは次の音源お願いします。
山内:次は80年代のナベサダのCDです。リマスターされたもので、個人的には思い出深いアルバムです。若い頃のマーカス・ミラーのベース、ギターはエリック・ゲイル、キーボードはリチャード・ティ等々といわゆるファーストコール・ミュージシャン(プロデューサーやアーティストが一番最初にオファーしたいミュージシャン)によるニューヨーク録音のアルバムです。
アーティスト名:渡辺貞夫
アルバム・タイトル:RENDEZVOUS
●どのあたりが聴きどころでしょうか。
山内:音の粒立ちが非常にいいですね。リマスター盤だから特にいい、というわけではなく、オリジナル盤でも多分楽しめると思います。それでは6曲目の「マラバル」 という曲を聴きましょう。トップレベルの腕を持つファーストコール・ミュージシャンの素晴らしさが堪能できるアルバムだと思います。
●(試聴して)80年代らしいサウンドの、素晴らしい曲ですね。このCDはどんな時に聴くのですか。
山内:個人的な話ですけど、例えば2曲目の「FIRE FLY」という曲は、仕事の後など緊張や疲れが少し取れ切らずリラックスしたい時に聴きたくなる音楽、という感じです。この曲を聴くと「いい時代だったな」と思わせてくれますね。オーディオ的に言えば、30年以上前とは思えないほどクリアで、細部まで見えるいい録音だと思います。
5:上原ひろみ「Spectrum」
●次の音源お願いします。
山内:では最後の一枚となりますが上原ひろみさんの「Spectrum」という、2年前ぐらいのアルバム。SACDですが、これを聴きましょう。上原ひろみさんに関しては言い尽くされている感はありますが、完璧なテクニックで自在にピアノを弾く、ピアノでよく「歌う」アーティストという印象です。このアルバムはピアノのソロですが、私がすごいなと思ったのは、ソロピアノで光や色彩を表現しようとし、それを見事に実現しているところです。アルバムタイトルもずばり「Spectrum」です。今日聴くのはビートルズの「ブラックバード」です。
アーティスト名:上原ひろみ
アルバム・タイトル:Spectrum
●(試聴して)素晴らしいピアノですね。この曲はわりとジャズの人がカバーしますよね。ブラッド・メルドーとか。上原さんのバージョンは、彼女が好きだとおっしゃっていた、オスカー・ピーターソン的なジャズピアノの転がし方を感じました。これを選ばれた理由は?
山内:たしかにこの曲は多くのアーティストがカバーしています。比較的シンプルな曲想ですが、この曲の持つメロディや和声などの素材自体がいいのだと思います。それを彼女がどのように表現していくかというところも興味深いですし、最初に言った光や色彩をソロピアノで表現しているのがすごい。また、音もクリアで純粋にいいです。
●ピアノの音がすごくきれいに録れているんですね。
山内:録音にもかなりこだわった作品で、おそらくDSD録音だと思います。
●今日はピアノも含めて色々聴かせてもらいましたが、A110シリーズは様々な音楽素材を楽しめる懐の広さや何かが変わると俊敏に音に反映してくれるような印象を受けました。セッティングやコンディションも大事なのでしょうね。
山内:そうですね。機材のポテンシャルをさらに引き出せるように部屋の環境や電源、ケーブルなどのセッティングを詰めていますが、より次元の高い再現ができるように試聴環境も進化することでより良い製品の開発につながっていくと思っています。ただA110シリーズ自体は情報量が多く鋭敏な音楽再生をする一方、試聴環境に対しシビアで扱いにくいとかいうことは全くなく、多少のコントロールやバランス調整さえ行えば実力を十分発揮する、どちらかというと使いやすい機器だと思います。
●今回はPMA-A110、DCD-A110の実力がよくわかりました。次回もまた、よろしくお願いします。
(編集部I)