クラシック音楽ファシリテーターの飯田有抄さんが600NEシリーズで聴きたい5作品
クラシック音楽ファシリテーターの飯田有抄さんが選ぶ、Hi-Fiオーディオのエントリークラス「600NEシリーズ」で聴きたい5作品。DCD-600NE、PMA-600NE、そしてDALIのOBERON 1で試聴した感想をデノンオフィシャルブログでご紹介いたします。
可愛らしさと本格風味が共存する 600NEシリーズ+DALI OBERON N1
デノンオフィシャルブログの編集部より、CDプレーヤー、アンプ、スピーカー一式をご自宅で試してみませんか、という世にも楽しそうなご依頼を受けました。到着しましたのは、こちらの一式。ご紹介します。
- CDプレーヤー:DENON DCD-600NE
- アンプ:PMA-600NE
- スピーカー:DALI OBERON 1 (ライトオーク)
素敵です! 見た目にも嬉しいセット!もちろん響きのクオリティも素晴らしいのです。つねづねオーディオというものは、耳と目の両方が喜ぶもので、ライフスタイルに馴染むセットがいいなぁと思うわけですが、こちらはもう、わたしのちんまりとした和室にぴったりです。
これらはいわゆる「エントリー」の価格帯で、全部ひっくるめてだいたい15万円(2021年11月の実勢価格)ほど! 可愛らしさと本格風味が共存するこのセットで、なんとお財布に嬉しいゾーンなのでしょうか。
エントリークラスのモデルだけに、とてもシンプル設計。なにしろそこが素晴らしいのですよ、このご時世。CDプレーヤーは、本当にCDプレーヤーです(笑)。余計なものは何一つございません。アンプと接続して「CDを聴く」という行為に、サクッとスマートにアクセスできる。ごちゃごちゃせず、説明書も見ないで、ぜんぶ箱から出してセッティングまでは5分もかかりませんでした。
じつはこちらのDALIのスピーカー、わたしずっと欲しかったやつ……。
ご縁とかタイミングとかで買い損ねていたのですが、店頭で試聴したときの心地よさが忘れられませんでした。大きさも、木の温もりを感じさせるデザインも、サランネットのおしゃれファブリック感も完璧なのに、なにしろ音です音。音がよくなければいくら見た目が良くても興醒めですからね。
とてもバランスがよくて、低音から高音までいい塩梅。出過ぎた味付けはないのに、楽器や声の持ち味や音楽の楽しさを誠実に届けてくれるのです。コンパクトなスピーカーって、そこに音楽が閉じ込められちゃうような、窮屈さを感じてしまう場合もあるのだけど、このスピーカーとこのシステムの組み合わせではまったくそれはありませんでした。独奏からオーケストラまで、存分に楽しめましたので、次々あれこれかけまくりました。
ここでは、私がこのシステムで楽しく聴いた音源を、5作品ご紹介します。けっこう偏ったチョイスです。音楽作品の年代順にいきましょう。
Jean Rondeau: MELANCHOLY GRACE
(ERATO: 0190295008994)
Jean Rondeau: MELANCHOLY GRACE
まずはチェンバロの鬼才、ジャン・ロンドーによる「メランコリー・グレース」です。16世紀末から17世紀半ばのイタリアとイングランドの鍵盤作品から、「メランコリー」をテーマに選曲された珍しいコンセプトアルバム。華やかな音色の大型のチェンバロは現代のレプリカ楽器で、野性味と叙情性を併せ持つロンドーの音楽性が際立ちます。一方で、1575年頃に作られたオリジナルのヴァージナルという楽器のもつ、インティメイトな響きがなんとも生々しく、「涙」や「叫び」を表す音楽語法を雄弁に響かせます。アルバム全体、どこを切り取ってもかっこいいのだ、これが!
30歳のロンドー。ご参考までにYouTube動画をリンクしておきます。髭もじゃTシャツ・ジーンズ姿でヴァージナルを弾く姿はなかなかに印象的ですが、この世界では逸材と言われる実力者です。
ブルーオーロラ・サクソフォン・カルテット:Blue BACH
(CRYSTON:OVCC-00098)
ブルーオーロラ・サクソフォン・カルテット:Blue BACH
続いては、少し時代が新しくなりまして(といっても18世紀)、J.S.バッハです。ただし、ただのバッハではございません。サクソフォン・カルテットにアレンジされたバッハ作品です。ブルーオーロラ・サクソフォン・カルテットによる2012年の録音ですが、何度聴いても飽きません。素敵なオーディオが目の前にあると、いそいそとこのCDを持ち出してしまいます。バッハの「主よ、人の望みの喜びよ」のような聴き慣れた作品が、彼らの手に掛かると、どこか都会的で洗練された広がりを持ち、さーっと目の前が開けるような感覚を覚えます。リード楽器であるサクソフォンは、バッハが得意としたオルガンの響きをどこか彷彿とさせながらも、より歌心に富み、強弱のレンジも豊かで、Hi-Fiオーディオでの聴き応え抜群です。
ご参考動画
クルレンツィス指揮、ムジカエテルナ:モーツァルト レクイエム ニ短調
(ALPHA 661)
クルレンツィス指揮、ムジカエテルナ:モーツァルト レクイエム ニ短調
お次はモーツァルトです。といっても、一般的にイメージされる朗らかで天真爛漫なモーツァルト作品ではなく、ここでご紹介するのは「レクイエム」。死者の魂を慰めるミサ曲で、モーツァルト最晩年の曲です。彼はこの曲を完成させることなく、この世を去ってしまいました。非常に鬼気迫る緊張感みなぎる作品なのですが、とりわけ「怒りの日」や「ラクリモサ」などは一度聴いたら忘れられないインパクトがあります。そしてこのCDが特別なのは、クルレンツィス指揮、ムジカエテルナによる演奏であること。時代楽器(古楽器やピリオド楽器などとも呼ばれます)による快活なテンポ感と切れ味のいいアーティキュレーション、ダイナミクスのレンジも豊かに鋭く進んでいくレクイエム。音量をややしっかり目に出して鑑賞すると、畏怖の念すら沸き起こるCDです。
Faust & Melnikov: BEETHOVEN Complete Sonatas for piano & violin
(harmonia mundi: HMC 902025.27)
Faust & Melnikov: BEETHOVEN Complete Sonatas for piano & violin
ベートーヴェンのヴァイオリンとピアノのためのソナタは、ヴァイオリンとピアノとが対等に音楽を構築していきます。両者の対話がとても素晴らしい録音が、イザベル・ファウスト(ヴァイオリン)とアレクサンドル・メルニコフ(ピアノ)によるこちらの全集です。瑞々しいったらありゃしない第1番から、深刻な表情に引き込まれる第9番「クロイツェル」まで、4枚組でベートーヴェンの全ヴァイオリン・ソナタが聴けます。録音も秀逸で、ピアノとヴァイオリンのバランスが本当に素晴らしい。ヴァイオリンのエッジの効いた艶やかさに対し、ピアノはやや丸みのある音色で奥行きを感じさせます。
原田慶太楼(指揮)、NHK交響楽団:Danzon
(DENON COCQ-85527)
最後にご紹介するのは、時代がいきなり飛びまして、1950年メキシコ生まれの作曲家アルトゥーロ・マルケスの「ダンソン第2番」です。オーケストラの魅力をこれでもかと味わせてくれるこのCDは、欧米と日本を行き来しながら飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍を続ける指揮者・原田慶太楼とNHK交響楽団による演奏。2020年11月25日・26日サントリーホールで行われた公演の録音です。マルケスの代表作であるこの曲の真価を数段高めてくれるような名演ですが、コロナ禍で行われたコンサートであったため、客席はがらがら。あまりにもったいない! こうして録音に残されたことがありがたい1枚なのです。官能性・躍動感・哀愁・喜び……聴いていると身体がじっとしていられなくなるような、秀逸な演奏と録音。このCDも、いいオーディオで聴くたびに新しい発見を与えてくれる一枚です。参考動画よりも相当にハイクオリティな音質のCDで、ぜひお楽しみいただきたいです。
以上、ややかたよった選曲による5枚のアルバムをご紹介してきました。
ちなみに、DCD-600NEを所有しているアンプとスピーカーに接続して試聴してみたところ、あまりに素晴らしく絶句……。ありえない低価格。ついポチッとしましたのは言うまでもございません。
飯田有抄 プロフィール
東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Macquaqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。音楽専門雑誌、書籍、CD、コンサートプログラム、ウェブマガジンなどの執筆・翻訳のほか、音楽イベントでの司会、演奏、プレトーク、セミナー講師の仕事に従事。NHKのTV番組「ららら♪クラシック」やNHK-FM「あなたの知らない作曲家たち」に出演。書籍に「ブルクミュラー25の不思議〜なぜこんなにも愛されるのか」(共著、音楽之友社)、「ようこそ!トイピアノの世界へ〜世界のトイピアノ入門ガイドブック」(カワイ出版)等がある。公益財団法人福靖子賞基金理事。