Dolby Japanさんに「Dolby Atmos®(ドルビーアトモス)のロッシーとロスレスってなんですか」って聞いてみた
ベストセラーを記録したデノンのサウンドバーDHT-S216の後継モデルDHT-S217が登場!「今まではロッシーだけだったが今回はロスレスに対応」という説明が新製品発表会でありました。Dolby Atmosにはロスレスとロッシーの2種類があるのでしょうか。そんな素朴の疑問をDolby Japan技術部 部長の高見沢さんに聞いてみました。
そもそもLossy(ロッシー)とLossless(ロスレス)とは?
●ベストセラーを記録したデノンのサウンドバーDHT-S216の後継モデル「DHT-S217」が発表となりました。今回のモデルチェンジのポイントは「Dolby Atmos(TrueHDベース)対応 ロッシーからロスレスへ!」でした。このDolby Atmosはロスレスということですが、Dolby Atmosにはロスレスとロッシーがあるのでしょうか。そして、そもそもロスレスとロッシーってなんですか、という素朴な疑問を、Dolby Japan技術部 部長の高見沢さんにおうかがいしたくやって参りました。よろしくお願いします。
↑DHT-S217発表会資料より
●いきなりですが、そもそもロッシーとロスレスってなんですか。
高見沢:いきなりですね(笑)。ロッシーやロスレスは信号の圧縮や符号化に関係します。映像や音声のデータを送るときに符号化(エンコード)して送るわけですが、符号化する時にデータの圧縮を行い、それを復号(デコード)した際に符号化前のデータが完全に復元できる圧縮・符号化方式をロスレス、あるいは可逆な圧縮・符号化といいます。一方で、データとしては完全に復元できない圧縮・符号化方式をロッシー、あるいは非可逆な圧縮・符号化といいます。
↑Dolby Japan技術部 部長の高見沢さん
●なぜデータを圧縮・符号化する必要があるのでしょうか。
高見沢:映像・音声データをBlu-rayなどのディスクメディアに収録する場合、それらのメディアには決められた容量があり、そこにデータを効率的に収める必要があります。またネットなどで配信されるコンテンツの場合は通信容量の問題がありますから、より大幅にデータ量を減らす必要があります。どちらのケースも限られた容量を効率的に利用するためにデータの圧縮・符号化をしていますが、音声データについては、Blu-rayのような容量の制約が比較的緩い場合はロスレス、ネット配信のような制約が大きい場合はロッシーな圧縮・符号化が使われることが多いです。
先にこの後の説明のため、用語のおさらいをしておくと、映画などのデータをBlu-rayディスクに入れたり、配信などで送るために圧縮・符号化することを「エンコード」といいます。そしてエンコードにはいくつかの規格がありますが、それらの規格に従ってエンコードされたデジタルデータを「ビットストリーム」とい言います。そしてホームシアターやサウンドバーで再生できるようにデータを復元(復号)することを「デコード」と言います。
ロッシーならDolby Digital Plus、ロスレスならDolby TrueHDが一般的
●「DHT-S217ではロスレスで再生ができる」ということは、デコードしたときに元のデータを復元できる方式も採用した、ということでしょうか。
高見沢:そのとおりです。さきほどエンコードにはいくつか規格があるといいましたが、Dolby Atmosには4つの方式があるんです。
●4つもあるんですか!
高見沢:そのうちの2つがロッシーで、2つがロスレスです。順番にご説明します。
●すみません、かなり初心者なので、わかりやすくお願いします。
高見沢:今一番よく使われているのが「Dolby Digital Plus」です。これはロッシーで、ネットなどでDolby Atmosを配信する場合によく使われています。Dolby Digital Plusの規格自体は比較的前から使われているものですが、Dolby Atmosのオブジェクトオーディオにもきちんと対応していますし、すでに普及が進んでいて非常に数多くの機器に導入されていますので、NetflixやApple Musicなど配信系のサービスではDolby Digital Plusが主に使われています。
●ネット経由でDolby Atmosのものを視聴するときはほとんどDolby Digital Plusという理解でいいですか。
高見沢:現状ではそう思っていいと思います。
●2番目に使われているのはなんですか。
高見沢:2つめが、ロスレスの「Dolby TrueHD」です。この方式は以前からBlu-rayなどで使っていたもので、主にディスクメディアで使用される規格です。Blu-rayディスクではDolby Digital PlusとDolby TrueHDの両方が利用可能ですが、ロスレスで復元できるDolby TrueHDを使うことで、最良の音質で楽しむことが出来ます。DHT-S517や、新製品のDHT-S217が対応しているのもこのDolby TrueHDですね。ちなみにDolby TrueHDはビットレートが非常に高くなってしまうので現状ではストリーミング配信で使われていません。
●なるほど。ということは、ネット配信においてはロッシーのDolby Digital Plusがほとんどで、Blu-rayではロスレスのDolby TrueHDの場合と、ロッシーのDolby Digital Plusの場合がある、という理解でいいですか。
高見沢:Dolby Atmosについては、その理解でだいたい大丈夫だと思います。ただ、あと2つビットストリーム形式がありますのでご紹介させてください。
1つはロッシーで「Dolby AC-4」という規格です。こちらは放送や配信を想定して開発された次世代の規格です。ロッシーな圧縮をしていますが音が良く、さらに先進的な数々の機能も追加されています。現状としては海外の次世代テレビ放送や音楽ストリーミングサービスでの利用が中心ではありますが、日本でも今後採用が広がっていくと思います。
「AC-4」についてはこちらをご覧ください。(外部サイトへジャンプします)
●ではいよいよ最後の1つについて教えてください。
HDMIにDolby Atmosの信号を載せて、サウンドバーとかAVアンプに渡す「Dolby MAT」という規格があります。これはDolby AtmosをHDMIで伝送するための技術でデノンのAVアンプやサウンドバーにも入っています。
例えば、ゲーム機がゲーム内で動き回る様々な音に各々座標を付けてDolby AtmosとしてHDMI出力する場合などにこのDolby MATを利用します。HDMIですと伝送容量の制約が緩いため、圧縮処理を行わずに低遅延で臨場感溢れるDolby Atmosの3次元オーディオを伝送できます。
他にも、AVアンプやサウンドバーがDolby MATに対応していれば、最新のAC-4を使ったサービスであっても、AC-4に対応した送り出し側がDolby MATに変換してHDMI出力することで、AVアンプやサウンドバーがAC-4に対応していなくても受けることができるという非常に便利なフォーマットです。Dolby MATは製品カタログなどであまり表に出る技術名ではありませんが、とても重要な技術なので、ご紹介しておきます。
ということで、いままでご説明したロッシーとロスレスについてのまとめをするとこうなります。
●高見沢さん、本日はお忙しいところありがとうございました。一見複雑で分かりにくいと思えたDolby Atmosのロスレス、ロッシーですが、Dolbyの技術の方にうかがうと一発でわかりました。今回はとてもいい勉強になりました。ありがとうございました。
Dolby、ドルビー、Dolby Atmos、およびダブルD記号は、アメリカ合衆国とまたはその他の国におけるドルビーラボラトリーズの登録商標です。
(編集部I)