デノンAVアンプに搭載された新GUIの開発チームはかく語りき
デノンの最新AVアンプ、AVR-X3800H、AVC-A1Hには、美しいグラフィックをテレビ画面に映し出しながらセットアップが行える新たなGUIが搭載されました。新GUIを担当した開発者に、そのコンセプトや開発工程などをインタビューしました。
●本日は新GUIの開発を担当した渡辺さん、鈴木さんのお話を聞きに、福島県にある白河オーディオワークスに参りました。GUIの開発担当とのことですが、渡辺さん、鈴木さんはどんなセクションに所属しているのですか。
渡辺:設計です。その中でも製品の仕様を決める「プロダクト・スペシフィケーション」というチームにいます。このチームでは仕様だけでなくユーザーエクスペリエンスの観点から製品を検証したり、製品が市場でどのように評価されているかをレビューなどを見ながら検討して製品作りに生かす、という仕事をしています。
●設計の中ではお客様に近いチームということでしょうか。
渡辺:そうですね。ユーザーの声を大切にし、どう評価されているかをよく見ています。我々以外ではマーケティングチームがお客様に近いので、マーケティングチームともコミュニケーションをとります。
GUIチームの渡辺裕司さん(左)と鈴木研次さん(右)
●デノンのGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェイス)について教えてください。そもそもデノンのGUIは、AVアンプとともに生まれたものなのでしょうか。
渡辺:AVアンプだけでなく、以前デノンが製造していたDVDプレーヤー、Blu-rayプレーヤーなど、テレビと接続して画像が表示できる機器のために作られました。最初は単純に文字を出すだけのメニューでした。
●当時はまだテキストのみのインターフェイスだったんですね。
鈴木:はい。当時はオン・スクリーン・ディスプレイ(OSD)と呼ばれていて、ドット打ちの白い絵が少しだけあり、それが唯一のグラフィックでした。10年近く前ですね。
●オン・スクリーン・ディスプレイは何のためのものだったのですか。
渡辺:OSDはもともと、設定項目の表示と操作のためのものでした。AVアンプは本体を使うにあたって様々な設定が必要です。AVアンプはテレビにつながっていますから、せっかくなら設定メニューをテレビの画面に出し、画面を見ながら設定できるようにしたのです。そこに少しずつグラフィック要素が入ってきて、GUIに進化していきました。
1言語2000画面、11言語ものフルHDサイズのGUIを新規開発
●デノンのGUIはその後どのように発展していくのですか。
渡辺:15年くらい前はメインの機能である音や映像をいかに高品位に出力するか、という点にほとんどの開発リソースを使っていましたので、あくまでユーザーインターフェースは「ユーザーが設定できればいい」という、いわばおまけ的なものでした。
その後AVアンプが高機能化し設定項目が増えました。それに加えてデノンの製品作りの姿勢にも「ユーザーにより良いもの、ユーザーに感動を与える製品を作る」という、いわゆるユーザーエクスペリエンスに重点を置くという方向性になりました。そこからGUIを取り入れて、より分かりやすくセットアップができる「セットアップ・アシスタント」ができました。それが高い評価を得て、マーケットでも「デノンのAVRは使いやすい」「初心者でもよく分かる」と言われるようになりました。
鈴木:その辺りからグラフィカルな要素でユーザーに分かりやすく使ってもらうためのGUIを作る流れになりました。その結果「使いやすいGUI」という点では、デノンは業界の中でもかなり良い位置にいると思っています。
●今回の新GUI開発はどんな経緯で開発がスタートしたのですか。
渡辺: 6年ほど前です。そのちょっと前ぐらいから他社から、より解像度の高いGUIが出てきていて、「デノンのGUIは分かりやすくていいんだけど、ちょっとボヤッとしているよね」と言われるようになりました。それとデザイン面でも作成してから時間がたってしまいちょっと古さを感じるものになってしまっていたんです。我々もそこに対してなんとか改善したいという思いがあり、新しいGUIの開発を提案しました。
●新GUIで解像度はどのくらい向上したのですか。
渡辺: ピクセル数は1920×1080、つまりフルHD規格です。これまでは480pxでしたのでかなり大きくなりました。
●GUIの開発には時間がかかりそうですね。
渡辺: GUI変更となると、メインのところだけでも画面は2000画面以上あり、枝葉ではもっと増えます。その画面を全部変更するので、開発としては大きな作業となりました。
●しかも言語別にそれぞれ2000画面ということですか。
渡辺:そうです。2000画面×11言語です。英語、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、オランダ、スウェーデン、中国、日本、ポーランド、ロシアで11言語です。
●それは膨大な作業ですね。GUIの開発に6年かかったのは、そういうことですか。
渡辺:いえ。当初は2年ぐらいで完結するはずのプロジェクトでした。ただ途中でコロナ禍になり、デバイス不足といった緊急事態が起きたため、GUI開発には時間がかかってしまいました。でも開発そのものより、会社として「新しいGUIをやる」と決定するまでのほうが大変でしたね。
●それはどうしてですか。
渡辺: GUIにはかなり大きな開発コストやリソースがかかるんです。全体としては、音と映像の品質向上を優先したいということで、GUIの優先度が低かったんですね。でも他社のGUIが向上し、デノンのGUIが立ち後れた感じになってしまった現状を鑑み、白河オーディオワークスから川崎の本社の会議に足を運んでいました。それで「早く新しいGUIを作るべきだ」と訴えたりしていました。
新GUIではグラフィックを大幅に強化
●開発者のみなさんの熱意で新GUIの開発にこぎつけたわけですね。新GUIの開発コンセプトを教えてください。
渡辺:「ルック・アンド・フィール(外観と触り心地)」が我々が提示した新GUIの大きなテーマでした。まずルック(外観)ですが、解像度が大きくなりました。ピクセル数的には1920×1080、つまりフルHD規格でやっています。またデザインも最先端のトレンドを捉えています。そのあたりはデザイナーの太田さんに頑張っていただいて、かなりスタイリッシュでモダンな形に仕上がったと思います。
●デザイナーの太田さんはリモートで参加です。太田さんはGUIに関してどんなことを担当されたのですか。
太田:画面のデザインやフォントやなど、いわゆる画面デザインの骨子に関するアドバイスと、細いグラフィックのパーツの制作を行いました。
渡辺:もともとのGUIはかなり制約が強く、1ページで使える文字数や、文字サイズが2種類だったりしたので、本当に決まった形でしか組めませんでした。
しかし今回は解像度が上がり、文字の種類や大きさも増えました。タイトルは大きく、説明文は小さいフォントにするなど細かな設計が自由にできるようになりました。文字色に関しても、従来は3色ぐらいしか使えませんでしたが、使える色が増えました。そのようにいろいろできるようになったことを鑑みて、たとえば文字や画像の配置や、レイアウトなど、ユーザー目線からブランドとしての全体的な統一感や、GUIとして見やすくなるようなアドバイスをデザイナーである太田さんからいただきました。おかげで従来のものに比べるとかなり統一感があり、より見やすい画面構成になったと思います。
●グラフィックの強化は太田さんが尽力された点ですか。
太田:はい。イラストといっても、どの部分を3Dイラストにして、どの部分を線画にするかなどの判断は最後まで悩みました。原則的にはなるべく実物に近い方がいいものは3Dを使って、そうでないものはなるべく簡潔な線画によるラインアートとしています。
渡辺:やはりお客様が実際に作業する部分は実物に近いものを画面上で見せてよりわかりやすく表現し、「これがAVアンプですよ」という意味だけが伝わればいい場合は線画でスタイリッシュに表現しました。
GUIのスピーカー端子にケーブルを接続する説明の画面
GUIの入力ソースの設定画面
●「ルック・アンド・フィール」のフィール(触り心地)に関してはいかがですか。
渡辺:フィールはカーソルなどのちょっとした動きですね。カーソルの動きが実はアニメーションにしています。従来のカーソルの動きはジャンプだったんです。ある位置からある位置にパッと移動することしかできなかった。その辺はデバイスの進化と、GUIを作成するツールの進化という面があり、今回はそういうところがかなりナチュラルに実現できるようになりました。
特にこだわったのは「デノンらしさ」を感じさせること
●新GUIを作るにあたって特に気をつけたことはなどありますか。
渡辺:GUIに関してはオーディオ以外の家電の世界がとても進んでいるんです。特にご家庭でみんなが使うようなApple TVとかFire TVなどのUIは進んでいます。見ていて不自然さを感じさせない、自然な感じをとても大切にしているんですね。我々も今回GUIをデザインするにあたってその自然さを意識しました。それともう一点は「デノンらしさ」を出すこと。これには結構悩みました。
●「デノンらしさ」はどのように表現したのですか。
渡辺:非常にうっすらとですが GUIの背景に、機能に関連したビジュアルを太田さんに入れてもらいました。ユーザーにはテキストや説明図を見てもらいたいのですが、かと言って後ろが真っ黒では面白みがない。オーディオはエンターテインメントのための機器ですから、少し遊び心があった方がいいと考えて薄くグラフィックを入れています。
●背景の画像がとても控えめですね。
渡辺:意識しない程度に表示させるというところでしょうか。真っ黒の背景とはニュアンスが違いますよね。奥行きを感じさせるというか。
●見えるかどうか、結構ギリギリの濃度ですね。
太田:そうなんですよ。テレビって本当にいろいろなものがあるので悩みましたね。背景やいろんなパーツを作ってはいくつかのテレビで見え方を確認しますが、テレビによってかなり見え方が変わるんですよね。その調整にかなり苦労しました。他社のGUIを見てみるとかなりシンプルで、テレビ映りの差を考えると結果的にシンプルなものがいいんだなと思いました。
●最後に特にここを頑張ったとか、工夫した点があったら教えてください。
鈴木:デノンのAVアンプには音場測定・調整用のマイクを設置するスタンドが付いています。画面を見ながらそのスタンドを組み立て、調整するという作業があるのですが、そのインストラクションの部分は特に頑張りました。画面に組み立て表が出るので、組み立てから測定までが画面だけで完結します。
渡辺:僕が工夫したのは画面にQRコードを入れたことです。そうすると取扱説明書もダウンロードしてもらうことができますし、HEOSアプリ、AVR Remote Appのアプリも画面のQRコードからダウンロードができます。解像度が上がったことでQRコードも表示できるようになりました。こういうことができるようになったのは大きいと思います。
●誰もが買ったときに使うセットアップアシスタントですが、美しくなったGUIの開発の影には、開発者のみなさんの熱意があったことがよくわかりました。本日はありがとうございました。
みなさんもデノンの新しいGUI、機会があればぜひ一度ごらんください。
(編集部I)